道中
「姉さん、もう起きろよ。朝だぞ」
「あと1時間だけ寝させて…1時間でいいから」
アンファングを出て1週間、馬車での旅は順調だ。
「毎日この調子じゃないか、エルフってのは朝に弱いのか?」
ヘンブランがバッグからゴソゴソと何かを取り出しながら言う。
「そんなことはないはず……」
「もう…また寝たよ…」
馬車の上というのは案外心地良いもので、すぐに睡魔が襲ってくる。
そうやって眠りに就こうとしたその瞬間、耳元で激しい金属音が鳴り響いた。
なにか問題があったのかと飛び起きると、ヘンブランがフライパンをおたまでバンバンと叩いていた。
「おっ起きたか、姉さん。」
「ヘンブラン…なにもないなら起こさないでよ…」
そうは言ったものの、ヘンブランのせいで眠気がさっぱり飛んでしまったため眠れない。
しょうがなく外の景色を見ていると、ヘンブランが話しかけてくる。
「そういえば、姉さんはなんでアイアンゲイルになんて行こうと?」
アイアンゲイルはこのシルーデン大陸一の大国だ。
主に鋼鉄業で栄えており、街は常に蒸気が立ち込めている。
無論、魔法使いにはあまり縁のない場所だ。
「ちょっとやりたいことがあってね…」
「アイアンゲイルでやりたいこと…まさか、冒険者に―――」
「違う。」
ここはきっぱりと否定する。確かに、アイアンゲイルは近くにダンジョンがあるため、冒険者ギルドの支部があり、冒険者業も盛んだったはずだ。が、私の目的はそこじゃない。
「知り合いがいるんだ。生きているかは知らないけどね。」
「姉さんの知り合い?あぁドワーフか。なるほど」
ドワーフの平均寿命は250から300歳、エルフには遠く及ばないものの、人間と比べるとなかなか長寿の分類だ。
そしてアイアンゲイルは、人口の約3分の1を繊細な作業や力仕事が得意なドワーフ族が占めている。
「いやぁ…それにしても、姉さんに知り合いがいるとは…」
「なにその私に知り合いがいないと思ってたみたいな言い方」
まあ実際、知り合いはかなり少ないが。
「というか、冒険者ギルドってまだあったんだ。懐かしいな」
冒険者ギルドは、私が大体700歳ぐらいのときに創立された冒険者たちを管理する協会のことだ。
その頃の冒険者は破天荒な者が多く、市民が被害にあうことも少なくはなかった。
そんな冒険者達をまとめ、市民を守るために作られたのが冒険者ギルドだった。
「冒険者ギルドってそんな昔からあったのか…知らなかったな。」
いわく、かつての冒険者ギルドは3つに分裂し、今まで通り冒険者を管理する「冒険者ギルド」、聖職者や神父など宗教に関することごとを管理する「神聖ギルド」、商人たちを管理する「商人ギルド」に分かれたらしい。
「じゃあヘンブランは商人ギルドに入ってるの?」
「いやいや。あんなの商人になりたての奴が行く場所だぞ?」
どうやら商人ギルドに加入すると、買い手を紹介する代わりに売上の10%ほどをギルドに収めないといけないらしく、ある程度商売が軌道に乗ると退会したほうがマシなようだ。
そんなこんな話しているうちに、私達はアイアンゲイルへと到着した。
そこには、見覚えのある顔があった。




