安楽椅子ニート 番外編25
滝田「あの、ちょっといいですか?安河内さん。」
安河内「なんだよ?」
滝田「あの人、誰なんですか?」
安河内「ああ、なんでも、捜査に協力してくれる人らしい。」
滝田「なんですか、それ?」
安河内「俺も詳しくは知れないんだけど、上からのお達しだ。捜査に協力してくれるんだと。」
滝田「民間人ですか?」
安河内「どっから、どう・・・・見ても、警察官には見えねぇだろぉ?」
滝田「まぁ、そうですけど。」
安河内「署長の話だと、こういう異常事件のプロなんだと。」
滝田「いや、そう言いますけど、警察にだって、科捜研とかいう専門組織がある訳じゃないですか。いいんですか、民間人いれちゃって。」
安河内「俺に言うなよ?上の命令なんだから。」
滝田「俺、知りませんよ? 他の人から、やんや言われても。」
安河内「もう言ってんじゃん!お前がぁ! ああああああ。こんな事なら管理職なんかなるんじゃなかった。俺もう嫌なんだよ、上からも下からも言われるの。」
滝田「・・・・まぁまぁ。安河内さん。俺、安河内さんだからついて行ってるんじゃないですか。」
安河内「まぁ、いいよ。来いよ、紹介するから。」
滝田「あ、はい。」
安河内「あの、すみません。瀬能先生。」
瀬能「あ、はい?」
安河内「ご紹介が遅れてしまったんですけど、うちの部下、紹介しておきますね。こいつ、滝田です。」
滝田「滝田です。よろしく、お願いします。」
瀬能「ああ、どうも。瀬能です。よろしくお願いします。」
安河内「先生は、・・・・警察庁のご推薦で、捜査に協力して下さっている。」
滝田「え?警察庁の?・・・・・え?どういう? 署長じゃないんですか?」
安河内「いや、もっと、上なんだよ。」
滝田「え?えええ?」
瀬能「いや、すみません。私もちょっと断りづらい人から、お話をちょうだいしちゃったもんだから。一応、話だけでもと思いまして、伺っただけなんです。」
安河内「まぁそう言わずに。先生はな、アメリカ自然史博物館とマサチューセッツ工科大学の研究員をなさっておられるんだ。俺達とは本気で頭のつくりが違うんだよ?」
滝田「うわっ!本気の天才じゃないですか!」
安河内「だろう? だから、本庁だって、捜査依頼するだろ?」
瀬能「待って下さい!違うんです、誤解です。」
安河内「何がですか?」
瀬能「AMNHの学芸員と、MITの教授とメルトモなだけなんです。」
滝田「は? 関係ないじゃないですかっ! 大丈夫なんですか!安河内さん」
安河内「え?そうなんですか。まぁ、でも、本庁からご推薦頂いているのは本当だから、このまま、捜査のご協力、お願いします。でも、それにしても、学芸員さんとメルトモなんて、凄いですね。俺、尊敬しちゃいますよ。」
滝田「安河内さん、本気で言ってます?」
安河内「思ってるよ、当然だろ! ま、気楽にいきましょう、先生ぇ。」
瀬能「そうですね。あははははははははははははははは」
滝田「呑気な事、言っていられませんよ? この謎の焼死体。もう、訳が分からないんですから!」
安河内「わざわざうちの所轄内で起きなくてもいいのになぁ。」
滝田「みぃ~んな、そう思ってますよ。」
安河内「この焼死体、通行人の前で、突然、燃えたんだそうです。」
瀬能「燃えた?」
安河内「ええ。文字通り。この人通りの多い道で、突然、人間が燃えたんだそうです。そりゃもう、何人も目撃者がいるんです。疑いようのない事実です。」
滝田「今、警察としては、事件と事故、両方で捜索しています。便宜上ですけどね。」
瀬能「事件と、事故? 殺された可能性もあると考えているんですか?」
滝田「当然です。いきなり人が燃えるんですよ?殺された可能性だって否定できませんし、同様に、自殺の線も考えています。」
瀬能「自殺ですか?」
安河内「何か、気になります?先生」
瀬能「いや、だって。普通に、道を、ただ歩いていただけなんですよね? これから自殺する人が、あまりにも自然すぎやしませんか?」
安河内「まあ、確かに。目撃者もあまりにも突然すぎて、言葉を失ったと証言している人もいますね。」
瀬能「もし、自殺するなら、やはり挙動が不審になったりするもんだと思います。私だったら、人目がつかない所だったり、あまり他人に迷惑をかけないように実行しますね。あと、これ、重要な事だと思うんですけど、自殺なら、なるべく痛くないようにすると思いません?苦しんで死ぬなんて真っ平ですよ?」
安河内「流石、先生!おっしゃる通りですよ!」
