第287話 vs魔都①
「──皆さんごきげんよう、オーマ=ヴィオレットです。いよいよこの日がやって来ましたね……魔都攻略作戦、決行の日です。」
〔待ってた!〕
〔うおお!〕
〔新装備だ!〕
〔モノクロのドレスアーマーかっこいい!〕
「早速新装備を褒めていただきありがとうございます。この装備に関しても色々とありますが、今回はスムーズな進行を優先したいので後回しにさせてください」
〔悪魔が配信見てるんだもんな…〕
〔少なくともユキは配信見れるみたいだからね〕
作戦の最終打ち合わせを終え、私達は予め通知していた時刻に配信を開始。
今回も形式としては大型コラボという形にはなるが、場所が場所と言う事もあり配信開始の挨拶は各配信でそれぞれ済ませて貰う事にした。作戦開始前に長々と話していては、その間に配信で私達がここにいると知った悪魔に攻められるかもしれないからだ。
リスナー達もそれは知っている為、直ぐに納得を示すコメントが流れ始める。
そんなコメントの中に混じって一つ気になったものがあったので、本題に入る前にそれだけ拾っておく事にした。
〔ヴィオレットちゃん、腕輪の不具合直った!?〕
「三日前の腕輪交換の一件ですね。不具合の修正の為という話でしたが……──【ステータスオープン】。見ての通り、私のステータス表示は変わっていません。少なくとも、協会の言う不具合とはこの文字化けの事ではなかったようです。……何か不具合修正の影響があったという方や、それを知っている方はいらっしゃいませんか?」
この事は交換した当日には確認して知っていたが、当日になったら反映されるのかも知れないと考えてSNSにも発信はしていなかった。
だが、今日も私のステータスは文字化けだらけであり、レベルの表示も『測定不能』……結局どんな不具合があったのか、どう直ったのかは誰も分かっていないのだ。
(これだけ集まったリスナー達の間でもまったく情報が無い辺り、あの通知はやはり魔族の何かしらの目的を果たす為の口実──デマだった可能性が高いな……)
内心ではそう言う結論も出ているのだが、不確定な内容を発信する訳にも行かない。
そもそも社会的な混乱を避ける為、ダイバー協会のトップが魔族である事も知らせていないのだ。
この話題については謎のままで終わらせ、いよいよ本題に入る事にした。
「今回の魔都攻略。作戦は既に参戦者の皆さんと念入りに共有してありますが、リスナーの皆さんにも協力していただきたい事があります」
今回、敵にも情報が渡ってしまうリスクを冒してでも配信という形態をとったのには、彼等の協力を仰ぎたいからという事情が大きい。
魔都は下層程ではないにしろ広大だ。加えて実際に小さな街一つがそこにあるのだから、その進攻の難しさはただのダンジョンアタックとはまるで異なる物となっている。
整備された大通りは見通しが良い分悪魔達からの集中砲火が待っているし、しかし入り組んだ路地裏を攻める事がバレてしまえば地の利を敵に活かされる。
建物内部の構造をこちらが知る事が出来ていないのも辛い点だ。戦場が文字通り敵のホームである以上、情報戦で既に二手も三手も遅れている。
「理想は短期決戦……相手にこちらの情報が行き渡る前に、一気に勝負を決めます。ですから皆さんに作戦の細かな概要は伝えられませんが、いくつかお願いがあります」
そして私は彼等にいくつかの点で協力を呼びかけた。
……これで今度こそ、本当に準備完了だ。この場にいる私達と、リスナーも含めた全員で魔族の計画を挫く。
(出来る限りの準備はした。後は、最善を尽くすだけ!)
