表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/31

第3話 万象錬成術の解放

 

「グルゥゥ……」


 涎を垂らし、棍棒を握りしめたゴブリンたちが、私を取り囲んでいる。 その数はざっと十数匹。 いずれも、私という「獲物」を前にして、下卑た興奮を隠そうともしていない。


 手の中にあるのは、聖騎士が情けで(あるいは侮辱の意を込めて)投げてよこした、錆びた短剣が一本。


(……リソース、錆びた短剣一本。敵、ゴブリン十数匹)


 前世の橘美咲(わたし)なら、絶望的な状況(炎上案件)だと頭を抱えているところだろう。


「ギャッ!」


 一匹のゴブリンが、痺れを切らしたように棍棒を振り上げ、私に殴りかかってきた。 他のゴブリンたちも、それに続く。


(でも)


 私は、慌てない。 短剣を構えることすらせず、ただ静かに、目の前のゴブリンの、さらにその先の地面を見つめる。


(私のリソースは、本当にこれだけでしょうか?)


 大聖堂で、あの冷たい大理石を黄金に変えた時の感覚。 あの時は、公爵令嬢としての「役割」に縛られ、無意識に力をセーブしていた。


 けれど、今は?


「――もう、遠慮は要りませんね」


 私はそっと、ドレスの裾が触れている地面に、意識を集中させた。


 ドンッ!


 鈍い音と共に、私の目の前に、分厚い「石の壁」が地面から隆起した。


「グギッ!?」


 先頭を走っていたゴブリンが、勢いよく壁に激突し、無様にひっくり返る。 後ろから続いた者たちも、急に現れた障害物に混乱し、互いにぶつかり合っていた。


(……なるほど。イメージした通りに物質が動く)


 E級の聖属性魔法では、こんな芸当は逆立ちしても不可能だ。


「ギ、ギギ……!」


 壁を迂回しようとするゴブリンたち。 けれど、もう遅い。


(要求定義:敵対的脅威ゴブリンの完全な無力化)


 私は、今度は周囲の木々に意識を向けた。


(仕様:森の環境マテリアルを利用し、投擲武器(槍)を錬成。対象に射出)


 次の瞬間、森の木々から枝が音もなく分離し、大気中で瞬時に削り上げられ、鋭利な「木の槍」へとその姿を変える。 その数、ゴブリンの総数よりも遥かに多い、数十本。


「――実行エンター


 私の冷たい呟きと同時に、無数の槍が放たれた。


「「「ギィッ!?」」」


 風を切る音はしない。 槍は、まるで最初からそこにあるべきだったかのように、ゴブリンたちの心臓コアを正確に、寸分の狂いもなく貫いていた。


 一瞬の静寂。


 そして、槍に貫かれたゴブリンたちは、悲鳴を上げる間もなく、その体が内側から崩壊するように光の粒子となり、森の空気へと霧散していった。


 残されたのは、先ほどまで彼らが持っていた棍棒だけがカラン、と地面に落ちる音だけ。


「…………」


 私は、自分の手のひらを見つめる。 予想以上の結果だ。 大聖堂での黄金錬成は、いわば「デモンストレーション」に過ぎなかった。


(これが、私の本当の力……)


 改めて、自分のステータスを確認する必要がある。 私は再び意識を集中させ、情報ウィンドウを開いた。


 名前:セレスティア・ノヴァルーナ LV:1 HP:30/30 MP:10/10


 階級:E級 スキル: ・聖属性魔法(E級)


(やはり、E級。MPも10。何も変わって……)


 そう思った瞬間だった。 目の前のウィンドウが、激しいノイズを発して明滅を始めた。


[――認識エラー……再鑑定……再構築……]


 まるでバグを起こしたプログラムのように、文字が高速で書き換わっていく。


 LV:1 → LV: 9999 (CANNOT MEASURE)


 MP:10 → MP: ∞ (CANNOT MEASURE)


 階級:E級 → 階級:SSS級 (GOD DOMAIN)


 そして、スキル欄。 [聖属性魔法(E級)] の文字が消え、新たに、眩いほどの光を放つ文字が浮かび上がった。


 スキル: ・SSS級【万象(ばんしょう)錬成術(れんせいじゅつ) (All Creation Alchemy)】


「……万象、錬成術」


 口に出して、その言葉を反芻する。 物質だけでなく、魔法、果ては概念すらも分解し、再構築する力。


(そういうことですか)


 ようやく、全てのピースが組み合わさった。 この世界の『鑑定』システムは、あまりにも規格外のこの力を認識できず、「測定不能(E級)」と誤判定していたのだ。 そして、偽聖女としての「役割」と「追放」という制約リミッターが外れた今、本来の力が解放され始めた。


 SSS級スキル。レベルカンスト。MP無限。 とんでもないリソースだ。


(これなら……)


 私は、無用になった錆びた短剣を、静かにその場に捨てた。


(この森を、世界で一番安全で快適な「拠点」に作り替えることも、そう難しくはなさそうですね)


 前世のプロジェクトマネージャーとしての血が、最高効率での拠点構築計画プロジェクトの開始を告げ、沸々と騒ぎ始めていた。


 私は、静かに夜空を見上げた。


 森の中、星々が美しく輝いている。


(……綺麗)


 前世では、夜空を見上げる余裕もなかった。毎日終電で帰り、週末も出社。星など、見たことすらなかったかもしれない。


(……もしかしたら、この追放は、悪いことばかりではないのかも)


 自由な時間。誰にも縛られない人生。そして、この圧倒的な力。


 だが――


(……やっぱり、寂しい)


 拠点を作る計画を立てるのは楽しい。でも、それを「誰かと」共有できたら、もっと楽しいのではないだろうか。前世も今世も、結局は一人。


(……きっと、そのうち慣れる)


 私は、その考えを振り払うように、再び森の奥へと歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