滝田「まぁ瀬能先生のおっしゃる通りだとは思います。睡眠薬とか、そういう方法を選びますね。よっぽども追い詰められて、ビルから飛び降りたり、電車や車に飛び出す人もいるけど、そういう方は、判断能力が低下してしまっての行為ですからね。」
瀬能「三島みたいに何か訴えたい事があったりするのも別ですけど。」
安河内「そうなると、やはり自殺の線は消える?って事でしょうか。」
瀬能「自殺の線は、状況的にも、薄いと思いますよ。」
安河内「ほら見ろ! 流石、瀬能先生だ。やっぱり本庁からの要請で来ていらっしゃる方は違うなぁ。」
滝田「・・・・・。まあ自殺の線が消えたとして、まだ、問題は残っていますよ? 急に人が燃えるなんてこと、あり得ます?俺は見た事もないですよ?」
安河内「滝田、これは、『人体発火現象』という奴だ。」
滝田「なんですか?それは。」
瀬能「人体自然発火現象とも言うのですが、文字通り、突然、人間が前触れもなく、燃える、燃えてしまう現象をいいます。過去、世界中で何例か報告があるんですよ。中には眉唾ものも含まれていますけどね。」
安河内「超常現象だ。」
滝田「安河内さん。嬉しそうに言わないで下さいよ? 超常現象でも何でも事件は事件。我々は捜査しなくちゃいけないんですから。」
瀬能「一般論として、人間が突然、燃えるなんて事はあり得ません。」
安河内「そうすると、これは、殺人事件という事になるんですか?」
瀬能「過去の事例だと、殺された事件ばかりでしたね。要するに、方法は別にして、犯行を誤魔化す為に、突然人間が燃えた様に見せた、という事です。」
安河内「そりゃ、そうなりますよね。」
瀬能「『人体発火現象』の多くは、日本で言う昭和。戦後を境に報告例が少なくなっていきます。何が言いたいかと言えば、現在より科学的捜査が不十分だった時代に起きているものばかりで、証拠も資料も、不確実なものばかりだったという事です。中には、人が燃えた?それは悪霊の仕業だ、とされているものもある位ですから。」
滝田「それは分からないでもないですけど。分からないから、超自然的な現象、悪霊の仕業にしてしまった、っていう事ですよね。その実、悪霊の所為にした、犯人がいたって事だと思うんですけどね。」
瀬能「その通りです。殺人犯に仕立て上げられた悪霊が可愛そうです。『自然発火現象』の多くが、先に殺すか、後に殺すか、どっちでもいいんですけど、人間を焼いて、人間が自然に発火して死んだと言い張っているケースばかりですね。」
安河内「生きたまま焼かれるって嫌だね。」
滝田「・・・殺人者に倫理観を求めてもどうかと思いますけど、倫理観や道徳観が欠如している犯罪者は多いですよ。」
瀬能「ですから、このご遺体。外的要因で、焼死されていないか、検証する必要があると思います。例えば、時限爆弾。時限じゃなくても無線でも有線でも、爆発する仕掛けがなかったのか。いかがですか?」
滝田「爆弾の類は見つかってないですね。火薬の類で発火したなら、当然、その痕跡は出てきます。鑑識からそういう報告は受けていません。同様に、無線ないし有線の、起爆装置も発見されていません。ですから、遺体に発火する装置はついていなかった事になります。」
安河内「そうなると次は、エックスメンだな。」
滝田「なんですか?」
安河内「お前知らないの?エックスメン。超能力だよ、超能力! エスパーマミだよ。ウルトラビーだよ。あ、お前、あれか、バビル2世か。」
滝田「バビル・・・・」
安河内・瀬能「バビルの塔に住んでいる、ちょぉぉぉぉぉ~のぉりょぉぉぉく、少年! バ・ビ・ル・にぃぃぃせぇぇぇいぃ! いえいぇ!」
滝田「いえい、じゃないですよ! 超能力?」
安河内「サイコキネシスだよ」
瀬能「パイロキネシスです。」
安河内「パイロだよ、パイロ」
瀬能「火を燃やす超能力です。」
滝田「えぇえっと、安河内さんと瀬能先生は、その、パイロなんとかで」
瀬能「パイロキネシスです」
滝田「ええ。パイロキネシスを使って、超能力者が、被害者を殺したと、そう、おっしゃりたいわけで?」
安河内「そういう事になるな。良かったな、滝田、事件解決だよ。良かった。良かった。」
滝田「はぁ~?」
瀬能「パイロキネシスを使って殺したとした場合、問題が発生します。それは、超能力者の犯人がいるという事です。ですから、超能力者の犯人を捕まえて下さい。」
安河内「聞いたか、滝田!超能力者の犯人を検挙しろぉぉぉぉおおお! いけぇぇぇぇえええええ!」
滝田「・・・・・・。安河内さん。ちょっとだけ冷静になって下さい。超能力者だろうが、何だろうが、警察ですから、これが殺人事件なら、犯人を捕まえますよ?それ、普通の殺人事件と変わりがないじゃないですか?」
安河内「ん?」
