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第225話 強襲の白虎

「──ここが深層か……なんともけったいなとこやなぁ」


 小声でそんな事を呟きながら、中層を思わせる迷宮構造の通路を歩く。

 事前にヴィオレットの配信を見てある程度の情報は仕入れとったけど、実際に足を踏み入れると確かに感じる気配が妙に濃い気がする。

 周囲に浮かぶ光の玉とか謎も多いが、触れても特に害は無さそうなので今は放置しておく事にする。


〔今光の玉触ってたけどどんな感じ?〕

〔触って大丈夫なのかな〕


「どない言われてもなァ……正直、ウチ魔力感知苦手やねん。特別暖かいとかも無いし、多分無害やと思うわ」


 愛剣を双雷牙に作り替えて貰ってから魔力のコントロールも大分鍛えたけど、未だに魔力の感知は上手くできへん。

 もしもウチがアイツみたいな魔法使い系のジョブやったら、もっと気の利いた事言えたのかもしれんが、生憎と魔力なんて精々『なんとなくそれっぽい気配があるような無いような……』って程度やしなァ……

 リスナーから届く興味や心配のコメントに対して、感じた事を素直に答えながら歩いていると、ここでコメントの一つがウチの不注意を指摘してくれた。


〔その玉の所為で影が伸びてるから気を付けて!〕


「おっと、せやったな……おおきに!」


 実際に触れても特に何とも感じない光の玉やけど、これが光源になって出来る自分の影には要注意や。

 うっかり曲がり角や十字路の先にまで伸びた影を見逃すと、死角に潜んでいた魔物に奇襲を受ける可能性がある……確か配信でヴィオレットも言うとったな。

 明るいからこそ必要な注意か……大阪のダンジョンとはまるで勝手が違うなァ。


(対策としてはなるべく壁際を歩く事やったか。まぁ気休め程度やけど、なんもせんよか幾分マシやろ)


 事前に仕入れた知識も活用しながら慎重に探索を進めていると、ふと正面に見えた十字路の右に続く通路から一つの影が伸びているのが見えた。

 シルエットの形状から判断するに──


(リザードマンか……大阪でもよぉけ見る魔物やな。深層の魔物がどの程度のもんか確認する試金石には丁度ええか……!)


 光の玉を警戒しないとこうなるんやな。と、納得しながら両手に構えた双剣──双雷牙の柄を強く握る。

 そして『パチリ』と小さく火花が散った音を合図に勢い良く飛び出したウチは、視界に入った三体のリザードマンの内、特に反応の鈍い個体へといつものように低い姿勢で一気に接近。背後から奇襲の一閃で仕留めた。

 続いて攻撃直後の隙を狙ったのか、仲間のリザードマンが横薙ぎに振り抜いたサーベルを跳躍して躱したウチは、逆に隙を晒したその個体の頭部に飛び乗ると双雷牙を突き立てて倒す。

 更に一瞬の内に仲間が二体もやられた事に動揺したリザードマンを次の標的と定めると、今しがた倒したリザードマンの身体が塵になるよりも早くそれを踏み台に跳躍し、落下速度を上乗せした双雷牙の振り下ろしで袈裟斬りにして討ち取った。


「──こんなもんか。いくら深層や言うても、リザードマンの質自体は変わらんみたいやなァ……」


 曲がり角を飛び出して数秒。

 危なげなく三体のリザードマンを狩ったウチは、バチバチと放電する双雷牙の電圧を同時に散らしてから一息吐く。

 ……何気にこの放電解除の際でも、電圧のバランス調整ミスったらウチの身体に電流流れるからなぁ。下手したらリザードマンと戦うより気ィ遣うわ。


〔お見事!〕

〔流石ナニワの大牙!〕


「このくらいは当然や。今更リザードマン程度に遅れとってたまるかいな」


 と、リスナー達のコメントにいつもの調子で返していたその時……突如として、周囲に聞き覚えのある声が響き渡った。


『──アアアアアァァッ!!』

「なっ……! なんや、今の声……!?」

(何か聞き覚えある声やった気がするけど……まさか──!)


