第251話 ごきげんよう、■■■■■■です
〔そろそろだな…〕
〔なんか緊張して来た〕
〔あの悪魔なんて言い訳するんだろうなwww〕
〔随分久しぶりに感じるよなぁ〕
〔やっぱ炎上目的の奴居るわ〕
〔飽きねぇなこいつらも〕
〔復帰配信!〕
〔同接エグすぎだろ…〕
〔頑張れヴィオレットちゃん!〕
配信開始まであと数分を切ったオーマ=ヴィオレットの配信は、まだ待機画面にもかかわらず多くのコメントが飛び交っていた。
『オーマ=ヴィオレット悪魔化騒動』以来沈黙を貫いていた彼女が数週間ぶりに立てた配信枠。それも、『すべて打ち明けます』というタイトルだ。
彼女を信じる者、更なる炎上を狙う者、ただ真実を知りたい者、騒動によって興味を引かれた者、切り抜き動画でバズろうとする者……様々な目的を持ったリスナーが集まってきており、既に同接数は五十万に達していた。
彼等の期待や不安、緊張は配信開始の時刻が迫る毎に高まり続け──やがて、その時が訪れた。
『──皆さん、お久しぶりです。オーマ=ヴィオレットです』
画面が切り替わり、水が入ったグラスの置かれたテーブルに着いたオーマ=ヴィオレットが映し出された。
リスナー達が久しぶりに見る彼女の顔には活動を休止する前に見せていた笑顔はなく、ただ不安と緊張が綯い交ぜになったまま、静かなトーンで配信は始まった。
〔久しぶり!〕
〔待ってた!〕
〔頑張れ!〕
〔どの面下げて戻って来んの?wwwwww〕
〔悪魔の姿見せろよwww〕
『……っ、今回は配信タイトルの通り、私が皆さんに隠していた事実を明かすつもりで配信を始めました』
無数の応援の言葉に混じる悪意。
それらに一瞬怯みそうになったオーマ=ヴィオレットは、しかし直ぐに気持ちを切り替えて配信の目的について告げると、左腕に装着している腕輪に指を添えた。そして──
『先ず、見せたい物があります。……私の、ステータス画面です。──【ステータスオープン】』
腕輪と紐づけられた配信用機能によって、画面に彼女のステータスが表示された。
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配信者名:オーマ=ヴィオレット
レベル:測定不能
所属国籍:日本
登録装備(4/15)
・ローレルレイピア
・デュプリケーター(L.E.O.)
・アセンディア
・ロードルビーのイヤーカフ(L.E.O.)
・ダイバードレス(UMIQLO)※破損
・セット:『お忍び令嬢コーデ』(UMIQLO)
・魔族姫の戦装束(L.E.O.)※破損
・魔力式ランプ(ラフトクラフト)
ジョブ:■■ Lv184
習得技能/
・■■■■
・■■
・■■■■■
・ラッシュピアッサー
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・■■■
・チャージ
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・螺旋刺突
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・投擲
・ブリッツスラスト
・細剣の心得
・■■■■■
・■■■■
・■■■■■■■
・エア・レイド
・■■
・■■■
・ウェポン・ガード
・マジックステップ
・■■■■■
・千刺万孔
・■■■■■■■
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・■■■■■■
・■■■■
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〔なにこれ…〕
〔バグってる…〕
〔レベル測定不能!?〕
〔ジョブとスキル文字化けしとる…〕
〔魔剣士じゃないの!?〕
初めてリスナー達に明かされたその内容に、コメントは困惑と動揺に包まれる。
その様子を確認したヴィオレットは、これまで自身が抱えていた事情の一つを明らかにした。
「私のステータスは最初からこんな感じです。だから、この画面を他者に見せる訳にもいかず、ジョブも明かせませんでした」
〔それでか〕
〔何でこんなことになってんの…?〕
〔こんなん初めて見たわ〕
〔ちょっと待ってエンチャント系のスキルなくない?〕
コメントの一つを目にとめたヴィオレットは緊張した表情で頷くと、その指摘を肯定する。
「そうですね。エンチャントは……腕輪の機能で使うスキルではありません。私が元々使える、ただの魔法です。……このように」
