もののけ山の恋
「カナカナカナ〜」
ここは茨城県の山奥の村。
ひぐらしのなくある秋の夕暮れ。
お盆に休みが取れなかったある夫婦が、娘を連れ、里帰りしていた。
ここに、村を見下ろしている、高い山を見上げる祖母と孫がいる。
「姫愛や、あの山には近づくでないぞ」
「おばあちゃん。なんで?」
「あの山はもののけ山じゃ!
もののけに食われちまうぞ〜ぐわぁ〜!」
「キャーおばあちゃんこわ~い」
「わっはっは」
「お母さ〜ん」
姫愛の母が走って向かってくる。
「どうした?そんなに走って。」
「ハァハァ」
「もののけでもでたか?なぁ姫愛。」
「おばあちゃんこわ~い。」
姫愛はプンっとスネた。
「帝さんのおじいちゃんが亡くなったそうよ。これからお通夜だって」
「そうか。わしは行かんぞ!あの山にはもののけがおるんじゃ!」
「何をいってるの。そういう訳にはいかないでしょ!
早く帰って準備しましょ」
母に手を引かれる祖母に、姫愛が泣きそうになりながら問いかける。
「おばあちゃん。あのおやまにいくの?
こわいよ!」
母は姫愛を抱き上げ、
「姫愛、もののけなんていないのよ。
早く帰って準備しないと間に合わないわ!」
慌てて家へ帰り、準備をすませる。
「姫愛、早く来なさい!遅れちゃうじゃない!」
「いきたくない!」
「おばあちゃんに何言われたか知らないけど、おばあちゃんも一緒にいくのよ!早く車に乗りなさい!」
姫愛が車に乗ると、不機嫌な祖母が車にのっていた。
「おばあちゃん。だいじょうぶかな?もののけいない?」
「おばあちゃんがおる!大丈夫じゃ。」
祖母は姫愛の頭を優しくなでた。
夜道を車は進み、もののけがでる山へと登っていく。
山の中腹。帝家へ到着した。
「いつ見ても大きなお屋敷ね。」
「おおきいおうち〜」
「けっ。何が源氏じゃ!何も守れんかったくせに。」
「お母さん!!」
夫婦と祖母と姫愛は門をくぐり、奥へ進む。
「この度は御愁傷様です。」
父と母が、帝家ご夫妻へ声をかける。
ポンポンポン〜なむみょうほ〜れん〜
静かな山奥。
御経が響き渡る。
祖母はお焼香をして、姫愛の手を引き、そそくさと外へ出た。
「おばあちゃん。もののけはいないね!よかった〜」
「今日はもののけもお休みかもな。」
2人の会話を聞いて母が小さな声で怒っている。
「あの事が………姫愛にへんな事言わないで!」
「おかさん。へんなことって?」
「もういいから。そろそろ帰るわよ。
お父さんとお母さんは戻ってこないといけないから、今日はおばあちゃんと寝てね。」
「やった〜!おばあちゃんとねる!」
「よし!えらい!姫愛、ちょっとこっち来て。」
姫愛の手を引き、母は帝家のご夫婦へ挨拶をする。
「さっ帰るわよ。」
「おかあさん。ひな、おしっこ。」
「あら大変。すいません。
おトイレ借りますね。」
「どうぞどうぞ。」
「ひな、ひとりでいけるよ!ひとりでいってくるの!」
「分かったわ。気を付けていくのよ!」
「はぁ〜い」
姫愛は敷地奥のトイレへいき、母の元へ駆け出す。
「くらいし、こわ~い。」
バタン!
姫愛はつまづいてころんだ。。。
「いたいよ〜ひざからちがでてる〜」
「大丈夫か?」
姫愛が顔を上げると、少し年がひとつ、ふたつ上の男の子が立っていた。
「ひな、ころんでいたいの」
「えっかわいい。」
顔を上げた姫愛をみて思わず男の子はつぶやいた。
「おにいちゃんなんていった?」
「いやっ、お母さんは?」
「あっち」
「お母さんの所まで連れていってやるよ」
「うん。」
「あっ。まって。とりあえず、バンソウコウあるから貼ってやるよ。」
「いたぃっ」
「ごめん。あとでお母さんに傷消毒してもらうんだぞ。」
「うん。」
男の子はぐずる姫愛の手を引き、ゆっくり歩く。
「あっ!おかあさんいたよ」
「じゃあここから1人で大丈夫か?
お兄ちゃんは忙しいんだ!」
「あっ!」
照れくさそうに男の子は去っていった。
(おにいちゃんたすけてくれたのに、ひな、ありがとういえなかったよ。ごめんなさい。)
「おかあさ〜ん。ころんでいたいの。」
「姫愛!大丈夫?気を付けっていったのに!」
「ごめんなさい。でもね、おにいちゃんがたすけてくれたの。」
「お兄ちゃん?」
「いそがしいって、どっかいっちゃった。」
「誰かしら。」
母は姫愛の傷を消毒してバンソウコウを貼った。
「よし!帰るわよ。」
「いたいの〜して〜」
「はいはい。いたいのいたいのとんでけ〜」
「どんでったよ!おかあさん。」
この娘が物語の主人公。
人懐っこいくて、かわいいこの娘が恋をする物語。
でも物語が動き出すのはまだまだ先の事。
そして23年の月日が流れ。
彼女は、中条 姫愛。
東京生まれ東京育ち。
もう来年30歳。実家暮らし。
夢と希望にあふれて就職した会社は、まさかのブラック企業。毎日帰りは終電、休みもほぼ無く、たまの休みはゴロゴロ寝溜めするという最悪な日々を過ごしていた。
「あ〜疲れた。。。
今日も終電で帰宅。毎日毎日仕事仕事仕事。なんでこんな事に。。。出会いもない!いつか現れると信じていた王子様は現れない!
こんな私には誰も見向きもしない!
っていうか、恋する時間がな〜い!!
私の王子様はどこにいるの?
わぁー!私は恋できないまま死んでいくのね。」
「悲しすぎる。。。寝よ。明日も仕事だ。」
ここは姫愛の働くオフィス。
大手企業とは思えない、ブラックなコンサル会社である。
姫愛の部署では、資産家相手にホテルやマンションをコンサルティングしている。
入社依頼それなりに仕事をこなす毎日。
彼女には、恋の神様も出世の神様も微笑んではくれない。
「おはようございま〜す。」
「はぁ今日もまた仕事か〜。。。
ダメダメ!がんばります!」
「何1人でしゃべってんだよ!」
(こいつは、隣の席の会社一のイケメンといわれてる凛。良く話すしイケメンなんだけどな〜ちょっと違うかな。なんて、おこがましいよね〜)
「何?黙り込んで。また妄想?趣味わりぃ〜」
「なによ!ほっといてよ~。」
「早く準備しろよ。会議遅れるぞ!」
「あっ今日新しいプロジェクトの会議とかなんとかいってたね。はぁまた忙しくなるのかな。。。」
「忙しいのはいいことだろ?早く出世して、ブラックな毎日から抜け出すんだ!」
「凛はポジティブだよね〜さっ会議、会議。」
「それでは会議を始めます。
お疲れ様です。」
『お疲れ様です。』
社長自らプロジェクトについて話す様だ。
「今日は新しいプロジェクトについてだ!社運をかけたプロジェクトだ。
皆、必ず成功させる様に頑張ってくれ。」
プロジェクトとは、茨城県のもののけ山と呼ばれている山にホテルを建てる計画の様だ。
首都圏からも近く、利便性を兼ね備えた、大自然を満喫できる壮大な施設が計画されている。
プロジェクト概要が一通り説明された。
「プロジェクトのリーダーは中条さんに任せる事とする。」
(えっ?私ですか?なんで?)
その理由はすぐに分かる事となる。
「会議は以上。よろしく頼むよ!解散!」
ザワザワ〜社員たちがオフィスへ戻っていく。姫愛は動けずに座り込んでいた。
「はぁ。なぜ?なぜリーダー?私が?」
「中条すげ〜じゃん!」
「あっ凛。なんで私なんだろうね。リーダーなんかなっちゃったら、終電どころか帰れなくなりそ〜。。。」
「中条くん。ちょっといいかな。」
「しゃ社長!なっ何か?」
「少し話がしたいから、残ってもらえるかな?」
「分かりました。」
「中条、じゃあ先戻るわ!」
「は〜い。」
「社長、お話とは何でしょうか?」
「中条くん、君のお祖母様がもののけ山の近くの村に住んでいらっしゃるそうだね。」
「はい。確かに祖母はもののけ山の近くに住んでいますが。」
「実は、もののけ山に住んでいる帝さんを筆頭に、お祖母様の村の住民に反対運動をされていてな。こまったものだよ。住民を説得できないとプロジェクトが前に進まん。」
「まっまさか、私に説得しろという事でしょうか?」
「察しがいいね。」
「そんなの無理です。プロジェクトリーダーは辞退させて下さい。」
「まぁそう言うなよ。君も働き詰めで疲れているだろ。明日から特別に休暇をあげるから、お祖母様に会いに行っておいで。もちろん給料はでるから。あっ今日中に引き継ぎは済ませる様に。」
「頼んだよ!」
「しゃ社長〜。」
「いっちゃった。」
(最悪。最悪。最悪!私が説得とかしだしたらおばあちゃん困るだろうな〜。
はぁ。オフィス戻ろ。)
「中条、どうした?いつもに増して地味オーラがでてるぞ!せっかくプロジェクトリーダーになったのに、暗い暗い。代わって欲しいぜ〜。」
「あ~凛。はぁ」
「どうした?社長に何か言われたのか?」
「私がプロジェクトリーダーなんておかしいとおもった。。。」
姫愛は社長とのやり取りを凛にはなした。
「マジかぁ。ひどい話だな。で、どうするんだよ?」
「う〜んとりあえず、明日からお給料のもらえる休暇らしいから、おばあちゃんに会いにいってみようかな。。。」
「そっか。何かできる事があったら遠慮なく言えよ!そして俺をプロジェクト副リーダーに指名するんだ!」
「はぃはぃ。ありがとう。」
「まぁやるだけやってダメならそん時だよ!」
「そうだね。。。はぁ。引き継ぎしないと。」
「手伝ってやるよ!」
「ありがとう。」
姫愛は、憂鬱な気分で帰路についた。
「ただいま〜」
「あらっおかえり。今日は早いのね。なんだかいつもに増して元気ないじゃない。」
「・・・・」
「まさか!会社やめてきたとか?」
「違うよ。」
姫愛は、今日あった出来事を母に話した。
「そうなの。おばあちゃんからもののけ山の開発計画は聞いてたけど、まさか姫愛の会社だったとはね。。。」
「とりあえず、明日おばあちゃん家にいってくるね。」
「心配だからお母さんも一緒に行くわ。説得するなら長期戦になるわね。」
「いいよ。お父さんのご飯とかどうするの?!」
「お父さんは大丈夫よ!独り暮らし長かったみたいだし。それにお父さんもついていけって言うわよ!」
「うん。ありがとう。じゃあ準備するね。」
「お母さんも準備しないとね!」
「ただいま〜」
「あっ!お父さん帰ってきたわね。お父さんには話しておくから姫愛は準備してきなさい。」
「うん。分かった。」
「お母さん準備できたよ〜。お腹ペコペコ〜。」
「はいはい。ご飯にしましょ。」
『いただきます。』
「姫愛、大丈夫なのか?お父さんまだまだ働けるから、会社辞めたっていいんだぞ。」
「うん。ありがとう。でもやるだけやってみる。」
「でも、大規模な施設なんかできたらお母さんの実家の景色変わっちゃうな〜。好きだったんだけどな。」
「施設の建設予定地は、山の反対側みたいだから景色は変わらないよ。知らない人が沢山来ちゃうから村の人は嫌だろうけど。。。施設で雇用も生まれるから、村に住みたい人たちで、過疎化問題解決だ!なんて社長はいってたんだけどね。」
「なるほどな〜悪い事だけじゃないのかもな。」
「明日からお母さんと留守にするのごめんね。」
「お父さんは大丈夫だ!ご飯も作れるし、洗濯もできる!」
「浮気したらダメだよ〜」
「ゲホッゲホッ!しないよ!姫愛の口からそんな言葉がでるくらい大きくなったんだな。」涙。
「大げさ〜。って言うか、私もう来年30歳だよ。まだ子供扱い?」
「当たり前だろ〜。姫愛はいつまでもお父さんの子なんだから。無理はするなよ!」
「ありがとう。とりあえず頑張ってみるね。」
「何かあればお父さんも行くからな。」
「ありがとう。今日は早く寝るね。ごちそうさま。」
「あぁ。おやすみ。」
「おやすみなさい。」
母の実家へ向かう電車の中。
「姫愛が来てくれるっていっておばあちゃんものすごく喜んでたよ。」
「しばらく仕事が忙しくておばあちゃんに会えてなかったもんね。。。久しぶりに来たと思ったら開発計画の話なんて。。。おばあちゃん悲しい気持ちになっちゃうだろうな。」
「姫愛が、仕事頑張ってるの知ってるからきっと大丈夫よ。」
「だといいんだけど。。。」
「久しぶりのお出かけなんだから、楽しみましょ!」
「うん。。。そういえば、気になってたんだけど、帝さん?は村の住民なんだよね?」
「そうよ。」
「小さい頃、お葬式にいったお家だよね?」
「そうそう。良く覚えてたわね。あの時姫愛は5歳くらいだったはずよ。」
「うん。私、ころんでケガしたじゃない?その時男の子が助けてくれたのが印象的で。」
「そんな事あったわね!誰だったのかしら?」
「分からないけど。。。帝さんだけなんで山に住んでるの?」
「あ〜。ホントか分からないけど。。。」
母は話始めた。
時は、鎌倉時代。
源頼朝が、御忍びで各地をまわっていた際、もののけ山のふもとの村に常陸の国の豪族であった佐竹秀義のはからいにより、にしばらく滞在したとか。
源頼朝と村の娘が恋に落ち、子が生まれた。
源頼朝は、その男の子に帝の苗字を与えたが、存在を隠すため、もののけ山に屋敷を建て、住まわせたとか。
源頼朝は、のちに帝家を天皇に代わる存在に据える計画だったとか。
帝家は代々、京の豪族より嫁を娶り、続いてきたが、鎌倉時代の終わりとともにその風習も薄れていった。
それでも帝家は、源頼朝の言いつけを守り続け、もののけ山でひっそりと暮らしている。。。らしい。
「そうなんだ。じゃあおばあちゃんはなんで帝さんを嫌ってたの?」
「良く知らないんだけど、おばあちゃんには、お姉さんがいて、お姉さんが関係してるみたい。」
「お姉さんって、佐竹さんの所に嫁いだ?」
「そうそう。おばあちゃんは、帝さんの名前が出るたび、裏切り者。私の姉を傷つけた。っていってたわ。」
「そうなんだ。良く分からないけど、何か因縁があるのね。」
「そうみたい。まぁ、姫愛は気にしなくていいよ。おばあちゃんの前で帝さんの名前は出さない様にね。」
「了解。」
キーン。ご乗車ありがとうございました。
「着いたわね。おばあちゃんが頼んでくれて、佐竹さんの息子さんが迎えに来てくれてるはずだなのよ」
「あっ、あの車かな?」
「こんにちは。お手間を掛けまして申し訳ありません。よろしくお願いします。」
「こんにちは。佐竹です。おばあちゃんに頼まれてお迎えにないりました。」
彼は、姫愛の祖母の姉の孫だ。
「始めまして。中条姫愛です。」
「あっ始めまして。佐竹正義です。」
「よろしくお願いします。」
「安全運転で送らせていただきます!」
「ははっありがとうございます!」
(ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ!中条姫愛可愛すぎるだろ。めっちゃ地味だけど俺の目は欺けないぞ!)
