第252話 異世界の魔族は語る
明けましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!
〔悪魔だ!!!!!〕
〔本性表した!!!!!!!!!!〕
〔異世界って言った!?〕
〔名前聞き取れんかった…〕
〔何語だ今の?〕
〔今のが異世界の言語ってこと?〕
魔族としての本来の姿を、初めて自らの意思でカメラの前に晒したヴィオレット。
彼女の決意の表れでもあるこの行動に、しかし一部のリスナーは心無いコメントを投げかける。
だが当然この流れも予測していたヴィオレットは、それらのコメントはスルーして自らの事情を明らかにする事を優先し、これまでの経緯を告白した。
「最初に言っておきます。私がこれから話す事は、無理に信じなくても結構です。我が事ながら、信じる方が難しい荒唐無稽な話なので」
そう前置きして、オーマ=ヴィオレットは語り始める。
ダンジョンの存在しない日本に人間として生まれ、病によって死した事を。
気が付けば異世界に魔族として転生しており、そこで過ごした千年間──裏切りと拒絶に苦しみ続けた、逃亡の生涯を。
前世の記憶に存在する日本に焦がれ、世界を越えて来た事を。
そして渋谷ダンジョンで偶然出会ったダイバー、ソーマの自宅に住まわせて貰うようになった事を。
大雑把にではあるが彼女の過去を告白されたリスナー。彼等の反応は──
〔これマジ?それともそういう設定?〕
〔小説とかではよく見る題材だけど…〕
〔確かにこれは信じろって言う方が難しいなぁ…〕
〔嘘吐くならもっとマシな嘘吐けよwww〕
〔魔族と悪魔って違うんか?〕
〔ソーマはこれ知ってたの?〕
やはり突拍子もない彼女の話をすぐに受け入れられる者は多くなく、懐疑的なコメントが帰って来る。
そんな中で流れて来たソーマに対する質問に、ヴィオレットの隣に座り直した彼が答えた。
「ああ、俺が最初に見た時は既に人間に化けていたが……初日に本当の姿を見せて貰ったし、事情を聞いた上で一緒に住んでいた」
「彼には最初から全てを伝えていました。その上で協力して貰っていたんです。悪魔と魔族の違いについては……正直私も詳しく知りません。向こうでは悪魔と呼ばれる種族はいませんでしたし……」
〔えぇ…?ソーマちょっと不用心すぎんか?〕
〔一応呼び方が違うだけで同じ種族の可能性はあるのか〕
〔ソーマ結婚詐欺師とかに騙されそうで心配になって来た…〕
〔二人がかりで騙してたのかよwこれはソーマも人間の敵確定だなwww〕
「まぁ……確かにちょっと不用心には感じましたね。頼み込んだ身で言う事ではないですが……」
「あの時はホントに金が無くてな……水道とか空調とか諸々を魔法で節約できるし、食費もかからないって言うから……」
コメントのリアクションに返答しながら、チラリとソーマを見るヴィオレット。
視線とコメントを受けたソーマは若干気まずそうに頭を掻きながら、子供が言い訳するようなぼそぼそとした口調で事情を説明するが……そのあまりの内容にコメントからツッコミが殺到した。
〔ちょっと待って!?魔族をエアコンがわりにしてたの!?〕
〔確かに魔法があれば色々節約できそうだけどさぁw〕
〔苦学生か…覚えあるわ〕
〔ああそれなら納得……とはいかねぇよ!?w〕
〔これって犯罪とかにならんのかな…〕
〔↑多分犯罪にならんやろ。そもそも地上で魔法を使う事に関する法律無いし〕
〔やってる事は自分で川の水汲みに行ったりするようなもんだしなぁ……〕
意図してかそれとも偶然か、彼の言葉によってコメントの雰囲気が若干和らいだことを好機と判断したヴィオレット。
そのまま彼女は彼の家に転がり込んでからの生活について、説明を続けた。
「その後は殆ど皆さんの知る通りです。彼の部屋に住まわせて貰う代わりにダイバーとして活動し、月当たりの収入の何割かを家賃として納めていました。ステータスがあんな感じだったので、色々と隠す事にはなりましたが……」
