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第81話 厄ネタの宝石箱

投稿少し遅れました!

「ギシャアアアァァァァーーーーッ!!!」


 腹に開けられた大穴……そこから噴き出す高温の体液は、おそらく蜘蛛の糸の原材料だったのだろう。空気に触れた事で凝固したそれは、白くねばねばしたとりもちのような物質になってこちらへと飛んできた。


「──っと、危うく捕まるところでしたね……!」


 咄嗟に回避行動をとれていなければ、私は今頃あの高温のとりもちに捕らわれて身動きを封じられていた事だろう。

 私が安堵のため息をついている間にも、溢れ出したとりもちは蜘蛛の腹の一部を覆うように広がり、その体を焼く。

 私の攻撃と浸食する闇の魔力による激痛に加え、体表と体内からも灼熱のダメージを負う大蜘蛛は錯乱し……やがてその脚が天井に広がる蜘蛛の巣から離れた。


「クリムさん! 大蜘蛛が落下します! 注意を!」

「! はい!」


 私がクリムに注意を呼び掛けた直後、巨大蜘蛛の脚は蜘蛛の巣から完全に離れ、脚を畳んだような姿勢で高さ約50mの巣から落下を始めた。

 チラリと地上の様子を見れば、クリムが手元に残っていたカラーボールを使って作り出した安全地帯で、槍を構えているのが見えた。


(──!)


 その構えから彼女の狙いを理解した私は、風を纏った靴で空気を蹴る事で周囲の蜘蛛型魔物が放ってくる糸を躱しながら、落下する巨大蜘蛛に接近する。

 奴は今ゆっくりと回転しながら落下している。着地までのわずかな時間に体勢を変え、弱点である腹部を地面の蜘蛛糸の絨毯に隠すつもりなのだろう。だが──


「──させません!」

「グギッ……!」


 その途中、風を纏ったレイピアで攻撃する事で奴の回転を途中で止める。

 これで巨大蜘蛛の狙いは阻止できた。いや、それどころではない。私が攻撃したタイミングは丁度……


「感謝します、ヴィオレットさん! ──【乾坤一擲】!!」


 私の攻撃によって巨大蜘蛛の腹は、丁度クリムの方を向いた状態で固定された。

 その瞬間、投擲スキルによってやり投げの要領で放たれたクリムの槍。

 ……多分クリムも【投擲】スキルを持っていたのだろう。複数のスキルと共鳴した【エンチャント・ヒート】が、目も眩む程の輝きとなって巨大蜘蛛の胸部を貫いた。


「ッーーーーーーーーーーー!!!」


 声にならない断末魔が空気を揺らし、巨大蜘蛛の全身から力が抜ける。

 巨体はそのまま蜘蛛糸の絨毯にボスンと落下し……その全身が燃え上がると、地面の蜘蛛糸も発火し始めた。


「……えっ!? ちょ、え? なんで燃え……っ!?」

「──クリムさん、手を!」

「あ……はい!」


 今まで火を寄せ付けなかった蜘蛛糸が突然発火し始めた事で慌てるクリムの元へと急いで近付き、私は手を伸ばす。

 混乱していたクリムもそれに気付くと、直ぐに私の手を取り、強く握りしめた。




「──そろそろ良さそうですね……」

「助かりました、ヴィオレットさん……ありがとうございます」

「いえいえ、私も予想しておくべきでした」


 あの後空中を蹴って通路へと逃げ込み、背後から迫る炎に追われながら走ること数十秒。

 蜘蛛糸に覆われた通路を抜けたところで休息していた私達は、通路を覆っている蜘蛛糸がぼろぼろと崩れだした事で安全そうだと判断し、再び巨大蜘蛛が居た部屋へと歩き始めた。