「どうかしました?」
「いぇ。なんでも。しばらくこっちに滞在するそうですね。」
「はい。」
「もっもし良かったら、今度会えませんか?村を案内しますよ!何もない村ですけど。」
「ありがとうございます。また機会があればお願いします。」
(でた〜社交辞令的な返事。絶対誘ってやるからな〜うぅ〜)
「あの〜後ろの席に母がいるのお忘れなく!」
「あっすいません。これは、やましい気持ちとかではなく」
「はいはい。今日のところは送ってくれたのに免じて許してあげましょう!」
「あっありがとうございます。」
『あははは〜』
車内は明るい雰囲気で、祖母の家へ到着した。
「送って頂いてありがとうございます。」
「いえいえ。」
車から荷物をおろしていると、
祖母が出迎えにきた。
「ありがとうな。正義」
「お安い御用だよ。」
「あがっていきなさい。お茶くらいは出すよ。」
「あっ。これから仕事で行かないといけないんだ。」
「そうか。また遊びにきなさい。姫愛はべっぴんじゃろ〜彼氏はいないみたいしゃぞ。わっはっは。」
「おばあちゃん何いってんの〜もぅ」
「じゃあ俺行くから!姫愛ちゃんまた!」
「ありがとう!」
正義は恥ずかしそうに立ち去る。
祖母は母を横目に話しかけた。
「でっ、なんじゃ?突然2人できおって。夫が不倫でもしよったか?」
「違う違う。そんなことする人じゃないよ。知ってるでしょ〜!」
「いい歳してのろけおって。まぁ中に入ってはなそうか。」
「おじゃましま〜す。」
「この部屋を使いな。荷物置いたら手を洗うんじゃよ〜」
『はぁ〜い』
「疲れたじゃろ。温かいお茶でも飲もうか。」
「ありがとう。おばあちゃん。
あっこのお菓子おいしぃ〜!」
「そうじゃろ〜。東京のオシャレなお菓子にも負けとらんじゃろ〜ワッハッハ。
で、姫愛、何があったんじゃ?」
「あっ。うん。おばあちゃんに相談があったのは姫愛なんだけどね。。。」
姫愛は、開発計画の事、プロジェクトリーダーになった事、これまであったことを祖母にはなした。
祖母は黙って頷きながら聞いてくれていた。。。が、
「わぁー!なんてひどい会社じゃ〜!姫愛が可哀想じゃ!」
母は祖母をなだめながら言った。
「ねぇ。何とかならない?姫愛だけじゃどうする事もできないわ。」
「そうじゃな〜。わしは帝とは関わりたくないから、反対運動にも参加しとらんのじゃ。すまんな、姫愛」
「そうだったんだ。私、明日帝さんに会いにいってみる。とりあえずはなしてみないと何も前に進まないし。」
「行かせたくはないが、そうするしかないの〜。わしも一緒にいってやろう!」
「ありがとう!心強いよ!はぁなんだか少し気が楽になった〜。ちょっと散歩してきてもいい?村を見てまわりたい。」
「いっといで。あまり遅くならない様にな。東京と違って、夜は真っ暗になるからの」
「分かった。いってきま〜す!」
コツコツ、コツコツ。
静かな村に姫愛の靴の音が鳴り響く。
「靴間違えたなぁ〜運動靴もって来て良かった。明日は靴変えよ〜」
(空気が澄んでて気持ちいいなぁ〜開発工事が始まったら、やっぱり空気汚れちゃったりするのかな。)
ピーポーピーポー。
「救急車の音?どこかのお家で何かあったのかな?」
プップッ。
車がクラクションを鳴らし姫愛の横で止まる。
車を運転していたのは正義だった。
「姫愛ちゃん!おばあちゃんが倒れたって!病院に向かったみたいだから一緒に行こう!」
「えっ?さっきの救急車?おばあちゃんさっきまでものすごく元気だったのに!佐竹さん!連れていって!」
「うん。早くのって!」
助手席に乗ると、後ろの席に誰かいる。
「えっ?おばあちゃん?じゃない?」
「小さい事ろに会ったきりで分からないよね。おばあちゃんのお姉さん、正義のおばあちゃんだよ。」
「わぁ!おばあちゃんそっくりですね!おばあちゃんよりおしとやかだけど。」
「そうね。姫愛ちゃんのおばあちゃんはおてんばだもの。。。。大丈夫かしら。早く病院にいって顔が見たいわ。」
「そうですね。心配。」
「姫愛ちゃん。きっと大丈夫!ちょっととばすからつかまっててね!」
「これ!正義。こんな時こそ安全運転だよ。」
「はぃはぃ。安全に、とばすから!」
姫愛は心配しながらも、クスっと笑った。
「姫愛ちゃん!着いたよ!車止めてくるから先にいってあげて!」
「正義さん。ありがとう。」
姫愛は駆け出す。
(おばあちゃん大丈夫かな。私が心配事頼んだから?ごめんなさい。ごめんなさい。)
「すいません。先程救急車できたはずなんですが、中条は、おばあちゃんはどこにいますか?」
「中条さん?えっと。処置室ですね。
2階のこちらの部屋になります。」
「ありがとうございます!」
「あっ!廊下は走らないで下さいね!」
「すいません!」
(走るなって走らないでいられないって〜おばあちゃん。)
ガチャ。
姫愛はドアを開ける。
「おばあちゃん!。。。。えっ?」
「おぉ姫愛!来てくれたのか。どうやって来たんじゃ?」
「正義さんに。。。っておばあちゃん大丈夫なの?」
「いや〜面目ない。2人が来てくれたのが嬉しくてな。ちぃとばかし呑みすぎて。。。転んで。。。」
「何それ〜。ものすごく心配したんだよ!」
「面目ない。でもころんだときに足がの。少しヒビが入ってるみたいじゃ。」
「もぅ。大丈夫?痛い?」
「痛いが大丈夫じゃ。明日一緒に行けなくなってしもうた。ごめんな。」
「大丈夫。1人で行ってくる。お母さんはおばあちゃんに着いててあげて。ケガしてると心配だから。」
「大丈夫なの?」
「うん。」
「分かったわ。姫愛も心配だけどおばあちゃんケガしてるしね。」
ガチャ。
「お〜正義!」
「えっ?。。。。お〜正義!じゃないよ!めっちゃ元気じゃないか!」
「ちぃとばかし呑みすぎて、ころんでこのざまじゃ!」
「わぁ!足?骨折?大丈夫?」
「大丈夫じゃ!安静にしてたらすぐなおるわぃ!」
「すぐなおるわぃじゃないでしょ!みんなに心配かけて!」
「げっ。姉さん。。。来てくれたんじゃな。ごめんなさい。」
「フフっ。いつも元気なおばあちゃんが、しおらしくなってる〜!」
「これっ姫愛!年配者をからかうもんじゃないよ。。。」
「ごめんね。おばあちゃん。でも倒れたって聞いたから、おおごとじゃなくて本当に良かったよ。グスン。」
「ありがとうな。これからは呑みすぎない様に気をつけるからの。」
「うん。お願いね。」
「大丈夫そうだし、そろそろ俺たちは帰るわ。」
正義と正義の祖母は立ち上がる。
「正義。姫愛を家まで送ってやってくれんか?明日用事があるみたいなんじゃ。」
「いいよ。じゃあ行こうか姫愛ちゃん。」
「うん。帰りまでごめんなさい。
おばあちゃん!安静にしててね!」
「分かっとる分かっとる。」
ガチャ。
「正義。いい子じゃろ?姫愛にどうじゃ?」
「えっ?親族じゃない。近すぎない?」
「正義は、養子の子なんじゃ。姉には子ができんかったからの。」
「そうなんだ。確かにいい子だけど、姫愛次第ね。あの子、いつか王子様が迎えにくるって、ろくに恋してこなかったから。」
「かわいい孫じゃ。王子様が迎えにくるとええの。」
「そうね。私もそろそろ孫の顔でもみて安心したいわ。」
「ワッハッハ。まだまだ若いのに何いっとるんじゃ。ちょっとばかし疲れたのう。足も痛むし、少し寝るぞ。」
「はぃはぃ。私は何か食べてくるからごゆっくり。」
「すまんかった。ありがとうな。」
「いいわよ。おやすみ。」
「あぁ。おやすみ。」
カチカチカチカチ。
「姫愛ちゃんはなんでこの村にきたの?」
「・・・・」
「あっ。ごめん。言いたく無ければいいよ。ごめん。」
「多分そのうち分かる。」
「そっか。。。。おばあちゃん。病気とかじゃなくて良かったね。」
「うん。本当に。もう年なんだから気を付けて欲しいよ。」
「そうだね。あのさぁ。。。」
「ん?」
「いやっ。おばあちゃんねお見舞いのときとか送るからさ、連絡して。」
正義は携帯番号を表示した携帯を姫愛に手渡した。
あっ。今は赤信号です。
「ありがとう。何度も送ってもらったりして、ごめんなさい。」
姫愛は正義の携帯に、自分の電話番号を登録して返した。
「私の携帯登録しといた。迷惑だった?」
「いやっ。ありがとう。」
(やった!やった!やった!姫愛ちゃんといつでも連絡がとれる!神様ありがとう〜!)
「着いたね。ありがとう。本当にごめんなさい。」
「全然気にしないで。仕事柄、割と自由だから、いつでも連絡して!」
「ありがとう。おやすみなさい。」
「うん。おやすみ。」
姫愛が家に入っていった。
向かいの屋敷から人が歩みよる。
姫愛と正義のやり取りを見ていた様だ。
「正義さん!こんばんは。あの子。。。。正義さん、好きになっちゃったんですか?」
「あぁ、うん。すごくかわいいんだよ。」
話かけてきたのは、正義を崇拝する代々佐竹家に仕えたとされる阿久津家の阿久津光だ。
佐竹へ代々仕えた名残りか、光の正義への執着は異常だ。
「正義さん!協力しますよ!任せて下さい!」
「協力って?そっとしといてくれよ。自分で頑張ってみるから。」
「冷たいじゃないですか。もっと頼って下さいよ!」
「まぁありがとう。」
(正義さんにありがとうって言われた!逆にありがとうございます。正義さん!)
「じゃぁ俺帰るから。またな。」
正義は車に乗り、窓をあける。
「正義さん!お疲れ様です!」
「疲れてないよ。お疲れ様。じゃあまたな。」
「はい!ありがとうございます!」
正義は車を走らせ帰路についた。
(光。あの一瞬で姫愛ちゃんへの気持ちを見抜いたのか?まさか!俺、バレバレ?気持ちが溢れでてる?!姫愛ちゃんにも気付かれたかなぁ。あー!考えても仕方ない。また会えるといいな。。。)
後ろの席で祖母は眠っていた。
「ばあちゃん。お疲れ様。大丈夫か?疲れただろ。着いたから家入ってゆっくり寝なよ。」
「ありがとうね。正義。妹の事心配したら疲れがどっときたわ。」
「だろうね。俺もなんだか疲れたよ。今日は早く寝よう。」
「そうだね。」
ざぶぅ〜ん。
「はぁ。おばあちゃん。なんでケガするのよ〜。明日帝さんのとこいかなきゃなのに。。。帝さんどんな人なんだろ。小さいときにお葬式いったけど覚えてないな〜。。。そういえば助けてくれた男の子誰だったんだろ?佐竹さん?顔が違うよね。違う違う。今は明日の作戦を。。。ダメだ。なんとかなるでしょ!よし!寝よ。。。あ〜のぼせそう。そろそろあがろっと。」
チュンチュン、チュンチュン。
姫愛は、鳥がさえずり、まぶしい朝日でめをさます。
「はぁ〜もぅ朝か。いい景色!やっぱり東京とは違う。朝がきもちぃ〜!」
ギコギコギコ。
姫愛は階段を下り、1階の居間へ向かう。
「おはよ〜う。って誰もいないか。お母さんやっぱりおばあちゃんの付き添いで病院にとまったんだ。朝ご飯どうしよう。」
姫愛は、台所を物色する。
「ご飯もあったし、納豆と〜あっレタスあるじゃんサラダつくろっ。ドレッシング〜は、あった!」
ザクザク。
「サラダ完成っ!」
「お味噌汁も欲しいところだけど、、、
お味噌どこ?おばあちゃ〜ん!
はぁ。あきらめよ。
いただきます。」
(うんっ。おいしい!せっかくおばあちゃんちなね来たのに独りで食べるの寂しいな〜早く帰って来て欲しい。)
「ごちそうさま。」
「よしっ!出陣じゃー!なんてね。
はぁ。憂鬱。。。。」
「いってきま〜す!」
「いってらっしゃ〜い!って自分で言う私。悲しすぎ。」
(今日は運動靴だし、ムヒも持った!日焼け止めも塗った!いつもあまりしないお化粧もした!戦闘準備はととのってる!さぁ行くぞ〜行くぞ〜行く、ぞ。)
「って!どんなけ登るね!歩いて行くの無謀だった?登山よねこれっ!きつい。きつい。きつすぎる。」
「・・・・」
(独り言いう気力ももうありません。佐竹さんに頼めば良かったかな。ダメダメ!知らない人に迷惑かけたらダメダメ。)
「あっ!なんか開けてきた!ついに着きましたか?着きましたよね!ありがとう神様!」
姫愛が独り言を言いながら進んでいると、遠くに人の姿が見えた。
「あの〜すいません。」
近づいていくと、長髪のヒゲはボサボサ。まるでテレビに出てくる仙人?長老?そんな男?がしゃがみこんでいる。
ギャーギャーギャー。
何かのうめき声が聞こえる。
なんだろ?と姫愛は思いながら、どんどん近づいていく。
息切れで大きな声も出せない。
大分近づいて、声をかけようとしたその時、突然、赤い液体が飛び散り、しゃがみ込んだ男の顔を真っ赤に染める。
男は、刃物をもち、顔を真っ赤に染め、姫愛をにらみつけた。
「ギャー!もののけぇ!」
姫愛はこれまでの人生で間違いなく一番大きい悲鳴をあげた。
そして、不覚にも気を失い、その場に倒れ込んでしまった。
「おぃ!おぃ!」
長髪の男が姫愛に歩みよる。
(気を失った?えっ?めっちゃ迷惑なんですけど。てか、もののけじゃないし。人間だし。はぁ。ほっとくわけにもいかないし。。。父さん、母さんは東京に抗議にいってるし。あ〜ほんと!誰ですかこの人!)
