留学生は、勉強します。
王女の取り巻きは、美ハエじゃなかった
最初の印象
王女の後ろには、いつもとりまきの人がいた。
美しい侍女のマリカ。
静かな護衛のランディとハリス。
最初は、きれいなお飾りだと思われていた。
「ああ、王女の取り巻きね」
貴族たちは、そう呼んでいた。
ただのお飾り。ただの付き人。
誰もが、そう思っていた。
けれど、それは違った。
ある日、授業が終わった後。
貴族の学生たちが、ビクトリアたちの控え部屋の前を通りかかった。
扉が少し開いていて、中の様子が見えた。
机の上には――
帳簿。
市場の価格表。
納入記録。
税の台帳。
王室御用達の仮契約書まで。
ビクトリアが、真剣な顔で尋ねた。
「玉ねぎが5個で一銀貨。この値段が、国の経営にどう反映される?」
即答する取り巻きたち
マリカが、即座に答えた。
「民の食費に直撃します」
ビクトリア
「なぜ?」
マリカ
「保存食材ですから、影響は広いんです」
ビクトリアは、頷いた。
「では、いくら高い? “高い”で終わらせないで。比較は?」
マリカが、資料をめくりながら答える。
「近隣国では、10個で一銀貨が相場です」
ビクトリア
「つまり?」
マリカ
「当国は、ほぼ倍です」
ビクトリアは、さらに続けた。
「どこで跳ね上がった?」
ランディが、答える。
「生産地の買取価格」
ハリスが、続ける。
「中継の関所」
マリカが、さらに続ける。
「王都の市場手数料」
ランディが、最後に言った。
「王室納入ルートの優先枠」
容赦ない質問
ビクトリアは、容赦なく次を投げる。
「個人がつり上げてる? それとも組織?」
マリカが、即答した。
「単独なら、帳尻が合いません」
ビクトリア
「なぜ?」
マリカ
「継続的に維持できないからです」
ビクトリア
「では?」
「複数業者の談合」
ランディが、続けた。
「あるいは、王室御用達の**“下請け構造”**が疑わしいです」
ビクトリアは、さらに厳しく尋ねた。
「“疑わしい”じゃ弱い。証拠をどう取る?」
マリカが、即座に答えた。
「納入業者のリストを洗います」
ハリスが、続けた。
「取引記録を過去3年分、照合します」
ランディが、最後に言った。
「関所の通過記録と、市場の入荷記録を突き合わせます」
外で聞いていた貴族たちの衝撃
扉の外で聞いていた貴族の学生たちは――
完全に、固まっていた。
「……え?」
「今、何の話?」
「王女、経営の話してる……?」
「しかも、めちゃくちゃ詳しい……」
一人の学生が、震える声で言った。
「あの人達、飾りじゃない……」
「え?」
「王女の取り巻き、飾りじゃない……」
別の学生が、続けた。
「実働部隊だ……」
「実働部隊?」
「王女の思考を、現実に落とすための……手足だ」
貴族たちは、顔を見合わせた。
「俺たち……何も考えずに、いたな」
「ああ……」
「授業、聞いてるだけだったな……」
「ああ……」
ビクトリアの一言
その時、ビクトリアが顔を上げた。
扉の外に、誰かがいることに気づいたのだ。
「あ、誰かいる?」
貴族たちは、慌てて逃げようとした。
だが、ビクトリアが声をかけた。
「よかったら、一緒に考えない?」
「え?」
「玉ねぎの価格の話」
「…………」
貴族たちは、戸惑った。
ビクトリアは、にっこりと笑った。
「じゃあ、今から考えよう」
気づいたときには遅い
その日から――
貴族の学生たちは、ビクトリアたちの勉強会に参加するようになった。
そして、気づいた。
市場価値と王宮価格――容赦ない王女の訓練
シミュレーション開始
ビクトリアは、机に資料を広げた。
「不正を発覚させるのは、最初の一歩に過ぎない」
マリカ、ランディ、ハリスが、真剣な顔で聞いている。
「それだけじゃ、ダメ」
ビクトリアは、続けた。
「問題は、その後」
容赦ない質問
「継続的な組織の事は、どうする?」
マリカが、答える。
「適切な価格を、設定し直します」
「どうやって?」
「ギルドを作って、まとめます」
「それとも?」
ランディが、続けた。
「断罪して、業者を入れ替えます」
ビクトリアは、頷いた。
「じゃあ、シミュレーションしよう」
「シミュレーション?」
「ああ。両方のパターンを考える」
パターンA: ギルドを作る
「まず、ギルドを作った場合」
ビクトリアが、紙に書き始める。
「メリットは?」
ハリスが、答えた。
「価格が安定します」
「デメリットは?」
マリカが、続けた。
「既存業者の反発が強いです」
「じゃあ、どう説得する?」
ランディが、考えながら答えた。
「長期的な利益を示します」
パターンB: 断罪する
「次、断罪した場合」
ビクトリアが、別の紙に書く。
「メリットは?」
マリカが、答えた。
「即効性があります」
「デメリットは?」
ランディが、続けた。
「流通が一時的に止まります」
「じゃあ、代替案は?」
ハリスが、答えた。
「新規業者を、事前に確保しておきます」
他国のことだから
扉の外で聞いていた貴族の学生が、小声で囁いた。
「でも、これ……他国のことだろ?」
「そうだな」
「なんで、そこまで真剣に?」
「見て見ぬふりでいいのに……」
だが、ビクトリアは容赦なかった。
「マリカ、答えは?」
「はい」
「ランディ、君の考えは?」
「こうです」
「ハリス、反論は?」
「あります」
扉の外の貴族たちは、呆然としていた。
「……すごい」
「あれ、訓練だ」
「他国のことなのに、思考は、本気だ」
「王女、容赦ない……」
結論
不正を見つけるだけじゃダメ。
その後を考えなさい。シミュレーションしなさい。解答を探しなさい。
他国のことでも、見て見ぬふりは許さない。
ビクトリアは、自国の人間を容赦なく鍛えていた。
これが、ビクトリアの留学目的である。
ビクトリアは、勉強の鬼だった。




