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【1】



【Episode3】



 週末、〝スポ恋〟というアプリを勧めてきた杏子にメッセージを打った。『そちらの都合が空いていれば左目を見せますよ』と伝える。杏子からは『おやつをご馳走するので遊びに来てください!』と返事があった。コンタクトレンズのケースを持ち、彼女の部屋へ。


「お待ちしておりました! 狭いですがどうぞ!」


 ハイテンションな杏子に続いて部屋に入る。初めて見る彼女の部屋は、壁一面にアニメのポスターが貼り付けられていた。ベッド横にはミシン台や裁縫道具、カラフルな布が山積みになっている――コスプレグッズを作る作業スペースだろう。


 アイスティーとバウムクーヘンを出してもらったところで、早速左目を見せることにした。興味津々といった様子で顔を輝かせている杏子の前でコンタクトレンズを外し、保存液に浸す。


「うわぉ! これはすごいですね!」

「びっくりしました?」

「はい、厨二心をくすぐられますね! 素敵すぎるのです! ドキドキしちゃいます!」


 驚いているというより感激している様子だ。これまで不気味扱いされたことしかなかった眼を羨ましがられる日が来るなんて、誰が想像できただろう。


「杏子さんは仲の良い住人とかいます?」

「いますよ。私は長らく動物しかお友達がいなかったので不安でしたが……唯花ちゃんとはカフェ友達ですし、哲司くんとはたまにアニメを見ます」

「哲司って……午前中にコンビニの店番をしてる、人見知りの?」

「はい。哲司くんは超無口なので、私が一方的に喋ってばかりですけどね」

「何となく想像できる……けど、意外な接点があるものですね」

「哲司くん、いつもマスクしてるじゃないですか。一緒にご飯とかおやつはNGだと言われましたし、飲み物を飲むときは、なるべく顔を見せないよう背けるのです。だから横顔しか見たことなくて、優しそうなお兄ちゃんって雰囲気なのは分かるのですが……彼の異彩はお顔に関係してるのかもしれませんねぇ」


「杏子さんの前でチラッとでもマスクを外すシーンがあるなら、あたしみたいに『絶対素顔を見せるわけにはいかない』ってほどでもないのかな」

「たぶん。出会った頃に異彩を訊いたら断られちゃったので、それ以来訊ねてません」

「なるほどね」

「他に仲良しなのは俊介くん。入居当日からお友達になってくれました」

「もしかして杏子さんも〝入居祝い〟とか言って押し掛けられました?」

「そうです。俊介くん、明るくて面白い人ですよねぇ」


 杏子はファミリアに入居して三年ほど経つらしい。俊介の助力を得つつ徐々に交流を広げ、現在は十人以上の異彩を把握しているのだとか。


「ちなみに管理人さんの異彩は知ってます?」

「いえ。一度だけ気になったことを指摘したら『そんなわけないでしょう』って呆れられちゃいました」

「気になったことって?」

「ハルくんって紳士的で優しいけど、ちょっとドライな一面もあるんですよね。そのギャップがちょっぴり奇妙に感じられると言いますか……。『ハルくんは実は双子で、時々入れ替わっている!』っていう推理をぶつけてみたのです」

「いや、さすがに気付かれるでしょ。顔が全く同じだったとしても、いずれ会話や言動でボロが出るに決まってます」


 第一〝実は双子でした〟では異彩の定義から外れているだろう。そんなことよりも〝ドライな一面〟という部分が気になる。そこに関して訊ねると、杏子は「ハルくんには内緒ですよ?」と念押しした。


「いつだったか、ショッピングモールでお買い物中にハルくんと鉢合わせしたことがあるのです。せっかくだから一緒にお茶でも……とお誘いを受けまして。ショッピングモール内のカフェに移動しようとした途中、歩きながらスマホをいじってる男の人が私にぶつかってきたんですよ。『どこに目ェ付けてんだブス!』と、ヤンキーのテンプレートみたいな暴言を吐かれまして……」


 非があるのは歩きスマホをしていた男だ。しかし杏子は相手の剣幕に気圧され、ひたすら謝ったらしい。隣を歩いていたハルも男に謝罪し事なきを得たが、杏子としてはやはり納得いかなかった。


「私、『酷い人がいるものですね!』って怒ってたんですよ。でもハルくんは全然不満そうじゃなくて、むしろいつもの王子様スマイル全開で。『イライラしないんですか?』って訊いてみたら、『ああいう性格の悪い方に振り回されるなんて時間の無駄遣いですよ』ってバッサリ……。爽やかな笑顔が逆に怖かったのです」


 住人の手前、得意の営業スマイルで怒りを隠していたのだろうか。ハルは他人の悪口を言うタイプに見えないが、内心「何で僕たちが謝らなきゃいけないんだよ」などと考えていてもおかしくない。


「管理人さんの言動で、他にドライだなと感じたことは?」

「唯花ちゃんにヘッドドレスを作ったことがあるって話したじゃないですか。もう二年くらい前のことなんですけど、出来上がったものを部屋に届けた日、唯花ちゃんが頭痛で寝込んでいたのです。次の日ハルくんに会ったので『唯花ちゃんの具合は良くなりました?』って訊いたら、『大丈夫なんじゃないですか?』って……なんか他人事みたいな言い方をしたんですよね」

「それは……ちょっと意外ですね」

「ですよねぇ。唯花ちゃんが咳をしただけでも、顔を青くして心配しそうなイメージがあったんですけど。実際は唯花ちゃんが寂しくないように、妹溺愛キャラを演じてあげているのかなーなんて思いました」


 さすがにそこまではっきり訊くことはできなかったそうだが、「ハルくんにとって唯花ちゃんはどんな存在ですか?」と質問したことがあるらしい。

 彼は「世界で一番可愛い存在ですよ」と笑顔で答えたそうだが……杏子の言う〝妹溺愛キャラ〟の一環だろうか。

 しかしそんなキャラクターを演じたところで、心を読む力のある唯花に気付かれてしまう可能性がある。逆に妹を傷付けてしまうかもしれないのに、自分を偽ったりするだろうか。



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