そのまま彼女は左腕の腕輪を外してテーブルに置くと、代わりに置かれていた水の入ったグラスを手に取る。
その瞬間、グラスの中に入っている水が凍りつき、グラスは燃え上がる。
じゅうぅっという音と共に氷はあっという間に解け、やがてボコボコと沸騰し始めた。
〔!?〕
〔無詠唱!?〕
〔地上で魔法!?〕
〔腕輪無しで!?〕
「本当の魔法は腕輪なんて必要ありませんよ。だから使用を規制される事もありませんし、術式のイメージさえ正確であれば詠唱も要りません」
〔なるほど…〕
〔悪魔だから腕輪無しで魔法使えるんだろw〕
ヴィオレットの説明を噛み砕いているのだろう。コメントの速度が落ちる中、そこに悪意が疑念を投下する。
これまでダイバー達が戦って来た悪魔──チヨやユキが同様に魔法を扱うのだから、同じく悪魔のヴィオレットもまた魔法が使えて当然であると。
あからさまな印象操作だが、しかし頭ごなしには否定できない。彼等の内誰も魔法や悪魔に詳しくないがゆえに。
想定できた流れだった。どれだけ誠意をもって答えようと、悪意によって悪魔と関連付けされる事は。
だからこそ、ヴィオレットは一つ対策を考えていたのだ。
「魔力さえあれば、人間にも同じ事が出来ますよ。──兄さ……ソーマさん、こちらに」
「……別にいつも通り『兄さん』で良いんだがな」
「ややこしくなりますからね。……血縁上の繋がりは無いんですから」
彼女の呼び声に応える形で配信に映り込む、一人の男性ダイバー。
オーマ=ヴィオレットの兄として知られていたソーマの登場に、コメントは加速した。
〔ソーマ!〕
〔今も一緒に居るんだな〕
〔やっぱり兄妹ってのは嘘なのか…〕
「そうですね。……彼は、人間ですから」
少し寂しそうにそう告げたヴィオレットの言葉に、一部のリスナーが食いついた。
〔事実上の人外宣言!www〕
〔口滑らしちゃったねぇwwwwwww〕
〔切り抜いて拡散してやるかw〕
配信待機画面から悪意を持ってコメントしていた一部のリスナーがここぞとばかりに盛り上がるが、ヴィオレットの対応は毅然としたものだった。
「紫織……」
「……打ち明けると決めての配信です。もう隠しませんよ。だからいくら拡散されたところで構いません。あぁ、最低限のマナーとして、切り抜き元のリンクは忘れずにお願いしますね」
そう言ってにっこりと微笑むヴィオレット。『宣伝ありがとう』と言いたげな姿勢に、今度は逆に彼女を応援しようとするリスナー達が盛り上がる。
〔草〕
〔強かだなぁw〕
〔宣伝よろしくぅw〕
しかし、配信に映らないテーブルの下で、ヴィオレットの手は震えていた。
それを見たソーマは彼女を案じるが、それを態度に出してしまえばそれこそヴィオレットの思いを踏みにじる事になる。
そこでソーマは代わりにヴィオレットの隣に立ち、ピッと指先を立てた。そして──
「──【■■】」
この世界に存在しない響きで、力ある言葉を紡ぐ。
すると彼の指先にポッと小さな火が灯った。
規模こそ小さいが、紛う事なき魔法の行使。
彼の腕に腕輪は無く、そもそもソーマは魔法を使えない『剣豪』のジョブである事を公開している。彼自身が魔法を使った証明としては、この小さな火で十分だった。
〔!?〕
〔魔法!?〕
〔ソーマが魔法!?〕
「このように魔力制御と呪文、イメージが正確であれば人間でも同様の事は出来ます。私が居た世界では、十歳になる子供もこのくらいは出来て当然でした」
そう言って自身は無詠唱で広げた五指の先に火を灯すヴィオレット。
今回ソーマが行使した魔法が初歩的な物である事を示す彼女の説明に、しかし悪意あるリスナーは食らいつく。
〔実はソーマも悪魔なんじゃねぇの?w〕
〔先ずはソーマが人間だと証明してくれる?wwww〕
ヴィオレットだけでなく、その味方をするソーマも炎上に巻き込もうという悪意。だがそれらのコメントは、直ぐ後に続くコメントに押し流されていった。
〔私が居た世界?〕
〔どう言う事?〕
〔なんかすごい言葉がさらっと聞こえたな…〕
少しばかり口を滑らせたヴィオレット。
しかしこれもまた元々伝える予定だった為、つい口をついて出てしまったワードだ。彼女は多少この後の予定を変更し、先に『自己紹介』をするべく立ち上がった。
「……改めて、自己紹介します。皆さん、ごきげんよう。私の名は■■■■■■──異世界から来た、魔族です」
異界の言語で紡がれる真の名前。
彼女は自身を人間の少女に見せていた【変身魔法】を解除し、本来の姿で二度目の自己紹介を行うのだった。