長髪の男は、体に浴びた血液を拭いとり、姫愛を抱きかかえた。
「はぁまったく。とりあえず、客間のベッドにねかせるか。」
(あれっ。この子。中条さんとこの孫か?気を失って目瞑ってるし、小さいときにあっただけだから定かじゃないけど、、、似てる気がする。)
「よいしょ。」
男は姫愛をおろし、布団をかける。
「寒くないかな?山登ってきたみたいだし、汗がひやいだら風邪ひくよな。あ〜どうしていいか分からん。」
と、独り言をいっていると、姫愛が目を覚ます。
「ギャー!」
姫愛の悲鳴に驚き、男もつられて悲鳴をあげる。
「ギャー!」
「こっ殺さないで下さい!お願いします!私!何も見てません!」
「ちょっ、ちょっとまて!落ち着いて!」
(顔近いって。怖い、怖い、怖い!)
「ごめんなさい!なんでもします!命だけは!」
(あれっ?この人、髪もヒゲものび放題でお年をめされてると思ったけど私と同じ年くらい?)
命の危機を感じながらも、姫愛は以外と冷静だった。
「頼む!頼むから落ち着いて!殺さないし、何もしないから。」
「ほんとに・・・?」
「ほんとに。」
「がぁ〜!怖いかった。」
「まず俺、もののけじゃないし、人間だし。」
「あっ。ごめんなさい。」
「まぁこんな身なりじゃぁ、仙人かもののけに見えるよな。」
「フフっ。はい。」
「正直だな。。。まず、さっき血まみれだった事だけど。」
「なっなんの事ですか?わっ私何も見てないから、、、分からない。なぁ〜」
「はぁ。もういいから、今晩食べるのに鶏をさばいてたんだよ!」
「えっ?鶏?さばく?殺鳥事件?」
「事件って、スーパーに売ってる鳥も誰かがさばいてんの!」
「あぁ〜確かに。。。なんか勘違いしてしまって。。。ごめんなさい!」
姫愛は深々と頭を下げる。
「分かってもらえたらいいよ。」
「あの〜あなたは?ここに住んでる人?」
「俺は、帝 央志。(みかどおおじ)。君は?」
「なんだか、王様か王子様か分からない名前ですね。」
(私の王子様だったりして。)
「ひどいなぁ〜。まぁ確かにすごい名前だよな。」
「あっ私は、中条姫愛です。」
「君もお姫様みたいじゃん!
中条?・・・やっぱり中条さんとこのお孫さん?」
「やっぱり?・・・そうですけど。」
「あっ。いや、なんかごめんね。気を失ったときどこかケガしたりしてない?」
「あっ、膝から血が出てる!ごめんなさい。お布団汚れてないかな?」
「ちょっと見せて。」
央志は姫愛の膝を消毒し、バンソウコウを貼った。
「布団とか洗えばいいから。他に痛いとことかない?」
「大丈夫です。ありがとう。」
(なんだろ?この感じ。前にもあった様な・・・バンソウコウ貼ってもらったのなんて、お母さんかお父さんくらいよね?お父さんに似てる?似てないな〜。)
「どうかした?」
「うぅん。なんでもないです。なんか前にも誰かに手当てしてもらった様な。って思ってました。」
「小さいとき?」
「う〜ん。あっ!お葬式のとき!ころんで、男の子にバンソウコウはってもらったんです。」
「そっか。良く分からないけど。ちょっとゆっくりしてて。テーブルにお茶置いといたから。」
央志は家の外へ出ていった。
「えっ?どこいった?放置ですか?知らない人の家に独り。困るじゃん!はぁ。なんだか色々ありすぎて、頭が混乱してる。私はなぜここにいるんだっけ?・・・あっ」
(私、帝さんとお話にきたんだった!あの人が帝さん?でも私くらいの年齢だったな。あの人のご両親が話すべき人?おばあちゃんに聞いておけば良かったな。。。)
「いたっ。落ち着いたら膝が痛い。」
(えっ?お葬式のときの助けてくれた男の子ってあの人?でも何も言ってくれなかったな。覚えてるわけないか。)
ガチャ。
「えっ。また血だらけだよ。」
「鶏。途中だったから。ごめん。怖いよな。顔洗ってくる。」
「ごめんなさい。ちょっと怖いかも。ありがとう。」
「お待たせ。ちょっとは落ち着いた?何か用があって来たの?」
「えっ。いぇ。散歩してたら道に迷っちゃって。」
「ほんとに?」
「嘘です。すいません。話づらくて・・・。」
姫愛は、勇気を出して開発計画の事をはなした。
「会社。ひどいな。やめちゃったら?可哀想に。」
「私も嫌だったんだけど、いかざるおえなくなって。。。」
「正直、開発計画の事知ってるけど、山の反対側だし、俺は何とも思ってないんだ。でもうちの親は、源頼朝様から頂いた、大切な土地だから、近くに開発計画なんてゆるさない!っていっててさ。村の人たちも割と頭のかたいお年寄りばっかだからさ、うちの親にみんな影響されちゃって反対運動みたいになってんの。」
「そうなんですね。。。」
「うちの親、今東京にいってていないんだ。」
「えっ?うちの会社ですか?」
「多分ね。早ければ、今日帰ってくるはずなんだけど。」
「待たせてもらってもいいですか?」
「うん。何もないけど、適当にくつろいでて。」
「ありがとうございます。」
「うちの親と話するときは協力するから。」
「えっ?協力してくれるんですか?」
「うん。ほんとは、俺、ここをでて、広い世界を見てみたいって思ってる。でも昔からのしきたりがどうのこうのって言われて、自由にさせてもらえないんだ。」
「辛いですね。素敵なとこだけど、縛られるのは嫌ですよね。」
「うん。」
「あの〜。気になってる事があって。。。央志さんは、お祖父さんのお葬式の時の事覚えてますか?」
「えっ?うん。なんとなく。」
「その時、小さい女の子がころんでるの助けました?」
「うん。助けたかな。」
「ありがとう。」
「えっ?」
「その女の子、私なんです・・・」
「小さい頃の事なんてほとんど覚えてないんだけど、ありがとうって伝えられなかった事、ずっと覚えてたんです。あの時、暗いし、怖いし、痛いし。すごく心細くなってたんです。央志さんが助けてくれてすごくうれしかったんです。」
「そうだったんだ。助けて良かった。今日は怖がらせてしまったけど。」
「うぅん。私が勘違いしただけだから。央志さんは優しい人です。」
「やめてくれよ。」
央志は、顔を伏せたが笑顔だった。
「央志さ〜ん。嬉しいときは素直に喜んで下さい。」
「ちょっ、ちょっと!顔近いから!」
「ごっごめんなさい。」
2人はまた顔を伏せた。
カチカチカチカチ。ゴーンゴーンゴーン。
2人は、長い時間はなして、打ち解けていった。
「もう16時かぁ。帰ってこないな。」
「長居してごめんなさい。また明日来るね。」
「そうだね。もうすぐ日が落ちてくるだろうし。」
「はぁ。明日も登山しないといけないなぁ」
「えっ?歩いて村から来たの?」
「うん。」
「帰りは送るよ。明日も朝迎えに行こうか?」
「えっ?お願いしてもいいですか?・・・正直、普通なら初対面で厚かましすぎると思うのですが・・・。ここ山すぎます!」
「だろうね。俺でも歩いてはきついよ。」
「だよね!やっぱり。だよね!だよね!」
「わかった、わかった。」
「送ってもらえるなら、お礼したいな。」
央志は無邪気な顔で姫愛を見つめる。
「えっちな事じゃないからね!」
「わっ分かってるよ!」
「う〜ん。あっ!夜ご飯作る!」
「料理できるの?やった!母さんがいないから、2日前から焼いた肉とカップラーメンしか食べてないんだ。」
「ご飯は?まさか炊き方分からないとか?!」
「・・・」
「今晩は任せて!台所借りるね。」
「うん。何か手伝おうか?」
「お米を炊けない人の手助けは必要ありません!」
「傷つくわ。」
「ふふっ。嘘嘘!お礼なんだから、ゆっくり座ってて。」
「うん。ありがとう。」
ガチャ。
「冷蔵庫の中は〜・・・げっ。さっき央志くんの捌いてた鶏?血が着いてる。。。
」
ガサガサガサ。
姫愛は鶏の入っている袋を恐る恐るあける。
「すごい!スーパーで売ってるみたになってる!」
(央志くんかっけ〜!サバイバーだ。お米炊けないのに鶏さばけるとかギャップもえなんですけど〜)
トントン。
(姫愛ちゃんめっちゃ料理してる!結婚したら毎日こんな感じ?憧れるな〜。はぁ。お通夜の日に一目惚れしてずっと好きだとか言えないよな。きもいよな。)
「央志くん!考え事?」
「わぁ!びっくりした。だから!顔が近いって!」
「ははっ。何回か声かけたんだよ!」
「えっ?ほんとに?」
「ほんとに!ご飯できたよ。」
「食べるの台所のテーブルでいい?準備できてるよ。」
「すごっ!」
「えっとね〜、これが央志くんのさばいた鶏の入った煮物、これはこっちは同じく鶏の唐揚げ。お味噌汁とご飯、あとサラダね。」
「ありがとう!お腹へった〜!」
『いただきます!』
「うまい!うますぎる!」
「ふふっ。嬉しい。急いで食べたら喉詰めるよ!」
「ゲホッゲホッゲホッ。」
「だからいったのに。お茶!はい。」
「ゴクゴク。危なかった〜。」
「もぅ。気を付けてね!」
『ハハハハハ!』
「・・・」
「央志くん突然黙ってどうしたの?嫌いなもの入ってた?」
「ちがう。ちょっと親と離れて1人でご飯たべてただけなのに、1人じゃないってこんなに楽しいんだなって思ってさ。」
「私も。実は昨日、おばあちゃんが入院してね、お母さんもおばあちゃんの付き添いで病院に泊まったから、1人でご飯食べてたの。すごい寂しい気持ちになった。」
「えっ?中条さん入院したの?大丈夫なの?」
「お恥ずかしい話ですが、私たちが帰って来てうれしくてお酒呑みすぎて、ころんで足の骨にヒビが入っちゃったの。」
「良かった〜良かないか。骨にヒビも大変だよな。しばらく入院するの?」
「昨日入院したばかりで、歳も歳だし、経過をみて退院決まるみたい。」
「そうか〜。寂しいな。寂しかったらいつでもきてよ!」
「それってご飯つくって欲しいだけしゃないの〜?」
「違う!姫愛ちゃんといると。。。」
「・・・」
「・・・」
「姫愛ちゃんといると、なぁに?」
「楽しいんだよ。はぁ恥ずかしい。」
「嬉しい・・・」
「・・・・」
照れくさい様な、幸せな沈黙がしばらく続いた。
『ごちそうさまでした。』
「めっちゃ美味しかった!ありがとう!」
「どういたしまして!片付けるからゆっくりしてて。」
「片付けはしとくからいいよ。」
「片付けるまでがお礼なの!」
「まだ何もしてないのに。ありがとう。」
カラン。
姫愛は食器を洗い終えて、居間に向かった。
「央志くん。終わったよ。」
「ありがとう。全部してもらって申し訳ない。」
「お礼って言ってるじゃない!気にしないで。」
「うん。あっ!もうこんな時間だ。そろそろ送るよ。」
「うん。・・・もう少しいたいな。」
「えっなんていった?」
「うぅん。よろしくお願いします!」
「任せて!」
ギギギギギギギギギギギ。
ギギギギギギギギギギギ。
「はぁ。エンジンがかからない。」
「えっ車壊れちゃったの?」
「多分バッテリーだと思う。あんな素敵なお礼をしてもらったのに。。。。。」
「仕方ないよ。壊れちゃったんでしょ。」
「まっまぁそうだけど。。。ほんとにごめん。」
「はっ!最初からそういう計画だったのね!遅れないふりして、私が寝た後に襲うつもりだったって事?」
「うん。家に戻ろうか。ごめん。」
「私の話聞いてた?お〜ぃ。」
「ご飯。美味しかったのに。ダメだなぁ〜俺は・・・」
「あのぉ〜。おぉ〜ぃ。」
「ほんとにごめん。」
「すごく凹んでるね。大丈夫だよ。元気出して!」
「はぁ。役立たずすぎだよな。」
「とめてくれる?」
「うん。」
「絶対襲わないでよ!約束。」
「うん。約束。」
「ねぇ。ほんとに大丈夫だよ。お母さん今日も病院に泊まるっていってたし、1人は寂しいなって思ってたから。」
「ありがとう。風呂入ってきて。布団とか準備しとくから。」
「うん。ありがとう。」
ざばぁ〜ん。
(ふぅ。きもちぃ〜!央志くん大丈夫かな。かなり凹んでたよね。元気づけてあげたいな。全然気にしなくていいのに。あ〜のぼせてきた。あがろっと。)
「央志くん。お先にお風呂ありがとう。」
「うん。じゃあ俺も入ってくる。」
(パジャマ姿(母さんのだけど。)可愛すぎる!えっ?て言うか、同じシャンプーとか使ったよな?何が違えばこんないい匂いがするんだ!そして髪をあげてる姫愛ちゃんは可愛すぎる!地味を装っていた子が実は芸能人でした〜みたいな映画みたいな展開。神様、これはいったいなんのご褒美ですか?!)
「いってらっしゃい。あれっ?また考え事?」
央志は無言のまま風呂へ向かった。
ぽつ〜ん。
「しまった!姫愛ちゃんの後の風呂。。。何を気にしてるんだ!逆にきもいわ!」
ざぶぅ〜ん。
「はぁ。勢いで飛び込んだけど・・・罪悪感しかないわ!」
(何かお礼したいな。申し訳なさすぎる。あぁ〜今日はきっと何も恩返しできない。潔く明日から何かできないか考えよう!)
ガチャ。
「まだ起きてたんだ。登山して疲れてるんじゃ?」
「あなたは・・・どなた?」
(誰?この神様!じゃなくてイケメン!カッコよすぎるんですけど!)
「えっ?央志だけど。」
「誰?央志君は髪ボサボサだし、ヒゲも仙人みたいに長いんです!私をたぶらかすもののけね!」
「勘弁してよ。どこまで凹んだら許してくれるんだよ。。。髪は母さんのコンディショナー?生まれて初めて使ってみた。ヒゲはそってみたんだけど。どうかな?」
姫愛には、髪を束ね、15センチはあったヒゲを剃った央志は、まるで芸能人の様に輝いて見えた。
「央志くんなの?ほんとうに。」
「そうだよ。」
(何?さっきからギャップもえ作戦を遂行してらっしゃるんですか?好きになっちゃうよ。。。っていうか、もう。。。好き?)
