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八百屋王女、なんの冗談ですか?ーー行方不明のパパが国王でした⁉  作者: 夢窓(ゆめまど)


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家族だから、一緒に、

アルバートは、少し困ったように腕を組んだ。


「……実はな」


視線を逸らしつつ、ぼそりと言う。


「ビックは、結婚話が山ほど来ている」


ビックが、きょとんとする。


「王女ってだけじゃない」

アルバートは、さらっと言い切った。


「――めちゃくちゃ、可愛い」


「磨けば光る、

 いや、もう十分光ってる、我が娘だ」


親バカだった。


「だからな……」

少しだけ、真面目な顔になる。


「市井に戻すのが、

 もったいない気もしていて」

「正直、悩んでる」


ビックは苦笑し、

カテイは呆れ半分にため息をついた。


すると


「カールもな」


唐突に話題が飛ぶ。


「喋らなければ」

一拍置く。


「……各国の皇室や貴族の娘

 めちゃくちゃモテてるな」


「え?」


カールが固まる。


「待て、父上

なぜ、今言う?」


夜の八百屋の前に、

くすっとした笑い声が零れた。


王の重責も、

過去の血も、

今は少しだけ脇に置いて。


そこには、

未来を心配する、普通すぎる家族がいた。


「……王女の、かわいい服を着たビクトリアは、天使なんだよ」


アルバートは、困ったように笑った。


「だから――悩んでる」


守るべき象徴としてでも、

政略の駒としてでもなく。


ただ、

あまりにも大切で、

好きに生きろと言うのが怖い存在だから。


「……ビックはな」

 アルバートは真顔で言った。


「市井に、出さない方がいい」


間髪入れず、宣言する。


「王女として、囲いたい!」


一瞬の沈黙。


そして――


「父ちゃん」


ビックが即座に突っ込む。

「親バカ、すぎる」


カールも、ため息まじりに続けた。

「気持ちは……わかりますけど」


ちらりと父を見る。


「それ、

 だいぶ痛い親バカですよ」


「なにを言う!」

アルバートは胸を張る。


「親が子を溺愛して、何が悪い!」


ビックは肩をすくめた。


「ほら、こういうとこ」


八百屋の前に、笑いが落ちる。


王女だの、王位だの、政だの――

そんなものは、今この瞬間、関係ない。


そこにいるのは、

娘が可愛すぎて判断を誤りかける父と、

それを冷静に止める兄妹だった


「……ビクトリアは、美しい」


アルバートは、やけに真面目な顔で言った。


「礼儀作法がどうこう以前にだ」

「王女としての“品”がある」

言い切る。


「それはな、教えて身につくものじゃない」

「持って生まれたものだ」


一呼吸おいて、少しだけ声を落とす。


「だから――」

「最低限の礼儀だけ覚えて、外交に活かしてほしいと、願っている」


本気だった。


間髪入れずに――


「親バカが、すぎる」

ビックが即断した。


「いや、事実だろう?」


「事実でも言い方がある!」


すると、横から冷静な追撃。


「……それについては」


カールが頷く。

「私も、同意します」


「兄ちゃんまで!?」

ビックが声を上げる。


アルバートは満足げに腕を組んだ。


「ほらな」

「家族の総意だ」


「違うから!」


夜の八百屋で、

またひとつ、笑いが弾けた。


王女の品も、

王の理屈も、

この家族の前では――

ただの“親バカ談義”に成り下がる。


でもそれが、

今の彼らには、ちょうどよかった。



「……じゃあ」


ビックは、一歩前に出るように言った。


「私は、勉強します」

誰に言うでもなく、

けれど、はっきりと。


「礼儀がどうとか、

 形だけの作法よりも――」


少し考えて、言葉を選ぶ。


「この国のことを、勉強します」

「語学も、経済も、歴史も」


顔を上げる。


「人を見下したり、

 服を見せびらかすためのお茶会に行くより」


「ちゃんと、考えられる力を身につけたい」


夜の空気が、すっと澄んだ。


その言葉を受けて、

カールが静かに頷く。


「それは……いいな」


少し笑って、続けた。


「私も、共に学ぼう」


「一緒に、だ」


ビックは驚いたように兄を見る。


「兄ちゃん……」


「王族だからじゃない」

カールは穏やかに言った。


「生きるために、だ」


アルバートは、何も言わなかった。


ただ、胸の奥で――

王位よりも確かな未来を選んだ子どもたちを、

誇らしく見つめていた。


ランプの灯りは、

その決意を、静かに照らしていた。



カテイは、ゆっくりと息を吸った。


「……私ね、気づいたんだよ」


誰かに言い聞かせるように、

けれど迷いはなかった。


「この十年、

 ただ待っていただけじゃない」


視線を、アルバートに向ける。


「でも――会って、分かった」


「私には、

 この人しかいないって」


夜の空気が、静かに張りつめる。


「だったらね」

カテイは、穏やかに続けた。


「この人と生きていけるように」

「寄り添っていけるだけの、礼儀と、格を――

 身につけていこうと思う」


それは覚悟であり、選択だった。


すると――


「母ちゃん」


ビックが、少し照れたように言う。

「十年、頑張ってたもんな」


その一言で、張りつめた空気が、ふっと緩む。


……が。


次の瞬間。


「ビック」


アルバートが、なぜか真顔で言った。


「母ちゃんに、過去、

 ボーイフレンドは、いたか?」


「!?」

ビックが目を見開く。


「ボ、ボーイフレンド?」


一瞬、視線が泳ぐ。

「……うん」

「いや」

「それは」

「……なかったよ!」


妙に力強く、頷く。


「うん! なかった! そう!」


「動揺しすぎだろ」

カールが即座に突っ込む。


「父上、

 聞くところ、今じゃありません」


カテイは、思わず吹き出した。


夜の八百屋の前で、

真剣な決意と、

どうでもいい詮索と、

家族の笑いが、混ざり合う。


それでいい。

それが――

これから一緒に生きていく家族なのだから。



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