頼み
シュミッドの工房に着くと、昨日と同じように、小人族のクレインに出迎えられ、同じ部屋へ案内された。
「遅かったのぅ、エルフィ」
「ごめんシュミッド。寝すぎた」
相変わらず、部屋からは熱風と鉄を打つ音が聞こえる。
「この部屋暑すぎない?」
「そりゃ鍛冶場じゃからな。当たり前じゃ」
焼かれるかのような灼熱の中、シュミッドの弟子たちは一心に鉄を叩いている。
「そういえばヘン坊はどこじゃ?」
ヘンブランは昨晩の宴でシュミッドに気に入られ、ヘン坊と呼ばれるようになっていた。
「あぁ…ヘンブランはいまダウンしてるよ。二日酔いだね」
「そうか…お前さんは大丈夫なのか?昨晩はかなり飲んでおったが」
たしかに、おそらく昨晩飲んだ酒の量はシュミッドの次に多いだろう。
だが、全く体調は悪くない。
「大丈夫だよ。私は酒にめっぽう強いみたいだね」
ガハハとシュミッドが爆笑し始める。なにも面白いことを言ったつもりはなかったのだが。
「お前さんには毎度驚かされるのぅ。80年前に初めて合ったときもそうじゃった」
80年前、私は少し長い旅をしていた。
その際、なんとなく寄ったこの街で初めて会ったのがこのシュミッドだ。
彼の工房はその頃、あまり繁盛はしていなかった。だが、とても質が良かったのだ。
「懐かしいね。あの魔法石の腕飾りはいまでもたまに使ってるよ」
魔法石とはその名の通り、魔法を刻印された石のことだ。
魔法石はそのままよりネックレスなどの装飾品にしたほうが効果が上がる。私は彼に大金と魔法石を支払い、腕飾りを作ってもらったのだ。
刻印されていた魔法は治癒魔法、シュミッドが腕輪にしてくれたおかげで、たとえ指が切り落とされようとも時間はかかるが障害なく回復するほどのものになった。
「あれはワシの最高傑作と言っても過言ではないからのぅ。それに、あの作品にはワシも助けられた。」
私は、シュミッドに作ってもらった腕飾りをエルフの里で自慢していた。
どうやら、その噂がエルフの里を訪れた商人に伝わり、この工房は繁盛していったらしい。
そんな事を話していると、シュミッドから一つ頼みがあるという。
「ワシももう年でそろそろ完全に鉄が打てなくなる。最後の作品はワシの人生の転換点だったお前さんのために作りたいんじゃ。どうか、ワシに最高の作品を作らせてくれ」
古い友人の頼みだ、断ることはできない。
「わかったよ。けど、素材はどうすればいい?」
「ダンジョン産の素材なんてどうでしょう?エルフィ様が良ければですけど」
話を聞いていたクレインが提案する。
私もダンジョンは気になってはいたから、ちょうどいい。
「じゃあ1週間だけ時間をくれないかな?素材を取ってくるよ」
「ありがとう、エルフィ。ワシの我儘に付き合ってくれて」
私は、ダンジョンへ潜る用意をするため、宿へ戻ることにした。