「なんで黙るんだよ!」
「カッコよすぎるから。」
「聞こえなかった。なんて言った?」
「なんでもない!」
「ごめん。言い忘れてた!隣の客間に布団しいたから、そこで寝て。」
「ありがとう!」
「じゃあゆっくり寝て。俺は部屋でちょっと仕事するから。」
「お仕事?」
「うん。ここからは出られないから、リモートで働ける会社で働いてるんだ。今日中に作成しないといけない資料があって。」
「ごめんなさい。私が来たからお仕事できなかったんだね。」
「気にしないで。疲れてると思うから早く寝るんだよ〜。おやすみ。」
「うん。おやすみなさい。」
ガッチャ。
「明日は央志くんのご両親、帰ってくるかな?なんだか央志くんの事が大きすぎて開発計画の事忘れてた。はぁ。寝よ。」
カチ、カチ、カチ、カチ。
(あ〜眠れない。12時か。時計の音さえも気になってきた。央志くんもうお仕事終わったかな。)
「こういう時は、無理に寝ようとしても眠れないものよ!様子見にいっちゃお〜。」
カチカチカチカチ、ぼっぉ。
「温かいお茶をもっていこう。確かさっきこの辺りにお茶っ葉があった様な。あった!おにぎりとか食べるかな?ちょっとだけ。お味噌汁?いゃいゃ。もはや朝ご飯じゃん!」
(迷惑かなぁ。でももう少しはなしたいな。明日からどうなるか分からないし。よし!頑張るのよ姫愛!)
トントントン。
「は〜い。」
ガチャ。
「こんばんわ〜。お仕事どう?お茶入れたよ。台所勝手に使っちゃってごめんなさい。」
「えっ?おにぎりもあるじゃん!ありがとう!丁度お腹空いた〜と思ってたんだ。」
「良かった〜。迷惑じゃないか迷ったんだけど。」
「嬉しいよ。いただきます。うん。うまい!」
「ふふっ。もぅお仕事終わった?」
「うん。今丁度できた資料をメールしたとこ。」
「もしかして眠れなかった?」
「うん。明日からの事とか考えると不安でお目目パッチリ。温かいお茶飲んだら眠れるかなって思って。」
「そっか。不安だよね。俺もできる限り力になるよ。」
「ありがとう。心強い。」
「どぅ?眠れそう?」
「う〜ん。でも少しは寝ておかないとね。」
「食器、片付けて来るね。」
「いゃっ、これは俺が片付けるよ。」
「きゃっ」
食器を引っ張りあって、2人はバランスをくずし、横にあった央志のベッドに倒れ込んでしまった。
(きゃ〜央志くんに押し倒された様な状況。なに?この神展開!!)
「ごっごめん。大丈夫?ケガしてない?」
「うん。大丈夫だよ。ねぇ。眠れないから、このまま一緒に寝てもらえませんか?あっ。央志くんの手足は縛っておいてね。」
「じゃあロープ取ってくるよ。」
「冗談だよ。信じてるから。」
「信じてるかぁ。。。。寝ようか。」
「うん。」
「2人だとベッド狭いね。」
「うん。でも温かい。」
(姫愛ちゃん何考えてるんだ?これはもう襲ってもいいやつなんですか?神様!教えて下さぁ〜い。だめだ。だめだ。だめだぁー!寝れるわけがないだろ!)
「ぐぅ〜ぐぅ〜ぐぅ〜。」
姫愛は安心したのか、すぐに寝息をたてた。
「まぁじか〜。ほんとに寝てるじゃん!はぁ。本当に不安で眠れなかったんだな。可哀想に。力になりたいな。」
チュンチュン。チュンチュン。
朝日がカーテンの隙間から差し込み、スズメの鳴き声がする。
(あ〜見事に一睡もできなかった。姫愛ちゃんの寝顔、可愛すぎる。これは拷問ですか?ご褒美ですか?)
「うぅ〜ん。おはよう。」
「おはよう。」
「本当に何もしなかったんだね。えらい、えらい。」
「すぐに寝息をたてはじめといて良くいうよ。それに俺、山にずっといたからそういう事した事ないし。」
「ふふっ。そっか。私も。」
「ふ〜ん。でも、他の奴に同じ事するなよ!男はみんなオオカミ。らしいぞ。知らないけど。」
「しないよ。誰にでも同じ事はしない。オオカミに変身できなかった仙人さん。。。素敵だょ。」
「なんか悲しい。。。今からオオカミに変身しようかな?」
「残念でした〜オオカミさんは夜行性で〜す。」
「ははっ。そろそろ起きようか。」
「うん。あっ、朝ご飯適当に作るね。」
「やった!お願いします。」
「任せなさい!」
トントン、トントン、トントン。
(昨日も思ったけど、このトントンって音、いいよな〜男のロマンだな。)
「ちょっと。さっきから見すぎです。」
「あっ。ごめん気にしないで。」
「気にします〜。居間にいってて。恥ずかしぃから。」
「はぁ〜い。」
2人は朝食を済ませた。
「ご両親から連絡はあった?」
「なかなか姫愛の会社の社長にあってもらえなくて、話す事ができないみたいなんだ。今日も帰って来ないと思う。」
「そっか。私、今日はおばあちゃんのお見舞いにいってきます。」
「送るよ。」
「えっ車壊れちゃってるよ。おんぶでもしてくれるの?」
「ははっ!それいいね。大丈夫。車の修理頼んだから。多分そろそろ。」
ピンポ〜ン。
「おはようございます。車の修理に伺いました。」
「姫愛ちゃん出発の準備しといて!」
「うん。」
「ありがとうございます。多分バッテリーだと思うんですが。」
「・・・・」
「どうですか?なおります?」
「大丈夫だと思います。ちょっと作業させてもらいますね!」
「よろしくお願いします。家の中にいるので何かあれば声かけて下さい。」
「はい!」
ガチャガチャガチャガチャ。
「すいませ〜ん。作業完了しました!」
「ありがとうございます!」
ギギギ。ブォ〜ン。
「バッチリなおりました!ありがとうございます。」
「こちらこそ、ありがとうございます。山奥まで来てもらってすいませんね。」
「全然、仕事ですから!ではっ!」
「さっ!準備もできたし、病院まで送るよ。」
「よろしくお願いします!」
2人は車に乗り込む。
「俺、というか。うちさぁ、なんでかは知らないけど、姫愛のおばあちゃんに嫌われてるんだ。」
「なんか、そんな感じだよね。。。」
「うん・・・」
「おばあちゃんに会ってみない?同じ村に住んでいて、なんだか悲しいし。仲直りできるかもよ。」
「うん。はなしてみたいな。」
「じゃあ決まりね!」
2人は病院に到着する。
トントントン。
ガチャ。
「おばあちゃん!具合はどう?」
「お〜姫愛!きてくれたのか!」
「お久しぶりです。ケガの具合はどうですか?」
「なんで帝の孫が姫愛とおるんじゃ?!」
「お母さん。せっかく来てくださったのにそんな言い方しないの!」
「あっ、俺、お花買ってきたんで、花瓶に水入れてきますね。」
「おばあちゃん。お花、姫愛が選んだんだよ〜!」
「そうかそうか。ありがとう。」
「で、姫愛。どういう事じゃ?」
「帝さんに話を聞いてもらおうと思って行ったんだけど、ご両親は東京に行ってるみたいで。はなせなかったから、病院まで送ってくれたの。」
姫愛は、祖母の耳元に顔を近づけ、小声でいった。
「後ね、好きになっちゃった・・・ナイショね。」
「なんとまぁ!やっぱり帝に近づけるんしゃなかったわぃ。」
「おばあちゃんはどうして帝さんを嫌うの?」
「思い出したくもないが。」
カナカナカナ〜ひぐらしの鳴くある夕暮れ3人の若者が、下校していた。
1人は央志の祖父、輪太郎
1人は姫愛の祖母、日和
そしてその姉、雪子。
3人はいつも一緒にいた。
輪太郎と雪子は思い合っていた。
日和は、密かに輪太郎を思っていだが、輪太郎と雪子が幸せになるならと、思いを殺し、2人の幸せを願っていた。
「ねぇ。輪太郎さん!もうすぐ高校卒業ね。。。輪太郎さんはおじさまの農家とか林業を継ぐんだよね?」
「うん。そうだね。しきたりで村からは出られないから。。。」
「私、卒業した後村の役場で働く事が決まったよ。これからもずっと一緒にいられるね!」
「村、出ないんだ。みんな出て行くから、雪子も出ると思ってたよ。嬉しい。。。」
「えっ?最後なんていった?」
「なんでもない。」
「ねぇねぇ〜」
「顔近いから。」
「ごめん。あのね・・・卒業したら、私をお嫁さんにしてくれませんか?」
「えっ?!俺なんかでいいの?」
「うん。輪太郎さんがいいの。」
「うん。約束する。」
「うん。約束ね!」
「あの〜私がいるの忘れてない?」
日和は2人の後ろからムスッとした表情で話しかける。
「あっ日和ごめん!恥ずかしぃ。今日、どうしても輪太郎さんに気持ちを伝えたいって思ってたから。廻りが見えてなかったわ。」
「ねぇさんの悪いとこよ〜。まぁいいけど。輪太郎さん。ねぇさんのをよろしくお願いします。」
「うん。幸せにできる様に頑張るし、大切にするね。」
「当然!ねぇさんを泣かせたら許さないから!」
雪子は顔を恥ずかしさと喜びで顔を伏せる。
「さぁ邪魔物は先に帰りま〜す!私は受験生だから!」
日和は自転車でそそくさと帰っていった。
2人は照れくさそうに、手をつなぎ、ゆっくり家に向かった。
姫愛は祖母の話を黙って聞いている。
「帝は、わしの前で約束したんじゃ。姉さんを幸せにすると。ところが。」
祖母は悔しそうに、また話し始めた。
「あれだけ思いあっておったのに、あいつは、それから姉さんに会おうとしなかった。
姉さんは寂しそうにしてたよ。
そしたら、数ヶ月後、京都から迎えた女と結婚するという話を聞いたよ。
ひどい話じゃ。
わしは、帝を絶対に許さないぞ!」
央志は、花瓶に水を入れ、戻って来ていた。話を聞いていた央志は、花瓶に花をさしながら、話始めた。
「中条さん、違うんだ。絶対に話すなって言われたんだけど・・・おじいちゃんが亡くなる前に、全部聞いたんだ。小さかったから難しかったけど、今なら分かる。」
「なにがあったというんじゃ?姉さんとの約束を違える程の事なんじゃろうな?」
「だと思う。」
「で、何があったんじゃ?」
「丁度、おじいちゃんが結婚の約束をした日って聞いてる。」
央志は話始める。
「だだいま〜」
「おかえりなさい輪太郎。」
「今日はご飯何?」
「カレーを作ったから、部屋で食べて。」
「えっ何で部屋?」
「今ちょっと来客中だから。」
「あれっ?雪子のお母さん?」
「部屋にいってなさい。」
「すいません。お待たせしてしまって。お話って?」
雪子の父は、手広く商売をしており、裕福な家庭だった。
商売はとても順調で、高校卒業後は、雪子に仕事を教え、ゆくゆくは、雪子とその夫となる者に会社を任せたいと思っていた。
もちろん、雪子と輪太郎が思いあっている事は知っていたし、雪子の父も輪太郎を気に入っていた。
帝家と中条家は仲が良く、両親同士もそのつもりでいたから、輪太郎と雪子をみんなが見守っていた。
「実は・・・申し訳ありません。」
雪子の母は頭を深々と下げる。
「どうしたんですか?頭を上げて下さい。」
「夫の信頼していた社員にお金を持ち逃げされてしまい、多額の借金だけが残ってしまいました。会社も資金が回らず信用を無くしてしまい、廃業するしかない状況です。」
「大変な事になりましたね。」
「はい。今夫は親戚中にお金を借りれる様に頼んでまわっているのですが・・・実は、ご主人さんが、借金の連帯保証人になってくれている様で。」
「えっ?聞いてないですよ。」
「もちろん迷惑はかからない様にしますので。」
「借金って。いったいどれくらいあるんですか?」
「一億円です。」
「いっ一億円?!」
「はい。事業拡大で借り入れたんですが、事業も軌道にのって今月一旦返済できる予定でした。返済資金と運営資金を全て持ち逃げされてしまったんです。」
雪子の母は涙を流した。
「うちにできる事があればいって下さいね。」輪太郎の母は雪子の母の背中をさする。
「ありがとうございます。今日はこれで失礼します。」
ガチャ。
雪子の母は帰っていった。
「母さん。雪子の家、大丈夫?」
「あんた。聞いてたのかい。」
「うん。ただ事じゃなさそうだったから。」
「大変な事になったわね。。。」
それから数日後、何かに仕組まれた様に色々な出来事が動き始めた。
「輪太郎。ごめんなさい。あなたにお願いがあるの。」
「何?改まって。」
「雪子さんのお父さん、漁船に乗ったみたい。3年は帰って来ないみたい。」
「そっか。借金は返せそうなの?」
「それでね。輪太郎。結婚して欲しいの。」
「えっ?丁度いいや。俺、雪子とけっ」
母は遮る様に言う。
「違う。違うの。京都の豪族の家系の方でね。とても良い方だそうよ。」
「えっ?なんで?顔も名前も知らない人と結婚になるんだよ?」
「本当にごめんなさい。中条さんの借金、なんとか半分は親戚中をまわって、返せたそうなんだけど、残りの半分がどうしても返せないみたい。」
「で、何で俺が結婚になるんだよ?」
「繋がりが途絶えてたはずの京都の近衛一族から、あなたに是非嫁入りさせたいって突然連絡があって。今お嫁さんを迎える事はできない状況だと理由を話したら、お金をなんとかしてくれるって。」
「なんだよ。それ。俺売られるのかよ?」
「ごめんなさい。もう一つ。雪子さんにも縁談の話が突然きてね。佐竹さんの息子さんと結婚する事になると思う。借金の3千万円を肩代わりしてくれるそうよ。」
「残りの半分の借金は、それでなんとかなりそうなの。親の勝手でごめんなさい。うちも連帯保証人になってるからなんとかしないといけないの。」
「そんな?雪子は知ってるのかよ?」
「雪子さんはまだ知らない。だから、雪子さんのためでもあるの。あなた達が思い合ってるのは知ってるから。」
「ふざけるなよ!」
輪太郎は、家を飛び出し走り出した。
「雪子。雪子。雪子。」
「ハァハァ。」
輪太郎は走りながら考えていた。
(雪子のため?親たちのためじゃないか!駆け落ちしよう!そうだ!・・・・でも、雪子なら自分たちだけ幸せになるなんてきっと望まない。どうすればいいんだ。)
輪太郎は雪子の家に向かっていたが、山のふもとの神社のベンチにうつ向き座る人影が目に入り、足を止めた。
「雪子?」
「輪太郎さん?!」
「雪子どうしてこんな所に?」
「輪太郎さんにお話があったんだけど、心の準備がね・・・できなくて。」
「雪子。全部聞いたのか?」
「うん。輪太郎さんも聞いたんだね。良かった〜私から話始めるのきっと・・・無理だったから。」
「もう答えは出てるんだね。」
「うん。私、佐竹さんに・・・」
雪子の瞳から大粒の涙が流れ落ちる。
「お嫁さんにいくね。」
輪太郎は言葉が出ない。変わりに大粒の涙が流れ落ちる。
「ごめんね。私がお嫁さんにしてってお願いしたのに。。。ごめんなさい。」
「2人でどこか遠くに行こう!そうしよう!」
「輪太郎さん。家族を見捨てるなんてできる人じゃないでしょ?」
「雪子もな。」
「うん。日和も頑張って受験勉強してるし、学校行かせてあげたい。」
「そう言うと思ってた。そんな雪子だから好きになったんだ。こんなに好きなのに。なんでだよ〜!」
輪太郎は、雪子を抱き寄せ強く強く抱きしめた。
「輪太郎さん。」
雪子は輪太郎の頬に手を当て、顔を近づける。
そして、2人は最初で最後の長い長いキスをした。
涙が鼻際を流れ口元へ流れ込む。
「塩っぱいね。初めてのキス。」
「そうだね。」
「ねぇ。輪太郎さん。」
「何?」
「1つだけお願い聞いてくれる?」
「うん。」
「私達は一緒になれないけど、子供か、孫か、日和の孫でもいい。いつか私達の分まで結ばれて幸せになってくれるように、王子様とお姫様みたいな名前を付けよう。」
「そしたら。その2人が結ばれたら、私たちの勝ちだよ!幸せな2人を見て私たちも幸せになるの!」
「なんだかおとぎ話みたいだね。」
「約束・・・今度こそ。」
「うん。わかった。」
「じゃあ、私そろそろ行くね。悲しくて悲しくて辛くなるから、私たちはもう会わない。私たちの未来の子供か、孫が私たちの分まで幸せになるの!
