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第255話 再びL.E.O.へ

一週間ほどガッツリ休ませていただいたおかげで、大分体調も良くなって来ました。

咳はまだ出ますが、体のだるさとか熱はもうなくなったっぽいので投稿再開します!


あとここ数話の投稿を見返したら話数が一気に飛んでたのでついでに直しました。

 雑談配信で正式に正体を明かし、復帰を表明した翌日──


 私は破損してしまったドレスアーマーの代わりとなる装備を新調すべく、『俺』と共に渋谷のL.E.O.の前に来ていたのだが……


「──やっぱり、見られていますね」

「どうする? 気になるならまた日を改めるのも……」

「どのみち注目は避けられませんよ。気にせず行きましょう」


 久しぶりに人前に現れた『オーマ=ヴィオレット』の姿に、街を行く人々はいっそ露骨なほどに視線を向けてくる。

 その殆どは物珍しさからくる好奇の視線だったのだが……やはり、中には悪意に満ちた視線もあるようだ。

 おそらく先日の配信の内容から、この日私がL.E.O.にやってくると踏んで待ち伏せしていたのだろう。建物の影から現れた数人の柄の悪い男達が、あっという間に私達を取り囲んだ。


「よぉよぉ、悪魔さんよぉ〜? ここ、人間が利用するための店なんだけどぉ、何しに来たんすかぁ~?」

「今までずっとリスナーの皆を騙していた感想をお聞かせ願えますかぁ〜?」


 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら、彼等は配信中である事を示すランプが点灯したドローンカメラを引き連れ、筒状に丸めた週刊誌をマイク代わりに突き出してくる。

 ドローンカメラの周囲には、彼等の配信を見ているリスナー達から送られたコメントが浮かび上がっているが……


〔ヴィオレットちゃんこんなの無視していいよ!〕

〔迷惑系ってホント害悪でしかないな…〕

〔他人に迷惑かけてまでそんなに知名度欲しいかね〕

〔警察呼ぼうか?〕


 コメントの雰囲気から察するに、彼等の行動を肯定するリスナーは少ないようだ。


(無視、か……それも一つの手ではあるんだけどなぁ……)


 実際、この手の連中も私がL.E.O.の店内に入ってしまえば無茶は出来ない。

 これでも一応ダイバーである以上、今後もL.E.O.とは良好な関係でいたいだろうからだ。


(とは言っても、無理に突っ切ろうとすればぶつかってでも止めようとするだろうな……)


 正直なところこうして包囲された状況からでも、彼等を押し除けて店に入るのは難しい事ではない。

 しかしもしもそんな事をすれば、彼等は当たり屋をするチンピラのように自らぶつかって来ては『骨が折れた』等と大袈裟に痛がり、私についてのありとあらゆる悪評を流そうとするだろう事は容易に想像できる。

