第92話 大型コラボに備えた雑談配信
と言う名の説明回
「皆さんこんばんは、トワイライトのオーマ=ヴィオレットです! 今日は事前にSNSでお伝えしていた通り、いくつかお知らせがあります!」
〔こんばんはー!〕
〔こんばんは!〕
多くのダイバーを招集した大規模コラボを控えた水曜日。
今週も19時きっかりに始まった雑談配信にて私が挨拶をすると、待機してくれていたリスナー達がそれぞれ挨拶を返してくれた。
〔お知らせってやっぱり例のコラボの事?〕
〔あれ気になってた!〕
「そうですね……気になっている方も多いようですし、先ずはそちらの事から話していきましょうか」
中にはSNSで少し触れた『お知らせ』について予想をしてくれていたコメントもあり、折角なのでその話題から先に伝えるべく雑談配信ではすっかりお馴染みとなったスケッチブックのページを開いて画面に映した。
そこには『大規模コラボメンバー発表!』と書かれたロゴの下に、土日に分けて合計40名の名前が並んでいる。
「早速ですが、今週の土日配信でコラボするメンバーが決まりました! 皆さん多くのご応募ありがとうございます!」
〔おお!〕
〔もう選び終えたのか。お疲れ様〕
〔ヴィオレットちゃんもお兄さんもお疲れ様です〕
〔恋ちゃん居るやん!〕
〔OKAサーファーさんも来るんか!〕
〔土曜メンバーにラウンズ6人、飯テロ4人か。なんかメンバー偏ってる気が…〕
〔同じクランのメンバーは出来るだけ同じ日に固まるようにしてるのかな〕
〔土曜参加の通知来ましたッス!当日はよろしくお願いします!〕
〔恋ちゃん!〕
発表されたメンバーに関する感想に目を通していると、丁度当事者からのコメントが流れてきたので早速拾う。
「あ! 高野恋さん、挨拶に来てくれたんですね。はい、良い配信にしましょうね! ──もうお気付きの方もいるようですけど、御覧の通り同じクランのメンバーはなるべく同じ日になるように振り分けてます。やっぱり慣れた相手がいると連携も取りやすいでしょうし、その分安心感も高まりますからね」
何より今回のコラボの目的は下層の探索経験を積んでもらい、ダイバー全体の実力の底上げを図る事にある。
クランの中に探索した経験があるメンバーが複数人いれば、更にそれぞれのクランで新しく下層に挑むダイバーのサポートもしやすくなるだろう。
理想としてはそうやってクランの仲間をどんどんと下層に慣れさせ、より多くのダイバーが下層探索が可能なレベルに到達してくれれば言う事無しだ。……まぁ、経歴的にまだ新人ダイバーの私があまりこういう事を口にすると『生意気』とか言われかねないので、この辺の事情は胸の内に秘めておくのだが。
〔なるほどね〕
〔これって参加者にはもう連絡行ってる感じなのかな?〕
「お察しの通り、コラボの合否に関する結果はその都度本人にお知らせしています! また現時点で報告が来ていないダイバーさんは、来週以降のコラボに参加して頂く事になるかも知れませんので、引き続きお知らせをお待ちください!」
〔準備とか必要だしね〕
〔事前の連絡は大事〕
〔来週分もか…一体どんだけ募集来たんだ…〕
〔まだ希望はあるって事ね〕
〔今の内に強くなって募集要項満たせば間に合うかな〕
「あっ、無理したら駄目ですよ。今回のコラボで下層に慣れたダイバーさんに付き合って貰う方法もあるんですから」
お知らせをしている途中で視界の端にやや不穏なコメントを見つけたので、咄嗟に釘をさしておく。
こういうコメントを放置していると一部のダイバーが無理に強くなろうとして怪我をしたり、最悪の事態を招きかねないからな……これだけでフォローになるとも思えないので、後でSNS等でも注意しておくとしよう。
──っと、そうだ。ついでに『あの事』についても伝えておこうかな。
「そういえば、募集要項を満たしていない方からのご応募は残念ながらNGとさせて頂きました。こちらの方についても結果は既に通達済みです。今回のコラボは一定以上の実力が無いと本当に危ないので、要項の確認は是非ともお願いしますね!」
〔やっぱりそんな奴も居たのか〕
〔残当〕
〔要項読まずに送るなよ…〕
〔自殺行為にもほどがある〕
〔迷惑な奴もいるんだな〕
その後も選出されたメンバーについていくつかの補足を入れていき、なるべく参加が確定したメンバーに妙なヘイトが向かないようにフォローを入れる。
そして、このコラボ企画が今週だけで終わるものではない事を最後に補足し、次のお知らせに移る事に。
「コラボはしばらくの間する予定ですので、引き続きご応募お待ちしております! ──さて、コラボに関するお知らせに続いてもう一つ発表があります」
そう言って画面に映していたスケッチブックを一旦隠し、内容がまだ映らないように注意しながらページをめくる。
そして『重大発表!』とでかでかと書かれたページを画面に翳した。
〔お?〕
〔重大発表!?〕
〔まだ何かあったっけ?〕
発表の内容に見当がつかず、あれこれと想像を巡らせるリスナー達。
それもその筈。この話題は世間一般では今のところ私しか知らない内容なのだから。
「今週の土曜……丁度コラボ配信の初日から、3月になりますよね。月が切り替わるこのタイミングで私を含む『攻略最前線』の各クランが保有する『バンク』に協会や国からの支援が届くのですが、それに関して一部私に協会から直接情報が来ておりまして……配信でお伝えする許可を頂けたので、この場でお知らせします!」
〔おお!〕
〔ついに支給品が来るのか〕
