第253話 これからの活動について
実は年末から身内でインフルエンザの連鎖感染が発生してます。
その為最近はあまり執筆の時間が取れておらず、今後私が感染した場合は更新が一時的に止まる可能性もある事を予めお伝えしておきます。一応マスク等はしておりますが、完璧に感染が防げるかは分からないので。
皆さんもインフルエンザにはお気をつけて……
「──では、私の事情もあらかた話したと思いますので、今後の活動方針について説明させていただきますね。まだ皆さんも気になっている事はあると思いますが、後で質疑応答の時間を設けますので、気になっている事があればその時にお願いします」
頃合いを見計らってオーマ=ヴィオレットがそう切り出すと、コメントがにわかに活気づく。
〔待ってた!〕
〔復帰するんだよね!?〕
〔魔都については知ってる!?〕
暫く休止していた彼女の動向について気になっていたリスナー達なのだろう。
後で質問を受け付けるという言葉も待たずに投稿されたのだろうコメントが、一足先に流れて来ていた。
一先ずそのコメントに関してはどのみち話そうと思っていた内容とも被っていた為、ヴィオレットはそのまま話を続ける事にした。
「先ず、深層の最奥にある街についてはアーカイブを見て確認しました。今後は私もあの街──魔都の攻略を見据えて、深層に潜る事になると思います」
〔おお!〕
〔ヴィオレット参戦!〕
〔どの面下げて戻るつもりだよ〕
〔復活!ヴィオレット復活!〕
〔迷惑系の僻みは無視していこう!〕
休止してからというものSNSには触れてもいなかったヴィオレットは、帰宅した後にソーマから魔都の話を聞いた時に実はかなり驚いていた。
魔都──つまりは『悪魔の本拠地』。そここそは彼女が魔族の侵略を阻む為に辿り着かなくてはならない場所として定めていた、第一目標でもあったからだ。
既に復帰する決意を固めていた彼女だったが、その情報を聞いた事によってその意思はより固まっていた。
……しかし、当然そこまでに立ち塞がる障害は少なくない事も、同時に理解させられることになった。
「私の目標は魔都の更に最奥に聳える、城の攻略です。ですが……その前にいくつかの準備が必要と考えています」
彼女は自らの目標を改めてリスナー達へと示す。
『魔族の計画を阻む』という真の目標をこの場で語らないのは、当の魔族がこの配信を監視している可能性があり、またその魔族がこの配信を独断で中断させられる権限を持っている可能性があると考えているからだ。
ダイバー協会の会長……いや、そもそもその組織を立ち上げたのが魔族であるならば、根幹のシステムに関する絶対的な権限を持っていても何らおかしくない。
だからこそ、直接の介入が無さそうな話題のみで決意を表明する。それは事実上の挑戦状でもあった。
「先ずは装備の新調。……以前、深層で私の姿が暴かれた際、それまで愛用していたドレスアーマーは体格の変化に耐えられずに破損してしまいました。これを何とかしなければ、深層の探索は出来ません」
彼女が必要とする準備の一つ目は、新しい防具の確保だ。
いくら魔族の身体を持っていると言っても、既にかなり人間に近付いている状態では耐久度に心もとない。敵が悪魔や魔族であるならなおさらだ。
「次に天敵の存在です。先程語ったように、私は異世界で数百年もの間、人間から拒絶されて生きてきました。トラウマを使って攻撃してくる悪魔……彼女の術中に嵌まってしまえば、私はその数百年分のトラウマを一気に叩き込まれてしまいます。ですから、彼女の相手だけは私が務める事は出来ません」
そしてある意味で最大の難所となるのが、認識阻害の術式でトラウマの誘発をする悪魔の存在だ。
異世界で数百年間蓄積された彼女のトラウマは、簡単に克服できるものではない。ゆえに克服するのではなく、誰かに戦って貰うという対処法を考えていた。
不幸中の幸いなのが、かの悪魔自身の戦闘能力はそこまで高くないと言う事。
チヨのように純粋に強い悪魔であればヴィオレットが対応する必要があるが、かの悪魔はそうではない。だからこそ取れる手段だった。
「そこで、私は……──」
ここでヴィオレットの表情がこれまでで一番の緊張に引き攣る。