滝田「ん、じゃないですよ。被害者の交友関係とか仕事関係とか、トラブルが無かったか、調べる訳ですよね。それはそれで調べますよ?仕事ですから。・・・超常現象、関係ないじゃないですか?殺し方が、人とちょっと違うだけで。包丁とかじゃなくて、超能力なだけで。」
安河内「もしかしたら、痴情の縺れで、被害者の知人に、超能力者がいるかも知れないだろ? マミ君かも知れないじゃないか?エリ様の可能性も否定できないがな。」
滝田「そうなると被害者は高畑さんになってしまいますが?」
瀬能「パイロキネシスを使って殺したとなると、遠隔から殺しが可能になります。遠隔からの殺しなら、なにも、パイロキネシスだけではありません。もちろん、事故の可能性も考えられます。」
安河内「事故?」
滝田「先程、瀬能先生は爆発物も起爆装置もなかったから、その線は薄いとおっしゃいませんでしたか?」
瀬能「被害者に発火する何かが無くても、遠くから燃やすことは不可能ではありません。」
安河内「鉄砲で撃つとか、大砲で撃つとか、そういう事ですか。」
滝田「直接、狙撃するという事ですか?」
瀬能「考え方はそうです。ほら、虫眼鏡を太陽に向けると、光が集中して、燃えるじゃないですか。」
安河内「犯人は、被害者にずっと虫眼鏡で、光を当てて続けていた。そして、発火した。・・・・・斬新ですね。」
滝田「小学生でもしないですよ。」
安河内「滝田! 小学校の頃、先生に虫眼鏡で直接、太陽は見ちゃダメって教わらなかったのか?中には倫理観の欠如したスーパー小学生がいて、事件を起こした可能性だってあるんだぞ!毎週、毒針撃ってくる小学生だっているんだ。ねぇ、瀬能先生」
滝田「もし、そうなら、被害者の後をランドセルしょった子供が、付いて回ると思うので、目撃されていると思うんですけどね。」
瀬能「外部から殺そうとすると、そういう方法もあると言う話です。荒唐無稽ですけど、SFだと、人工衛星をハッキングして、お空に大きな虫眼鏡を作り、それで、焼き殺した、なんて話もあります。それは巨大な虫眼鏡ですから、人間を燃やすなんて理論上は、御茶子さいさいです。」
滝田「SFならですよね。」
瀬能「ガリレオだと、鉄工所の機械を使って人体発火を考えました。ブラックアウトではプラズマ兵器。怪奇大作戦だと電話。SF作品を書く作家は、頭を捻って人体発火を行おうとしてきましたが、大がかりな装置を必要としてしまいます。それがキッカケで事件が解決するんですけどね。大がかりだから、バレちゃうと言うジレンマ。」
滝田「テレビドラマならそうかも知れませんけど、それに、そういう装置を現実的に運用できるか、製作できるか、話が変わってきますよ?」
安河内「ほら、あれ、ロリババア探偵の」瀬能「推理カルテ、」安河内「そう。あの小説だと、静電気で発火したとか、あれは流石に、俺でもえぇ?って思ったね。」
滝田「安河内さん、小説なんて読むんですか?」
瀬能「あれは湿布に揮発性物質が含まれているっていうのがミソなんですよね。SFですけど。」
滝田「じゃあ、外部から何らかの装置を使って、殺害するっていうのは無理って事なんですね?」
瀬能「無理っていうか、難しいという話です。あと、地雷。」
滝田「地雷?」
瀬能「足元に、地雷を埋め込んでおいて、人が踏んだら起爆する。その場合は無差別な犯行になると思いますが、電子レンジの物凄い装置で、マイクロ波を発生させれば、人間なんて真っ黒コゲですね。」
安河内「地雷はまだ分かりますが、電子レンジの凄い装置?っていうのは。」
瀬能「ええ。素粒子の実験施設なんかで置いてあるやつです。東京ドーム1個分の電子レンジ。」
滝田「じゃ、この足元に、東京ドーム一個分の、特殊な施設があると、先生はおっしゃりたいんですね?」
瀬能「本体は東京ドーム1個分ですけど、発射ノズルは、指先くらいですから、可能って言えば、可能です。」
安河内「じゃ、滝田。お前、ほら、地下もぐれ。」
滝田「アホな事、言わないで下さいよ。仮に、仮に、あったとしてですよ、そんな施設が、住民に知られずに建設されてる方が問題ですよ。加えて、そんな施設を作るのは国家レベルじゃなきゃ無理です。国の陰謀に気づいてしまったら殺されてしまうじゃないですか?」
安河内「二階級特進だな。おめでとう。」
瀬能「そんな事するくらいなら、普通に、地雷を仕掛けた方が、安上がりですけどね。何も電子レンジで人間を燃やすより。」
滝田「せんせぇぇぇぇぇえええ!」
瀬能「可能かどうかっていう話をしただけです。他意はありません。」
安河内「瀬能先生のおかげで、あらゆる可能性が否定された訳じゃないか。良かったじゃん。」
