ランディの悲しい過去
お嬢様のサロン(アルデバイン)――真夏の妄想大会
緊急召集
夏休み中のアルデバイン。
貴族令嬢たちが、サロンに集められていた。
主催者の令嬢が、厳粛な顔で立ち上がる。
「皆さま、本日は重大なお話があります」
「重大なお話?」
「まさか……!」
令嬢たちの目が、キラキラと輝いた。
「ランディ様の、生い立ちについてです」
「!!」
会場が、どよめいた。
「それは……!」
「知りたい……!」
「聞かせてください……!」
令嬢たちは、全員がランディから贈られた髪飾りをつけていた。
まるで、ファンクラブの集会である。
主催者の令嬢は、深刻な顔で続けた。
「不幸な、お話ですが……」
「!!」
まだ話が始まってもいないのに――
一人の令嬢が、泣き始めた。
「うっ……ランディ様……!」
「ちょ、ちょっと! まだ何も聞いてないでしょ!?」
「でも……不幸って……!」
他の令嬢たちも、ハンカチを取り出す。
準備万端である。
衝撃の生い立ち(?)
情報提供者の令嬢が、資料を広げた。
「皆さま、聞いてください」
「はい……!」
「ランディ様は――革命に巻き込まれたお方なんです」
「革命!?」
「お気の毒に……!」
また一人、泣き始めた。
まだ詳細を聞いていない。
情報提供者は、続ける。
「ランディ様が生まれる前……お父上である宰相閣下が、革命で投獄されたそうなんです」
「投獄!?」
「ひどい……!」
「それで、お母様は実家に身を寄せることになったんですが――」
「はい……!」
「実家の離宮に閉じ込められたそうなんです」
「閉じ込められた!?」
令嬢たちが、息を呑む。
「しかも――一日二食しか食事が出なかったそうです」
「……え?」
令嬢Aが、真顔で聞き返した。
「一日、二食?」
「はい」
「……おやつは?」
「おやつなしです」
会場が、凍りついた。
「おやつ……なし……?」
「ありえない……!」
「なんて、過酷な……!」
令嬢たちが、次々とハンカチで涙を拭う。
情報提供者は、さらに続けた。
「侍女も、最低限だったそうです」
「最低限!?」
「何人ですか!?」
「……詳しくは分かりませんが、おそらく三人程度かと」
「三人!?」
令嬢たちが、絶句する。
彼女たちは、一人につき五人以上の侍女がいる。
「三人で、どうやって……!」
「お気の毒に……!」
さらなる悲劇(?)
情報提供者は、深呼吸をして続けた。
「そして――ランディ様が七歳の時」
「はい……!」
「お母様が、再婚されたそうなんです」
「再婚!?」
「それで、ランディ様は……?」
「お一人で、離宮に残されたそうです」
会場が、悲鳴に包まれた。
「お一人!?」
「七歳で!?」
「ありえない……!」
令嬢Cが、震える声で尋ねた。
「七歳から……お一人で……?」
「はい」
「食事は……?」
「二食です」
「おやつは……?」
「なしです」
「侍女は……?」
「ベッドの掃除と、身の回りの世話を少しだけ」
令嬢たちが、次々と倒れそうになる。
「ひどすぎる……!」
「なんて、過酷な……!」
情報提供者は、涙を拭いながら続けた。
「ただ――お母様が再婚の条件として、家庭教師をつけてくださったそうです」
「家庭教師……!」
「せめてもの……!」
「武術とお勉強は、見てもらえたそうですが――」
「はい……!」
「それでも、お一人だったそうです」
号泣する令嬢、続出。
救いの手
情報提供者は、最後にこう締めくくった。
「そして、ランディ様が九歳の時――」
「はい……!」
「宰相様が、牢から出てこられたんです」
「よかった……!」
「それで、王宮に引き取られて――」
「はい……!」
「ビクトリア様と、ご一緒になられたそうです」
「!!」
令嬢たちが、顔を見合わせる。
「だから……」
「特別、親しいのは……」
「そういうことだったのね……!」
情報提供者は、頷いた。
「お二人は、辛い時期を共に過ごされたのです」
「なんて、美しい……!」
「運命ね……!」
「ランディ様……!」
全員が、号泣していた。
現実
その頃、ビクトリアの部屋の居間では――
ビクトリアとランディが、ピーナッツ選手権をしていた。
「ランディ! 口、開けて!」
「……もう、やめましょう」
「いいから!」
ポイッ。
パクッ。
「やった! 十連続成功!」
ハリスが、拍手する。
「すげー! 新記録だな!」
マリカが、呆れた顔で紅茶を淹れている。
「……皆さん、楽しそうですね」
ランディは、ピーナッツを噛みながら呟いた。
「……なんで、こんなことしてるんでしょうね」
「楽しいからだよ!」
ビクトリアが、にっこりと笑った。
アルデバインでは
サロンでは、令嬢たちがまだ号泣していた。
「ランディ様……!」
「お気の毒に……!」
「夏休みが明けたら、もっと優しくしなきゃ……!」
セリーヌも、涙を拭いながら呟いた。
「ランディ様……辛い過去を、お持ちだったのね……」
「それでも、あんなに美しく……!」
「強く、生きていらっしゃる……!」
令嬢たちは、ランディへの尊敬と憧れを、ますます強めていた。
真実
ちなみに。
情報提供者の令嬢が集めた情報は、ほぼ正確だった。
ただし――
解釈が、だいぶズレていた。
一日二食は、普通の食事だった。(貴族基準で見ると少ないが、一般的には普通)
侍女三人は、十分な人数だった。(一般家庭では考えられない贅沢)
離宮は、快適な住居だった。(「閉じ込められた」は大げさ)
ランディの母親は、一日中うるさくて、うざかった。いなくなって、喜んだランディ
家庭教師は、一流の教育者だった。
そして、ランディ本人は――
母親がいなくなっても、
別に、不幸だと思っていなかった。
本人の感想(もし知ったら)
もし、ランディがこの密談を知ったら――
「……何を、言ってるんですか?」
と、困惑するだろう。
ビクトリアは――
「え? ランディ、不幸だったの?」
と、きょとんとするだろう。
ハリスは――
「お前、不幸アピールしてたのか?」
と、笑うだろう。
マリカは――
「……令嬢たちの妄想、止まりませんね」
と、呆れるだろう。
結論
アルデバインの令嬢たちは――
完全に、妄想の世界に入っていた。
そして、その妄想は――
夏休みが明けても、続くのだった。
ランディ本人は――
何も知らないまま、ピーナッツを食べていた。




