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第261話 コカコイ

「はぁ……! はぁ……っ! ──【狂化】!」


 発動したスキル【狂化】の効果で、意識がぐらりと揺らぐ。

 疲労にふらつきそうになる身体の奥底から急激に湧き上がった力が全身に行き渡ると同時に、ウチの精神が凶暴性に支配されていくのが分かった。

 ドバドバと溢れる脳内麻薬で疲労も苦痛も軽減し、その代わりに戦闘に駆り立てる……ウチのジョブ、『バーサーカー』を代表するスキルや。基本的に短期間での多用は推奨されへんけど、この状況でこのスキルに頼らへんっちゅう選択肢は無かった。


「──ぐあっ!」

「負傷者は引っ込みぃ! さっさと回復して、立て直すんや!」

「くそ、なんでや……! さっきまでこんな数居らんかったやろ!?」

「モンスターハウスや! 運が悪かったとしか言いようないわ!」

「負けへんで! 虎華呼居の底力見せるんや!」


(──あぁ、これ夢やな……)


 懐かしい夢や。

 かつて『猛虎』と『百華』が一つのクラン『虎華呼居』やった時の夢……『虎華呼居』の最後の戦いの光景や。

 【狂化】の影響で冷静でいられない筈の頭が、そう判断する。

 次から次に向かってくるリザードマンを返り討ちにしていく光景を見ながら、ウチの頭の中は異様に静かで……どこか、この光景を他人事の様に眺めとった。


「くっ……、させへんで! ──【プロミネンス】!」

「タイミング合わせぇ! 行くで!」

「「「──【サンドウォール】!!」」」


 ウチが発動した魔法【プロミネンス】で強引に空けた穴に、すかさず仲間の魔導士達が魔法で砂の壁を作り、大量のリザードマンの動きを制限。僅かでも状況を好転させようと踏ん張っとった。


(……ん? なんや、変やぞ? ウチの魔法……? ウチの──ティガーのジョブは『バーサーカー』や。魔法なんか使えへん……これは、誰の視点や……?)


 いつの間にか切り替わっとった光景に疑問を抱いとったその時、ぐりんと視界が動き、その先に全身を血と汗に塗れさせて戦うウチの姿が見えた。


「ティガー……! アイツももう限界や、早うなんとかせんと……!」

「魅國さん! サンドウォールが、崩されます……!」

「っ! 万事休すか……!」


 ウチに『魅國』と呼びかけるダイバーの言葉で、これが魅國の視点なのだと知る。

 再びウチの──魅國の視点が動き、リザードマンの攻撃で崩れかかっている砂の壁に向き直ったその時──


「──【虎華誇為】!」


 背後から聞こえたウチの声で察した。


(あぁ……こん時やったんか。ウチに【虎華誇為】が発現したんは……)


 この後の事は欠片も覚えとらん。

 いくら【狂化】を使っても好転せん状況に、何か打開策が無いかと腕輪でステータスを確認した時にいつの間にか発現しとった【虎華誇為】のスキルを見て、ウチは咄嗟にこのスキルを使ったんや。

 ……正直、こん時のウチは理性も削れて判断力が鈍っとった。

 見知らぬスキルなんや。使うにしても周囲に何か宣言しとくとか、出来たと思う。そうしとけば、この後の混乱は少しは軽くなったはずなんや。


(──この後の混乱? 何の事や? さっきから変や。ウチが、ウチの知らん事を知っとる様な……)


 この後の記憶はウチには無い筈や。ならこれは……


「──グルルゥゥウウウオオオオオオオオァアアアアアッッッ!!」

「なんやこの声!? ──ティガー……!?」


(……この光景は、誰の記憶や?)


 魅國が振り返った先で、ウチが獣のように吠えとった。

 【虎華誇為】の発動と同時に意識を失った後、ウチが何をしとったんか……何故か今のウチにはよぉ分かった。


「なんや!? ティガーさん、どないしたんや!?」

「目ぇ逸らすな! 敵をしっかり見とけェ!」

「と……虎や……虎がおる……!」


 全身から蒸気を上げて、ウチは暴れた。

 溢れ出す力と衝動のまま、リザードマンを一方的に蹂躙し始めた。武器こそ当時の相棒『サーベルファング』を使うとるが、戦いの光景はまるで猛獣の狩りの様に獰猛かつ迅速。

 圧倒的な数の不利も、痛みと疲れを知らずに暴れるウチの前には意味をなしとらんかった。

 周囲のリザードマン共もその異様な光景に、『虎華呼居』のダイバーよりウチを優先することにしたらしく、魅國たちへの攻撃の手が緩んだ。その瞬間──


「っ! 皆、今の内や! 撤退せぇ!」

「!? で、でもティガーさんが……!」

「ティガーはウチが連れ帰る! せやから、アンタたちは先に逃げるんや!」


(そうや。あん時の魅國(ウチ)は【虎華誇為】を使うたティガー(ウチ)の思いを察して、『虎華呼居』を先に撤退させたんや)


