なんだって?
王様、日常に乱入する
朝の八百屋「カテイ商店」。
カテイは、軽やかな手つきで白菜の外側の葉をむき、
ぱんぱんと形を整えて商品棚に並べていた。
隣ではビックが大根の葉をちぎりながら、常連客に声をかけられる。
◆ 八百屋のいつものやり取り
「ビックちゃん、大根の葉、くれる?」
「いいよ、大根葉はタダだよ!
おたくの犬が好きなんだって?」
「そうそう、アルフォンスがね。あれが大根葉に目がなくて」
ビックは笑いながら葉を袋に詰める。
「アルフォンスかぁ。あいつ、ほんと草食い犬だからな!」
カテイが遠目で見守りながら感心する。
「ほう。うちの娘は、優しいなぁ……」
◆ そして――現れた“面倒な存在”
「母ちゃん、大根これで、いいか?」
突然、影が落ちた。
ビックとカテイが振り返る。
そこに立っていたのは――
王宮の紋章を堂々と胸に刻んだ男。
国王アルバート本人だった。
完全に八百屋の前で浮いている。
ビック「うわーーーーー!!
出たぁぁぁ!! 王さま!!!」
カテイ「なんで店先に!! 昨日も言ったよね!?
八百屋に王様が立つと客が固まるって!!」
客たち
「え? 王様? えっ本物? 八百屋に??」
女性の客
「やだ私、リンゴ選んでる場合じゃなかったわ……!」
アルバートは気にせず言う。
国王「……大根の葉は、まだあるか?」
ビック「父ちゃん、食べるの!?」
国王「違う。王宮の馬が好きでな。
食べさせてやりたい」
カテイ「馬に八百屋の葉やるために、王様が来るんじゃないよ!」
ビック「てか王様、近所の犬と馬に口実つけてない?」
国王は軽く咳払いして、きっぱりと言う。
国王「私は……娘の生活を知りたいのだ」
カテイ&ビック「だからって八百屋来ないでぇー!!」
客「……今日、野菜安くなる?」
別の客「いや王様が来たなら値上がりかも……」
側近(息を切らして到着)
「陛下ぁぁぁ!! どうして一人で八百屋に来てしまうのですか!!」
アルバート
「大根の葉とにんじんを買いに来ただけだ」
側近
「王の行動ではありません!!」
ビック
「まあ、八百屋の日常なんだけど……?」
そして、王の“八百屋修行”が始まる
カテイに「もう来るな」と言われた翌日。
なぜかエプロン持参で来る国王。
国王「カテイ。今日の分の仕事を教えてくれ」
カテイ「教える気ないよ!! なんで王が八百屋に来てんだい!」
ビック「父ちゃん、八百屋で働くと王様の格落ちるよ?」
国王「格ではない。娘と……その……妻のためだ」
カテイ
「(照れてゴミ箱落とす)」
側近は毎日卒倒。
袋詰めは下手だった。
レジに立つと動きが止まり、値段を見るたびに考え込む。
「……白菜は、この値段か」
客は待たない。
「王様、今日の白菜いくら?」
「王様、ポイントカードある?」
「小銭、先に出して」
庶民は容赦がない。
最初は振り回されていたが、
少しずつ手が動くようになる。
袋は下から支える。
値段は日によって違う。
昼過ぎには、自然に言えるようになった。
「今日は安いですよ」
それだけで客は納得する。
気づけば、
野菜を持つ姿が妙に板についていた。
背筋が伸び、動きが無駄に丁寧だ。
カテイは、その様子を見て、
一瞬だけ目を逸らす。
……困るわね。
八百屋は、今日も回っている。
昔、二人は愛し合いながら別れた。
理由は、身分差だった。
王子と、伯爵令嬢。
表向きはカテイは王妃の侍女。
王子には、当時、隣国の王女という正妻がいた。
革命の前、二人は深く愛し合っていた。
だが、その関係は許されなかった。
その別れは、
革命の混乱の中に埋もれていった。
そして十年後、
再会の場所は、
王宮ではなく、
八百屋の前だった。
カテイ
「私は八百屋さ。王族の妃なんて無理だよ」
国王
「そんなこと言って、私を置いていったのはそっちだ」
カテイ
「あんた、そういえば、あの頃からめんどくさい男だったよね……」
国王の気持ちが隠し切れない
八百屋で働きながら、カテイを何度も見つめる。
国王「……十年前、言えなかった言葉がある」
カテイ「く、口説くんじゃないよ! 店先で!」
ビック「母ちゃーーん!? なんか雰囲気が少女漫画ーー!!」
周囲もざわつく
側近「陛下、今後、妃はどうされるのですか」
国王「今は野菜を洗う方が大事だ」照れ隠し、
側近「そもそも、王位より八百屋が優先なんですか!!」
王女教育 × 八百屋の仕事(二重生活)
王宮で、とりあえず、王宮の家庭教師に教わる。
ビック
「王女ってこんな難しいの!?
八百屋より大変だよ!」
先生
「ビクトリア様! まず背筋を伸ばして!!」
ビック
「八百屋では猫背でいいんだよ!」
先生
「よくありません!!」
しかも王宮と八百屋で人格が変わらないと噂になる国王。
ますます混乱の王宮。
1.国王は八百屋通いをやめない
2.カテイの気持ちは揺れ続ける
3.王宮の陰謀は本格化し、ビックを狙う影が近づく
“八百屋の娘が王国を救う”
という噂が囁かれる。
国王
「カテイ……もし私が再び国を失っても、
お前とビックだけは守りたい」
カテイ
「馬鹿だね。守られるだけの女じゃないよ」
ビック
「父ちゃんたち、くっつくの? 八百屋と王宮の融合?」




