第262話 二人だけのコカコイ
(……ウチ、まだ夢見とるっちゅうわけやないよなぁ……?)
さっきまで見とった夢と似た光景に一瞬そんな事を考えたが、居並ぶ魔物共の顔触れからここが現実である事を思い出した。
(リザードマンとアビスミノタウロスの混成部隊……そうや、ここは渋谷ダンジョンの深層や。ウチは魅國と一緒に【虎華誇為】のテストに来とったんや)
下層で好き放題しとった『猛虎』に組手の約束を取り付けた一時間後。
ウチは来たる魔都の攻略に向けて、【虎華誇為】の制御をマスターすべく魅國を伴って深層に来とった。
これまでのウチは『虎華呼居』分裂の引き金になった事件の教訓から、ジョブ『バーサーカー』のスキルを封印して戦って来た。
けど今後の敵は魔都の悪魔がメインになる……もう手段を選んでられる状況やない。【狂化】も【虎華誇為】も、十全に使って戦わなあかん時は絶対に来るんや。
それにアレからウチのレベルも結構上がったし、あん時の【虎華誇為】は極限状態で使ったもの……今のウチが万全の状態で使えば、【虎華誇為】も制御できるかもしれん。
今回念の為にウチが暴走してしまった時に備え、前回ウチを抑えてくれたっちゅう魅國を連れて来たが……正直、それは正解やった。
深層の魔物を香で集めた後、ウチが魅國の目の前で【虎華誇為】を使用したところで、結局ウチの意識は途絶えてもうたんやからな……
(……ん? でも、今のウチは意識取り戻しとるよな?)
いつもよりも激しく放電する双雷牙を持つウチの手を見れば、夢で見たウチの様に白い蒸気が上がっとるのが分かる。
それに、身体の奥底から絶えず溢れて来る膨大な力……これは間違いなく、【虎華誇為】の効果が継続中であることを物語っとる。なのに今、ウチの意識がハッキリしていると言う事は……
(【虎華誇為】の詳細はまだ分かっとらんが……前回聞いた話では、ウチは結局魔力が無くなるまで暴走状態が続いとったはずや。それが今こうして目が覚めたっちゅう事は、制御が出来たんか……?)
そう考えた時──
「ちゃうわ。ウチが使った魔法の効果や」
ウチの口が、ウチの意思に反して言葉を発した。
「──な……っ、これは……!? お前一体……」
『なにもんや』。そう言いかけたとこで、ウチは唐突に理解した。
「いや……魅國なんか? ほんで、これが【誇華虎意】の効果……これは、魅國の記憶か……?」
魅國の魔法【誇華虎意】──全く知らん情報の筈やのに、今のウチにはそれがどう言う魔法なのかが直ぐに分かった。
そして、それがどうして分かるのかも同時に理解した。
◇
「──グゥウヲオオオオオォォォォァアアアアッッ!!」
「……っ! またか……!」
集めた深層の魔物共の前で、再びティガーが暴走しよった。
嘗ての再現……ウチにとっても、あんま思い出したない記憶が蘇る。
(【虎華誇為】は制御できるスキルやない……! アンタもそれを薄々分かっとったんちゃうか……?)
せやからウチを連れて来た……そうやろ、ティガー。
ティガーの決意と覚悟、そして信頼……もう『虎華呼居』は昔のようには戻れへん。でも今、ウチらの信頼だけは、間違いなくあの時と同じに戻っとる。
(──なら答えんとあかんやろ。あん時みたいにな……)
ウチは早速魔物相手に暴れ始めたティガーの背に向けて手を翳し──【ライトトラップ・トーチ】ではなく、別の魔法を使用した。
「頼むで……──【誇華虎意】!」
この魔法はウチも詳細を完全に把握しとるわけやない。
解っとるのは二つだけ。
一つ、この魔法は『虎華呼居』最後の戦いで発現した。
ウチがこの魔法の存在に気付いたのは、あの戦いから帰還した直後やった。
魔力切れのせいで休憩室のベッドで寝込むティガーの目覚めを待ちながら、腕輪でステータスを確認した時に初めてウチは【誇華虎意】の名を目にした。
二つ、この魔法は攻撃に使用する魔法やない。
新しい魔法の発現に気付いたウチは、ティガーが目を覚ました翌日にダンジョンで早速効果の確認を行った。
ぶっつけ本番で試すのはリスクが高いし、大雑把な効果だけでも把握しておきたかったんや。
そして【誇華虎意】を発動した時、ウチの手元に【ライトトラップ・トーチ】とそっくりの炎が現れた時に頭にイメージが湧いて、この魔法の効果を大雑把に理解した。
この魔法の効果は──
◇
(【誇華虎意】……『撃ち込んだ相手と意思と精神を共有する魔法』か。この魔法で魅國がウチの意識を起こしてくれたおかげで、ウチは【虎華誇為】を制御できとる訳か……!)