 こちらに向けてくる粘着質な問いかけも、それを狙った挑発かもしれない。それならば、ここは……


「おや? どなたかと思えば……いつかの晩に兄さんを──ソーマさんをナンパしようとした方ではありませんか! ごきげんよう!」

「……は?」


 彼等の挑発には乗らず、寧ろ周囲にもよく聞こえる声量で挨拶してやると、まるで想定外の返しに男達の方が一瞬固まった。

 そう。彼等の顔には見覚えがあった。

 彼等は私が配信をしなくなってすぐの頃、『俺』のアパートにやってきては強引に私の姿を配信に載せようとしてきた連中だったのだ。


〔えっ〕

〔ナンパ?〕

〔待って?wソーマをナンパしたの?www〕


 元々こんな大通りにガラの悪い男が集まってきた事で、周囲からそこそこの注目を浴びていたのだが……そんな状況でこの私の発言だ。

 彼等に対して更に好奇の視線が向けられ、群衆の中からはひそひそと話し合う声が聞こえてくる。

 その内容はドローンカメラから垂れ流しになっている、コメントとほぼ同じだった。


「『今度コラボしない? エスコートするよ~!?』……でしたっけ? ね、兄さん」

「やめてくれ。今思い出しただけでゾワゾワする……!」


 私が当時のやりとりを思い出しながら彼等の発言を再現すると、『俺』は八月にあるまじき寒気に身をブルリと振るわせた。


〔えぇ…〕

〔あれ?そのセリフって…w〕


「お……っ、おいおいおい!? てめぇら立場分かってんのかぁ? あんま訳分かんねぇ事言ってると……!」


 彼等の期待した反応とあまりにも違った為か、苛立たしげに詰め寄ろうとしてくる男の前で、私は一度『パチン』と指を鳴らす。


「──ホラ、思い出したでしょう?」

「……!」


 その途端、こちらに詰め寄ろうと一歩踏み出していた男の視線は、私の隣に立つ『俺』へと釘付けになっていた。


「ん? ……ぅおっ!? おい、ヴィオレット!? 急に変身させるな!」


〔草〕

〔草〕

〔そういうことかw〕

〔確かにナンパしてたわwww〕


 彼の視線の動きに違和感を抱いたのか、自分の身体を見下ろして、ようやく自分の姿がいつぞやの女性になっている事に気付いた『俺』。

 途端に周囲の視線を気にし始め、慌てた様子で私に抗議してきたが……『俺』以上に動揺している者が一人いた。


「な、なっ……! おま、お前、まさか……!」


〔これ今どんな気持ちなんやろなぁw〕

〔しかもナンパ失敗した上にビビって脚震えてたよなwww〕

〔↑マジで?w詳しくwww〕


 彼の脳裏には今、二つの屈辱的な事実がある。

 一つ、『あの晩、自分は男にアプローチをかけた』。

 二つ、『あの晩、彼等は目の前でみすみす私達を見逃した』。

 それらを受け止めきれないのか、彼の突き出した週刊誌の切先が小刻みに震え始めた。


「──言っておきますけど、兄さんはあげませんよ?」

「っ、誰が要るか!? てめぇ舐めやがって、この野郎!」


〔草〕

〔煽りよるw〕


 激昂して殴りかかって来た男の拳を掌で優しく受け止め、私は彼の背後に浮かぶドローンカメラに向けてメッセージを飛ばした。


「配信を見ている皆さん! この人が兄さんにアプローチをかけているシーンで切り抜き動画を作るなら、アーカイブが残っている今がチャンスですよ〜っ!」


〔おっしゃ任せろwww〕

〔一丁バズらせてやるかぁ!w〕

〔タイトル「【悲報】迷惑系ダイバー男、男にフラれて脚が震えるwww」〕


「なっ、ふざけ……っ! 逃げんなクソ野郎!!」


 動揺のあまり一瞬配信中だと言う事を忘れていたのか、詰め寄って来ていた男がギョッと背後のドローンカメラへ視線を向けた隙に、私は今は女性の姿になっている『俺』を抱えて跳躍。

 ポカンとこちらを見上げる彼の仲間達による包囲を軽々と跳び越えた私は、そのままL.E.O.のエントランスをくぐった。




「──いらっしゃいませ。お待ちしておりました、オーマ=ヴィオレット様」


 外の騒動で私の来店を察していたのだろう。

 店に入ると直ぐ、パリッとしたスーツに身を包んだ中年の男性が恭しい一礼で出迎えてくれた。

 彼は以前、証拠品として押収されそうになったイヤーカフを返却して貰う際、警察官に交渉をしてくれた事もあるL.E.O.の店長だ。


「貴方は確か、店長の──」

「その節はご迷惑をおかけいたしました。……ここでは人目もありますので、別室でご注文の詳細を詰めましょう。採寸もそちらで」


 そう言って彼が示したのは、受付の奥にある部屋へ続く扉だ。

 あそこは確か……以前例のイヤーカフを作って貰う際、当時は名前を付けていなかったアセンディアを預けたL.E.O.の職人が居た場所だったか。


「──さぁ、どうぞ」


 そう言って店長が開けてくれた扉をくぐった先は、先程まで居た『店内』とはまるで異なる雰囲気の通路だった。

 高級店らしい温かみのあるボルドー色の絨毯や、壁紙とはまるで真逆。どこまでも無機質で、しかし清潔感のあるかっちりした白を基調としたタイル張りの廊下が天井の蛍光灯を淡く反射して伸びていた。


 店長の男性の案内に従って歩いていると、私の肩を軽く指先でつつきながら『俺』が話しかけて来た。


「──おい、ヴィオレット……!」

「?」

「いや『?』じゃなくて、コレ。この格好。もう良いだろ? 戻してくれよ」

「あ、そう言えばそのままでしたね。──はい、解除しましたよ」


 そう言って彼に施した【変身魔法】を解除すると、その様子を見た店長が少し驚いた様子で話しかけて来た。


「……なるほど、それが先日の配信でおっしゃっていた【変身魔法】でございますか」

「え? えぇ、腕輪の機能で使う魔法ではないので……っと、その辺りの事については、配信を見てくれていたのならご存じですよね」

「勿論でございます。──ところで、一つ確認したいのですが……オーマ=ヴィオレット様。貴女は以前も一度、【変身魔法】で姿を変えてこのL.E.O.にいらっしゃったことがあるのではございませんか?」


