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第292話 vs魔都⑥

「──ハァッ!」


 立ちはだかる悪魔を両手のデュプリケーターとアセンディアで斬り捨てながら、私は魔都の上空を飛翔する。

 レベルアップの影響で翼の動きは鈍くなったが、両脚に【エンチャント】で纏わせた風を利用して瞬間的な動きをカバーする。


(『オーマ=ヴィオレット』としての戦闘経験が活きたな……!)


 空中を踏みしめるような動きも、それによる立ち回りも、この戦い方を始めた当初より洗練されている。

 そのおかげもあって、直ぐに私の戦闘能力が著しく低下すると言う事はなかったが……


〔ヴィオレットちゃんもしかして翼が動かない?〕

〔悪魔をこれだけ倒したからレベルアップが…〕

〔それだけ人間に近付いてるのか〕


 やはり普段から私の事をよく見てくれているリスナーには、私の動きの変化はまるわかりのようだ。

 誤魔化すのは難しいと判断し、素直に彼等の疑問を肯定する。


「お察しの通りです。……ですが、まだまだこの程度の悪魔に後れを取るつもりは──ありませんッ!」


 そう受け答えをしながら、迫る悪魔を一体、また一体と返り討ちにしていく。

 私が怯むようなことがあれば、その不安はリスナーを通して他のダイバーにも伝播しかねない。今はまだ『強い私』を見せておかなければ。


「──【ストレージ】!」


 腕輪から魔力回復用のポーションを取り出し、飲んでおく。

 まだまだ魔力に余裕はあるが、これは魔力の自然回復速度を高める為の物。こうして予め飲んでおく事で、継戦能力は大きく変わるからだ。


(レベルアップで魔力の最大量が減っても、まだまだポーションはある! 継戦に影響は無い!)


 これも最初から作戦には織り込み済みだ。

 現時点で想定外の事態は起こっておらず、そう言う意味では順調と言える。そんな時だった。


「──キャアアアアアアアアアアアァァァァアァアァァァッ!!」

「っ!? 一体何が……!?」


 魔都の一角から突如として、けたたましい悲鳴が上がった。



「……ここまでは概ね順調だな。皆、消耗は無いか?」

「はい。Katsu-首領-さんとトバリさんのおかげで戦闘も避けられてますから、体力的にはまだまだ余裕があります。ただ──」


 時間は遡り、Katsu-首領-隊。

 彼等は進軍していた路地裏の窓から人気の無い建物に侵入し、そこで作戦の進捗状況を確認するついでに一息吐いていた。

 隊のリーダーであるKatsu-首領-の確認に、ラウンズから配属された女性ダイバーは肯定を返しつつ、しかし一つの懸念事項を挙げる。


「リスナーの方が言うには、我々だけ順調すぎる……との事です」

「進攻ペースがズレている問題か……確かにな」


 他の部隊は遭遇した悪魔の内、避けられないと判断した個体と戦いながらの作戦遂行を余儀なくされていた。

 勿論ここに来るまでの間に彼等も悪魔は数体倒してきているが、その全てが闇乃トバリの暗殺めいた一撃必殺で片付いている。

 他の悪魔からの増援が来る事もなく、それが原因で彼等の隊の進攻は他の三部隊より突出しているのが現状だった。


(あまり先行し過ぎると、ヴィオレットさんが引き付けていない悪魔の大部隊と遭遇してしまうリスクもある……次のチェックポイントが安全そうであれば、そこで他の隊と足並みを揃えたいところだ)


 彼等が足を緩めなかった理由として、最初のチェックポイントに居る悪魔が多かったというものがあった。

 ヴィオレットが大半の悪魔を引き付けていた為、地上付近にいるのは数体程度だったが、自分達の侵入を気取られないことを優先した彼等は迂回路を選択してチェックポイントをやり過ごしたのだ。

 その時点での判断は正しかったという自負はあるが、数体の悪魔がいるチェックポイントを早く離れようとペースを速める原因になったのも否めない。


(消耗している者が居ればここで休むのも手だと思ったが……)


 見たところ誰一人として消耗らしい消耗はしていない。

 元々ダンジョンという暗所での戦闘経験が豊富且つ、レベルアップによって超人的な体力を獲得した者達なのだから、長時間息を殺し続けての行軍程度で大きな疲労が無いのは当然なのだが……


(過度な休憩は緊張感を薄れさせ、逆にパフォーマンスの低下を招きかねない……一息吐くのも、この辺りが潮時か)


 こと戦闘や隠密においてのベストコンディションとは、適切な緊張感に身を置く事だ。彼等の余裕がここに来て裏目に出て来た……Katsu-首領-はそう考えていた。

 Katsu-首領-は逡巡の末、進攻再開を決断。闇乃トバリに外の偵察を頼み、悪魔の気配が無いという報告を受けて窓から外へ出る事にした。




(──!)

