よりどりみどり
⇒【】表記すみません。名前、考えていたらひからびてしまいましたので、とりあえずアップします。
心の中で、それらしいお名前をそっと当てはめていただけると幸甚です。
ミュラー令嬢はにんまりした蛇のような笑顔だったが、それを目の当たりにしたのはアデラではなくノイワット。
用事が終わったのか、テラスへ颯爽とノイワット様がいらした。
「令嬢、何がそんなに嬉しいのだ? それにアデラ、いつまで伏せているのだ?」
「ミュラー公爵令嬢のお許しがありますれば。」
ギュンッとノイワット様に射貫かれて、シュスラン様は許可を出してくれた。
声、震えてない?あぁでも口角は上がっているから大丈夫かな。
「それで、新しい相手とは誰だ?」
「・・・!! えぇ!【】様とか【】様、【】様もご推薦いたしますわ!」
「ふぅん。新興勢の【】男爵、43歳。【】子爵、11歳。【】伯爵、23歳。よりどりみどりだね。」
「!!ご、ご存じでいらっしゃるのですね。やはりノイワット様も考えていらっしゃったのでは?」
「そんなことはないよ。それぞれ女癖に問題があったり虐待されて最近保護されていたり病弱で借金地獄だったり。
どれも生半可な覚悟で嫁いで支えて行こうと思える方ではないな。それでも嫁していきたいなんてシュテム令嬢はすごいな。」
「は?」
「ん? ミュラー令嬢に勧めてもらって嫁ぐのだろう?」
「は?、、、え!!違います!!!私ではありません!」
「では、ミュラー令嬢はご自身で推薦して嫁してゆくのか。果敢だな。素晴らしいご覚悟ですね。」
「!!ち、ちが」
「まさかアデラに新しい相手が必要とか思われているのかな。
じゃぁだれが私の相手になってくれるだろうね。」
「ご心配には及びませんわ!ノイワット様の横に立てる者は何人もおります、が、
家格とご実績を鑑みれば、不肖私めが順当と思われますわ。」
「へぇ?家格?実績?どんな実績?」
ごぉっとした音と共に特大濃厚な術が練り上げられようとしている。
すかさず私はペシリとノイワット様の頭をチョップする。
「また護衛の腕ケチョンケチョン事件にするのですか?
もう人混みで練り上げてはダメだと申しましたでしょうに。」
令嬢達は、練り上げられたときの重圧に固まり、一瞬で霧散したせいで力が抜けたようにペショッと座り込んだ。
「ここに実績があるのはアデラだけのようだね。それにいい加減勝手に人の名前を呼ばないでくれるかな。
不快だ。君たちのパートナーだって不愉快だと思うはずだ。」
ノイワット様、公爵令嬢に不快だなんて。でも近々授爵もあるし、令嬢より当主の方が法的には上ね。
そこへ、一人の紳士の介入があった。
「どうしたのだい?すごい圧が感じられたのだが??」
「ヘイズ公爵閣下、ご無沙汰しております。」
「やぁ君か。何の遊びだい?」
キール王弟殿下は臣籍降下されヘイズ公爵となられ、もうずっと陛下の治世をお支えされている。
「遊びというか、、、。ミュラー令嬢とシュテム令嬢が素晴らしい覚悟を持って嫁ぎ先を憂慮されていまして。
【】様とか【】様、【】様などご検討されているそうです。」
「!!! い、いえ、私は!!」「そんなわたしは!!」
「ふむ。そのお二人は素晴らしい覚悟だが、こちらはどちら様かな。」
「しゅ、シュスラン・ミュラーにございます。」「シュミット家マリージョアと申します。」
言うなり慌ててカテーシーしている。
ヘイズ公爵閣下は、少し溜めてからじっとお二人を見つめていらっしゃる。
「君たちがその素晴らしい覚悟のあるお二人なのだね。」
「そうですね、ただこの縁談にこぎ着けるまでには困難がつきものです。周りの反対は言わずもがなでしょう。」
二言三言の間なのにお二人の手も足もぶるぶるし始めた。
そして許可もなく面を上げてヘイズ公爵閣下へすがりついた。
「私にそのような覚悟はございません。」「私もありません!既に内定している、、、」
「ほぉ、すでにその候補と縁談が内定しているのか。すごいな。」
「いえ!!」(涙目)
「そのように謙遜するなんてな。何と思慮深く、慈愛に満ちている事よ。
では、ノイワット、後ほど候補者を私に寄こせ。私が全面協力のもと縁談をまとめる。腕が鳴るな!!」
踵を返しがてら縋り付いた二人を振り払い、颯爽とテラスを去って行った。
「「あぁ!!!」」
「とにかくそろそろと兄上達が呼んでいる。すみませんが、ここを失礼いたしますね。」
ノイワット様ったらミュラー令嬢の返事も待たずに私を連れ出してしまったわ。
まぁ、他愛ない話だったから問題にならないと思うけど。
ノイワット様はシュテム伯爵令嬢に礼は求めなくて良いのかしら。シュテム令嬢は伯爵令嬢の私に求めていたけど。
あぁ、公爵令嬢の前だからかしら。判断基準が難しいわね。
誘われるままにノイワット様と1曲踊り、ネルローディアス様と1曲、お父様と1曲踊った。
お父様のお体大丈夫かしら。
私が踊っている間に、ノイワット様はキャロライン・ギャンデューラ男爵令嬢、いつぞやの令嬢がいつぞやのように突進されてたわ。
キャンキャン姦しい感じはしたけど、、、近づかないわ。今朝のラッキーフォーチュンは「危うきに近づかず」よ!