輪太郎さん。さようなら。」
雪子は走り出す。
「雪子ぉ〜!元気でな〜!さようなら〜!」
輪太郎はその場に崩れ落ち、日が暮れるまで泣いていた。
ガチャ。
「だだいま。母さん。俺、京都の縁談受ける事にしたから。」
「輪太郎。ごめんなさい。」
母は涙を流し崩れ落ち、何度も何度も輪太郎に謝った。
数週間後、縁談の話はとんとん拍子に進み、輪太郎は結婚した。
雪子も輪太郎の結婚から程なくして、佐竹家へ嫁入りした。
輪太郎、雪子はそれぞれ子宝にも恵まれ、形的には幸せな日々をそれぞれ過ごした。
輪太郎には、孫が生まれたが、雪子の子夫婦には子供ができなかった。
輪太郎は雪子との約束を守り、孫の名付け親となり、央志と命名した。
一方、雪子は、日和の孫の名付け親となる事ができ、姫愛と命名した。
輪太郎は、亡くなる少し前に、央志と央志の両親に全てはなし、亡くなったそうだ。
「うぇ〜ん。あ・だ・し、央志くんと結婚するぅ〜。」
「姫愛ちゃん!冷静になって!」
「だって〜悲しすぎる。2人の分まで幸せになろ?ねっ?」
「俺は嬉しいけど、冷静に。冷静に。」
「今、嬉しいって?」
「がぁ〜!!!」
突然、姫愛の祖母が叫びながら涙を流す。
「何も知らずにわしは。2人に守ってもらっとった。うぇ〜ん。」
姫愛の祖母は涙を流し、うずくまる。
「ごめんなさい。姉さん。輪太郎さん。」
姫愛は祖母を必死になぐさめる。
しばらく祖母は泣き続け、ようやく落ち着いた様だ。
「央志!姫愛をどう思っとる?好きか?好きか?」
もう、好きとしか言わせない剣幕で問いただす。
「はい。俺は、じいちゃんに今の話を聞いた数日後、お通夜で姫愛ちゃんと初めて会いました。その時からずっと姫愛ちゃん一筋です!」
「え?そうなの!?」
「う、うん。だから昨日、姫愛ちゃんがきて嬉しかったよ。」
「不思議じゃな。最初から引かれ合う運命じゃったのか。姉さんと輪太郎さんの思いが神様に届いたんかの。」
「央志!姫愛を頼むぞ。」
「はい。姫愛さんを大切必ずにします!」
「ちょっとお母さん。姫愛の母をよけ者にして話を進めないでもらえます〜。」
『わはははは〜』
姫愛は嬉しそうに言う。
「でも不思議。昨日会ったところなのに、次の日には、お母さんとおばあちゃん公認の恋人になるなんて。昨日まで私、男の人を好きって思う気持ちになったこともなかったんだよ。」
「不思議だね。これからよろしく。」
「うん。・・・あ〜!昨日から色々ありすぎて忘れてた。私、開発計画のお話、央志くんのご両親としないといけないんだった!最悪ぅ〜。」
「一緒にはなしてみよ。」
「う・・・ん。ありがとう。」
ふと姫愛の母が立ちがる。
「今日は、一度家に戻ろうかな。」
「そうじゃな。すまんな。今日はゆっくり寝てくれ。」
「じゃあ俺、送りますよ。」
「ありがとう。助かるわ。」
「じゃあおばあちゃん、また来るね!」
「言ってる間に退院して家に帰るわぃ。ありがとうな、姫愛。」
姫愛と母は、央志に送ってもらい、祖母の家に着いた。
「央志くんありがとう!姫愛、先に入ってるから。あまり長い事引き留めたらダメよ!」
姫愛の母はそそくさと家に入っていった。
「あの〜、明日も会いたいな。」
「うん。迎えにくるね。」
「あっお仕事?迷惑だったら我慢するからいってね!」
「今日帰ってから仕事は終わらせるから大丈夫!明日から土日は休みだから大丈夫!それに同じ事思ってたから。
父さんたちは、まだ帰ってこれないみたいだけど、姫愛とは一緒にいたい。」
「あっ!今、呼び捨て!キュンってしました。」
「恥ずかしいから!」
「ふふっ。幸せ。」
「俺も。今日は仕事頑張らないといけないから帰るね。」
「うん。ありがとう。また明日。」
姫愛は何度も振り向きながら家に入っていった。
央志は、ふと視線を感じた気がしたが、気にせず車で走り出した。
チュンチュン。チュンチュン。
朝日がカーテンから差し込む。
央志は時計を見た。
「まだ5時か。目が覚めたな。」
ふとスマホを手にする。
ブーブー。
姫愛からメッセージがきた。
(今日何時に来る?早く会いたいな。)
「姫愛ももう起きてるのか。朝早すぎだろ!どんなけ会いたいんだよ。可愛すぎる!!」
ブーブー。
「返事きた!朝早すぎてひかれたかな?でも早く会いたい。何々?」
(今すぐ家でて迎えに行っていい?)
「キャー!来て来て!あっまだパジャマだ。」
ブーブー。
(まだパジャマなの。すぐに着替える!)
「えっマジ?早すぎるとか言われると思ったのに!急いで準備しないと!」
ブーブー。
(冗談だったんだけど、姫愛がいいなら10分以内に向かうね。)
「やった〜!お母さ〜ん!朝ご飯姫愛が作る!央志くんがもうすぐ来るから一緒に朝ご飯たべよ!」
「姫愛さん。勘弁して下さいな。お母さんは寝てるから勝手にやってて。」
「ぶ〜。分かりました。」
ブーブー。
(朝ご飯作って待ってるね!)
「急ぐぞ〜!」
央志は車を走らせ、姫愛の祖母の家に到着した。
「おはようございます。」
ガチャ。
「おはよう。お母さんに早すぎっていわれちゃった。ご飯作ったから静かに一緒に食べよ。」
姫愛のいたずらな笑顔に央志は幸せな気持ちになった。
2人は静かに笑い合いながら朝食をすませた。姫愛は後片付けを済ませ小声で話す。
「お母さん起こすと怒られるから、央志くんの家に行ってもいい?」
「そうだね。そうしよう。」
2人は静かに家を出て、央志の家に向かった。
「着いた〜車はすごいね。歩いて来た時は泣きそうだったもん。姫愛、車の免許ないんだ。央志くんと結婚するまでにとりにいかないと!」
「そうだね。俺はここから出られないし、車は運転できた方がいいね。」
「うん。免許とったら教えてね!」
「もちろん!」
2人は家に入り、特にする事が無くてもとても幸せな気持ちになった。
「あっ!姫愛、今日はミッションがあるんだ〜」
「ミッション?何?」
「じゃ〜ん!散髪セット!央志くんかっこいいのに髪の毛がボサボサだから、姫愛が切ってあげる!」
「俺も切りにいこうかと思ってたんだ。お願いしようかな。」
「安心して!姫愛、友達に美容師さんいるから!」
「あんまり説得力ないけど・・・ずっと身なりに興味がなかったから、母さんにもヒゲそれとか髪切りにいけとか良く言われてたんだ。」
「どうして切りに行こうと思ったの〜?」
「顔近い。秘密です。」
「ははっ。じゃあ、切るね!」
「うん。お願いします。」
姫愛は手際良く央志の髪を切る。
「ほんとはね、お父さんの髪を良く切ってあげてるんだ〜。だから自信あります。じゃ〜ん。」
姫愛はカガミを央志に向ける。
「お客様、いかがでしょうか?」
「すごいね!ちゃんと切れてる!」
「でしょ〜。やっぱり央志くん男前。」
「ありがとう。さっぱりしたよ。母さんがみたら喜びそう。」
「喜んでもらえて良かった〜!」
「何かお礼しないとな。」
「いいよ〜。央志くんにいっぱい触れたし。えへっ。」
「姫愛・・・可愛すぎる・・・」
央志は姫愛を抱き寄せた。
「あの〜急です。キュン死しそうです。」
「もう少し。いい?」
「はい。」
「・・・・・・」
ガチャ。
突然、玄関のドアが開いた。
「ただいま〜。央志〜帰ったわよ〜。」
央志の両親が帰ってきた。
2人は慌てて離れた。
「どっどうしよ!」
「落ち着いて!私達は散髪してただけでしょ!落ち着いて〜スンッ。」
「おぉ!すごい!スンッ。」
「キャー!何これ?」
央志の母は床の敷物の上に落ちた髪の毛を見て驚いている。
央志の母の悲鳴で、スンッの効力はかき消された。
「あっ。そう言う事!」
「どうした?悲鳴を聞いて央志の父が急いで入ってきた。」
央志と姫愛を見て母はニヤニヤしている。
「央志く〜ん詳しく説明して頂ける〜?」
「こっこんにちは。中条 姫愛です。お留守中に上がり込んでしまってごめんなさい。」
「いいのよ〜」
央志の母は、満面の笑みだ。
「姫愛ちゃんどうしてこっち来たの?っていうか、何がどうなればこの短期間でこうなるのかしら?」
央志は、一旦、開発計画の事は伏せて数日間の事を説明した。
「あなた達は、お付き合いしてるでいいのよね?」
『はい。』
「お父様、お母様、不束者ですがよろしくお願いします。」
「姫愛ちゃん固いわよ〜気を使わなくてもいいのよ!って事は、日和おばあちゃんも知ってるのよね。全部。」
「うん。はなしたよ。」
「あ~じゃあ、これでようやく中条さんとも仲直りできるわね!おじいちゃんに報告しないと〜。あなた〜お仏壇いくわよ〜!」
「そうだな!今日は素晴らしい日だ!」
チ〜ン。
「おじいちゃん。央志と姫愛ちゃんがお付き合いする事になりました。嘘みたいですね。おめでとう。おじいちゃん。」
央志の両親は、手を合わせながら静かに涙を流した。
「さぁ~!お祝いしないと!お父さん!バーベキューよ!バーベキュー!」
「ははっそうだな。」
央志の両親は、バーベキューの支度を始めた。
央志と姫愛は髪の毛を掃除していた。
「あ〜央志くんの分身達が捨てられてしまう〜ジップロックに入れて保存したぁ〜い!」
「ばかかよ。本体が姫愛の物なんだからいいだろ?」
「はい。それなら捨てる事を許可します!」
「はぁ〜い。ありがとう・・・姫愛といると楽しいな。」
「ふふっ。嬉しい。ありがとう。」
2人は見つめ合う。
「こら〜そこ!いちゃいちゃするのは二人きりの時にしてもらえる?!」
(危なかった〜親の前でキスしそうになってたわ。こういう時は、スンッ。)
「こっちはもう片付くから手伝うよ。何するばいい?」
「じゃあ誤魔化すのが下手な、央志くんには鶏さん捌いてもらおうかしら。」
「えっ!?捌くの?」
「あぁ。ごめんね。うちのバーベキューはいつも牛肉じゃなくて鶏肉なんだ。でも捌きたては美味しいよ。」
「あっ。違いまぁ〜す。そこじゃないでぇ〜す。血まみれの仙人の再来だね。」
「あぁ。そうだよね。普通はスーパーとかで買うよね。」
「大丈夫!私も帝家にいつか嫁ぐ身です!観察させていただきます。」
「見なくてもいいよ。食べられなくなるよ。」
「確かに。お母さんのお手伝いしとくね!」
「うん。」
「じゃあ姫愛ちゃんご飯炊いてもらえる?」
「は〜い。」
姫愛は米を炊きながら、央志の母とはなしていた。
「姫愛ちゃん。実は、この山の開発計画を進めてる会社の社長さんに会ってきたの。」
「あっ。はい・・・」
「それでね、姫愛ちゃんがこっちに来てる事も知ってたの。」
「あっ。だから知らない子が家にいても驚かれなかったんですね。」
「まぁそう言う事。おじいちゃんと雪子ばあちゃんの事もあったし、仲良くなってくれてたらいいな。と思ってたんだけどね、まさかこんなに仲良くなってるとはさすがに驚いたわ!」
「お母さん。ごめんなさい。実は、最初に来た日、色々あってとめてもらったんです。」
「まぁ。もうそんな中に?!」
「あっ。いぇ、央志くんはオオカミにはなれなかった仙人さんなんで。」
「ハハハッ、ヘタレね、あの子」
「あっ、でもそう言う所もステキだなって思いました。」
「姫愛ちゃん。いい子ねぇ〜!・・・でもね。開発計画の事は、賛成してあげられない。分かって欲しいの。」
「その事なんですけど。私、東京の会社をやめて、おばあちゃんちに住ませてもらおうかと考えていて。あっ今初めて口にしたので、誰の承諾ももらってないんですけどね。」
「そぅ。なら全て解決ね!行くとこなければいつでもうちは大歓迎だから!」
「ありがとうございます。嬉しいです!」
「姫愛ちゃん、お米すごい洗うわね。」
「あははは。お話に集中しすぎました。炊きますね。」
「央志が夢中になるのも分かるわ〜。さっ、サラダもできたし、バーベキューの準備は順調かしら。」
バーベキューの準備も整い、お祝いパーティーが始まる。
『いただきま〜す』
「姫愛、鶏肉焼けたよ」
「ありがとう。モグモグ、えっ!美味しい!」
「そうだろ!鮮度が違うから!」
「うっ。それを言われると、あの光景がぁ。。。」
「あっ!悪い!」
「でも、すごく美味しい!」
「良かった!」
パーティーも終盤になり、落ち着いた雰囲気になったとき、央志が深刻そうに口を開く。
「あのさ、父さん、母さん。姫愛がこの村に来た理由なんだけどさ・・・」
姫愛と央志の母は顔を見合わせて笑い合う。
「央志くん。実はさっきお母さんとお話したの。」
「えっ?」
「東京で社長と会って、姫愛ちゃんの事聞いてたのよ。」
「なんだ。緊張して損した。で、どんな話になったの?」
「あとで話すね!」
「めっちゃ気になるわ!今聞きたい!」
「ダメ。2人じゃないと。ダメなの。」
「う、うん。分かったよ。」
「ありがとう。」
「さぁ!お腹もいっぱいになったし、お片付けしましょうか!」
「はぁ〜い。」
「姫愛ちゃんは今日はお客様なんだから座ってて!」
「お客様なんて。お気になさらず。お手伝いします!」
「ありがとう。じゃあ食器洗ってもらおうかしら。」
「はい!」
片付けも一段落して、央志と姫愛は景色のいいベンチに2人で座っていた。