──『待て』『前方に』『悪魔』『確認』。


 ここまでに何度も繰り返し、すっかり癖になってしまったハンドシグナルで後続のダイバーに注意を促すKatsu-首領-。

 視界の先の通りに居たのは、私服の悪魔が一体のみ。

 色褪せた灰色の前髪は無造作に伸ばされ、目元は隠されているが、どうやら上空で戦うヴィオレットの方をぼーっと見上げているようだ。

 ……しかし、彼女はあくまでもその光景を見ているだけで、彼女の仲間である悪魔達に加勢するような素振りは見られない。


 背後からその姿を確認したダイバーの誰かがホッと安堵した気配を感じ、Katsu-首領-は一層気を引き締めた。


(あの雰囲気、明らかに妙だ。警戒するに越した事はないな……)


 私服である事から軍人ではないのだろうが、悪魔はそもそも私服だろうと高い戦闘能力とタフさを備えている。

 それなのにまるで戦意を感じさせない彼女の態度が、Katsu-首領-の脳内に妙に引っ掛かっていた。


──『トバリ』『他の悪魔』『確認』


 Katsu-首領-は闇乃トバリの『エレボスの外套』による偵察で、周囲に他の悪魔が居ないか確認させるが……




「──キャアアアアアアアアアアアァァァァアァアァァァッ!!」

「っ!?」

(なんだ、いきなり……!?)


 闇乃トバリが姿を消して離れた数秒後、突如として件の悪魔が悲鳴にも似た咆哮をあげた。

 見れば彼女はヴィオレットの方ではなく街路の一角を見つめており、そこには──


「ッ、しまった……!」


 街路樹として並ぶ白樹の木陰。その中に、偶然にも自身の近くに発生したオーブに照らされ、上半身が浮き上がってしまった闇乃トバリの姿があった。


(トバリが見つかったか! こうなれば止むを得んッ!)

「総員、打って出るぞ! 俺はあの悪魔を仕留める! 他は闇乃トバリの援護だ! 可能であれば身を隠せ!」


 咄嗟にそう指示し、Katsu-首領-はなおも絶叫を上げ続ける悪魔に向かって疾駆する。

 彼が一人で悪魔を倒せると判断した理由は一つ。Katsu-首領-は目の前の悪魔の正体──大元になった魔物が何か、その性質から理解したからだった。


(やはり厄介な魔物だな……──ダンジョンホッパーと言うものは!)


 戦闘能力は皆無である代わりに、生きた警報装置として周囲の魔物を呼び集める……そんな性質を持つ魔物が悪魔になって、要所に割り当てられているのだ。

 直ぐに彼女の声が周囲の悪魔を呼び寄せるだろう。そうなった時、一対多の戦闘が苦手な闇乃トバリでは先ず持たない。それ故の判断だった。


「キィィイ゛ッ゛!!」

「良し……! やはりコイツそのものは弱い──だが……ッ!」


 ダンジョンホッパーの悪魔を、帯電する長剣の一太刀で仕留めたKatsu-首領-。

 直後彼の目に影がかかり──見上げれば無数の悪魔と目が合った。


「侵入者ダッ!」

「殺セ!」


 彼女達が翳す手に、紫電と炎が生じるのを見たKatsu-首領-の行動は早かった。


「──【ストレージ】ッ!」


 左手に持っていた大盾をその場に放り投げ、代わりに取り出した装備を左手で構える。

 それは少し前に倒した軍服の悪魔が持っていた、炎の魔剣であるサーベルだった。彼はこの武器であれば悪魔の炎魔法に対抗できると考え、予備の武器として腕輪に収納していた。それが早速役に立つ時が来たのだ。


「撃てェーーーッ!」


 直後放たれる悪魔の集中砲火。

 殺傷能力が高く、しかもそれそのものが光源となる炎と雷の魔法は、光に照らされた部位が無防備になってしまう弱点を持つ闇乃トバリの『エレボスの外套』では太刀打ちできない。

 しかし、Katsu-首領-であれば……


「ッ! ゥオオオオオオッ!!」


 Katsu-首領-が両手に握る雷の剣と炎のサーベルが、光の尾を引いて振り抜かれる。

 それぞれの刃は自身と同じ属性の魔法へと吸い込まれるように叩きつけられ、同属性の魔力による反発で魔法を相殺。Katsu-首領-の身体には届かない。


「く……ッ、流石にこの数はキツイか……!」


 正確に攻撃の軌道を見抜いてはいるが、二本の武器で対処ができる魔法の数はたかが知れている。

 【マジックステップ】によって身体全体での回避も併用して、後退しながらギリギリ何とか捌けている現状は、一秒後には破られるのではないかという薄氷の拮抗だった。


「──Katsu-首領-さん! こっちへ、早く!」

「ッ、ソーマ……!? 他の皆は!?」

「既に建物の中に避難しました! 貴方も急いで!」


 背後から聞こえるソーマの声を頼りに、魔法を捌きながら後退りをし続けるKatsu-首領-。


「今です! 背後に窓があるので、こっちに飛び込んで!」

「! ああ──」

「──させルカッ!!」


 ソーマの指示通り、背面飛びのように窓から部屋へと逃げ込もうとしたKatsu-首領-。

 その動きを予測して放たれた雷が、正確に彼の眉間を狙うが──


「っ!」

(【インサイト・カウンター】……! やはり、強力なスキルだ……!)


 視認した攻撃に対し、適切な反撃を自動的に返すスキル【インサイト・カウンター】によって迎撃に成功。

 Katsu-首領-が部屋に飛び込んだところで、ラウンズのダイバーがオーマ=ヴィオレットから教えて貰った魔力の盾を生み出す魔法で窓を塞ぎ、追撃を一時防いだ。


「助かった! 感謝する!」

「いえ、Katsu-首領-さんが時間を稼いでくれたおかげです! それで、この後は……!?」

「先ずは奥に向かおう! 魔力の盾もいつまで持つか分からん! この建物の構造を把握し、なるべく有利な状況で迎え撃つんだ!」

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