華麗なるダンスパーティ
学校の舞踏会――華やかな罠のはずが
舞踏会の始まり
夜会が始まる。
広間は、まるで夢の中のように華やかだった。
シャンデリアの光が、無数の宝石のように煌めく。壁には色とりどりの花が飾られ、甘い香りが空気を満たしている。貴族たちは最高の装いで着飾り、オーケストラの調べが静かに響いていた。
そして――
舞踏会の最初のダンスは、王族が務める。
それがアルデバインの伝統だった。
会場が静まり返る。
誰もが、息を呑んで注目する。
王子が、どこかの令嬢を選ぶのか?
それとも――
「ビクトリア殿下」
エドウィンが、手を差し出した。
会場が、どよめいた。
エドウィンとビクトリアのダンス
ビクトリアは、少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに笑顔で応じた。
「はい」
彼女の手が、エドウィンの手に重なる。
音楽が、始まった。
二人は、踊り始める。
隙がない。
ステップは完璧に揃い、視線は自然に交わり、動きには一切の乱れがない。
まるで、何度も練習を重ねたかのように――
いや、それ以上に、自然だった。
「……すごい」
「さすが、王族同士……」
「あれが、本物のダンスね」
貴族たちが、息を呑んで見守る。
エドウィンは、ビクトリアに小さく囁いた。
「緊張していますか?」
「少しだけ」
「嘘ですね」
「……バレた?」
ビクトリアは、くすりと笑った。
エドウィンも、珍しく笑みを浮かべる。
その笑顔を見て――
セリーヌは、拳を握りしめた。
あの笑顔を、私は一度も見たことがない。
パーティの始まり
ダンスが終わり、拍手が響く。
エドウィンは、ビクトリアに礼をして、静かに離れた。
「ありがとうございました」
「こちらこそ」
そして、パーティが正式に始まる。
音楽は軽やかなワルツに変わり、貴族たちが次々とダンスフロアへ向かう。
ビクトリアは、少しだけ疲れた顔をして、椅子に座ろうとした。
その時――
「殿下」
ランディが、手を差し出した。
「よろしければ」
ビクトリアは、きょとんとした。
「え? ランディ、ここで、踊るの?」
「……一応」
「じゃあ、お願い」
ビクトリアは、あっさりと手を取った。
ランディとビクトリアのダンス
二人が、フロアに立つ。
音楽が、流れ始める。
そして――
会場の空気が、変わった。
ランディの手が、ビクトリアの腰に添えられる。
その仕草だけで、何人かの令嬢が息を呑んだ。
「……え」
ダンスが、始まる。
ランディは、完璧だった。
いや、完璧を超えていた。
動きは流れるように滑らかで、リードは優しく、それでいて力強い。視線は穏やかで、どこか憂いを帯びていて――
色気が、溢れていた。
「……なに、あれ」
「護衛って、あんなに踊れるの……?」
「というか、美しすぎる……」
令嬢たちが、次々と立ち尽くす。
ランディの指先が、ビクトリアの手を包む。
回転のたびに、彼の髪が揺れる。
そして、時折見せる微笑みが――
破壊力抜群だった。
「あ……流し目」
一人の令嬢が、膝から崩れ落ちた。
「ちょ、ちょっと!?」
「大丈夫!?」
だが、彼女だけではなかった。
次々と、令嬢たちが膝をつく。
「無理……」
「立てない……」
「美しすぎて、足に力が入らない……」
セリーヌの敗北
セリーヌも、例外ではなかった。
彼女は、壁にもたれかかりながら、ランディとビクトリアを見つめていた。
(なんなのよ、あれ……)
計画は、完璧だったはずだ。
ビクトリアを恥をかかせる。
エドウィンの前で、失態を演じさせる。
そして――
だが。
こんな”兵器”がいるなんて、聞いてない。
ランディの優美なダンスに、会場の女性たちは完全にノックアウトされていた。
セリーヌも、もはや歩けない。
膝が、笑っている。
「……く、悔しい……」
彼女は、唇を噛んだ。
でも、美しい……
ビクトリアは気づいていない
ダンスが終わり、ビクトリアは軽く息をついた。
「ランディ、相変わらず、上手だね」
「……そうですか?」
「うん。エドウィン殿下より、リードが優しかった」
ランディは、少しだけ笑った。
「それは、光栄です」
そして、二人はフロアを離れる。
その背中を、無数の視線が追っていた。
だが、ビクトリアは気づいていない。
会場の女性たちが、ほぼ全滅していることに。
ハリスの冷静なツッコミ
ハリスが、呆れた顔で近づいてきた。
「ランディ、お前……」
「なんですか?」
「やりすぎ」
「……何がですか?」
「見ろよ、あの惨状」
ハリスは、倒れている令嬢たちを指差した。
「お前のせいで、パーティが止まってるぞ」
ランディは、きょとんとした。
「……え?」
「色気出すな、馬鹿」
「出してません」
「出てる。無自覚が一番タチ悪い」
ハリスは、ため息をついた。
エドウィンの反応
一方、エドウィンは静かに笑っていた。
側近が、恐る恐る尋ねる。
「殿下、よろしいのですか?」
「何が?」
「ビクトリア殿下が、護衛と……」
「別にいい」
エドウィンは、グラスを傾けた。
「あれは、護衛だ」
「……ですが」
「それに――」
エドウィンは、ビクトリアを見つめた。
「面白い」
側近が、目を丸くする。
「面白い、ですか?」
「ああ」
エドウィンは、静かに笑った。
「あの人は、誰のものにもならない」
「……それが、面白いと?」
「そうだ」
エドウィンの目には、確かな興味の色があった。
セリーヌの計画、崩壊
セリーヌは、ようやく立ち上がった。
だが、計画は完全に崩壊していた。
ビクトリアを恥をかかせるどころか――
自分たちが、完全にやられた。
「……なんなのよ、あの護衛……」
「美しすぎるわ……」
「もう一度、踊ってほしい……」
令嬢たちは、もはやビクトリアへの敵意すら忘れていた。
セリーヌは、悔しさと脱力感で、その場に座り込んだ。
完全敗北だった。




