正月番外編 書初めクイズ配信
皆様、あけましておめでとうございます!
クリスマスが水曜ならそりゃ正月も水曜だよなぁ…と気が付いたので番外編です。
出来れば昨日の内に投稿したかったのですが、流石に時間が足りませんでした。
「──新年あけましておめでとうございます。今年もいつもと変わらぬオーマ=ヴィオレットをよろしくお願いいたします」
普段とは異なり、水曜日の昼からの配信となった1/1。
私はいつもよりも令嬢らしさを意識し、楚々とした物腰で一礼。新年の挨拶とともに、今日の配信が始まった。
〔あけおめ~!〕
〔¥10,000 お年玉〕
〔和服だー!〕
〔¥30,000 お年だm着物やったーーーー!〕
〔いつもと変わらぬ…?〕
〔¥10,000 あけましておめでとうございます〕
〔¥50,000〕
「あ、お年玉プレチャありがとうございます。はい、今日はお正月なので着物での配信ですよ。どうです? 似合いますか?」
早速今の私が身に着けている服に触れてくれるコメントを見つけたので、カメラの距離を調節して全身を配信に映す。
今日は正月。『一年の計は元旦にあり』と言う言葉に倣い、今年こそは『蛮族』『ゴリラ』と言うイメージを払拭し『令嬢』として彼らの眼に映るように、落ち着いた表情と振る舞いを意識する。
今回の衣装はその一環としてレンタルした和服で、色合いは鮮やかな寒色系の落ち着いた柄の物だ。コンセプトはまさに私の目指すイメージでもある、『クールで落ち着いた令嬢』と言ったところだろうか。
〔かわいい〕
〔綺麗〕
〔普段とのギャップが良いね!〕
〔まるで令嬢のようだ…〕
「『まるで』じゃないが!? あっ……」
〔草〕
〔草〕
〔「あっ」ってw〕
〔初笑いをありがとうw〕
〔露骨に繕ってたキャラが一瞬で崩壊してて草〕
正月だというのにまるで普段と変わらない様子のコメントに感化され、すっかりテンションは元通りだ。
がっくりと肩を落とし、ため息を吐く。
「はぁ……もう少しで令嬢として再スタートが切れたというのに……!」
〔無駄だよ〕
〔もう諦めよう〕
〔それは無理だよ…Go○gle先生のサジェストもそう言ってる〕
「サジェストの話は止めませんか?」
なんで『オーマ=ヴィオレット』って打ったら第一候補に『ゴリラ』が付くんですかね……
「気を取り直して……今日はせっかくのお正月と言う事で、それに因んだ企画をやっていきますよ!」
〔おー!〕
〔餅つきでもやるんか?〕
「流石に室内で餅はつけませんよ。なので、今日やるのは──これです!」
声を張ると同時にカメラのアングルを操作。
今まで意図的にアングルから外していた、部屋の床をメインに映す。
そこには白い長方形の紙が何枚か用意されており、その近くには硯と筆。そして墨汁が置かれていた。
正月にこれらのセットが意味する物と言えば──
〔なるほど書初めか〕
〔何書くの?〕
「ご想像の通り、今日の企画は書初め! 私を表す熟語を書いていきますので、解った方はコメントで回答してください!」
〔クイズ番組で見た事ある奴か〕
〔ヴィオレットちゃんを表す熟語か…〕
紙や筆のサイズは書道家がよくパフォーマンスで使うような巨大な物ではないため、インパクトには欠けると思うがこればかりは仕方ない。あんなもの用意するのも簡単じゃないし、そもそもちゃんとした会場も抑えなければ大惨事が待つ事請け合いだ。
いくらめでたい日とは言え、個人の企画で使うものではない。
「さぁ、先ずは一枚目です! 一画ずつゆっくり書いていきますので、解った時点で回答してください!」
〔把握〕
大体のルールは伝わったようなので、先ずは一画書いてみるが……
〔流石に斜めに払っただけじゃわからん〕
〔候補多いもんなぁ〕
「それもそうですね。では早速二画目です!」
続いて先ほどの払いの対になるように、もう一画払いを書いて『ひとやね』と言う部首が完成する。
〔結構候補絞られてきたか…?〕
〔まだわからんなぁ〕
「? えっと、ヒントとして『私を表す熟語』ですよ?」
しかし、中々回答するリスナーは現れない。
おかしいな……プロフィールにも書いている筈なんだけど。
まぁ、こういうのって案外回答者の側に立ってみればわからない事もあるからな……
「では次の一画は──こうです!」
先ほど書いた『ひとやね』の下に、まっすぐな横線を書き入れる。これで大体伝わったと思うが……
〔「会心の一撃」?〕
〔それだ!〕
〔正解出ちゃったかぁ〕
「いえ、違います。ひらがなは入りません」
〔!?〕
ちょっと待て……まさかこいつら……
〔おいおい、ここには言葉を知らないリスナーしかいないのか?「今是昨非」(こんぜさくひ)だろ。『今、昨日までの過ちに気づくこと』を指す言葉だよ〕
〔なるほど~〕
〔勉強になるなぁ(棒〕
「『勉強になるなぁ』じゃないが!? 皆さん解った上で外してますよね!?」
〔まさかそんな事する筈ないやろ〕
〔俺らを信じてくれよ…〕
(じゃあ『(棒』は何だったんだよ……!)
