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ノイワット、10歳。

世の中光で満ちあふれている。

これは何だ?どんな構造だ?どうして動く?


言葉を覚えるのは早かった。

だから分からないことを端から訊いた。

大人は何でも訊けと言う割に、誰も答えをくれない。

もしくは答えてはくれるけど訊けども訊けども分からなかったりした。


その内、訊いて答えてくれる種類の質問と答えてくれない種類があることに気がついた。

どちらも中途半端に答えるヤツは非常に迷惑だった。

どっちなんだ、と。話す価値なし。二度と話さないことにした。


そして僕はしかられてばかりだ。

走ってはいけない、転んではいけない、食べなくてはならない、汚してはいけない、

壊してはいけない、着替えなくてはならない、つぶしてはいけない、つかんではいけない、

そのような言葉を使ってはいけない、、、


ナイナイナイ!いけないことばかりだ。

立って歩くことも禁止されるんだぞ!?


ネルローディアス兄上は好きだ。

「答えは分からないけど、それが悪いことか良いことかを教える事はできるよ。

ノイはまだまだ知らないことだらけだから、今は僕が教えてあげられる。」


そう言って、なんでいけないか一緒に考えてくれた。

それにやって良いことも教えてくれた。


絵の時間に絵を描くこと、着替えてからどろんこになること、弱い力で犬を撫でること、

困っている人を助けること、朝適度に早く起きること、挨拶をすること、健康になること、

一方は解体して良いけど一方はダメ、、


要するに、時と場合だ。

人を助けようとしても、困っていなかったら迷惑なんだって。

解体しても良いけど、まだ使う予定があるヤツはダメ。

朝は早ければ良いのではなく、使用人の時間に合わせて起きればいいんだって。

僕が合わせなきゃいけないなんて変だよね。

でもまぁしかられたり声を上げられたりするのが減ったからいいんだ。


しかし、どうして動くのか、どうして生きているのか、は誰も答えがない。

いや、あるにはあった。

生きているから生きているんだとか、動くから動くのだとか。


『関節があるから動くのでは?』

じゃぁなんで関節があるの?

『・・・・』


ヒントにはなった。

関節の構造が知りたくて、でも手頃な生き物は、、、、

ひたすらソレに向き合い続けていたら、話す価値がある人はネル兄を除いていなくなった。

おかげで話す手間がなくて良い。

いっときなんか話し方を忘れたほどだ。


そんな折、ガーデンパーティーでアデラに会った。

ノイワット10歳。



ネル兄に促されて挨拶をして、虫を見ても態度を変えない様子が興味をそそられた。

好みを訊いたら答えてくれた。質問を間違えなかったのだ!


すっかり話している気持ちでバッタの解剖をしてしまった。

傍目には無言で不愉快なショーを見せられただけだとネル兄に言われてしょげた。

間違えたらしい。


でも最後まで態度は変わらなかったから、また訊けば答えてくれるはず!

大人(両親)に再会をねだった。


会えば穏やかに時間が過ぎる。

気がつけば婚約が整った。


それからはアデラと沢山話した。

僕がいらないと切り捨てた人たちにアデラは僕を会わせようとしないし、

やりたいことも割と手伝ってくれた。

どうもアデラは臭いのとか汚れるとかは嫌なようだ。

でも近くにはいてくれて、アドバイスしてくれる。

今は食事が近いからやめた方が良いとか、リネン室より離れたところにしようとか、

小屋に沢山余ってた材料を使おうとか、コックのポムさんや庭師のサムさんを巻き込もうとか、

とにかく、アデラに話したらうまくいくんだ。


アデラを通じて僕の世界が広がった。

切り捨てた人たちとも別の切り口で話したら話せるようになった。

家族はネル兄だけではなくなった。

父上母上弟妹。

そうそう乳母やメイドも御者も家令も侍従もいたらしい。


最近になって思い起こせば、いろいろやらかしたなとは思う。

特に術に関しては調節が効かずにやり過ぎてしまうんだ。

アデラは、眉を下げて困ったわねと笑うだけで離れていったりしなかった。

家族だって、怒ったり泣いたりするけど離れていったりしなかった。


そうか。アデラは家族なんだ。すとんとした。


アデラってなんだ?

研究対象だ。よく観察しよう。なんで笑うんだ?どうしてアドバイスしてくれるんだ?

どうなっているんだ?


徐々に分かってきた。

サロンで当たり障りなく過ごせたとき、やりきった充足感に満ちている。

さりげなく何かをして、誰かが喜んでいるけど、ばれていないときも喜びに満ちている。

会食で初めての人と会うとき、あからさまに視線をやることはないけど、スゴイ集中力で観察している。

なにより、僕が集中しすぎて我に返ったときや、僕が何かやらかしてポツポツと訳を言ったとき、

キラキラとした目で、まるで尊敬しています、敬愛しています、愛してます!って目で見てくるんだ。


舞い上がるに決まっているだろう!

好かれているって思うだろう!

僕も大好きだ!アデラ!!!


でも普段は当たり障りのない微笑み。


あのキラキラした目は、ひょっとして僕に向けていないのかもしれない。

ただ観察されていて、、、、、いやいやいや。そんなまさか。

僕の後ろに誰かいた、、、?そんなのイヤだ!!


アデラがお茶会で一緒になった紳士とにこやかに和やかに、時折笑い声を立てて話している。

僕とにこやかに笑い声を立てて話した事ってあったっけ?

足下の地面がスコーンとなくなった。

僕の立っている地面だけないんだ。


え?

アデラの好きな物は?

僕はアデラと居るだけで嬉しいけど、、、アデラは?

何をしたら嬉しい?


いやだ。離さない。アデラが居なくなったらどうやって生きていけば良いんだ。

そうだ、妹が言っていた。

金持ちで爵位のあるそこそこの貴族なら誰でもいいって。

あれは結婚相手のことだよな。

そこそこってなんだ?

そんなことより、爵位!僕はないぞ!?

ネル兄上が侯爵家を継ぐから、僕は無冠だぞ!?

アデラは、、、アル兄が継ぐから、このままだと平民??

え?

僕は振られるのか?

い、いやだ!!そんなのイヤだ!!


ノイワットの子供の時、一人称は「僕」です。

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