「はぁ。美味しいかった〜。」
「喜んでもらえて良かったよ。」
「央志くん。私、会社を辞めようと思います。」
「そっか。それで母さんご機嫌だっだんだ。」
「うん。多分。今日お母さんとおばあちゃんに話そうと思うんだけど、会社を辞めたら、おばあちゃんの家に住ませてもらって、こっちで仕事探そうかなって思ってるの。」
「じゃあ遠く離れなくていいんだね!やった!」
「ふふっ。私も離れて暮らすの耐えられそうにないから。」
「ありがとう。」
「うん。私もそうしたいから・・・ねぇ央志くん。私の事、お嫁さんにしてね。」
「うん。色々落ち着いたら結婚しよう!」
「ありがとう。」
「これからもよろしく。」
「こちらこそ不束者ですが、よろしくね。」
「よし!今日は帰ってお母さんにお話するね。」
「うん・・・」
「あれ〜?央志くん寂しい気持ちになったのかな〜?」
「顔ちかっ・・・・・・。」
「・・・・・。私の、ファーストキス。」
央志は姫愛を力いっぱい抱きしめた。
「央志くん。ちょっと痛い。。。」
「ごめん!大丈夫?好きが抑えられなくなって。」
「大丈夫だよ。もう一回。」
央志は姫愛を優しく抱きしめた。
2人は離れたくない気持ちでいっぱいだった。幸せな時間があっと言う間に過ぎていった。
央志は姫愛を家まで送り、姫愛が家に入るのを見届け、車を走らせる。
「やっぱり姫愛を送ったとき視線を感じる・・・」
央志が周囲を見渡すと、向かいの家に人影がある。
「阿久津?」
央志は知り合いの阿久津だったのを確認できて安心した。
「偶然外を見てただけかな。変出者とかじゃなくて良かった。」
央志は寂し気持ちを抑え、家に向かった。
姫愛は家についてすぐに母に話をした。
母は、快く会社を辞める事を認めてくれた。
「数日前まで姫愛の将来を心配していたのに、良かったわ。おばあちゃんに姫愛の事お願いしないとね。おばあちゃ〜ん!」
「えっ?お母さん、おばあちゃんは病院でしょ?大丈夫?疲れてるの?」
「お〜姫愛!帰っとったか!」
「帰っとったかはこちらが言うセリフだよ!退院できたんだね!」
「そうなんじゃ。今日突然退院の許可がでたんじゃ。」
「おばあちゃん良かったね!」
「お母さん。実は、」
姫愛の母は姫愛から聞いた話を伝え、姫愛が祖母の家に住む相談をしてくれた。
「姫愛。大歓迎じゃ!どうせちょっとしたら帝家へ嫁にいくんじゃろうけどな。少しの間でも孫と一緒に暮らせるなんてうれしいのぅ。」
「おばあちゃん、ありがとう!よろしくお願いします。」
「いつまで居てもいいからの。」
「うん!」
姫愛は、祖母の家に住む事が決まり、会社へ一度行く事にした。
「明日まで央志くんおやすみだから、明日はなして、あさってに一度東京にもどるね。」
「わしはいつからでも大歓迎じゃよ。」
「ありがとう。」
次の日の朝、姫愛は登山コスチュームで央志の家を目指し、家をでた。
「いってきま〜す!」
「いってらっしゃい。気を付けてね。」
「はぁ〜い!」
ガチャ。
ドアを閉め歩き出すと、若い男が歩いて向かって歩いてくる。
「こんにちは。」
「こんにちは!」
「もしかして、中条さんのお孫さんですか?」
「あっ、はい。」
「僕向かいに住んでる阿久津光です。よろしくお願いします。」
「あっお向かいさんなんですね。私は、中条姫愛です。よろしくお願いします。」
「お出かけですか?」
「あっ、はい。では、失礼します。」
「お気をつけて。ではまた。」
姫愛は、早く央志に会いたくて、足早に歩きだす。
「涼しい間にがんばって山のぼらないと!」
急いで山を登り、姫愛は央志の家に到着した。
「おはようございま〜す!央志く〜ん姫愛来たよ〜。」
「おはよう!もしかして歩いて来たの?」
「うん!頑張った!」
「連絡くれたら迎えに行ったのに!」
「今日はがんばって歩きたい気分だったの。」
「ありがとう。」
「お茶取ってくるから座ってて。」
「うん。ありがとう。喉が渇きました〜。」
「あら姫愛ちゃんいらっしゃい。」
「あっお母さん、おはようございます。」
「おはよ。もしかして歩いて来たの?気を使わないで、央志に迎えにきてもらいなさいよ。こんな山の上に住んでるうちが悪いんだから。」
「今日は歩きたい気分だったんです。あっでもこれからお茶いただきます。」
「遠慮せずに沢山飲んでね。」
「ありがとうございます。」
「お茶どうぞ。」
「ありがとう!ゴクゴク。あ〜美味しい!」
「良かった。いっぱいあるから好きなだけ飲んでね。」
「うん!」
「央志くん、お母さん。今日は報告があって来ました。私、会社を辞めておばあちゃんの家に住む事になりました。」
「許してもらえたんだね!良かった〜。」
「それでね、明日から一度東京に帰って会社にいったり、引っ越しの準備をするつもり。」
「そっか。しばらく寂しくなるな。」
「うん。なるべく早くこっちに引っ越しできるようにするね。」
「うん。待ってるよ。」
「うん!」
「姫愛ちゃん良かったわね!明日からしばしのお別れなら、邪魔物はちょっと遠出してショッピングモールに買い物にでもいってくるわ!」
「えっ?そんな!お気になさらずに。」
「姫愛ちゃんがそういってくれても、お隣にお座りの方が許してくれなさそぅ〜。さっ出かけましょう!お父さ〜ん!出かけるわよ〜!」
『ふふっ』
2人は顔を見合わせて笑う。
「楽しいお母さんね。」
「父さんが静かな分、母さんがよくしゃべってるよ〜」
「志央くんのご両親が良い人で良かった!」
「そういってもらえて嬉しいよ。ありがとう。」
央志と姫愛は、央志の両親を見送った。
「いってらっしゃ〜い!」
「いってきま〜す!」
(明日からしばらく会えないからいっぱいいちゃいちゃしたいな〜。さぁ央志くん。早くお家にはいりましょ!)
「さぁ。ちょっと一緒にきて欲しい所があって、ちょうど登山コスチュームだし。」
「ぶぅ〜。」
姫愛は頬を膨らませてスネている。
「ごめん。ちょっと疲れるかもしれないけど、着いてきて!」
(そういう事ではないんです・・・)
央志は姫愛の手を握る。
(きゃっ。手、つながれた〜!これなら許そう。)
「じゃ、行こうか。」
「うん。」
央志は、家の裏山に向かって歩きだす。
姫愛は不安そうに着いていった。
2人は、山の中の獣道の様な道をひたすら進む。
「あの〜央志さん。どこまで行かれるのでしょうか?」
(手を繋いでいるとはいえ、これはもう登山ですよ〜。)
「休憩する?大丈夫?あともう少しなんだけど。」
「大丈夫だよ。」
「ごめんね。どうしても今日行きたかったから。」
「頑張ります!」
(今日?どうしても?どこに行くんだろ?)
山道を進み続けると、突然開けた場所に出た。
「わぁ〜!海が見える!いい景色〜!」
「だろ。実はここが開発計画の土地なんだ。」
「そうなんだ!確かにここはすごくいい場所だね。」
「そう思う。で、あそこにあるのが御先祖様の眠るお墓なんだ。一緒にお参りしてくれる?」
「いいの?」
「うん。」
央志と姫愛はお墓の前で手を合わせた。
お参りが終わると、央志は話し始める。
「ここまでがうちの土地なんだけどさ、開発計画で大きい建物が建つと、御先祖のお墓から海が見えなくなるし、静かに眠れなくなるって、父さんと母さんが大騒ぎしてさ、反対運動を始めたんだ。だから、今開発計画の土地を売ってもらえる様に交渉してるんだって。そのお陰で姫愛と会えたけど、会社を辞める事になっちゃたったから。ちゃんと理由を知っておいて欲しいって思って今日ここに来たかったんだ。」
「ありがとう。でもね。開発計画が無くても、きっと私は央志くんを好きになって、会社を辞めておばあちゃんの家に住みたいって思ったと思うよ。だから何も気にしないで。」
「そっか。ありがとう。絶対に姫愛の事大切にするから。」
「ふふっ。嬉しい。」
央志は、姫愛を抱きしめた。
「ダメだよ〜。御先祖様の前で〜。」
「はい。」
見晴らしのいい山の上で、ベンチに座り、2人はしばらく休んだ。
「家に戻ろうか。大丈夫?歩ける?」
「えぇ〜手をつないでくれないと歩けない!」
「はぃはぃ。行きましょうか、お姫様。」
央志は手を差し出す。
「はい。王子様。」
2人は手をつなぎ、歩きだした。
央志の家に戻ると、央志の両親がちょうど帰ってきた所だった。
「あらっどこに行ってたの?せっかく2人きりにしてあげようと思ったのに!」
もう日が暮れ始めていた。
「お墓参りに行ってたんだ。」
「まぁ!姫愛ちゃん大丈夫?大変だったでしょ!」
「大丈夫です。確かにクタクタですが。」
「がんばってくれたのね。ありがとう!」
「いぇ。お墓参りできて良かったです。開発計画、なくなるといいですね。」
「そうね。私達もできる限りがんばってみるわ。ありがとう。」
「じゃあ、姫愛を送ってくるよ。」
「そうね。明日東京に出発するんだもんね。」
「はい。こちらに引っ越ししたらよろしくお願いします。」
「もちろん!毎日でも来てくれていいわよ!」
「ありがとうございます。では、失礼します。」
「姫愛ちゃん。またね。」
央志と姫愛は車に乗り、走り出した。
姫愛の祖母の家に到着する。
「ありがとう。」
「今日は疲れさせてごめんね。明日駅まで送るから。」
「えっいいの?助かります。」
「ちょっとでも一緒にいたいから。」
「私も。」
2人は見つめ合い、キスをした。
「じゃあまた明日。」
「うん。お願いします。」
央志は姫愛が家に入るのをみとどけ、車を走らる。
「んっ?また光。見られたかな?まぁいいか。」
ピンポーン。
「おはようございます。帝です。」
「おはよう、央志くん。送ってもらってごめんなさいね。」
姫愛の母は軽く頭をさげて、小声でいう。
「邪魔物は後部座席で大人しくしてるから」
「あはは」
央志は困った表情で笑う。
「じゃあお願いします。」
姫愛も助手席に乗り込む。
「さっ、出発します。」
「お願いしま〜す。」
姫愛の母は黙っている。
ふと央志はミラーをみた。
「ハハハ!姫愛のお母さん面白いね。」
姫愛も後部座席をみる。
「ハハハ!お母さ〜んちょっと!」
姫愛の母は、ヘッドホンをして耳をふさいで、アイマスをしていた。
「しばらく会えないから、気を使ってるのかな?気を使わせて申し訳ないな。」
「お母さん天然なとこあるから・・・」
姫愛は央志の肩にもたれかかった。
「しばらく寂しくなるね。」
「うん。早くこっちに帰ってくるから浮気しないで待っててね。」
「ははっ。早く帰って来ないと分からないな〜」
「ひど〜い・・・早く帰ってくるね。」
駅までの時間はあっと言う間に過ぎた。
「お母さん。」姫愛は母の肩を叩く。
「着いた?」
「うん。お母さん気を使いすぎ。笑っちゃったよ!でも、ありがとう。」
「ほんとは2人きりにしてあげたかったんだけどね。いちゃいちゃできた?」
「ちょっとだけね。」
「じゃあ、央志くん、行くね!」
「うん。気を付けてね。」
「ありがとう。いってきます!」
央志は寂しそうに、手をふり、姫愛と姫愛の母を見送った。
「ただいま〜」
「おかえり!」
「お父さん、なんだか久しぶりだね!あのね・・・何から話したらいいか分からないなぁ」
「お母さんから大体は聞いてるよ。姫愛のしたいようにすればいいさ。お父さんは寂しいけどな。」
「ありがとうお父さん。大丈夫!ちょくちょく帰ってくるから!」
「そうか。お父さんとお母さんもちょくちょく遊びにいくよ。」
「うん!明日会社行く準備するね。」
「ちょっと休んだらいいのに。」
「準備できたらゆっくりする〜」
姫愛は足早に2階に上がっていった。
「お母さん、姫愛は大丈夫かな?」
「大丈夫よ!もう子供じゃないのよ。それにもしもの時はいつでも帰ってこられる様にしてあげましょ。」
「そうだなぁ。いつかはこの日が来るとは覚悟していたが、いざ現実になると・・・」
「もぅしっかりしてよ〜どんと構えて!」
「あぁ。どん!」
「はぁ〜どんとしてなぁ〜い。」
「まぁ追々だよ。」
「がんばって〜。」
次の日の朝、姫愛は会社にいた。
「おはようございます!」
「おっ中条じゃん!」
「あっ凛、おはよう。」
「まさかもう村の人たち説得できたのか?」
「・・・」
「だよな〜難しいよな。嫌になったから辞めるとか言うなよ〜」
「理由は違うけど・・・今日は退職願を出しにきたの。」
「えっ?マジ?なんでだよ〜!」
姫愛は、これまであった事を話した。
「そっか〜。その状況は厳しいなぁ〜」
「うん。私、その人と結婚したいとおもってるんだ。」
「そうか。俺、中条狙ってたんだけどな〜」
「何いってんの?会社一のイケメンがからかわないでよ!」
「ははっまぁ、幸せになれよ!」
(入社して初めて見たときから好きだったんだぜ。はぁ。辛い。辛い。辛い。辛すぎる〜。)
「ありがとう!じゃあ退職願出してくる!」
「はぁ〜い。いってらっしゃ〜い。」
(あぁ〜あ。1週間以上会えなくて、久しぶりに会えたら結婚しますって悲しすぎだろ〜。仕方ない。俺は今日から仕事の鬼になる!)