踊り終わってノイワット様が少し離れたところにいらっしゃるのを確認したので向かおうとしたところで人とぶつかった。
残念ながらその方が持っていたブドウジュースがたっぷりで、、、私の白いドレスは片側べっとりと色づいてしまった。
危うきに気がつかなかったわ。残念。
「ちょっとひどい!あなたがぶつかってくるから!困るわ!私にもかかったじゃない!」
「? ぶつかっていらしたのはあなたですわよね?」
「ひっ!そうやって罪をかぶせてくるなんて!今まで何人陥れてきたのですか!?」
すっとノイワット様が私の横に立った。
「アデラは今日初めて夜会に出たのに陥れるなんてできないだろう。むしろおまえが陥れたのだな。
随分離れた所から走ってここまで来たようだ。あの給仕も仲間か。」
ノイワット様は、チラリと近くの侍従に目配せをした。
「おまえもあの給仕も正式に抗議する。」
おもむろに近くの給仕から赤ワインをぶんどり、令嬢の腰の辺りへばしゃり。
「「「「!!!!!!」」」」
「これくらい勢いを付けないとああはならない。どういった運動神経だ?手か?足か?どこが繋がっていないのだ?
というか粗相をしてさらにののしることができるとか、その頭は何が詰まっているのだ?
是非解剖したいね。処罰相当になったら私の研究室へ回してもらうよう法務局へ申請しておくので、そのつもりで。」
「「!!!!!!!」」
「あぁ、心配召されるな。命まではかける必要はない。保証しよう。」
「「「「「「!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
「ノイワット様、命の保証が必要な罰ですか? それに解剖は一般的ではないので驚かれますよ。
まだお魚やネズミさん程度なのですから、段階を踏んでからですよ。せめて牛さんや豚さんで練習してからです。」
「まどろっこしいな。」
「本当に人体へのご興味があるようでしたら、、、いくつかツテを頼りますのでお待ち下さいませね。」
「あるのか。よろしく頼む。」
「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」
「だからドレスが染まったくらいで解剖はなしにして下さいませね。」
「ふん。せっかくのチャンスだが、まぁいい。」
「「(ジョヮッ)」」
「それにダンスも沢山ノイワット様といたしましたわ?」
もう退出しても良いかもしれない、と言わなかったけど通じたかな?と小首をかしげれば、ノイワット様の頬にほんのりと朱が指す。
「アデラ、失礼するよ。そして、兄上、今日は諸事情でお暇するとお伝えください。」
屋敷の者が給仕と令嬢を拘束しているのを横目にさっと私を横抱きにして簡潔に伝言をする。
なんと!ノイワット様、ノイワット様!スゴイです!伝言を依頼するとか高等テクニックが使えるようになったのですね!
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そこじゃねぇ!
ノイワット様人気で嫌がらせされているとか、ノイワット様が独占欲ぎらぎらでそばにいるとか、、、
つまり今日付けている宝石がリボンがノイワット様の瞳の色で、髪の色で、とか。
エスコートはそもそもノイワットがしたかったのにアデラの家族に遠慮しなくちゃならないと聞いて我慢はしたけど仕切れなくて。
アデラ父はエスコート権をもぎ取ったにもかかわらず、ぎらぎら視線に耐えきれずに震えてアルベルトに譲ったとか。
外野に新しい相手を用意されそうになっているのにアデラはいやがるそぶりもないとか。
もうホント、ノイワットはいっぱいいっぱい。
なんでそんなになっているって?
気がついたらアデラがそばにいて、心地よくて
誰にも分かってもらえなかった自分の理解者で
さらには、他者との差異を埋めてくれるように振る舞っているアデラ。
気がつけばもうメロメロデロデロのベロンベロン。
次回、ノイワットサイド。
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