滝田「よか、ないですよ。犯行が不可能なら、この状況をどう、説明していいのか、事件なのか事故なのか、まったく分からないじゃないですか。話が一ミリも進んでいませんよ?」
瀬能「今日はこの辺で。被害者の身元等、また分かったら連絡して下さい。」
滝田「帰っちゃうんですか?」
瀬能「私、いても、正直、何のお役にも立てませんし。」
安河内「じゃ滝田。俺も帰るから。あと、よろしく。」
滝田「はぁぁぁぁあああああ?」
滝田「まぁ、そんな感じですね。被害者の良池さんは。」
安河内「これと言って目ぼしい情報も無いな。・・・迷宮入り、お蔵入りか。被害者、謎の焼死体。瀬能先生、何か、ありますか?」
瀬能「そうですね、交友関係とか、知人友人の方は、どのような感じで?」
滝田「あ!」
安河内「どうした」
滝田「会社の人なんですけど、会社の人、みんな驚いてました。昨日までと、まるで、違うって。」
安河内「何が違うんだ?」
滝田「姿、形、全部だそうで。・・・最初、良池さんとは気づかなかったって。」
安河内「そんな事ないだろ? 昨日まで一緒に働いていた人間の顔、忘れるか? 俺は忘れるけど。」
滝田「俺も忘れたい人、いますけど。ちがいます。そうじゃなくて。良池さん、百キロを超える超大柄の体形で、」
安河内「デブか?」
滝田「あの、いや、大柄の体形で、相撲取りみたいに、巨漢だったそうです。それが、写真とまるで違っていたようで。」
瀬能「被害者の容姿は、確かに、ガリガリでしたものね。骨と皮としか言いようのない。成人男性としてはちょっと、痩せ過ぎというか、病的でもありましたね。」
滝田「細い人はいますから、そんなに気になりませんでしたけど、言われてみれば、細過ぎますね。今となっては、燃えた後ですから、体重も変化してしまっているから正確な重さは出せませんけど。」
瀬能「身長、百七十前後で、骨の太さから見て、体重は六十五キロが平均ですから、それから勘案しても、五十キロ以下。下手したら四十キロ台の可能性もありますね。・・・それはもう、病気です。」
安河内「胃とか食道、取っちゃった人とか、ガンの人って、痩せちゃってるけど、確かに、そんな感じだな。滝田、被害者、病気は何か、あったのか?」
滝田「病気ですか?ちょっと待って下さい。病気に関しては・・・・・そうですね。毎年、健康診断で引っかかっている、程度にしか。いわゆる、肥満ですかね。ま、特別、これと言った病気で病院に通院している記憶はありませんでした。お薬手帳からもそれは確認済です。」
安河内「糖尿病とか、肝臓とか、・・・・痛風とか、基準値に達していないだけで悪かった可能性もあるわな。」
滝田「それを言い出したらキリがありませんよ?」
瀬能「ひとつ判明したのが、たった一日で、体重が百キロ以上あった巨体が、半分以下になってしまった、という事です。」
滝田「・・・・・それが、焼死体の原因に繋がると?」
瀬能「直接か間接か、まだ、分かりませんが、体重が半分になるんですよ?異常以外、考えられません。」
滝田「確かに。」
瀬能「では少し、燃焼について考えてみましょう。物が燃えるのに必要な物って何だと思います?」
安河内「酸素と、酸素と結合できる物質、という事ですか?」
瀬能「まぁそうなんですけど。・・・ええ。すみません、”火種”です。難しい事を言って申し訳ありませんでした。」
安河内「火種。ああ、そうですよね。」
瀬能「火種、火が起こるには、発火と引火があります。自分から火を起こすものと、他から火をもらってそれが燃えるのでは、原因が変わってきます。昨日、話した通り、外部から何らかの方法で火を付けるのは難しいと思われます。ですから引火による方法は難しい。だったら、発火。勝手に火が起こったと考えるのが自然だと思います。」
滝田「その、発火が、体重減少と何か関係があると、瀬能先生はおっしゃりたいんで?」
瀬能「その通りです。」
安河内「体重減少って、状態じゃないだろ? これもう、何かに喰われたとしか、言えないだろ?」
滝田「喰われた?」
瀬能「安河内刑事、良い線、いっていますね。私も、何者かに、体を喰われた、と思います。」
滝田「被害者は、喰われたんじゃなくて、燃やされたんです。」
瀬能「じゃ、ご遺体を調べていただきたいんですがよろしいですか?」
滝田「ええ。・・・・まぁ、構いませんけど。科捜研に掛け合ってきますから。原因不明の変死体ですし。科捜研も興味津々で。」
瀬能「残っていれば、頭と・・・」
瀬能「安河内刑事、滝田刑事、ご遺体の検査の結果はいかがでしたか?」
