大丈夫じゃないわけないよ
「大丈夫じゃないわけないよ」
彼女はいつもそう言って、私を励ましてくれた。春風に桜が舞う通学路で、つややかな長い髪を揺らしながら。彼女の笑顔はまるで陽だまりのようだった。でも、ふと思う。あの言葉は、私を励ますためじゃなく、彼女自身を奮い立たせるためのものだったのかもしれない。
「ねえ、きみ、なんか勿体ないよ。人生、これからなんだから。もっと笑って、希望持って生きなよ」
彼女の言葉はいつも的確で、私の揺れる心をそっと支えてくれた。力強く、まっすぐな彼女は、弱くて脆い私とは正反対に見えた。
私が彼女の前で涙をこぼしたあの日も、彼女はただ静かにそばにいてくれた。
「泣きたいときは泣けばいいよ。涙って、減るもんじゃないんだから。心を整理するために、時には泣くのも大事だよ」
その言葉は、まるで春の陽光のように温かく、私を優しく包み込んだ。ひまわりが太陽を追いかけるように、彼女はいつも上を向いていた。強く、大きく、まっすぐに。
でも、私は気づけなかった。こんなにも力強い彼女が、ひとりで深い苦しみを抱えていたことに。彼女の笑顔の裏に隠された痛みに、寄り添うことができなかった。
彼女と出会って二年目の春。桜が満開に咲き誇り、道を花の絨毯で彩る美しい日に、彼女は遠い世界へと旅立ってしまった。
「大丈夫じゃないわけないよ」
私はその言葉を何度も繰り返した。心の中で、口に出して、何度も。
彼女はどんな思いでこの言葉を口にしていたのだろう。最期の瞬間、彼女は何を思ったのだろう。
桜の花びらが舞い散る道を歩きながら、空を見上げる。遠く、眩い光が輝いている。まるで彼女がそこにいて、私にそっと語りかけてくれるかのように。