「ちくしょ〜!」
となりの席の社員が驚いている。
「えっ?」
凛は返答に困る。
「えっ?」
「いやっ、えっ?」
「悪い悪い!なんでもない。」
「そう。」
姫愛は、仕事を引き継いで村へ交渉に行っていたこともあり、退職願を出したら有給を消化してそのまま1ヶ月後に退職する事になった。
「おっ中条、退職はできそうか?ひきとめられたか?」
「村の説得もあるからひきとめられるかと恐れておりましたが、1ヶ月後に退職します。凛さんお世話になりました。」
「何?改まった感じ?」
「凛には色々助けてもらったから、ちゃんとお礼をね。」
「ははっこちらこそお世話になりました。ありがとう。」
「あれっ?凛?泣いてる?」
「泣いてね〜よ!花粉症だよ!」
「凛花粉症じゃないよね?あっ!凛に会議室にきてって伝える様にいわれたよ。」
「えっ俺何かした?」
「緊張してしばらく放心状態になってたら、課長、部長、社長みんな会議室入っていったよ。私がいない間に何かやらかした?」
「やらかしてないよ!・・・のはずだけど。。。」
「がんばって!」
「あっ、あぁ。」
(このがんばって!に支えてもらってたな〜最後のがんばって!ありがたく頂きます。)
トントントン。
失礼します。
「お〜源くん!」
「なぜ、呼ばれたか分かるかね?」
「申し訳ありません。身に覚えがなく。私は何かやらかしたでしょうか?」
「がぁっはははっ!心配させてすまんね!違う違う。」
「では?」
「中条くんが退社して村に住むという話は聞いたかね?」
「はい。先程。」
「あ〜やはり仲がいい様だね!中条くんと仲の良い君に開発計画のプロジェクトリーダーを引き継いでもらいたくてね!」
(身内とか関係者なら説得できるとおもってるの勘弁して欲しいぜ。はぁ。でももう決まってんだろな。ここはとりあえず受けとくか。)
「ありがとうございます。」
「そうか!やってくれるか!頼んだよ源くん!」
「はい。では、失礼します。」
(あぁ〜あ。中条は嫁に行くし、挙句の果てに敵になるとか最悪だよ。)
「凛く〜ん。浮かない顔してますけど、大丈夫だった?」
「大丈夫・・・じゃないかも。」
「えっ?凛が弱音はいたの初めて見た。何があったの?」
「つぎの・・・」
(いえね〜。てかいいたくね〜。)
「もしかして、理由って私と唯一仲良く見えるからとか?」
「はぁ。お前たまにすごいよな。俺の心よんだ?」
「実は・・・私、人の心が読めます!・・・はぁ。ひどいね。ごめんね。今回はがんばってって言えないけど。」
「あぁ。分かってるよ。」
「凛とは笑顔でお別れしたかったな。」「そうだな。断る訳にもいかないから、とりあえず色々動くけど、俺の事は気にするなよ。」
「そうだね。私も気にしないし、凛も気にしないで、お仕事まっとうしてね。」
「あぁ。」
「じゃあ、私帰るね。今までありがとう!お世話になりました。」
「あぁ。こちらこそお世話になりました。元気でな!」
姫愛は会社を出て、ウキウキした気持ちで家に帰る。
「あぁ〜央志くん!早く会いたい!さぁ!帰って引っ越しの準備だ!」
姫愛は、親離れて暮らす事になる事もあり、会社の正式な退社日までは東京で暮らした。
引っ越しの準備や、つぎの就職先のリサーチなど、忙しくしているうちにあっと言う間に1ヶ月が過ぎた。
「よし!姫愛!出発するぞ〜!」
「はぁ〜い!」
姫愛一家は車に乗り、出発した。
「お父さん、お休みなのに送ってもらってごめんね。」
「娘の門出なんだから当たり前だろ〜それに央志くんともあっておかないとね。」
「まだお付き合いしてるだけだよ〜」
「引っ越しまでするんだ!軽い気持ちでいられたら困る!プレッシャーかけとかないとな!」
「もぉ〜お父さん、央志くんにあんまり変な事いわないでよ。」
「ははっ、分かってる分かってる!」
姫愛達が祖母の家に着くと、引っ越し業者が到着していて、荷物を運びだしていた。
「あ〜それはこっちじゃ!」
「はっはい!」
「おばあちゃんありがとう。なんだか現場監督みたい!」
「任せておけ!姫愛の部屋はここじゃ。」
「ありがとう!」
バタバタと引っ越し業者は作業を終えた。
「ありがとうございます。」
「いぇ、無事引っ越し完了ですね。では、失礼します。」
「お気をつけて。」
ブォーン!トラックが出発すると、向かいの家から人が歩いてくる。
「こんにちは。」
「あっ、こんにちは。阿久津さんでしたか?」
姫愛は前に挨拶した事を思い出した。
「はい。引っ越してきたんですか?」
「はい。私だけこちらに住む事になりまして。お向かいさんですよね?よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。では、また。」
姫愛は阿久津が立ち去るときに異様な笑みを浮かべてるのが気になった。
「気のせいか。変な人じゃなさそうだし、大丈夫。大丈夫。」
「姫愛!央志くんに会いにいくぞ!」
「えっ?今着いたばかりなのに?」
「明日は早めに帰るから、今日行く!」
「もぅお父さん慌ただしいわねぇ」
母と祖母は呆れている。
「じゃあお母さん、着いたばかりで申し訳ないけどいってくるわね。」
「あぁ、いっといで。」
「いってきます!」
姫愛達は車を走らせ央志の家に到着した。
「お〜見晴らしがいいな!昔来た時は夜だったからなぁ」
「あっお父さん、央志くん出てきてくれたよ。」
「こんにちは。姫愛の父です。」
「こっこんにちは。帝 央志です。姫愛さんとお付き合いさせてもらっています。よろしくお願いします!」
「こちらこそ姫愛をよろしくお願いします。央志くん。姫愛をもらってくれるのかな?」
「ちょっとお父さん!変な事言わないでって言ったのに!」
怒る姫愛をなだめるように、央志が言う。
「姫愛さんと結婚したいです。姫愛さんさえ良ければ。」
央志は姫愛を見つめる。
「はい。よろしくお願いします。」
「ははははっ!親の前でプロポーズって・・・なんだか申し訳ないね。央志くんが真剣に姫愛の事を考えてくれてるか心配だったんだ。」
「あっ、いぇ。この状況は不本意ではありますが・・・婚約できて嬉しいです。」
「ははははっ!姫愛をよろしく頼むよ。」
「はい!」
「央志くん。私からも姫愛をよろしくね。」
「はい!大切にします!」
「今日はご両親は?」
「また東京に行ってて」
「そう。じゃあお父さん、帰るわよ!」
「えっ?もう?」
「そう。さっ早く。」
母は父を車に乗せ、姫愛と央志に小声で話す。
「じゃあ、今日は姫愛をとめてあげてね。明日、昼前には出発するから、良かったら見送りきてね。」
「えっ、お母さ〜ん」
姫愛の母は足早に車に飛び乗り、帰って行った。
「やっぱりお母さん、面白いね。」
「うん。楽しいお母さんなの。」
「家に入ろっか。」
「うん。」
2人は家に入り、くっついて座る。
「やっと会えた。」
「うん。1ヶ月待つのは辛かったよ。」
「ごめんね。お待たせしました。姫愛は央志くんのものになりました。」
「ははっ!幸せだよ。」
「私も。」
2人で過ごす時間はあっと言う間にすぎ、夜になった。
「そろそろご飯食べようか。」
「うん。お腹空いた。私何か作るね。」
「やった!」
2人は一緒にごはんを作った。
『頂きま〜す!』
「あっ央志くん。何かお酒ってありますか?ちょっとのまないと・・・初夜なので。」
「そうだね・・・何がいい?大体あるけど?ビール、ワイン、酎ハイなんでも。」
「じゃあ、ワインもらっていい?」
「うん。とってくるね。」
「ありがとう。」
『かんぱ〜い』
2人はソワソワしながら食事を始めたが、ほろ酔いになり始めてからは、楽しく食事をした。
後片付けを終えて、姫愛は風呂に入った。
「あぁ〜」
(緊張するな〜お酒のんだけど、お風呂入ったら酔が冷めるじゃん!お風呂上がってからお酒もらえば良かった。あぁ〜緊張する。)
姫愛は風呂を上がり、リビングでくつろいでいた。
「姫愛、お待たせ。」
「はい!」
(姫愛大丈夫かな?緊張が伝わってくる。何かの使命感?こんな感じじゃない感じがいいな。俺も酔さめたから、もう少し飲もう!そうしよう!)
「姫愛、もうちょっとのまない?」
「えっ?うん。」
2人はソファーにすわり、またほろ酔いになった。
自然に距離が縮まり、幸せな時間が過ぎていった。
「姫愛、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。幸せ。」
「うん。幸せだ。姫愛の事絶対大切にするから。」
「ありがとう。」
(今度は俺もちゃんと寝れそうだな。)
2人は寄り添い合い、眠った。
チュンチュン。
姫愛は鳥の鳴き声で目覚めた。
「央志くんがいる〜。幸せ〜。」
姫愛の声に央志も目を覚ます。
「おはよ。」
「おはよ。」
2人はしばらく見つめ合い、キスをした。
ふと央志が時計に目をやる。
「あー!ヤバイ!」
時間はもう10時だった。
「姫愛!起きて!準備しないと、お父さんとお母さん帰っちゃうよ!」
「大変!もうこんな時間?急ぐ!」
2人は急いで姫愛の祖母の家に向かった。
「お母さ〜ん!」
姫愛達が到着すると、姫愛の両親は、丁度帰る所だった。
「姫愛!おっそ〜い!見送りきてくれないのかとおもったわ。」
「ごめん。寝坊しちゃった。」
「あら、じゃ昨日はついに。」
「もぅお母さん!」
母は車に乗り込む。
運転席から父が話かけた。
「姫愛、幸せになるんだぞ!央志くん姫愛を頼んだよ。」
『はい!』
「お父さん、お母さん、今日まで育ててくれてありがとう。私、幸せになります!」
「うん。じゃあまた。お母さんはちょいちょい来れるから、また来るわね!」
「うん。気を付けてね。」
「はぁ〜い。お父さん、安全運転でお願いしま〜す。」
2人はニコニコしながら帰っていった。
「姫愛、今日リモート会議があるから家に戻らないと。どうする?」
「お仕事の邪魔したらいけないから、今日はこのまま帰るね。ありがとう。」
「うん。分かった。じゃあ、また連絡するね!」
「うん。私もする!」
央志は足早に車に乗り込み、帰っていった。
「姫愛、お茶でも飲もうか。」
「うん!」
祖母と2人、楽しい生活が始まる・・・はずだった。
次の日、姫愛は朝から新しい仕事の面接で出掛けていた。
ピンポーン。
「はぁ〜い。はいはいはい。」
ガチャ。
「誰じゃ?」
「ばぁさん。ちょっとじゃまするよ。」
「なっなんじゃ!勝手に入るな!靴をぬげバカモノ〜!」
「あれ〜中条姫愛さんはいないのかい?」
「なんなんじゃ!出ていけ!警察を呼ぶぞ!」
ガチャ。
「どうぞどうぞ」
また誰か4、5人が入ってきた。
1人見覚えのある顔があった。
「光。お前は何がしたいんじゃ!」
「まぁまぁ中条のばあちゃん。落ち着いてよ。警察は読んでも来ないよ。都会と違ってここじゃ俺に逆らえない。」
「なんなんじゃ!」
「姫愛ちゃんを迎えにきたんだよ!」
「どういう事じゃ!」
「正義さんが姫愛ちゃんの事好きみたいでさ〜。姫愛ちゃんは正義さんと結婚してもらうよ。」
「バカをいうな!姫愛は央志と婚約したわい。こんなやり方、正義は知っとるんか!」
「正義さんは何も知らないでいいんだよ。」
「おぃ!姫愛さんがおかえりになった時に分かりやすい方がいいだろ!ちょっと家破壊しとけや!」
「はいよ〜」
(ちょっと金があるだけの奴に顎で使われるなんて、勘弁して欲しいぜ。組長もなんでこんな奴に協力するんだか。)
ガシャーン!バリバリ!
「おぃ!やめろ〜やめてくれ〜」
「あぁ〜なんちゅう山奥なんだよ。全く。バス停から距離ありすぎだろ〜」
凛は、村を説得する任務をまっとうするべく、村に向かっていた。
「あ~中条の家、確かこの辺りだったと思うんだけどな〜。あっここだな。」
凛が到着すると、姫愛の家の門やガラスが破壊され、まるで廃虚の様になっていた。
「こ・・こ・・だよな?」
凛が中を覗くと、何やら男が叫んでいる。
「あの〜こんにちは〜」
「誰じゃ?今取り込み中でな。帰ってもらえるか?」
家の奥から姫愛の祖母が叫ぶ。
「誰か知らんが助けてくれ〜!」
「黙れ!とりあえず帰れ。」
「この状況で帰るとはならないだろ?」
凛は男の静止を振り切り、姫愛の祖母のそばへ駆け寄った。
「おばあちゃんは、中条、あっ姫愛のおばあちゃん?」
「そうじゃ!こいつら突然入ってきて姫愛を連れて行こうとするんじゃ!」
「どういうこと?誘拐?」
「そうじゃ!あいつらは誘拐犯みたいなもんじゃ!」
「どういう事だよ?お前らヤクザか?」
「うるせぇ!部外者は黙ってろ!」
「部外者じゃねえよ!俺は中条の友人だ!」
凛が揉めていると、姫愛が帰って来てしまった。
「だだいま。おばあちゃん!何があったの?えっ誰?えっ?凛?阿久津さん?何がどうなってるの??」
「ようやくお帰りですか。中条姫愛さん一緒にきてもらえますか?」
「どこに?これは阿久津さんがやったんですか?」
「まぁそうですね。あなたが一緒にこないなら、もっとやりますよ。」
ガシャーン!
「やめろ!」
凛は姫愛と祖母をかばう様に前にでる。
「凛危ないよ!てかなんでいるの?」
「偶然、開発計画の件で来たんだよ!そしたらこんな事になってて。」
「じゃまするんじゃねーよ」
「ぐはっ」ガシャーン!
