美形だらけの教室
アルデバインへの留学組 & 王子サイド
(ビクトリア視点・到着直後の整理)
正直に言おう。
――人、良すぎない?
まず、こちら側。
◆ ランディ
黒い髪に、黒い瞳。
憂いを帯びた目をしていて、黙っていれば知性の塊。
(優秀が、そのまま服を着て歩いてる感じ)
語学が好きで、覚えも早い。
……ただし。
(ビックに、よく怒られてる)
理由?
勉強はできるのに、生活が雑だからだ。
◆ ハリス
くすんだ金の髪に、青い瞳。
正統派の美形で、放っておけば王子枠。
でも中身は――
(お菓子大好き)
統計学オタクで、
なぜか私の「八百屋統計学」に目を輝かせている。
(売れ残り率と、天候の相関に食いつく人、初めて見た)
◆ マリカ
ピンクの髪に、紫の瞳。
かなり可愛い。侍女として留学
語学、生活学、衣食住――
とにかく勉強熱心。
(この子、絶対どこ行っても生きていける)
◆ そして、私
金の髪に、青い瞳。
……はい、王女です。
勉強は、語学と統計学。
それと――孤児院への訪問は欠かさない。
(ここは、譲れない)
⸻
そして、迎え撃つ側。
◆ 第一王子 ウィルドン
金髪、青い目。
絵に描いたような王子様。
勉強は、学校でほどほど。
王子教育も、そこそこ。
(うん、いかにも王子)
私より三つ年上。残念だけど、学校には、いない。
◆ 第二王子 エドウィン
同じく金髪、青い目。
少しやんちゃそう。
でも――
勉強は「一番」が好き。
(タイプ、全然違うな?)
私と同い年。
◆ 騎士団候補 ローデル
文武両道。
成績もよし、顔もよし。
(はい、ここにも美形)
……結果。
王宮も、
学校も、
美形だらけ。
(これ、学業に集中できる?)
ふと、令嬢たちの姿が脳裏をよぎる。
(毎日ペンライト持って登校したい、って気持ち、ちょっと分かるかも)
でも――
ここは舞台じゃない。
学ぶ場所だ。
そう自分に言い聞かせながら、
私は、アルデバインでの新しい日々に足を踏み出した。
この学校、
たぶん――
いろんな意味で、大変になる。
(由緒ある学校・初日)
由緒ある学校というのは、
だいたい大変だ。
建物は重厚。
歴史は長い。
そして――視線が多い。
第二王子。
騎士団候補。
王女のおつき三人。
……うん。
(キラキラすぎない?)
これ、本当に――
勉強する場所だよね?
校門に着いた瞬間、
すでに空気が違った。
ざわ、と小さなざわめき。
視線が集まる。
ひそひそ声が、波のように広がる。
そして。
「では、こちらへ」
第二王子が、
あまりにも自然に、腕を差し出した。
……待って。
(まさか)
「教室まで、エスコートします」
まさかの、エスコート。
(初日から!?)
内心は叫んでいるのに、
身体は条件反射で動いてしまう。
――ああ、違う。
ここで固まったらだめだ。
私は、
ビクトリア。
王女で、
留学生で、
しかも――見られている。
「ありがとうございます」
自然な笑顔。
角度も、声の高さも、完璧。
(……よし、できてる)
心の中では必死でも、
外から見れば、余裕の王女。
校門から校舎までの短い距離が、
やけに長く感じられた。
(これで一日、もつのかな……)
勉強しに来たはずなのに。
まず必要なのは――
集中力より、演技力かもしれない。
由緒ある学校の初日。
ビクトリアの留学生活は、
教科書を開く前から、
すでに全力だった。
(初日・席順がもう事件)
席に着いて――
ようやく、全体が見えた。
……いや、見えすぎた。
私の右横に、エドウィン
後ろに、ランディとハリス。
反対側に、マリカ。
そして、王子の横に――ローデル。
(……これ)
(配置が、キラキラすぎる)
視線が集まるのも無理はない。
あちこちで、
カタン、
コロコロ、
――筆記用具が落ちる音。
(集中して。みんな、集中して)
誰も悪くない。
ただ、前の方の視界が強すぎるだけだ。
ほどなくして、
試験用紙が配られた。
「では、簡単なテストを行います」
……助かった。
(テストなら、平和)
ビクトリアは、ほっと息をつく。
内容を見て、
すぐに理解した。
(うん、大丈夫)
語学も、基礎計算も、
確認レベル。
勉強オタクとしては、
解けて当然。
(昼食前だし、
頭もよく回る)
すらすら、さらさら。
ペンが止まらない。
ふと、横を見る。
エドウィンが――
妙に、焦っている。
ペン先を止め、
問題文を見返し、
また書いて、消して。
(……あれ?)
(さっきまで余裕そうだったよね?)
額に、うっすら汗。
(まさか)
ビクトリアは、
答案用紙に視線を戻しつつ、
内心で首をかしげた。
(このテストで、
そんなに焦る?)
どうやら。
この留学初日。
本当に静かなのは、私だけらしい。
エドウィンの焦りが、
この後のアルデバイン学園生活を
だいぶ騒がしくすることを――
まだ、誰も知らなかった。
(エドウィン、話しかけてくる)
試験が終わり、
紙が回収される。
ざわめきが、少しだけ戻った、その時。
「……ビクトリア様」
横から、控えめな声。
エドウィンだった。
「さっきのテスト」
一拍、間を置いて。
「簡単でしたか?」
探るような視線。
でも、嫌な感じはしない。
ビクトリアは、ペンを置き、
ゆっくりと彼を見る。
「“様”は、いりませんわ」
にこりと、自然な笑顔。
「ビクトリアで、結構です」
一瞬、エドウィンが目を瞬かせる。
「簡単、ではありませんが……」
少し考えて、言葉を選ぶ。
「わかる、という感じでしょうか」
誇らず、卑下もしない。
ただ、事実だけ。
エドウィンは、ふっと息を吐いた。
「……やっぱり」
小さく、笑う。
そのやりとりを、
後ろや横で見ていた
ランディ、ハリス、マリカ――
誰一人、驚かない。
(まあ、そうなるよね)
という顔だ。
むしろ、
(もう話しかけられたか)
(早いな)
そんな空気。
ビクトリアは気づいていないが、
この瞬間。
彼女はすでに、
**「王女」ではなく「同じ学ぶ者」**として
エドウィンの視界に入っていた。
そしてエドウィンもまた――
ただの王子ではいられなくなり始めていた。
静かな一言から、
確実に何かが動き出していた。