滝田「ええ。瀬能先生が予想した通り、体脂肪率、三パーセント。・・・異常です。異常な数値でした。」
安河内「え?いや、いっくら絞ったって、三パーセントにはならないだろ?」
瀬能「異常な数字が出るとは思っていましたが、極めて、異常な数値で驚いています。やはり、何者かに、喰われたという仮説が濃厚となってきましたね。」
滝田「体重が半分になって、脂肪がほぼゼロになる。・・・なんだか分かりませんが、そいつが良池さんを喰った。体の中から喰った、と言う事ですか?」
瀬能「ひらたく言うと、そういう事です。」
滝田「でも、良池さんの体から、特筆すべき病気は発見されていません。ほら、感染したら助からないエボラ出血熱とか、危険度マックスのウィルスなどは。」
瀬能「エボラに限らず、感染症1類2類に分類されているものは、確かに、感染したら助からない確率が高いですが、必ずしも助からない訳ではないので。体の半分くらいは失うかも知れませんが、助かる事例もありますからね。」
安河内「それに、そんな危険な感染症が見つかれば、規定の病院に隔離だ。自動的に関わった俺達もアウト。悠長な捜査をしている場合じゃなくなるぞ?」
瀬能「それに、渡航歴も無さそうですし。」
滝田「その線は無いのは良かったですが、渡航歴だけじゃ判断できませんからね。渡航歴がある人間と接触した可能性もありますから。今回は、無かっただけで。」
瀬能「滝田さんのおっしゃる通り、人喰いバクテリアに襲われれば、中から喰われてお終いでしょうが、体が燃えるという事はありません。被害者は、体の中から喰われ、そして、火を付けれた。」
安河内「悲惨だなぁ。」
瀬能「犯人は、褐色脂肪細胞です。」
安河内「か?」
滝田「いきなり犯人を名指しするんですか?え?ちょっと、待って下さい、先生」
瀬能「状況から考えて、褐色脂肪細胞が犯人と考えて良いでしょう。」
安河内「な、なんなんですか、その、か、なんとか細胞というのは?そいつが被害者を喰ったんですか?」
瀬能「そうです。褐色脂肪細胞の好物は、脂肪です。異常行動を起こした褐色脂肪細胞が、被害者の脂肪を喰いあさり、百キロ以上あった体重を半分にしました。体重の半分以上は、脂肪でしょうから、短時間のうちに、五十キロ以上の脂肪を喰らったという事になります。この細胞、正常に働けば、脂肪を喰ってくれますので、メタボリズムと言われる中年太りの人には、救世主なんです。」
安河内「お腹のお肉を食べてくれるなら、そりゃ、俺達の年齢からしてみれば救世主だよな。」
瀬能「運動をすればするほど、細胞は、活性化され、より脂肪をたくさん食べてくれ、痩せやすい体になります。だから、メタボリズムに運動が良いっていうのは、細胞レベルでも理に適っているんですよ。ただし、これも体質により、生まれながらに褐色脂肪細胞が多い人間、少ない人間がいます。」
滝田「ああ、痩せやすい体質の人と、運動しても痩せにくい体の人か。」
瀬能「加えて、地域差、人種差もあります。ロシア系の人が中年以降、小太りになるのは、この細胞が人種的に、少ない事を示唆しています。」
安河内「ロシアの女の子って、若い頃はかわいいんだけど、お母さんみるとけっこうアレで」
滝田「アレで」
安河内「将来、お母さんみたいになっちゃうのかぁって、思っちゃうよな。オリンピック見てても。」
滝田「正常なその、褐色脂肪細胞なら健康に優良なのは理解できますが、体脂肪が少ないだけで、それを立証するのは難しいのではないでしょうか?」
瀬能「ええ。褐色脂肪細胞が異常だった事を示す所見が必要だという事になります。それで、頭の中を調べてもらったんです。・・・視床下部に異常はありませんでしたか?」
滝田「・・・頭のド真ん中に腫瘍がありましたよ。」
瀬能「そうですか。たぶん、先天性のものだと思います。健康診断じゃ頭の中までは調べませんから、人間ドック、脳ドックで調べる機会があったら、最悪の事態は避けられた事でしょう。」
安河内「先生、これは病気なんですか?」
瀬能「個人差で発生するものは、たいがい、遺伝です。ご家族に似た症状が出た方がいれば気づいたかも知れませんが、隔世遺伝の場合、どうしようもありませんね。それに、腫瘍というものは、年々少しずつ大きくなるものもあれば、突然、進化するように巨大に成長する物もあります。どちらにしても頭蓋骨の中まで検査する事は稀でしょうから。」
安河内「俺、検査しようかな。」
滝田「視床下部に腫瘍があると、どういう経緯で、体重が減ったり、人が燃えたりするんですか?そっちの方が問題なんですよ、今回は。」