阿久津と来ていた大男が凛を殴り飛ばす。
「どけ!阿久津さんが話してんだろうが!」
「中条姫愛さん、あなたには正義さんと結婚して頂きます。」
「はい?どういう事ですか?正義さんはこの事知ってるんですか?」
「正義さんは何も知らなくていい。さぁ一緒にきてもらいますよ。」
「私は、帝さんと結婚するんです!もう婚約もしてます。」
「だから?正義さんがあなたをお気に入りなんですよ。光栄でしょ。嬉しいでしょ!」
「どうしてあなたがそこまでするんですか?関係ないじゃないですか!」
「関係?ない?うるせぇんだよ!黙って従え!正義さんのために!中条は佐竹家に従え!」
「意味が分からない!」
「そうか。教えてやるよ!お前のばあちゃんの姉ちゃんと帝のじいさんを引き裂いたのは俺のじいちゃんだよ!」
「ちょっと待て!どういう事じゃ?」
「阿久津は代々、この村一帯を仕切るヤクザとつながっててな、あんたの姉ちゃんを佐竹さんのじいちゃんが好きだったんだとよ。だから裏で手を回したんだよ。中条の会社の社員に金を持ち逃げさせる様にな!もちろん佐竹家は何も知らないし、あんたの姉ちゃんも知らない。分かるよなこの意味!佐竹家のためなら阿久津はどんな事もする!さぁ、中条姫愛。一緒に来てもらうぞ。」
倒れ込んでいた凛が立ち上がり、再び姫愛をかばう。
「ふざけるなよ!中条は渡さない!」
「やれっ」
凛は数人のヤクザに囲まれ、一方的にボコボコにされている。
「中条姫愛さん。ご友人死んじゃいますよ?そうそう、東京のご両親にもご挨拶にいかないと。」
「・・・分かりました・・・だからもうやめて!!!」
「ようやく分かっていただけましたか。あなたにとっても、とてもいい話だ。正義さんの奥さまになれるんですから!」
「・・・凛を離して下さい。早く行きましょう。」
「では、一旦こちらの方々の事務所に行きましょう。正義さんとの時間をセッティングしますので。」
「ま・・・て・・・。」
凛は意識がもうろうとしながらも必死にしがみつく。
(ちくしょう。選択を間違えた。こんなやつら俺1人でも。何がカタギだよ。好きな女一人守れないのかよ。)
「さぁ中条姫愛さん、行きましょうか。」
「凛、ありがとう。もういいから。死んじゃうよ一・・・緒に行くからもう凛には手を出さないで!」
「分かりましたよ。お前ら!行くぞ!」
「はい!」
姫愛は阿久津に連れて行かれてしまった。
「ちくしょー!もう腕も上がらねぇ。」
「どうしたらいいんじゃ!姫愛が姫愛が!」
「おばあちゃん、落ち着いて。腕が上がらないからさ、俺の携帯ポケットから取って、電話帳のオヤジに電話して欲しい。で、スピーカーにしてもらえる?」
「わっ分かった、すぐやる!」
「あと、姫愛の婚約者にも連絡してあげて。」
凛が父親とはなしているあいだ、姫愛の祖母は央志に連絡した。
「わしはどうしたらいいんじゃ!何もできない。姉さんのときと同じじゃないか!わぁ〜」
「おばあちゃん、大丈夫。全部解決するから安心して。それより救急車よんでもらえる?」
凛は気を失った。
「おぃ大丈夫か?救急車じゃ!救急車!」
央志は必死に姫愛の元へ向かっていた。
「姫愛!姫愛!姫愛!こんなめちゃくちゃな事あるか?じいちゃんの時も同じだったなんて!阿久津。許さないぞ。」
央志は事務所の階段を駆け上り、ドアを開けた。
「姫愛!姫愛はどこだ?」
「誰だ?中条姫愛はここにはもういないぞ。婚約者か?多めに見てやるから今すぐ帰れ。」
央志が着いた頃には、姫愛は正義の元に送られていた。
「正義さん!中条さんお連れしました!」
「光、いつの間に姫愛ちゃんと仲良くなってたんだよ〜!」
「家がお向かいさんで。」
阿久津は正義の耳元に顔を近づけ、小声で話す。
「正義さん。中条さん、正義さんの事好きっていってましたよ!」
「マジ?!光、ありがとう。」
「俺はもう行くんで、あとは2人で楽しいお時間を!」
「なんかごめんな。ありがとう光。」
「いぇいぇ。では失礼します。」
「姫愛ちゃん。久しぶりだね。」
「はい。」
「光が突然ごめんね。迷惑じゃなかった?」
「いぇ。全然、迷惑だなんて。あはははは。」
(まるでおばあちゃんのお姉さんみたい。こんなに悲しかったんだ。悲しい。悲しいよ。でも央志さんと過ごした思い出があればそれだけで生きていける。みんなを私が守るの。どんなに辛くても。悲しくても。必死に耐える。私ならできる!
「じゃあ食べようか!ここの料理美味しいんだ〜」
「いただきます・・・美味しい。」
「だろー!あぁ姫愛ちゃんと食事なんて夢みたいだよ!光、すごいいい奴なんだ〜!」
「そうなんですね。」
姫愛は平然を装っていた。
(だめだ。食べても味がしない。おばあちゃんのお姉さんもずっとこんなんだったのかな?もしかして、今でも?ダメだ。私にはきっと耐えられないよ。神様がいるなら助けてよ。。。)
「姫愛ちゃん、元気ない?大丈夫?」
姫愛は大粒の涙を流し、
「正義さんと会えたのが嬉しくて。」
「えっそんなに?・・・嬉しいよ。俺も姫愛ちゃんに久しぶりに会えて嬉しいよ!」
「・・・ふふっ、ありがとう。」
「さぁ!食べよう!」
「うん。」
姫愛は淡々と返事するだけだったが、正義は何も気づいていなかった。
一方、央志は姫愛の居場所を聞き出そうと必死だった。
「姫愛はどこだ!教えてくれ!」
「今なら見逃してやるから、早く帰れ!」
「帰れるわけないだろ!姫愛はどこだ!」
「はぁ。。。やれ!」
央志は数人に囲まれたが、全員を叩きのめした。
「そこまでだ!」
央志が組長らしき男に目をやると、こちらに拳銃を向けていた。
「おぃ!お前らいつまで寝とるんじゃ!とっとと、やっちまえ!」
拳銃を向けられ、動けない央志に容赦なく殴りかかる。
「ちくしょー。ちくしょー。」
央志は命を捨ててでも全員と刺し違える覚悟をし、数人を払い除け立ち上がる。
その時、ガシャーン!
入口のドアがぶっ飛んだ!
「誰じゃ?貴様は?」
突然乗り込んできた大男は、まっすぐ組長らしき男に向かって行く。
「死にたいんか!」
男は瞬時に拳銃を奪い取り、頭をわしづかみにして、机に叩きつけた。
「われ、カタギにチャカむけて何しとんじゃ!」
一瞬の出来事に場が凍りつく。
「わしのせがれが世話になったみたいでのぉ。礼にきたんじゃ!」
ガシャーン!
大男はもう一度、机に頭を机に叩きつける。
「こんなチンピラ凛なら1人で十分だったろうに。悔しかったろうな。」
少し前。
ブーブー。ブーブー。
「おっ!お前ら!凛じゃ!凛から電話じゃ!」
「はい!良かったですね、組長!早くでて差し上げて下さい。」
「おっおぅ。久しぶりじゃの、凛。親子の縁を切ったんじゃなかったか?」
「オヤジ。頼む。助けてくれ。」
「なんじゃ?お前が助けてなんて言ったことないじゃろ!カタギになって腑抜けになったか?」
「あぁ。何がカタギだ。好きな女一人守れない。ちくしょー。」
凛は遠のく意識のなか、父に今日あった事を伝えた。
「オヤジ。頼む。あいつは俺の物にはならない・・けど、それでも!好きな女には幸せになって欲しいんだ。」
「凛。お前。立派にカタギになったな。あとはわしがかたをつけてやる。安心して入院してこい!」
「ありがとう。ありがとうオヤジ。ありがとう。」
凛の父は電話も切るのを忘れ、叫ぶ。
「お前ら!チンピラの組事務所たたみにいくぞ!」
「へぃ!」
電話の向こうで聞こえる父の声に、凛は安堵した。
「オヤジ、相変わらず熱い男だな。」
「わしは、関東仕切る源組の15代目組長、源 頼勝じゃ!チンピラども覚悟せえよ!」
凛の父が叫ぶ。
「おぃ!お前がさらわれた女の婚約者か?なにを固まっとるんじゃ!そこのチンピラどもを片付けんか!男を見せろ!男を!」
「誰か知りませんが、恩にきます!」
央志は廻りを取り囲む組員たちをなぎ倒していく。
「おぉ〜やりよるわ!さすがはわしの倅に勝った男じゃ!」
組員が床に倒れ込んだ頃、源組の組員たちが続々となだれ込んでくる。
「組長〜!一人で乗り込むなんて勘弁して下さい!」
「おぉ遅かったのう。これはわしの問題じゃ!わしが片付けて当然じゃろ!」
「親の問題は子の問題でしょ!水臭いですよ組長!」
「がっははは!」
凛の父は豪快に笑う。
央志は、机に押し付けられた男に問いただす。
「おぃ。もう一度だけ聞く。」
男の落とした拳銃を広い、男のこめかみにあてた。
「姫愛はどこだ?」
「分かった!分かった!言う。」
「カタギがこんなもんさわるもんじゃねぇ。」大男はそっと拳銃を央志から受け取る。
姫愛の居場所を聞いた央志は一目散に駆け出した。
「姫愛。姫愛を助ける!」
「組長、今のは?あ〜凛の同志じゃ。いい男やったの〜。お前ら!このチンピラ連れて行くぞ!」
その昔、源頼朝が帝家をつくり、その後、帝家を守る存在として源家を分家させたとか。代々、帝家を守る家系として影ながら続いた源家。時代と共にその役割は忘れ去られたが、なんの因果か、かの平和な時代に帝家を守りに参上した。
大きい男の意思は時代を超えても続いて行くのかもしれない。
「ごちそうさま。」
「美味しかったね。姫愛ちゃん、上のホテルに部屋取ってあるから、行こうか。」
「はい。」
(央志くん。ごめんなさい。さようなら。少しの間だったけど、本当に、本当に・・・本当に。楽しかったよ。幸せだったよ。)
姫愛は、正義とホテルの部屋に入り、ベッドに座る。
正義は、ぎこちなく姫愛を抱きしめた。
「グスングスン。」
「姫愛ちゃん?泣いてるの?」
「うぅん。泣いてなぁーぎぃ!!」
姫愛は泣き叫んだ。
「やっぱり無理です!央志くん助けて〜!離れ離れになるなんて嫌だよ〜!」
正義は驚いた表情で、ようやく何かおかしい事に気付く。
央志は、ホテルのフロントに着いていた。
「あの、佐竹正義さんが泊まってるはずなんですけど。」
「連絡致しますので少々お待ち下さい。」
受付が電話をかけるのを見て、部屋番号が分かった。
「502ですね!」
「あっ、ちょっとお客様ー!」
「姫愛!今いくぞ!」
プルプル、プルプル。
正義があたふたしていると、電話が鳴っている。
その時、ドアを叩く音がする。
ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン!
「姫愛ー!姫愛ー!」
姫愛はなりふり構わずドアに走りより、開けた。
「姫愛ー!遅くなってごめんな。」
「央志くん。央志くん。」
2人は強く抱きしめ合った。
正義は、そっと歩み寄り、
「もしかして、光がなにかしたのか?」
「はぁ。お前何も知らないのかよ。ぶんなぐってやるつもりだったのに。」
「姫愛ちゃんなんだか様子が変だと思ってたんだけど・・・俺、うれしくてさぁ。気づけなかった。本当にごめん。」
正義は深く頭を下げた。
それから数日がたった。
姫愛は央志の家にいた。
「央志くん。もうすぐみんな来るね。」
「うん。姫愛は嫌なら奥にいても大丈夫だよ。」
「ありがとう。でもちゃんとお話聞きたいから。」
「分かった。」
ピンポーン。
「あっ来たね。」
大人数が居間に通される。
訪ねて来たのは、凛と凛の父、正義、光だった。
央志の両親もその場にいる。
居間に通されるとすぐ、
正義と光は頭を下げた。
『申し訳ありませんでした。』
凛の父は満足げな顔をしている。
それから、凛の父は話始めた。
「何から話そうかのぉ。おぃ凛!お前から話せ。」
「何でだよ〜痛っ。」
凛はアバラ骨にヒビが入っていたようだ。
「凛、大丈夫?」
「がははははっ!姫愛ちゃん。こいつはそんなに軟じゃねぇから心配すんな!」
凛の父は、凛の背中を大きな手で叩く。
「あぁ〜マジでオヤジいつかやってやるからなぁ。」
「がははははっ!いつでも相手しちゃるわい!」
「で、姫愛、というよりは帝さん。今日俺たちが来たのは、この2人からお詫びがしたいと頼まれたのと・・・阿久津光。お前から話せ。」
「はいっ。今回の事、本当に申し訳ありませんでした。お詫びになるかは分かりませんが、この山の開発計画の土地を俺が買って、帝さんに寄付したいとおもっています。源さんが交渉して下さり、敷地の購入の約束をする事ができました。どうでしょうか?」
「まぁそれはすごいわね。私たちが何度交渉してもダメだったのに。」
央志の両親は、顔を見合わせ驚いている。
「でも、姫愛ちゃんの気持ちが一番大事よ。どう思う?」
「わっ私は・・・御先祖様の景色を私も守りたいって思ってました。阿久津さん。あなたを許す事はできません。でも、感謝します。」
「良かった。話を聞いて下さりありがとうございます。」
光は頭を下げる。
凛が補足する様に話す。
「こいつは、実はすごいやつみたいで、家に引きこもりなが、パソコン一つで大社長様になったんだってさ。開発計画の土地も相場の10倍の値段だったから承諾させられたんだ。」
「すごいわね。光くんだだの引きこもりじゃなかったのね。ありがとう。」
央志の両親は感謝を伝える。
「それでじゃ!」
凛の父は話始めた。
「これだけでは償いが足りんと思っての、この阿久津は、遠洋漁業の漁船にのせる事にした。数年は帰ってこれんわ!がははははっ!それで許される訳じゃないじゃろうが、大事なヤツを思っての間違いじゃ、帰って来たら、村の仲間として認めてやってくれんか?」
凛の父は、姫愛を見る。
「私がまだ村の住民って認めてもらってる訳じゃないですけど、帰って来た時に、私も村の住民になれてたら、そうします。」
「がははははっ!さすがは倅がほれっ」
凛は父の大きな口に拳をぶち込んだ。
「えっー!凛!お父さん大丈夫!?」
凛はティッシュで手をふきながら言う。
「オヤジはこんなのなんともないよ。」
「あっあの。」
正義が突然声をあげる。
「源さん。お願いがあります。」
「なんじゃ!えぇ感じに話がまとまりそうじゃったのに。」
「俺も!俺も船に乗せて下さい。光は本当にいい奴で、俺の親友なんです。間違いだったけど俺のためにがんばってくれた事本当に嬉しくて。俺、光と船に乗りたいです!」
「がははははっ!そういうのは嫌いじゃないわい。明日出発じゃ!準備しとけ!」
「ありがとうございます!」
「正義さ〜ん。俺、嬉しいです。船で正義さんとずっと一緒なんて、俺、漁船全力でがんばります!」
「がははははっ!話はまとまったの!じゃあそろそろ帰るか!」
『源さん、本当にありがとうございます!』
姫愛と央志は頭を下げる。
「凛も本当にありがとう、体痛そう。安静にね!」
「あぁ!元気でな!」
凛たちは帰っていった。
「そういえば、姫愛を誘拐したヤクザはどうなったのかな?」
「源さんに連れて行かれたんだよね?源さん・・・味方で良かったね。」
「本当にな・・・」
噂で組は無くなったみたいだ。
組長含む組員のその後は、誰も知らない。。。
それから数年の月日が流れ、
「あっ!央志く〜ん!凛太郎が立ちそうだよ!」
央志と姫愛は結婚して、男の子が生まれていた。
名前は凛太郎。
「おっ!頑張れ!凛くんの様に立派な男になるんだぞ!」
「央志くんはほんとに凛の事好きよね〜。」
その後、凛は結婚して、子供も生まれていた。
今では、家族ぐるみで仲良くしている。
央志は、息子が祖父と同じ名前になるが、凛の字をどうしてももらいたかったそうだ。
正義と光も村に帰ってきており、今ではみんな仲良く、村を盛り立てている。
もののけ山と名付けられ、人を遠ざけた山には、今は沢山の人々が訪れ、村の中心となっていく。
これからも姫愛と央志の幸せな物語は続いていく。