 絶望的な数の差に対抗するには、弱い仲間は切り捨てるか逃がすしかない。魅國は後者を選んだ。

 実際、その後の事を思えばこの判断は間違いやなかった。アイツ等が居ったら、この後間違いなく犠牲が出とった。……他ならぬ、()()()()()()()()


「ティガー! もう皆撤退したで! アンタも──ッ!?」

「グルルルル……ッ!」

「……っ! あんの、アホ……! ウチの事も分からんなったんか……!?」


 暴走したウチは、魅國も敵に数えとった。

 大声を出して呼びかけた所為で、ウチの目に留まってしまった魅國は次の標的にされた。


「く……っ、堪忍やで、ティガー! ──【ライトトラップ・トーチ】!」


 ウチが攻撃に移る前に魅國が使った魔法は【ライトトラップ・トーチ】。

 統率力や意思の弱い魔物の注意を、まるで『香』のように引き付ける炎を操る魔法や。

 完全に理性の飛んだウチはこの魔法によって注意を引き付けられ、魅國は攻撃の対象から外れた。代わりに──


「グアアァァッ!!」


 【ライトトラップ・トーチ】の炎に触れたウチの身体は焼かれ、消火の為に地面を転がった。

 そして起き上がると、再び【ライトトラップ・トーチ】の炎目がけて飛び掛かる。

 これが【ライトトラップ・トーチ】の効果。意思の弱い魔物はこうして自ら火に飛び込み、ダメージを受け続ける。

 魅國はこの性質を利用した。


「──行け、ティガー! お前の相手はアイツ等や!」

「グルアァアアアッ!」


(はぁ……まるで猛獣使いやな。聞いとった話と大分ちゃうやんけ……)


 その後十分近く魅國の指揮(?)とウチの力で戦い続け、何とか窮地を切り抜けたものの……代償は大きかった。


「はぁ……はぁ……! ようやく……落ち着いたか……っ!」

「……」


 リザードマンを殲滅し終えた後もウチの暴走は収まらず、魅國に何度も襲い掛かった。

 魅國は【ライトトラップ・トーチ】を使い、ウチを誘導したが……その攻撃を全て躱す事は出来ず、無数の切り傷が出来とった。

 そして、【虎華誇為】の効果で魔力を使い果たすまで暴れ続けたウチは、【ライトトラップ・トーチ】の炎で全身の至る所に火傷を負い、魔力切れで意識を失った。

 その直ぐ後やった。地上に撤退した『虎華呼居』が呼んだダイバー協会の救助隊が駆け付け、ウチ等を保護したんは。


 この一件で『虎華呼居』は割れた。

 魅國に付けられた無数の切り傷はウチの『サーベルファング』の物やと分かったし、ウチの火傷は魅國の魔法によるものやと魅國本人が明かしたからや。

 元々、『虎華呼居』にはある種派閥のような物があったのも災いした。

 大阪に住むティガー派のダイバーと、京都に住む魅國派のダイバーの溝はこれで決定的な物となり、ウチと魅國が守ろうとした『虎華呼居』はそのまま『猛虎』と『百華』に分かれる事になった。


(ウチは記憶が無かったし、魅國は魅國で事情を明かさんかったからなぁ……まぁ、【ライトトラップ・トーチ】で猛獣使いみたいな真似したって聞いたら結局ティガー派のダイバーを煽るだけやし、間違っとるとも言い切れんが)


 こん時の経験が原因で『猛虎』も『百華』も数こそが力やと妄信し、いたずらに規模を拡大。人数だけは関西で一、二を争うクランとなったが、結局実力の研鑽はそこそこ止まりやったけなぁ……


『──ガー……ティガー……』

(……ん? この声……魅國か?)


 いつの間にか夢の光景は消えとった。

 代わりに何もない真っ暗な空間に漂っとったウチの耳に、どこからともなく魅國の声が聞こえ……


(あ……なんや、目ぇ覚めそうやな……)


 自分の意識が浮上するのを感じる。

 暗い空間に光が差し、一瞬視界が真っ白に染まったかと思った直後……




 ──目を覚ましたウチは、夢と同じようにリザードマンとアビスミノタウロスの群れに取り囲まれとった。

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― 新着の感想 ―
年末から忙しく読むのが止まってましたがやっと一気読みです。これからもどんどん面白くなっていきそうです。
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