「皆さん……勝ちましょう! 何としても!」
強い決意を言葉にすると同時に、私は【変身魔法】を解除。
十五歳程の人間の少女の身体が急速に成長するように変化し始め、肌は青白く染まっていく。
角が、翼が、尻尾が生え、本来の私の種族である魔族の身体に完全に切り替わった。
ここで普通の装備であれば体格の変化について行けず、内側からの圧力で破壊されてしまうところだが……今回あの職人はその問題を解決してくれた。
〔うおお!変身だ!〕
〔ドレスアーマーも大きくなった!〕
〔これドレスアーマーの黒い部分伸びるのか…強度大丈夫なんか?〕
リスナーの心配するコメントが届くが、このドレスアーマーの名は『異界双姿のドレスアーマー』。私が異世界から持ち込んだアルケニーシルクを使って、私の為に作って貰った特注品だ。
外見から分かる最大の特徴はやはり、WD製の甲冑部分が細かなパーツに分かれており、それぞれのパーツを伸縮性の高い黒い生地が繋ぎ合わせているようなデザインだろう。
この黒い生地部分にはアルケニーシルクを分解した糸が格子状に織り込まれている。いわば伸縮自在のチェインメイルのような物と言える。
当然魔力によって強度を増す事や伸縮・操作が可能という性質も健在であり、そのおかげで【変身魔法】による体格の変化にも柔軟に対応させる事が出来るのだ。
私は背中に開けられた生地の隙間から伸ばした翼を広げ、私の最初の役割を果たすべく──洞窟から魔都の上空へと飛び出した。そして──
「──さあ、作戦開始です!」
私が先制攻撃として放った熱線が魔都上空の悪魔を数体纏めて焼き尽くし、世界の未来を左右する戦いの火ぶたは切られたのだった。
◇
「──作戦開始だ、私達も動くぞ……!」
声を潜めたKatsu-首領-の指示に短く頷き、俺達も洞窟から魔都へと飛び降りていく。
俺達のブーツには事前に紫織が【消音】の魔法をかけてくれている為、どれ程の高所から着地しても不自然な程静かだ。
──『ティガー隊』『無事』『?』
──『問題ない』『春葉アト隊』『?』
──『同様』『クリム隊』『?』
──『同様』『Katsu-首領-隊』『指示を』
傍に降りた部隊同士、ハンドシグナルで素早く状態を確認する。
今の着地で負傷があった場合は、本格的な行動を開始する前に治療を済ませる必要がある為だ。
各部隊に問題がない事を確認したKatsu-首領-がハンドシグナルで続けざまに合図を出すと、四つの部隊に分けられたダイバー達は悪魔達の様子を警戒しながらそれぞれ別々に魔都の路地裏へと駆けて行った。
(……先ずは第一関門、突破と言ったところだな)
今回の作戦における最初の関門は、高所にある洞窟からいかに悪魔達にバレずに魔都に潜入するかだった。
洞窟の出口にスロープのような親切な物は存在しておらず、最初にどうしても大きなアクションを必要とするからだ。
魔都の上空を飛び回る無数の悪魔が誰一人として俺達の動きに気付かない……そんな偶然に賭けるのはあまりにリスクが大きい。
そこで最初に紫織が悪魔達の注意を引きつけ、その隙に先ずは洞窟から飛び降りて物陰に潜む事になったのだ。
(しかし、悪魔の目を引き付けるのが目的とはいえ……あの数を対処しきれるのか……?)
崖と建物の隙間を目指して進むKatsu-首領-について行きながら、チラリと上空の紫織に目を向ける。
紫織は両手から【プロミネンス】にも似た炎の蛇を放ったり、チヨも使った事のある竜巻の魔法を振り回し、派手に暴れていた。
魔力が全盛期の三分の二程度しか無いと言っていたのに、まるで消費を考えていないかのような大立ち回りだ。いくら紫織が強いと言っても、流石に不安になる。
「──ソーマ、今は剣姫の事を気にしている場合ではない。今の我らに求められているのは闇に徹する事……彼女の事を思えばなおの事、その心ごと静謐の深淵に隠すのだ」
「トバリ……」
(そうだ、チヨも言っていたじゃないか。その気になれば魔都全ての悪魔を相手にしても勝てると……紫織にもそれが出来ると)
俺と同じくKatsu-首領-隊に振り分けられ、今はすぐ隣を駆けているトバリの言葉に気を引き締める。
今、紫織は自分の役割をああして果たしている。それならば、俺も自分の役割を果たさなければ。




