旅立ち
「エル、君はあと50年ほどで死ぬよ」
正直こんなに早く人生が終わるとは思っても見なかった。
『永滅の呪い』
エルフに稀に現れる呪いで、この呪いにかかった者は必ず死ぬ。
数万年というエルフの歴史の中で唯一解呪ができていない呪いだ。
「いやはや、初めて発呪者を見たが、身体に変化はないようだね。」
この呪いはかなり珍しく、めったに発呪者が現れないこともこの呪いが解呪できない要因だ。
この里屈指の博識、医者のアールドでもどうやら発呪者を見たことはなかったようだ。
「それにしてもエル。君は冷静すぎやしないかい、君はもうすぐ死ぬんだよ?」
アールドはどうも不思議そうに尋ねる。
「それはそうでしょ。だってどうしたって死ぬんだからそれを受け止めなきゃ」
私は、別に生への執着があるわけではない。
この呪いも運が悪かっただけで、何をしたって死ぬことは決まっている。
「それにしても、君がこの呪いにかかるとはね…」
アールドは窓の外の木々の間からこぼれる光を見つめながら言う。
「まだ君は若い、それだけに悲しいよ」
エルフ族の平均寿命は数千年といわれている。
私はまだ千歳にも満たない若者だ。
「君は成長すればきっと里一番の魔法使いになれたろうにね…」
「そりゃどうも」
そう言って私は病室から去った。
「どうしたものかね…」
50年では呪いの解呪方法どころか魔法の一つも発明できずに終わってしまう。
だからといって無下に時間を潰すのもよくない。
「なにか面白いことないかな…」
そういってベッドに倒れ込む。
ふと、百何年か前に訪れた町のことを思い出した。
そこは星が綺麗で、よく流星が流れていた。
とても美しかったのを今でも覚えている。
「久しぶりに旅でもしてみるかな…」
きっとまだ、この世界には美しい景色があるだろう。
そうだ、そうしよう。
人生の最後に美しいものを見てみよう。
そうと決まれば急がねば、少しの時間も無駄にはしていられない。
私は急いで旅の用意をし、エルフの里を旅立つことにした。
もうおそらく、ここには帰ってこないだろう。
「里の外に出るのは何十年ぶりかな…」
数百年前からほとんど変化していない里は、相変わらず静かだった。
「じゃあね、私の故郷。」
そうして、私の最後の旅は始まった。
死亡まであと 50年