 彼の問いかけに内心ぎくりとする。

 そもそも私が外出する時は人間社会の混乱を招かないよう、【変身魔法】は欠かせないのだが……恐らく彼が言いたいのはそう言う事ではないのだろう。


「それは……この『オーマ=ヴィオレット』の姿以外で、と言う事でしょうか?」

「はい、さようでございます。……その節は、ありがとうございました」


 私の確認の問いかけによって確信を得たのか、彼は一度立ち止まりこちらに振り向くと、姿勢を正して深々と頭を下げた。


「例の窃盗事件、貴女のご助力で未遂に終わらなければ、我がL.E.O.の信頼は大きく揺らぐ結果となっていたでしょう。この場を借りて、改めて感謝をさせていただきます」


 あの一件、どうやら私の思っていた以上に影響があったようだ。

 客から預かっていた最高級の魔石を狙った窃盗犯が、未遂に終わったとはいえ一度はその現物を手にしたという事実。

 高級店として当然備えている一流の警備や防犯設備も役に立たなかったとあって、通常の客足はともかく、L.E.O.に来る素材持ち込みの依頼だけは一時的に減少していたらしい。

 犯人が元・ダイバーであり、通常の警備では防ぎにくい犯行だったという事実(フォロー)も、テレビを始めとした各媒体のニュースで報道された筈だが、焼け石に水だったようだ。


 未遂でこれなのだ。もしも現物が完全に盗まれていたら……L.E.O.の信頼は、それこそ地に落ちていただろう。

 彼に言わせれば、私はこのL.E.O.を一度救っていたのだという。

 ……まぁ、警備が万全じゃなかった理由の一つに、私が原因で警備員の一人が腰を抜かしてしまった事もある気がするので、私としてはあまり誇れたものでもないのだが……ここは敢えて黙っておこう。


「──それにしても……あの日彼等を捕縛したダイバーが私だと、よく分かりましたね。一応あの時は【変身魔法】はおろか、私が魔族だと言う事がバレる前の筈ですが……」

「私、お客様を見る目には自信があるのでございます。……流石に当時はこのような事情とまでは想像も出来ませんでしたが、お知り合いのダイバーの方に協力を求めたのではないかとは思っておりました」


 彼が言うには、私の態度から色々と察する事ができたらしい。

 『イヤーカフが証拠品として押収される事には驚いていたのに、事件があったことには驚いていなかった』等、確かに後から聞かされると少し杜撰だった部分もあったようだ。


(こうして振り返ると、懐かしい気もするな。アレから数か月か……)


 たったの数か月。されど数か月。私を取り巻く状況も随分変わったものだと改めて思う。


(当然のように私を見る周囲の目も大きく変わった。それに関して心配していた部分もあったが……少なくとも、この『L.E.O.』に対しては杞憂に終わったらしいな)


 私がここに来るまで抱いていた最大の懸念……それが店の評判を気にして、注文を受けてくれない可能性だった。

 こちらが金と材料を用意しても、そもそも魔族の私を信用してくれるかどうかが肝心だったのだ。

 魔族と言う正体がバレた私を彼がこうして信頼し、L.E.O.の裏側まで案内してくれているのも、彼自身が自負する『客を見る目』による判断が大きいのだろう。

 彼がこういうタイプの店長だったのは、私にとっても幸運だった。


「──さぁ、到着いたしました。ここがL.E.O.の工房でございます」


 色々と振り返っている内に、どうやら目的の場所に到着したらしい。

 ムワッとした熱気が漂ってくる方へと視線を向ければ、そこには様々な素材を加工する為の機材や、熔解した金属を吐き出す巨大な炉など、まさに現代の鍛冶屋を思わせる光景が広がっていた。

 一体ビルの何割程をこの工房が占めているのだろう。巨大なガレージを思わせる部屋に響いていたハンマーの音が止むと、一人の男性の声が私の耳に届いた。


「──よぉ、あん時の嬢ちゃんか。久しぶりじゃねぇか」


 いかにも職人と言った顔立ちに、あまり得意ではないのだろう。どこかぎこちない笑みを浮かべたその男性は、あの日アセンダーロードの魔石を加工してくれた職人だった。

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