マグマのように熱い力が、ウチの体内を駆け巡るのを感じる。
双雷牙を振るう度にその熱が刀身に流れ込み、迸る雷となって魔物を焼き焦がす。
魅國の精神が教えてくれる。この感覚が魔力。そして──
「──【プロミネンス】」
これが、魔法の感覚。
ウチの背後から噴き出した炎が蛇のようにうねり、完璧な連携で一切の隙も与えずに魔物の群れを蹂躙する。
まるでウチが魔法を使ったような実感がありながら、しかし実は違う。使ったのは魅國や。
魔物共相手に縦横無尽に暴れるウチの背後にピッタリついて来とる魅國が、ウチの欲しいタイミングでウチの狙い通りに魔法を使ってくれとる。
そしてウチも、自然と魅國が追従しやすいように立ち回っとるのが分かる。
(『意思と精神の共有』。ほんの僅かなラグも生まれん、文字通り『一心同体』の連携を可能にする魔法か……はっ、魅國らしいわ)
(褒めてくれておおきに。アンタの【虎華誇為】も、アンタらしいわ。『自分一人で皆を守る』……昔っからそないな事ばっか考えとるから、いつもウチが必要になるんや。アンタは)
言葉にせんでも伝わってまうのは居心地が悪いような、良いような……妙な感覚やったけど、一つだけ言える事がある。
「お前の言う通りや、魅國! ウチにはこの力が必要や! お前が必要や! 魔都でもこの調子で頼むで!」
「えらい熱烈なプロポーズしてくれるやないの。……けど、元々その心算や。もう二度と、その力をアンタ一人に背負わせへんからな」
雷と炎が敵を焼く。刃と鉄扇が道を拓く。
ウチが武器を旋風刃に変えれば風が魅國の炎を煽り、激しく燃え上がらせる。
二人の身体、二人の視界、二人の技を一つの意思で司る。
ウチ等に死角は無くなり、僅かな隙も互いがカバーする。
「懐かしいなァ、魅國! 『虎華呼居』も最初、こうやったよな!」
「そうやなぁ。アンタとウチの二人で始めた時は、互いにこうしてフォローしとったわ」
「直ぐにウチが頭角現して! お前が食らいついて来て! ──何で、こうなってもうたんやろなぁ……!」
「……」
天性の素質っちゅう奴か、元々柔軟な身体を持っとったウチはシーフとして卓越した戦闘力を最初から発揮した。
幼馴染の魅國は魔導士で後衛を担当し、素早い動きでウチが前衛を張って、二人のクラン『虎華呼居』は順風満帆やった。
ウチらが活躍してクランが名を挙げる程、大学構内を中心に『虎華呼居』に入りたいっちゅう申し出は増えていった。
「アイツ等も最初はああやなかった。元々大阪と京都の境にある大学で集まった仲間や。そこまでいがみ合っとらんかった筈やのに、どうしてこうなる……!」
「みんながみんな、アンタほど強くなかった。それだけや」
「何で強くなろうとせえへんねん!? どうして勝手に立ち止まる! それでどうして、ウチが皆を置いて行ったなんて責めるんや!」
ウチと魅國だけが渋谷ダンジョンに招集されたのは、『猛虎』と『百華』でウチら以外が戦力に数えられんかったからや。
もしもアイツらがウチに頼りっきりにならずに実力を磨いとったら、この状況も変わっとったかもしれんのに……そんな思いがどんどん湧き上がって来る。
この感情はウチだけのもんやない。これは──
「……押さえ込んどったもんは、今の内に吐き出しといた方がええ。ウチもアンタも、魔都の戦いで迷わんようにな」
「あぁ……そうやな……」
精神を共有したウチらは、互いの感情すらも影響し合う。
心の整理をつけるため、その後もウチらは暴れまわった。ウチの魔力が枯れるまで。




