夜の湖
「俺なんかしちゃったかな。」
給仕の少女が、悲しそうな顔をする。
朝に、そのことを大将に相談した。
「そりゃあ、Fランクに上がったからな。どうなんだ?狩り場がないだろ?」
「確かに、Fランクの狩り場のゴブリンの湖も、Eランクの狩り場のけものの森も人気なんだよな。」
「拠点変えるのか?」
「今のところは、変えることは考えてない。」
「なんでだ?」
「生活できてるからな。」
「でも、上を目指したくなるもんだろ?」
「まあ。」
「あいつなりに別れを感じとったのかもしれないな。」
「…そういうことか。拠点のこと少し考えてみる。」
「そうしろ。そんで、そろそろまた、泊まるなら言え。」
「…とりあえず、3泊追加で。」
俺は銀貨10枚渡す。
「はいよ。夕飯に酒つければいいのか?」
「ああ、それで頼む。」
冒険者ギルドに行く。
受付のおっさんは、相変わらず不人気だ。
俺は、相談を持ちかけた。
「パーティ組むのが、一番いいと思うぞ。それで、昼間にゴブリンの湖の方に挑戦するってのが、常套手段だ。依頼も安全性考えて、パーティに優先に契約するからな。」
「パーティって苦手なんですよ。経験値分配になっちゃうし…。」
「ずいぶんな奴だな。じゃあ、南東に3日歩いたところの廃坑はどうだ?泊りがけだが、FランクからDランクまでのモンスターが出る。常設依頼だ。」
「もう宿取っちゃってるんだよ。」
「面倒くせえな。じゃあ、夜に出てモンスター狩りに行くのはどうだ?」
「夜に出れるのか?」
「出れるには、出れるが、普通はそんなことしない。夜は、モンスターが凶暴になるからだ。夜行性ってわけじゃないんだがな。」
「夜か…。」
「よく、考えな。あー、あと、夜は、街の門もしまってるから朝まで、帰れない。」
「わかった。」
とりあえず、どんな感じか、ゴブリンの湖に行ってみよう。
歩いて、西門から3時間。
ゴブリンの湖。
周囲を空間把握で見てみると冒険者だらけで、とてもじゃないが、ゴブリンを狩れる状況ではない。
13組の冒険者がみんな索敵しながら、ゴブリンを探している。
冒険者同士の妙に気を使った動きは、
狩り場の暗黙の了解みたいなものもあるのかもしれない。
これは、ダメそうだな。
湖の中も、普通っぽい魚しかいないようだった。
何なら釣りして魚持ち帰った方が、金になる気がする。
湖にも管理人のおじさんがいるようだ。
一応、声をかけておこう。
「はじめて来たのか。ここらへんでは、ゴミ捨てて帰るのは犯罪だから注意しろよ。」
「ゴミ?」
「折れた剣とか着れなくなった服とか、ゴブリンが拾うと危険だからな。」
「あー。そういうことですか。」
「それ以外は好きにやればいいさ。あとは、他の冒険者と揉めたらここに来なさい。」
「わかりました。」
『夜に来ますか?』
そうだな。
『私は関係ありませんが、夜目のスキルはあった方が良かったですね。あと武器と明かりになりそうな道具を買っていきましょう。』
武器か。
『シールドの魔法で守っている間に攻撃出来るような武器がいいですね。』
槍の方が良さそうだな。
ギルドでお金を下ろす。
武器屋に行く。
小金貨3枚で、初心者用の中でも丈夫に出来ている槍を買う。
その後、ポーション屋に行き、低品質の魔力回復ポーションを小金貨1枚で買う。
最後に魔道具屋に行き、ランタンと替えの魔石を買う。
小金貨3枚した。
貯金は、一気に小金貨2枚に減った。
全て収納にしまいこんで、昼食を適当に露天で済ませ、宿に戻る。
体を浄化してすっきりさせて、部屋で寝る。
起きたのは、17時くらい。
門は19時で閉まってしまうらしい。
大将に早めの夕飯を頼む。
「今日は、酒はいいや。変わりに明日の朝にくれ。」
「お前、今から出るのか?」
「今からだな。」
「夜は、やべえってから気をつけろよ。」
「おう。」
給仕の少女が、心配そうにこっちを伺っている。
俺は、軽く微笑み、手を振った。
今日は角ウサギのクリームシチューと薬草パンだった。
さて、頑張るか。
西門へと急ぐ。
間に合った。
俺は、外に出る。暗すぎて何も見えない。
空は、きれいな星空が広がっている。
これは、最高だな。
『足元には気を付けてくださいね。』
ランタンを持って歩いていく。
途中で、スライムに3回ほど襲われ、撃退した。
『前方1kmに湖です。』
じゃあ、もうここらへんはゴブリンが出るのか?
『そうですね。空間把握では、すでにたくさんの反応があります。あ、挑発のスキルとかもあっても良かったですね。ちょっと群れに毒霧を当ててみます。あ、いい反応ですね。6体くらいこっちに来ますよ。』
ゴブリンは鬼気迫る勢いで、俺のところにやってきた。
よだれを撒き散らしながら噛みついてこようとしてくる。
シールド3枚がゴブリンの攻撃を完全にガードしているが、ガンガン殴ってきている。
『槍をお願いします。』
俺は、異空間収納から槍を出す。
『小金貨3枚分なので、絶対落とさないでください!』
俺は、槍をしっかり握り、ゴブリンの1体に刺す。
暴れるゴブリン。
これ、思ったより体力がいる。
それに気分悪い。
ともかく、つきまくる。
シールドも1分くらい使っただろうか。
なんとかゴブリンの群れを倒せた。
とりあえず、ゴブリンを異空間収納に入れる。
ゴブリンは、血、骨、肉、魔石どれも錬金術の素材らしいので、1体銀貨3枚くらいだそうだ。
6体いるので、これで銀貨18枚くらいだろうか。
お金にはなるが、経験値はそれほどではない。
レイスホールと同じ位の経験値だ。
『次行きますか?』
それから、休憩をはさみつつ、5回ほど群れを相手にした。
35体倒してレベルが3上がった。
夜の目LV2をとり、異空間収納をLV4まで上げる。
『ポーションがありますから、おかわり行けますよね!』
魔力を回復して、さらにゴブリン退治を行う。
さらに6回戦闘を終え、レベルは3上がる。
異空間収納をLV5に、さらに解体LV1、異空間収納内解体LV1を取る。
そんなことしてる間にもう朝になっていた。
湖で水浴びする。
風呂がないから久しぶりの水浴びだ。
宿でも浄化ばっかりだったからな。
こっちに、風呂っていう文化はないから仕方ないが…。
井戸はたくさんある。
だから、よっぽどの人は井戸で水浴びしているようだ。
女性しか行かない井戸もあるので、俺も注意されたこともある。
苦い思い出だ。
まあ、それはいいとして。
異空間収納内解体を取ったのでそのうち、収納の中でゴブリンが解体できるだろう。
ゴブリン80体近く結構な金になるに違いない。
門に戻ってくる。
すれ違う冒険者たち。
多分、今からゴブリンの湖に向かうのだろう。
頑張れよー。
と心の中で言っておく。
あくびが出る。
ああ、眠くなってきた…。