「うーん……なんであの糸、急に燃え出したんでしょうか……」

「あぁ……多分、あの蜘蛛が何かしらの能力で糸を守っていたんでしょうね。それがあの蜘蛛の死によって維持できなくなった……そんな感じでしょう」


 実際は巨大蜘蛛の魔力が糸を保護していたのだが……一般的な人間は魔力を感じ取れないっぽいからな。人間らしく振舞うため、そんな説明に留める事にする。


〔¥50,000 ボス蜘蛛討伐おめでとう!〕

〔¥50,000 クリムちゃんもおめでとー!〕

「あ、プレチャありがとうございます!」

「ありがとうございます! と言っても、私はほとんど周りの蜘蛛を倒してただけでしたけど……」

「いえ、クリムさんのおかげでとても戦いやすかったですよ。それに、最後に止めを刺したのはクリムさんのスキルだったじゃないですか」

〔だよね~〕

〔ヴィオレットちゃんもこう言ってるぞ〕

「えへへ……そう言ってもらえて嬉しいです! まだまだ強くなる予定ですので、これからも応援お願いしますね」

〔ずっと応援するよー!〕

〔まだまだ強くなるのか…ダイバーの先輩として追いつかれないように頑張らなきゃな〕

〔↑もう周回遅れやで〕


 戦いが終わったと言う事で再び表示したコメント欄も含め、和気藹々とやり取りを交わしながら通路を歩く。

 やがて最後の角を曲がり、蜘蛛の糸もすっかりなくなった部屋に戻って来た私達の目に映ったのは──


「え……?」

「これは……ちょっと情報量が多すぎますね……」


 足元に転がる小さな魔石を一つ、拾い上げながら部屋の異様な光景に頭を悩ませる。


〔コメント止まってるな〕

〔皆何から触れるべきか迷ってるんやろ…〕


 先ず第一に目に入るのは、大量の魔石の山だ。

 天井の蜘蛛の巣の中にあの巨大蜘蛛が産み落とし、そして隠していた卵とも呼べるそれが部屋中に降り注いだのだろう。

 幅と奥行きそれぞれ30m程の部屋一面に、きらきらと光を反射する魔石が公園の砂場のように広がっていた。

 そして、倒した巨大蜘蛛が落下した場所には、いつかのダンジョンワームから出てきたような巨大な魔石と……それに寄りかかるようにして存在感を放つ、一本の槍……


「えっと……この槍って、もしかして……?」

「そう……ですね。他にそれらしい物も見当たりませんし……多分、それがクリムさんの槍です」


 それは、彼女がこれまで使っていた物とは明らかに異なる姿になっていた。

 槍の穂先は燃えるように赤い緋色に染まり、フランベルジュのように波打っている。そして柄の部分はやや短めになっており、石突からはワイヤーが伸びているようだ。

 確認するように私を見るクリムに首肯を返すと、彼女は恐る恐ると言った様子で、魔石の山から新生した自身の槍を引き抜く。

 周囲の魔石が反射する光に照らされたその姿はどこか、伝説の剣を引き抜く物語のワンシーンのようにも思えた。


「暖かい……! これって、魔槍ですか!?」

〔魔槍!?〕

〔クリムちゃんが使ってたのって鋼鉄製の市販品だったよね!?〕


 クリムの発言にコメントが加速しているのが見える。

 今頃彼女の配信はきっと、私が初配信で【エンチャント・ヒート】をお披露目した時のように盛り上がっている事だろう。


〔普通の槍が魔槍に変化する事ってあるのか…?〕

〔今までそんな話聞いた事無いんだけど…〕

〔これってさ…もしかして、エンチャント関係してる…?〕

(あぁ……なんか嫌な予感してきたなぁ……)


 私の配信のコメントにあまり良くない流れが生まれつつある……。

 具体的には、私のエンチャントの価値が暴騰する気配だ。

 だってそうだろう。エンチャントしてもらった武器で強い魔物を倒した結果、それが実質ユニーク武器に変わった……そんな光景が配信に乗ってしまったのだから。


〔地方在住わい、渋谷ダンジョンに行くことを決意〕

〔配信前のヴィオレットちゃんに話しかければエンチャントして貰えるんだよな…〕

〔裏・中層の魔物ってどれが強いんだろ……〕

「え……えーっと、皆さん? 何もクリムさんと同じ事をすれば同じような武器が手に入るとは限りませんよ? そ、その証拠にほら! 私の武器! 巨大ダンジョンワームを倒したのもこの武器でしたが、今もちゃんとローレルレイピアのままです!」

〔確かに…〕

〔違いは何だろうな〕

(あぁ、駄目だ……諦めるんじゃなくて、どうすれば同じ結果になるかの考察が始まってしまった……!)


 正直に言うと……私には原因が解ってる。

 確かに私の魔力がエンチャントと言う形であの槍に宿っていたのも原因の一つだろうが、肝心なのは別の要因だ。

 あの槍は巨大蜘蛛が倒された時にその体に突き刺さっており……──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その為、巨大蜘蛛の魔力のほぼ全てがあの槍一本に流れ込み……魔力の性質によって変質──つまり、レベルアップしたのだ。

 魔力の持つ性質は生物の意志に強い影響を受ける事から、本来非生物に影響を与える事はあまりないのだが……極端に濃い魔力はその例外である。【聖域】がその最たる例だろう。

 なので炎をイメージしたようなあの姿は私のエンチャント・ヒートが原因だと考えていいが、それ以外は私の所為ではないのだが……こんな事いくら説明しても妄想として片付けられるだけ。

 ……これは非常にまずい。


(もしかして……これ、何かしら手を打たないと炎上するのでは……!?)


 こうして私は頭を抱える事になってしまった。

 この部屋に存在する、『もう二つの厄ネタ』を前にして……

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 別に狙った訳ではないですが、結果的に武器進化なんてミラクルが起きてしまったのはちょっとまずいですね…絶対活動し難くなりますし。 まぁ一つだけプラス要素があるなら、同じような状況を…
トワイライトにゆるキャラ枠で入りそうなクリムちゃん? ソーマはトーク枠で
誰相手でも割と苦戦してるのとクリムさんがすぐ成り上がってるので主人公が話が進むほど思ったより強くないんだなあって印象に。
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