〔ヴィオレットちゃんの月収の何割かって……数百万ってレベルじゃないよな?〕
〔最初はともかく下層に入ってからだと魔石一個で数万は行くだろうから……〕
〔待ってソーマってヴィオレットちゃんのヒモだったの!?〕
〔↑言い方ァ!w〕
彼女の説明が続く毎に、気まずそうな表情になっていくソーマ。
話す内容については予め打ち合わせていたとはいえ、今までの自分を振り返って思うところもあるのだろう。
彼がダイバーとして復帰したのも、その辺りの事情が関係するようだ。
「ヒモについては正直否定は出来ん……苦学生とは言え、正直生活に関してはかなり依存してたと思う。今は俺も下層で稼いではいるが、あの時は配信もしなくなってたからな……」
「私としては結構好きでしたよ。あの生活も。正体を知ってなお必要とされてるって、初めてでしたから」
腕を組みながら過去を反省するソーマを、優しく励ますようにそう言うヴィオレット。
その言葉の内に籠る生々しい実感に、リスナー達の間にも彼女の発言は真実だったのではないかという空気が漂い始める。
〔ヴィオレットちゃん…〕
〔やっぱ異世界の話ってマジなのか?〕
〔騙されんなよwwwお前らチョロすぎだろwww〕
〔結局ヴィオレットって悪魔の味方なの?〕
同情的なコメントの中に炎上を狙う悪意も混ざるが、同時に本質を冷静に判断しようという意図を感じる質問も飛んできた。
そのコメントを拾ったヴィオレットは居住まいを正し、真剣な表情で断言する。
「そうですね、先ずそれについて明言しておくべきでした。私は悪魔の仲間ではありません。魔族になってしまいましたが、人間の味方です。……まぁ、これについては言葉での証明は難しいので、今後の活動で示していこうと思ってます」
〔まあせやな〕
〔その言葉が聞きたかった〕
〔その見た目で何言っても説得力ねえんだよなぁwwwww〕
〔これ信用する人、バカですwww〕
彼女の明言に対する反応は様々だった。
ヴィオレットの言ったように『今後の活動を見て判断しよう』という冷静な者や、『人間の味方』という発言で安心したかった者。何が何でも信じないと最初から決めていた者や、信じる者を揶揄する反応。
今やオーマ=ヴィオレットの敵である事を喧伝し、それによって注目を集めようという配信者も珍しくないのだ。このようなコメントが来るのもある意味当然の流れではあった。
その中から自身の容姿に関する指摘を目敏く見つけたヴィオレットは、これを機に一つの事実を告げる事にした。
「あぁ、そうでした。この姿についても関係する事なのですが……どうやら私はレベルアップする毎に弱体化していく体質のようです」
〔!?〕
〔レベルアップで弱くなる事ってあるの!?〕
〔詳しく〕
この発表にコメントは動揺に包まれた。
何せレベルアップによってかえって弱体化する事があるのであれば、ダイバーにとって他人事ではないからだ。
「あ、皆さんの場合はレベルアップで弱体化する事は稀だと思います。これは私の願望に関わる事なので」
コメントの雰囲気から彼等の焦燥や誤解を感じ取ったヴィオレットは、彼等を安心させる為に事情の説明を続けた。
「先ほど言ったように、私は異世界で数百年もの間、人間から拒絶されてきました……魔族という種族に転生したというだけの理由で。そんな半生を送った為に、私はこの『種族そのもの』にコンプレックスがあり、それが原因でレベルアップする毎に見た目も本質も人間に近付いていく……つまり、魔族という種族故の身体パフォーマンスや魔力量が減少していくんです。弱体化というのはそう言う理屈です。実は、今の私の魔力量は初配信時の2/3くらいになってるんですよ」
〔レベルアップってそんな影響もあるの!?〕
〔確かにチヨちゃんより肌の色とか人間に近い気も…〕
〔明るい室内だから色が違って見えると思ってたけどそう言う理由だったのか〕
〔今更ながらレベルアップって何なんだ…?〕
