野宿
「困ったな…」
里を旅立ってから数時間、日はすでに沈み始めていた。
「今日中にネーヘまで行こうと思っていたのに…」
ネーヘはエルフの里に近いことで栄えた町だ。
数十年前までは森を半日も歩けば余裕で到着できた。
だが辺りは一面の森で人の気配一つもない。
「あの町もなくなっちゃったのかな…」
数十年なんてエルフにとっては短い時間だ、だが人間にとっては違う。
数十年もすれば身体は老い、衰えていく。
きっとあの町も数十年のうちに衰え、消えてしまったのだろう。
「まさかあれだけ栄えてたネーヘがなくなってるなんてね…」
それにしても、ネーヘがなくなっているとなると泊まる場所がない。
「となると、今夜は野宿かな…」
そういって私は魔法で野宿の準備を始めた。
「テントを張る魔法は…これか」
魔導書の中からテントを張る魔法を探し出す。
この魔導書は、長年の魔法収集で集まった魔法の詠唱が数万個と載っている。
詠唱を始めるとどこからかテントの部品が現れ、ひとりでに組み立て始める。
「この魔法、消費魔力が多いんだよね。連日は使えないな…」
こうして文句をたれているうちに立派なテントが出来上がった。
テントの中は空間拡張魔法によって広々としていて、シャワーが備え付けてある。
家具こそないものの一泊する宿として申し分ない出来であった。
私はシャワーを浴びた後、ベッドに横になってみた。
それは魔法で作られたとは思えないほど心地よく、一瞬で私は睡魔に襲われた。
ふと気がつくと外はもう明るくなっていた。
「もう朝か…」
もう数時間寝ていたいと思ったが、こんなことで時間を無駄にはしていられない。
私は寝起きの重いまぶたをこすり、まずは日に当たろうとテントの外に出た。
そこには深く広大な森とその森を照らす朝暾があり、
鳥の囀りと草木の揺れる音が聞こえた。
私は、これほどまでに美しく、「生きている」と思える朝日を見たことがなかった。