瀬能「推測の域を出ませんが、視床下部の腫瘍により、視床下部が異常行動を起こした、という事でしょう。まるで、突然、現れた寄生生物に、脳を乗っ取られたように。」
安河内「脳を乗っ取られる?」
瀬能「寄生生物に脳を乗っ取られる事は、自然界では不思議な事はありません。カエル、カタツムリの類に寄生する寄生虫は、脳を乗っ取り、わざと捕食動物の鳥に食べられる異常行動を起こします。そして、寄生虫は、見事、鳥に寄生し、その中で繁殖することが出来るのです。そして、糞と共に地面に帰り、また、カタツムリに寄生する。そのサイクルを繰り返します。」
安河内「寄生虫に脳を乗っ取られると、どういう風になっちゃうんですか?」
瀬能「自我はなくなるでしょう。だって、わざと捕食されるように行動するんですよ?自殺行為です。ただ、寄生虫にとっては、それが自分の繁殖に必要な行動だから行うだけなんですけどね。」
滝田「視床下部の腫瘍は、寄生虫に感染した経緯は見つかっていませんよ?」
瀬能「人間の腫瘍。いわゆるガン。これは自分の細胞でありながら、別の生物の様に振舞います。ガン細胞自身が、自分で増殖し、栄養が足りなかったら勝手に血管を伸ばし補給する。果ては、勝手にホルモンまで分泌するんですよ?やってる事は寄生虫と何ら変わりがありません。脳の中に、突然、別の生命が現れ、脳を支配してしまうんです。自分ではどうする事も出来ません。その腫瘍。ガン細胞が、異常行動を起こしたのでしょう。被害者の運が悪かったのが、場所です。視床下部。」
安河内「視床下部っていうのは、なんなんですか?」
瀬能「ホルモンを出したり、色々しているんですが、ホメオスタシスに関連している事が大きいですかね。あと、原始的な感情に一つを担っているらしいです。言っちゃえば、人間のフルオート安定装置です。」
安河内「フルオート、安定装置?」
瀬能「暑かったり、寒かったり、するじゃないですか。トカゲみたいに寒かったら動けないってこは人間には無いですよね。それ、外の温度と体の温度を、フルオートで調整してくれているんです。汗かいたり、毛穴を閉じたり、こごえたり、だらんとしたり、意識しないでも全部、脳が勝手に快適にしてくれる。そのフルオートの機能を、そこが担っているんです。ですが、被害者は、その大事なフルオート機能を、寄生され、占領されてしまった為、異常行動を起こした。ガン細胞の生きる目的は、自滅ですから、自滅するように働きかけるのは当然です。」
安河内「最悪だ。」
滝田「いや、ほんとに、最悪ですよ。」
瀬能「視床下部には、体温の調節という働きがあります。人間の体温が、三十六度から三十七度に保っていられるのはこの機能がオートで働いているからです。常に、三十六度に体温がなるように、自動的にセットされているんです。体温のセットポイントと言います。
被害者のガン細胞は、このセットポイントを意図的に上げたのでしょう。極端な事を言えば、上限なく、ずっとずっとずっと、ね。」
安河内「体温のセットポイントが上がると、どうなるんですか?」
瀬能「単純な話ですよ。セットされた体温になるまで、体温を上げ続けますよ。体が耐えられるかは別にして。三十八度の熱でも、人間は苦しいのに、ガン細胞は、四十度、五十度、六十度・・・・・もっと、もっと、もっと、上げたと思います。
体温を上げる為に、使われたのが、褐色脂肪細胞です。体中の脂肪を燃やして燃やして燃やして燃やし尽くされた。」
滝田「・・・その結果が、体脂肪率三パーセント。」
瀬能「上限が壊れた体温維持装置のセットポイントは、まだまだ足りず、体温を上げ続けた事でしょう。燃やす燃料が無くなれば、次は自分で、燃えるのみ。
外の温度が、仮に二十度だったとします。体温のセットポイントが百度だったとして、その差を埋める為には、どうしたら良いと思いますか?人間のフルオート機能は、その差、八十度を埋めるように、熱を生産します。言わば脳は、マイナス八十度の世界にいる訳です。寒くて寒くて寒くて凍死してしまうんですよ?脳は、ガン細胞によってそう錯覚させられています。」
安河内「マイナス八十度?」
瀬能「全身の筋肉をけいれんさせ、熱を作る事でしょう。残った脂肪。グルコースは酸素と結合すると、熱を酸性します。発火の準備は整いました。私は、体温のセットポイントが百度程度で収まるとは思っていません。そうでなければ発火しませんから。上限値が壊されているんですから、残念ながら、発火するまで筋肉の摩擦運動が起こったのは容易に想像できます。一度、火がつけば、人間の体は燃えるもので出来ていますからね。被害者の体を燃やしてしまったのでしょう。」
滝田「それが、今回の、被害者が焼死体で見つかった、全容だと。」