息が詰まり、言葉が途切れたが、やがて彼女は意を決してその続きを口にした。
「……私は、魔都を共に攻略してくださるメンバーを募集します。条件は──」
〔はい!!入れてください!!!!!!!!!〕
〔クリムちゃんw〕
〔はっやw〕
〔まだ条件明かされてないんよw〕
ヴィオレットの言葉を最後まで聞く前に早速コメントで立候補をしたのは、彼女と親交深かったクリムだ。
『もしかしたら拒絶されるかもしれない』そんな不安に強張っていたヴィオレットの表情が、そのコメント一つで和らいだのが配信越しにも分かった。
落ち着いたヴィオレットは、他のコメントのツッコミが飛び交う中、感謝するように一つ頭を下げる。
「……いえ、ありがたくその申請を受けたいと思います。順番が逆になってしまいましたが、募集の条件は『深層が探索可能な実力がある事』『悪魔相手に戦える事』の二つです。仲間に求める役割は例の悪魔の対処なので、これは前提です。しかし……その分私も協力に見合ったリターンを約束します」
〔リターンって何が貰えるんや?〕
ヴィオレットの求める協力は『悪魔との戦い』だ。当然ながら命がけになる。
その要請に見合うだけのリターンがあるのか、リスナー達の注目が集まった。
そこでヴィオレットは一度、隣のソーマへと視線を向けてそのリターンを明かす。
「──先ほど、ソーマさんが魔法を使って見せたのは皆さん記憶に新しいと思います。アレはコツと方法を私が教えれば、数時間程度の訓練で使えるようになります」
〔!?〕
〔え待ってマジで言ってる!?〕
その短い前置きだけで、彼女の言うリターンの正体を想像するには十分だった。
彼女はコメントの興奮と動揺に応えるように頷くと、彼等の予想を肯定する。
「はい。……私がお返しできるリターンは──『魔法の訓練』です。悪魔との戦闘を求める訳ですから、必要な戦力増強の一つだと考えています。……流石に物によっては犯罪にも使えてしまうので、人柄によって教える魔法は考えますが、クリムさんであればその点心配もないと思いますからね……私が教えられるものであれば何でも相談に乗りますよ」
〔エンチャントもですか!!?????〕
〔クリムちゃんテンション高いなw〕
〔そんな餌ぶら下げて大丈夫?〕
「クリムさんは武器の関係でエンチャントは相性が悪いと思いますが、お望みであればお教えいたします」
〔やった!!!おそろい!!!〕
〔戦力増強の為って言葉聞いてた!?w〕
〔でも実際に使えるようになるのにどんくらいかかるんや?そもそも使えるようになる保証も微妙じゃね?〕
コメントが加速する。腕輪に頼らない魔法の行使……それが可能になるというのはあまりにも大きな魅力だ。
特に近接ジョブを持つ者は【魔法の心得】を後天的に獲得できる、数少ない可能性が開ける事になる。
しかし、だからこそ慎重になるコメントも散見された。
そこでヴィオレットは少し瞑目し……熟考の末に一つの提案をする。
「……そうですね、では皆さんの信頼を得る為に一つの魔法をこの場でお教えします」
〔!?〕
〔マジ!?〕
〔どんな!!??〕
〔さっきの魔法!?〕
コメントの加速が止まらない。
途中に悪意のあるコメントも混ざっている筈だが、それらが視線にも止まらない速度で流されていく。
「と言っても、さっきソーマさんが使った『灯』はお教えできません。あれだけの火でも放火とか、犯罪には使えてしまいますからね。そう言う事が出来ない簡単な魔法をお教えします」
〔そりゃそうか〕
〔そよ風を起こす魔法とか?〕
〔確かに魔法での放火とか証拠残らんからヤバいな…〕
彼女の説明に納得のコメントが流れる。
ヴィオレットはそんなコメントに目を通しながら、先程ソーマがやって見せたように人差し指を一本立てると、それをドローンカメラに近付けた。
そして、異世界の言葉を紡ぐ。
「──【■■■】」
すると、彼女の指先に一滴の水が生まれた。……変化はそこで終わった。
〔えっこれだけ!?〕
〔確かにこれは大それた犯罪には使えそうにないけどww〕
〔地っっっっっ味www〕
〔手汗魔法じゃん…〕
「誰ですか手汗魔法って言った人は!? ……良いですか、考えてみてください。手汗だとしても──いや手汗じゃないんですけど、これは水魔法です。何度も使って行けば、『水魔法の心得』が手に入る可能性があるんですよ? まぁ、そっちは腕輪依存なので地上では使えませんが」