『弱体化というよりは人間化』……そう言う理屈であれば、元々人間であるリスナー達にとっては無関係な話だ。
それを理解して安心する反面、リスナー達──特にダイバー達は、自分達が当然のように利用して来たレベルアップという現象に疑問を抱いたようだ。
ついでとばかりにヴィオレットは異世界の千年間で培った、自らの知識を授けるように語り始めた。
「レベルアップというのは便宜上の呼称でしょうね。少なくとも異世界ではそんな呼び方はされてませんでした。アレの本質は倒した魔物が発散した魔力を取り込んた肉体が、その性質によって変質する現象です。魔力と言うものは元々『物事を変質させる性質を持つエネルギー』で、魔法もそれによって世の理を小規模ながら変質させる技術を言うんですよ」
〔ちょっと待って情報量が多い!!〕
〔それってつまりダイバーは人間じゃなくなっていくって事!?〕
〔老化が遅れるとかは知ってるけどそれもそう言う事!?〕
明かされる情報の量に、理解よりも疑問が増えていくリスナー達。
彼等から矢継ぎ早に投げかけられる質問に、ヴィオレットは一つずつ回答を返すよりも彼等の理解の段階を引き上げた方が早いと判断し、レベルアップのメカニズムについて彼女が知る内容を開示していく。
「……気付いている方もいるかと思いますが、レベルアップの変質が与える影響は潜在的な願望に大きく左右されます。強くなりたいという思いが真摯であればある程、レベルアップで強くなりやすく、逆に美しくなりたい等コンプレックスを持っていればそちらにリソースが割かれて実力の向上はその分少なくなります……私のように。だから老いが遅れたりするのは単純に『若々しくいたい』という、誰もが持ってる願望の影響であり、それイコール人間じゃなくなっている訳じゃありません。安心してください」
〔あぁー…なるほど?〕
〔確かに初配信と比べて全然顔違うダイバーも多いしな…〕
〔でもレベルアップしてもあんまり変化ない奴おらん?迷惑系とか、引退前のダイバーとか〕
「レベルアップしても成長を感じられない人は、既に諦めているか満足している人ですね。どちらも現状以上を望まない為、変化が小さくなるんです。……或いは容姿や体質に大きな変化が起きていれば、そちらにリソースの大部分が割かれているかもしれませんね」
〔あー何か分かる気がする〕
〔ダイバーは向上心が大事って事ね〕
〔じゃあ伸び悩んだから即引退ってのも間違ってるのか…〕
〔俺ももうちょっと頑張ってみるかな〕
反応からリスナー達の理解が深まったことを何となく察したヴィオレット。
ここで彼女は隣に座るソーマをチラリと一瞥し、一つの豆知識を披露したのだが……そこで彼女は久しぶりのジェネレーション・ギャップならぬ『ユニバース・ギャップ』を経験した。
「因みに、それを医療目的に使っているのがダンジョン療法です。肉体が変質する訳ですから、遺伝による先天性の病も治りますし、不治の病に苦しむ事も無いわけです」
〔藤の病?〕
〔富士?〕
彼等に『不治の病』という言葉が通じなかった事で、彼女は理解した。
ダンジョン療法によってあらゆる病が治せると言う事は、もうその言葉が死語であると言う事を。
「……あぁ、なるほど。こちらの世界には『不治の病』という概念がもう無いんですね。良い事です。文字にするなら『不可能の"不"』と『治療の"治"』で、『不治』……つまり、医療によって治せない病の事をそう言います。私が異世界に転生する前の日本には、そう言う病気が溢れてました」
〔大昔の文献にはその言葉の記述があるな……確かにダンジョンが生まれたとされる千年以上前の文献が殆どだわ〕
〔なんか今凄い話聞いてる気がする…〕
嘗て彼女自身の"人"生を終わらせた不治の病。それが概念から無くなった世界。
それを齎したダンジョンは、しかし同時に彼女が敵対する魔族の侵略の証明でもある。
世界に授けられた恩恵であると同時に世界にかけられた呪いでもあるその存在に、彼女は人知れず複雑な思いを抱くのだった。




