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第1話 元素の英雄

山の奥深くにひっそりとある小さな研究所。ここでは1人だけが、世間の話に触れずに暮らしている。


 「NH3は…鉄だっけ。」

 「じゃあここにパンを入れて…」


ボン!


 「あ、これアンモニアだ。」


オンボロの机の上に置かれた無数のフラスコ、ビン。鳥の声がよく聞こえて、うるさいぐらいの…うるさい!今ナレーションしてるの!

彼は1人であるが、日々楽しく実験をしている。


 「え?金って元素あったの?」


無知とは恐ろしいものだ。


 「母さん…俺、頑張ってるよ…」


10年前、母を亡くし、父も行方不明。そんな彼を元気にさせたのが、母が教えてくれた『実験』家族の形見である家族写真と実験。家族の記憶は曖昧だが、これさえあれば彼は生きていけるような気がした。


コンコン

1人の訪問者が現れた。


 「はーい」


そこに立っていたのは白をベースとした服を着た、白い見た目の白い感じの白い系の白い人だった。


 「あのー、私『冬野ふゆの 冬香とうか』と、申します。」

 「僕は『科元かげん 素科そか』です。」

 「冬野さん?どこかで会いましたっけ?」

 「あ、いや、これが初めてです。

実は最近、山の探検が好きでよく登山してるんですよ。そうしたら偶然1つの家が見えたので来た。

ということです」


どうやら彼女は山登りが好きで、人気ひとけのない山なのにポツンとあったこの研究所に好奇心で入ったらしい。ポツンといるのは作者と同じだね。


 「何かお茶でも出しましょうか?」

 「あ、じゃあお願いします。」



−−−



 「それで、どんなことをしているんですか?」

 「実験とかですね…」


顔が赤い。素科は10年間誰とも会わずに生きてきたのだから人と話すなんて何年ぶりなのだろう。コミュ障じゃないだけマシだが。


 「じゃあこの鉄を…」

 「それアンモニアです!」

 「あ。」


火事だ。ここには火の燃料となるものがたくさんある。火の強さが増すと、山ごと火に飲み込まれてしまう。


 「姿勢を低くして!逃げよう!」

 「消化器は⁉︎」

 「もうすでに火に囲まれてる!」

 「あ!」


素科は形見である家族写真を落としてしまった。取りに行けば自分も火に飲み込まれるだろう。


 「く、届かない…」

 「冬香さん!早く逃げて!」

 「あなたにとって大事な物は私にとって大事な物です!」

 「それって…」


燃え尽きた。



−−−



 「そ…そんな…

くそ‼︎どうして…冬香さん…」

 「消防です!離れていてください!」

 「鎮火開始!」


研究所を囲んでいた炎は瞬く間に消えていった。しかし、燃やされた物は元には戻らない。


あれから1年


 「はあ………あのことが起きてから今日で1年…」


彼は現在、都会のとあるお店で暮らしている。あの時のことは今でもはっきりと覚えているようだ。


 「んーーー…」

 「わあ!」

 「うわ!びっくりした…」


彼は店長さん。この店の店長であり、素科はここで働いている。


 「またあの日のことですか?」

 「うん…」

 「そうですか…」

 「…今、ヒマですか?」

 「あ、うん。」

 「あー、じゃあ私とゲームでもします?気分転換に。」

 「なんの?」


 「バ、イ、ト!」

 「…」

 「何も言わないってことはYESってこと?」


カランカラーン


 「ほら、今ピークタイムですよ〜バイトさん今1人しか居ないんですから」

 「…」

 「不貞腐れてる…」

 「…」

 「今ならバイト代はずんじゃうよ。」

 「…ほんと?」

 「あ〜、なんかフリュラのバッグが欲しいなぁ〜」

 「はいはい。

あと、エベロかリセーヌにしといてよー」


ガチャ



−−−



 「はーい。いらっしゃいませー

ん?バイトの人?」

 「大変だ!なんか、怪物が…」

 「怪物?」


そこに立っていたのはタカの顔をした禍々しい怪物だった。


 「お前…逃げるな…」

 「う、うわあああ!」

 「え!?なに…誰⁉︎」


怪物は首を掴んで言った。


 「金をよこせ。」

 「う、うわあああ!」

 「あ、ちょ、逃げたら俺1人に…」

 「ちっ!」


ドォォォン!


怪人はドアを蹴った。これでは出ることができない。さらに今は深夜なので人も少ない。絶対絶命だ。


 「金はどこだ?」

 「えー、っとぉー…」

 「キャーーー!」

 「あ、店長さん!今きちゃ…」


怪物はすごい速度で飛び上がり、彼女を掴んだ。


 「警察を…」

 「あ、警察…なんだっけ?118?」

 「それ海だ。」

 「怪人と意見が合うのは人生初です。」

 「あ、お金です!」

 「おう。

このことは警察には言うなよ!」

 「あの…店長さんを…」

 「分かった。じゃあな。

店長さん。」


怪人はそう言って、彼女を蹴った。


 「おい!店長さんを返せ!」

 「あはは!誰が返すと言った!次はお前だぞ!覚悟しとけ!」

 「お前…」


彼はポケットの中をくまなく探した。打開策はないか。なにか解決する方法。

そしてやっとの思いで見つけたのは一つの写真。そう、1年前に冬香が命に変えて守ってくれた写真だ。


 「…また、俺は大切な人を無くすのか…」

 「これで終わりだ!」


その時、彼の持っていた写真が一つのビンになった。ビンの中は無色透明だが、何かがあることはわかる。そして、手に何かが巻いてある。


「ここに、このビンを挿れるのか?」


ガッチャーン!

セットオン!


どこからともなく声が聞こえた。


混ぜろ!(混ぜろ!)混ぜろ!(混ぜろ!)


 「な、なんだ!?」

 「なるほどね。さっぱりわかんないけど理解した。

変身!」


エレメント!ビッグアンモニアチェンジ!

アーンモニアユヌ!アンモニア!


 「え?な、なにこれ?」

 「は?な、なんだよこれ⁉︎」

 「だが、俺の方が強い!」


怪人は炎の玉を出した。しかし、それは素科には留まって見える。


 「体が、軽やかになってる⁉︎」

 「くそ!こうなったら…」


怪人はそう言い、大きな火の玉を作った。大きすぎて避けることができなさそうだ。


 「これで終わりだあああ!」


エレメント!ヒッサツ!

アンモニア!


 「アンモニア…スラッシュ!」


必殺技で怪人の体が切り裂かれた。美しく、そして華麗に。


 「く、くそおおおぉぉぉぉぉ!」


ドカァァァン!


 「はあ、はあ、さっきのは?」

 「素科さん!」

 「店長さん!大丈夫⁉︎」

 「はい!」

 「そっか。」

 「さあ、バイトですよー!」

 「今⁉︎ここで!?この状態で⁉︎」

 「さっきの使えばいいじゃないですか。」

 「さっきの…あれ!?ない!」

 「どこいったのー!」


彼のポケットには何もなかったかのように写真が入っていた。










 「…」

 「英雄か…」

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