瀬能「被害者は、燃えているのに、凍死するほど、凍えていたに違いありません。寒くて、寒くて、つらい、最後だった事でしょうね。」
安河内「おごっごぉぉぉぉぉ うがががっぁぁぁ ひゅえあぁ」
滝田「どうしたんですか、安河内さん」
安河内「俺は、俺は、悲しいよ。突然、命を絶たれたのも辛いかも知れないけど、好気の目に晒されながら、しかも、寒さと戦って、死んだんだ。孤独で。・・・・俺は、悲しい。やっぱり人間、最後は、布団の上で死にてぇじゃねねぇか。」
滝田「安河内さんが被害者に感情移入してどうするんですか。被害者と向き合うのが仕事なんですから、しっかりして下さいよ。」
安河内「まぁ、そうだな。・・・・でも、被害者が、誰かに恨まれて殺されたとかじゃなくて、まだ、良かったよ。ねぇ、瀬能先生。」
瀬能「私の見解は、病死です。事故です。」
滝田「脳腫瘍で、人体発火現象が起こり、死亡するなんて、滅多に経験できる事じゃないですからね。引き続き、捜査は行いますが、瀬能先生のご意見を報告させて頂きます。」
安河内「滝田、瀬能先生に失礼だぞ?」
瀬能「いえ、いいんですよ。私は、あくまで自分の見解を述べただけなので。是非、ご参考になさって下さい。」
滝田「瀬能先生。助かりました。・・・あのままでは、未解決事件になる所でしたから。」
安河内「あ、無事、事件も解決した事ですし。瀬能先生、この後、いっぱい、いかがです?警察の奢りで。いきましょ、いきましょ、接待交際費で。滝田、お前は報告書、書いておけよ?いいな」
滝田「面倒な事だけ、俺ですか? もう。安河内さぁぁぁぁぁん、俺も行きまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁす!」
後日譚(本編)
瀬能「ねぇ、瑠思亜、この写真、見て下さい。」
皇「なんだよ?これ。・・・・・誰かの頭の中か?」
瀬能「ええ。CTです。先日、変死体で見つかった方のCTです。」
皇「・・・お前、また、変な事に首、突っ込んでんのか?」
瀬能「いやいやいや。ちょっと頼まれ事で。」
皇「頼まれ事で、人の頭の中の写真、他人に見せるか?」
瀬能「まぁ、そうなんですけどね。・・・瑠思亜、ここ、見て下さい。ここ。」
皇「・・・お前、これ、合成か?」
瀬能「本物です。本物と言っても、本物を貰える訳ないので、写メ、撮ってきました。これ、どう思います?」
皇「・・・。・・・。」
瀬能「こっち見てますよね?完全にこっち見てますよね?」
皇「・・・・・まぁ、見てるよな?」
瀬能「腫瘍に目が生えるって事、ありますか?」
皇「お前、人の頭の中に、別の生き物がいる、なんて考えてないよな?」
瀬能「あり得ない話ではないでしょう? 哺乳類に寄生する、寄生生物なんてザラじゃないですか。ましてや人間に寄生する寄生生物だって珍しくない。」
皇「お前の言いたい事は分かる。人間に寄生する奴もけっこういるし、まだ見つかっていない寄生虫だっているだろうよ?ただ、こいつが寄生虫だった場合、人間が最終宿主か、中間宿主か、話が変わってくる。寄生虫に限らず、生物の最終目標は、子孫を残す事だ。でも、どっちみち無理だ。」
瀬能「無理?」
皇「よくよく考えてみろ?こいつが寄生虫なら、最終にしろ中間にしろ、宿主から外に出て、次の過程に移行しなくちゃいけないんだ。寄生虫だからな。でもお前、頭蓋骨みたことあるか?こいつ、どうやって頭の中から外に出るんだよ?」
瀬能「どうやってって?脳ミソを喰って?」
皇「お前、脳ミソがどういう構造か分かってて、言ってんのか? 脳ミソは全部、膜で覆われてるの。袋に入っているのと同じなんだ。仮に脳ミソを食い散らかした所で膜があるし、その先に、頭蓋骨がある。言っておくけど、脳ミソと繋がってる脊髄も全部、膜と骨で守られているからな。こいつに出口なんかねぇよ。ここで死ぬだけだ。」
瀬能「寄生生物として考えると、頭の中にいるっていうのがおかしいって事ですね。」
皇「出られない所にいる時点で、寄生虫として矛盾しているんだけどな。」
瀬能「じゃあ、こいつはいったい、何なんです?」
皇「こいつは、元々、ここにいたんじゃねぇのか? 脳ミソの中に。」
瀬能「へぇ最初か・・・・・・はぁぁぁぁああ?」
皇「こいつはどう見ても寄生虫じゃない。腫瘍だ。しかも奇形腫だ。」
瀬能「目がある腫瘍なんて、見た事ないですからね。」
皇「奇形腫テラトーマは、視床下部に巣を作りやすいとは言われている。だから、ここにテラトーマがあっても何ら不思議じゃない。お前、こいつを見て、何とも思わないのか?何かに似てると思わないか?」