湧き上がるツッコミ衝動を抑えつつ、こんな事もあろうかと用意しておいた秘策を実行に移す事にする。
……正直これをやるとワンパターンになりそうで嫌だったんだが、このままでは企画にならないので仕方ない。次のこう言うイベントまでに、違うパターンを考えておかないとなぁ……
「仕方ないですね……。では最初に正解を書いた人には、クリスマスの時と同じようにセリフのリクエストを──」
〔令嬢〕
〔『令嬢』〕
〔答えは令嬢〕
〔令嬢〕
〔「令嬢」〕
〔お前らwww〕
「やっぱり解ってたんじゃないですか!」
〔急に降りてきたんよ〕
〔閃き…って言うのかな、こういうの〕
ホントこいつらは……
「く……っ! まぁ良いですよ。リクエストは受け付けましょう……──ただし!」
「どうも。獅子舞です」
〔あっ〕
〔おけ、把握〕
〔変なセリフはNG。理解した〕
画面の外に待機していた『俺』に合図を出すと、獅子舞の被り物をした『俺』が配信に入ってくる。
クリスマスの一件から丁度一週間。未だに記憶に新しいこの流れに、リスナー達も瞬時にルールを把握したようだ。
「ではルールに気を付けて、リクエストをどうぞ!」
〔『お兄ちゃん、お年玉、賭けて!』〕
〔アウトォォーーー!!!〕
〔草〕
〔昼間やぞ!?〕
〔正月は昼間から酒飲んでる人も多いから…〕
〔こ、これはあくまでも兄のお年玉を根こそぎ奪おうとするギャンブラーな妹ってシチュエーションだから…!〕
〔考えすぎでは…?〕
〔お年玉(意味深)〕
〔声に出すとやばいパターンで来たか…〕
まさか真昼間の配信でこんなリクエストが飛ぶとは思わなかった。
しかし、今の時間帯は多分小さい子供も多くみている筈……いつものように『俺』に読ませても、教育上よろしくないのは間違いない……だったらここは──
「良いでしょう。少し待ってくださいね……」
〔え?〕
〔良いのか…?〕
〔これもしかして気付いてない?〕
にわかに焦り始めるコメントを他所に、私は喉の調子を整える。そして……
「──『お兄ちゃん……お年玉、賭けて……っ!!』」
ピッ、とカメラに指先を突きつけ、緊張感たっぷりに読み上げた。
〔草〕
〔そ、そうきたかぁ~っ!〕
〔ざわ…ざわ…〕
〔これは健全w〕
〔ざわざわしてきた〕
〔これはこれでカッコ良くていいな…〕
こんな始まりで、今年最初の配信は始まったのだった。
それから何枚かの紙に筆を走らせ、次々に私を表す言葉を書いていく。
『清楚』『冷静沈着』『文武両道』等、書いてきた言葉は様々だが……不思議なことに、セリフリクエストを受け付けるようになってからはこれら全てを二画以内に正答されていた為、予定していたよりも多くの言葉を書くことになってしまった。
「皆さん凄いですね……いくら私の事を表現する言葉と言うヒントがあるとはいえ、この早さで答えを導き出せるなんて……」
〔ヒン…ト…?〕
〔ノイズの間違いでは?〕
〔逆に考えると良く当たる〕
「ん????」
まぁ良いだろう。答えを導き出すまでの過程は人それぞれだ。
しかし、一応今回の企画に際していろいろと言葉は調べてきたが……私自身他の人より特別多くの言葉を知っているという訳ではないので、そろそろ問題のレパートリーも尽きてきた。と言う事で──
「……それでは、次が最後の言葉となります! 一画目はこれです!」
そう言って、やや上の所に点を一つ書く。
〔点一つじゃわからんな…〕
「今回の言葉はちょっと難しいですよ! 何せ私も調べるまで聞いた事もない言葉でしたから!」
〔草〕
〔そんなガチな言葉を問題にすんな!w〕
「仕方ないでしょう! 私だって本当は書かないつもりだったのに、皆さんが凄い速さで正解するからもう問題がこれしか残ってないんです! ほら二画目!」
そう言って先ほど書いた点のすぐ下に、カタカナの『ワ』を潰したような形を繋げる。
〔うかんむりか〕
〔完全無欠?〕
「『調べるまで知らなかった』って言ったでしょ!? はい三画目と四画目!」
うかんむりのすぐ下に、今度は『ハ』を潰したような形を付け加える。これで穴かんむりの形だ。
〔空前絶後!〕
〔空前絶後のおおおおお!超絶怒涛のソロダイバーああああ!!〕
〔脳筋を愛し、脳筋に愛された魔族うううう!〕
〔そう、我こそはあああああ!〕
〔…〕
〔…〕