〔手汗って言っちゃってるじゃんw〕
〔!!〕
〔たしかに!〕
〔あの…ただでさえ不遇扱いの水魔法使いが無価値になってしまうんですが…〕
彼女の説明に納得を示したコメント達。
その次の瞬間、そのコメントがぱったりと止んだ。恐らく皆今の魔法を試しているのだろう。
そこに補足するようにヴィオレットが細かい発動手順を補足する。
「良いですか? 指先から魔力の網を広げて、空気中の水分を集めるように窄めるイメージをしながら、【■■■】と唱えてください。意味は『小さき水よ』です。意味も含めてイメージすれば、後のプロセスは魔力が補ってくれます」
〔異世界語かぁ…これ成功したら異世界が本当にあるって証明になるんかな〕
〔チヨが使ってた奈落の腕の呪文も同じ言葉なのか?〕
〔ユウェーリャであってる?〕
「正確な発音は【■■■】ですが、日本語に近付けると『ュウェーリヤ』……字で書いた方が伝わりやすいですね。……こんな感じです。最初はちょっと難しいですが、ソーマさんもやってみてください」
「ああ。……【■■■】」
「一発で成功してどうするんですか! 最初は難しいって言った私の説得力返してくださいよ……!」
『ュウェーリヤ』と書かれたスケッチブックを『バン!』とテーブルに叩きつけながら、ヴィオレットがソーマにツッコミを入れる。
「いや、灯の魔法でちょっと発音に慣れたからかな……でも灯の魔法の練習の時、少しくらい発声間違ってても発動はしてたよな?」
「そうですね。少しくらいならイメージの補足が働きますから。イメージが完璧なら呪文も要りませんし、どちらかというと重要なのはイメージの方ですね」
二人がそんなやり取りを躱しながら魔法の発動に関して補足していくと、やがてリスナー達の中から少しずつ成功の報告が上がる。
〔出来た!〕
〔手汗でた!!〕
〔出来ましたよヴィオレットさん!〕
〔魔法系のジョブ持ってるからかあっさり出来たわ〕
〔あぁ、また水魔法使いが不遇になっていく…〕
「……ともかく、これで魔法の訓練が可能だと言う事は証明できたかと思います。募集は私の次回の配信まで受け付けておりますが、前回の大型コラボ同様に素行の悪いダイバーはこちらからお断りを入れさせて貰いますのでご了承ください。……今回は特に、魔法を犯罪に利用される可能性がありますので厳密に判断させていただきます」
〔迷惑系ダイバー全滅で草〕
〔あいつらは元々深層どころか下層も怪しいし最初から関係無いよw〕
〔結局差別主義者の悪魔じゃねえかwみんなこんなやつ信じるなよwww〕
〔↑効いてて草〕
〔次回配信っていつ頃?〕
〔応募って前の大型コラボと同じとこ?〕
「そうですね、応募は前回と同じでお願いします。次回の配信は……装備を整えてからですね。以前も言いましたが、応募の条件を満たす為に無茶な探索はしないでください。下層以降は特に命の危険がありますから」
〔条件の『悪魔と戦える』ってどのくらい想定?〕
「そうですね……チヨに両手両足を使わせるくらいでしょうか。あの悪魔の相手であればそのくらいできれば十分だと思います」
コメントの確認にそう指標を示すヴィオレット。
壁掛け時計の時刻をチラリと見ながら、そろそろ私から伝える事も無くなったかなと考えを巡らせていたその時……コメントから一つの情報が彼女の目に飛び込んで来た。
〔あの…下層にチヨが居ないって噂があるんだけどその場合どうすればいいですか?〕
「──えっ、チヨが居ない!?」
配信の最後に衝撃的な事実を告げられたヴィオレット。
彼女は早速ソーマに事実確認を求めると、頷いたソーマは取り出したスマホで情報を追い始めた。
「……では彼からの情報は配信終了後に聞くとして、今の内に皆さんからの質問を受け付けます。皆さんの疑問に出来るだけ答えるつもりですが、現在の居場所といったような悪意を感じる質問はスルーしますのでそのつもりでお願いします」
そして配信最後の締めくくりである、質疑応答が始まった。
この配信回も想定より大分長くなってしまいましたが、次回で終わらせるつもりです。あと一回だけお付き合いください……