瀬能「いや、別にぃぃぃ?」
皇「上下、逆さに見てみろ。」
瀬能「?・・・・胎児」
皇「ああ。胎児だ。」
瀬能「待って下さい、流石に寄生生物は冗談のつもりで話しましたよ?」
皇「お前・・・さっきの冗談だったのかよ。」
瀬能「胎児は無いですよ。だって、ここ、子宮じゃないですよ?」
皇「脳ミソの真ん中だ。人間の脳の古い部分だ。当然、子宮じゃない。胎児が生きていられるはずがない。だろ?」
瀬能「そうです。」
皇「杏子、落ち着いて考えてみろ、こいつはどう考えてもテラトーマだ。胎児の形をしているけどな。
じゃ、何の奇経腫だと思う?」
瀬能「そりゃもちろん、神経細胞の」
皇「こいつはそんな上等なモンじゃない。・・・一卵性双生児の片割れだ。」
瀬能「双子?」
皇「別に、不思議な話でも何でもない。よくある話だ。胚が分割していく途中で、二つに分かれ、双子になる。同時に育てばいいが、一方が未熟な胚だった場合、優良な胚に未熟な胚が取り込まれる。生存本能、生存競争の一つだ。母体にしてみれば未熟な胚がなくなることで、優良な胚を安全に育てる事ができるからな。だが、稀に、取り込まれず、生き残る場合がある。それが、こいつだ。」
瀬能「だから待って下さい。それが子宮の中の話ならまだ分かりますよ。でも、ここは脳の中ですよ。」
皇「ああ。うまく身を隠したんだろ。取り込まれたら殺されるのが分かっていたから。だから外胚葉の中に隠れた。いずれ目を覚ます時までな。」
瀬能「そうか、今まで眠っていたから、存在を確認できなかったんですね。」
皇「脳神経に隠れた異物。腫瘍だよ。お前も知ってるだろ?腫瘍細胞は、自分で勝手に、血管を伸ばして栄養を補給するんだ。別に、子宮で胎盤から栄養を分けてもらう必要なんて、これぽっちもないんだ。自分で、手を伸ばして、血をすすればいい。」
瀬能「こいつは、腫瘍なんかじゃなくて、双子の片割れ。」
皇「ああ。そうだ。・・・変死体って事は、死んだんだろ? 死んだ人間の頭の中に、双子の奇経腫がいた。偶然か?偶然じゃないと思うぜ? 警察は何て、結論付けたんだ?」
瀬能「病死です。」
皇「これはれっきとした殺人だ。未熟な兄弟が、成長した兄弟を殺した、殺人だ。・・・・復讐?かもな。動機は分からないけど。」
瀬能「復讐?」
皇「そうだろ?こいつは、一度、殺されかけたんだ。未熟というだけで。それが自然の摂理だったとしても、血の繋がった兄弟に殺されかけたんだ。胚を吸収されたらこの世界から跡形もなくなるんだぞ。この世界から消えてなくなるんだ。しかも、力の差は歴然だ。正常な胚が勝つに決まっている。」
瀬能「神のいたずら、それとも、運命で未熟な兄弟は生き残ることが出来た。そして、何十年と脳の中で、復讐の機会を待った。」
皇「場所が場所だろ?視床下部だ。人間を殺すにはもってこいの場所だ。自律神経を狂わせ、ホルモンを異常分泌させられる。人間のホメオスタシスを崩壊させるのも簡単だ。・・・・・人間を乗っ取るのと同じだ。どんな死に方をしたのかは知らないけど、きっと想像を絶する地獄だった事だろうよ。」
瀬能「そうかも知れません。」
皇「脳を乗っ取る事は、イコール人間を乗っ取るのと同じだ。病死?・・・れっきとした殺人。心中だ。自分も死ぬんだから、心中だろう?」
瀬能「・・・うまく折り合いが付けられなかったんでしょうか?」
皇「バカかお前?一つの体に、二つの脳なんてあってたまるか。殺すか殺されるかに決まってるだろ?まったく同じ人間がこの世界にもう一人いたら、鏡を見ている様で気味悪くて耐えられない。同じ人間は一人でいいんだ。だから殺すんだ。生理的に、もう一方を。」
瀬能「それでお互いが死んじゃったら意味ないじゃないですか。」
皇「同じ人間が生きているよりよっぽども気分がいいと思うぜ?あいつを殺して私も死ぬっていう気持ち、理解できなくもない。」
瀬能「そんなもんですかね。これからクローンなんて当たり前になる時代がくるかも知れないのに。」
皇「鏡の中の自分が、自分と取って変わられても平気な精神を持てるようになったら、同居できるだろうな。」
瀬能「ねぇ瑠思亜。警察に、これは殺人です、って伝えた方がいいですか?」
皇「頭の中に犯人がいるんです、って信じてもらえるなら、言った方がいいんじゃないか?」
瀬能「その場合は、被疑者死亡ですね。」
皇「そういう事になるな。」
瀬能「あはははははははははははははははははははははは 厄介な犯人です。」
※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。