「──なんですかその間は!? やりませんよ!? それとその熟語も違います!」
こんな時ばかりとんでもない連携力を発揮して……呆れながら五画目に入ろうとしたその時、視界の端に一つのコメントが入った。
〔窈窕淑女〕
「! 正解です! 窈窕淑女! 私のようにお淑やかで上品な女性を示す言葉です!」
〔??????〕
〔マジで聞いた事もない言葉で草〕
〔ん?お淑やか…?〕
〔上品…は上品か?一応〕
〔まぁ下品ではないか〕
「私は令嬢。令嬢はお淑やか。なので私もお淑やかです。はい論破」
〔子供かw〕
〔別に令嬢と言う言葉自体にそう言う意味は無いぞw〕
〔近所の小学生と同じこと良いよるwww〕
コメントが何やら言っているが、とにもかくにも既に正解が出た事には変わりない。
早いところ流して、配信の締めに入ってしまおう。
「と、いう訳で、今回最後のリクエストとなります。さぁ、ご希望のセリフをどうぞ!」
〔『こんなオーマ=ヴィオレットは嫌だ』←どんなオーマ=ヴィオレット?〕
「えっ」
あれ、これってまさか……
〔大喜利!?〕
〔今この場で!?〕
〔そう来たか…〕
「えっ、あ……えぇ……っ?」
〔ヴィオレットちゃん困ってて草〕
(ちょっと待って!? 流石にこんなの想定してない!)
急に大喜利をやれと言われてそれを出来るのは、一部の芸人だけなのではないだろうか。
と言うかこれはセリフリクエストと言えるのだろうか……いや、だけどそれを理由に逃げるのは負けたみたいで悔しいし、これ今日最後のリクエストだし……
混乱する頭で何とか導き出した答えは──
「じ……実は本当に魔族だった!?」
〔本当にとか言うなw〕
〔と言うかそのくらいは困らんwww〕
〔それはそれでアリだからなぁ…〕
〔これはやり直しかぁ?w〕
「えっ!? あ、うぅ……!」
思わぬ不意打ちに頭を抱え、カメラに背を向ける。
リスナー達には大喜利の回答に詰まっているようにしか見えないかもしれないが……
(ど、どうしよう……ちょっと、と言うかかなり嬉しいんだが……!?)
〔耳真っ赤やんw〕
〔知恵熱か…?〕
今までも割とそういう雰囲気は感じていたけれど、直接言葉にして存在を肯定されると顔のにやけが収まらない。
そんな状況を一人だけ理解している『俺』が、この場を収めるために口を開いた。
「すまないが、ギブアップだ。普段の脳筋っぷりから分かるように妹は頭の回転は良くないので、大喜利系は勘弁してやってくれ」
「はぁっ!? で、出来ますよ!! 頭良いですしィ!!? すっごくゥ!!」
「……ほらな?」
〔おけ〕
〔得意不得意はある。恥ずかしい事じゃない〕
「り、リベンジの機会を! 来年こそは良い返しをして見せますから!」
「まぁ、こう言ってるので大喜利は来年を待っていて欲しい。代わりのリクエストを頼む」
そう言って私を宥める振りをしながら、『俺』が耳元で配信に乗らない程度の小声で囁く。
「──よかったな」
「……はい」
〔何今の表情かわいい〕
〔ほんと仲いいなこの兄妹w〕
〔こんな妹が欲しかった…〕
獅子舞の被り物から覗く彼の眼が優しくて、ついはにかんでしまった。
一瞬表情から何かを察されないか不安になったが、『俺』が獅子舞の被り物をしていたのが功を奏したのか彼の声は一切聞こえていなかった為、何かしら励ましたようにしか思われなかったようだ。
(だけどマズいな。なんかずっと気分が良いぞ……このままだと何か変なミスをしかねない……!)
と、どうしようもなく浮ついた心を何とか抑えようとしている間に、先ほど大喜利を送ってきたリスナーから代わりのリクエストが届いたのだが……
〔じゃあ大喜利の代わりに『お兄ちゃん、怖い夢見ちゃった…一緒に寝よ?』で〕
「はい、どうぞ。獅子舞さん」
「『お兄ちゃん、怖い夢見ちゃった…一緒に寝よ?』(上目遣い)」
〔ぐあああ!〕
〔今の駄目かああああ!〕
〔最後の最後にこれかあああ!!!〕
〔淡々と兄にパスを回すの草〕
こんな感じの結末になった為、私のテンションは直ぐに平常時の物に切り替わったのだった。
「それでは改めまして、新年あけましておめでとうございます! 次回からはまたいつもの探索の様子をお届けしますので、今年もよろしくお願いいたします! オーマ=ヴィオレットでした! ごきげんよう~!」
〔ごきげんよう~!〕