〔でもなんでヴィオレットちゃんだけに?〕
「なんと……ついに私が納品した『下層の樹木』を素材とした、武器やアイテムの試作品が完成しました! 来月一日に支給されるラインナップにそれが含まれるそうです!」
発表と同時にページをめくると、例の白い樹の枝が様々な武器になる事を表した絵がカメラに映された。
〔おお!ついに完成か!〕
〔楽しみ!〕
〔どんな武器!?〕
〔いや、絵のクオリティw〕
〔画伯ゥ…w〕
「画力に関しては今はどうでも良いでしょう!? ──コホン、内容については私も知らされていませんが、各未踏破ダンジョンの攻略最前線に送られる内容は同じだそうです」
実際どんな武器があの樹に向いているのかは私も良く分かっていない。
ただ魔力の通りが抜群に良いのは間違いないので、魔法を扱うジョブやエンチャントと相性が良さそうな気配は感じていた。
まぁ、あくまで木製なので、強い魔物相手だとその辺が扱いにくそうではあるが。
そう考えているのは私だけではないようで、コメントの中には例の樹木を使った武器に関する疑問の声も寄せられていた。
〔木製の武器って下層の魔物に効くのか?〕
〔確かに装甲持ってなくても表皮硬い魔物も多いよな…〕
〔剣の持ち手や槍の柄が変わったところでなぁ〕
〔まぁそれを試す為に試供される訳だし〕
〔実際に触った事があるヴィオレットちゃん的にはどんな感じ?〕
「え? そうですね……体感としてですが、魔力の通りとか良さそうだったので杖のような魔法系ジョブ向きの武器なら相性良いのかも? その場合、コラボに参加してくれた中から魔法系ジョブのダイバーさんの誰かに試して貰おうかなと思ってます」
〔杖かぁ〕
〔確かにヴィオレットちゃんって攻撃する系の魔法持ってないっぽいもんなぁ〕
〔何はともあれ今度の配信で早速見れるかもしれないのか〕
〔杖になるのか……本格的にコンセプト定まったら、素材持ち込みで作ってもらえるんだよな…木の枝とかも今の内に集めておいた方が良さそうかな?〕
「あ、勿論参加してくれた人達が木の枝を採集する時間は取るつもりですので、同じクランの方が参加できた場合は取ってきて貰うのもありですね。何なら私の代わりに納品依頼を達成してくれても構いませんよ~」
〔あの森のトラウマを考えるとそれはちょっとなぁ…w〕
〔まだどんな武器が向いてるのかわかってないけど、とりあえず武器一つ分くらい確保しておきたいな〕
〔誰か売ってくれないかなぁ…〕
〔やめとけやめとけ、絶対吹っ掛けられるぞ〕
〔それよか知り合いに依頼して下層探索に付き合って貰う方が遥かに安上がりよ〕
〔と言っても今のところ渋谷ダンジョンの下層以外で入手不可能だしなぁ…〕
〔協会早く人工栽培も成功させてくれー!〕
(──っと、とりあえず報告する事はこのくらいかな? 今の時刻は……19:24か。もうそろそろ雑談配信の時間も折り返しだな……)
新しく作られる武器の話題に俄かに盛り上がるコメントを他所に、チラリと壁に掛けられた時計を確認する。
このまま武器やコラボの話題でトークを続けるのもいいけれど、そればかりだとダイバーではないリスナー達が退屈だろうし……
「それではお知らせも終えましたし、そろそろ本格的に雑談に移りましょうか」
そう前置きして、最近身近であった事を中心に話題を広げる。
……まぁ、最近は私も『俺』もコラボメンバーの選出に時間を取られていたので、あまり多くの話題は持っていなかったのだが、その分お知らせで時間を使った為配信はその後も滞りなく終えられた。
「──それでは、次回の大型コラボで会いましょう! オーマ=ヴィオレットでした! ごきげんよう!」
〔ごきげんよう!〕
〔ごきげんよう~!〕
〔ごき!〕
……
「──ふぅ……さて、配信も終わりましたし、引き続き応募してくれたダイバーについて確認していきますかね……」
配信がしっかり終了している事を確認し、動画サイト『My Tube』を開いて『俺』が纏めておいてくれたダイバーの配信アーカイブを確認する。
私がこの世界に来るよりも前からダイバーを続けていた『俺』だとしても、流石に渋谷ダンジョンに潜るダイバー全ての実力や進行度を把握している訳ではない。
どうしたって名前が話題に上らないダイバーも居るし、そういうダイバーに関しては配信を直接見なければコラボの募集要項を満たしているかが分からないのだ。
(……この人は、割とちゃんと実力はあるな。性格も穏やかだし……これなら来週のメンバーに入れても良さそうかな)
私がとあるダイバーの配信を確認していると、玄関から魔力の反応が感じられ……それと同時に声が聞こえた。
「ただいま~……ふぅ、疲れた……」
「おかえりなさい。兄さん」
「おう……なんか、未だに慣れないな。部屋の中でもその呼び方されるの」
疲れた様子の『俺』が腕輪の転送機能で帰って来た恰好そのままに、テーブルの傍に腰掛ける。
その恰好は普段着とは異なり、上半身を金属製のプレートで守っていた。
「今の内に慣れておいてくださいよ。当日になってギクシャクしていたら変でしょう?」
「まぁ、な……」
「それで、どうです? 行けそうですか?」
「ああ。ここ数日で大分勘は取り戻せた。ドローンカメラも買ってあるし、まぁ問題ないだろ」
装いから分かるように、彼は今ダンジョンから帰ってきたところだ。
それも中層。当然、その理由は──
「そうですか……それでは約束通り、当日は共に探索を頑張りましょうね。兄さん」
「ああ」