〔今の声って?〕

〔ヴィオレットか!?〕

〔確かに今日も配信してるけどまさか…〕


「──くッ!」


 やはり聞き間違いやなかったか……頭がそう理解すると同時に、ウチは駆けだしとった。

 ヴィオレットとは知り合ってまだそれほど長い付き合いという訳やないけど、それでも大きな戦いを共にした戦友や。

 親しみやすい人柄もウチには好印象やったし、アセンダーロードやチヨのような強敵相手にタイマン張る実力は尊敬さえしとる。そんな奴がピンチとなれば、助けに向かわん選択肢は無かった。


 幸いにも──と言うべきかは分からんけど、明らかに危機的な状況に陥っている事を示すヴィオレットの絶叫がずっと深層に響いとったおかげで、まだこの周辺に詳しくないウチでも迷う事無く声の発生源に駆けつける事が出来た。




(──あいつは……ッ!)


 辿り着いた部屋の中で何があったのか、そこには大穴が開いとった。

 その縁にしゃがみ込みこっそりと覗き込んだウチの視線の先には、果たして悪魔に拘束されたヴィオレットの姿があった。

 あの悪魔についてはヴィオレットの配信で知っている。

 特殊な魔法で認識を狂わせ、幻覚を見せる厄介な悪魔。状況からして、相当精神的にキツイもんを見せられとるみたいやけど……


(一体何を見せられたらこんな事になるんや……? ──いや、今はそないな事考えとる場合やないな。先ずは救出が最優先や!)


 少し前の配信でヴィオレットは『一晩寝て覚めたら治った』と言っていた。

 要するにダンジョンから帰還さえできれば、あの悪魔の攻撃はどうとでもなる筈や。ウチの両手に自然と力がこもり、『パチリ』と小さなスパークが走る。


 そしてすかさず双雷牙の片方を悪魔に向けて【投擲】した……んやけどなァ──


「──おっと?」

(ッ、やっぱ躱されたか……!)


 なるべく気配は消していたつもりやったけど、流石にそう簡単にはいかんらしい。

 仕方なくウチがここでの奇襲を諦めて立ち上がると、こちらを見上げる悪魔と視線が合った。


「珍しいね、こんな所に二人目のお客さんなんて。でも生憎取り込み中でね……今なら見逃してあげるから、さっさと帰りなよ」

「アァ!? 何言っとるのか、よぉ聞こえんなァ! 人のダチにこない悲鳴上げさせよって、覚悟出来とるんやろなァ!」


 開口一番、こっちを見下した発言をかます悪魔を見下ろして啖呵を切ったウチは、その勢いのまま穴の底へ向かって飛び降りた。



(──あーあ……降りて来ちゃったか……)


 あの方から連れて来いと言われたのはこの人間だけで、他はどうでも良いんだけどな。

 相手するのも面倒だったから、少しばかり殺気をぶつけて脅してみたのだけど……もしかして実力差が分からないのかな。それとも単に好奇心で動く単細胞なのか。

 ……どっちにしても、やっぱりこのチビの相手もボクがしなきゃいけないよね。


「はぁ……めんどくさいな。帰れって言ったの、聞こえなかった?」

「アホォ、そないな声聞こえるかい。人のダチをこうも叫ばせよってからに」

「『ダチ』……?」


 その言葉に拘束したままの人間へと視線を送る。

 しかし当然ながら、今の彼女にこの闖入者の判別なんて出来ていない。ただ開けっ放しの目と口から涙と絶叫を垂れ流すだけだ。


「この子を取り返しに来たって事かぁ……ホント、ボクにとっては面倒ごとの種だね。コイツ」

「そないに面倒なら大人しくこっちに返して貰おか。──そうしてくれたんなら、見逃したるで?」

「ボクにも事情があるんだよ。それさえなければこんな奴、もう殺してる」


 安い挑発に答えるように、尻尾の先端を人間の首筋に突きつける。

 これを少し動かせばコイツはあっさり死ぬ事になる。そう言外に示してやると、闖入者は『クッ』と悔しそうに雷を纏う剣を降ろした。


「ふん、甘いなぁ……──何しに来たのさ、キミ」

(魔物どもにいたぶらせるのも良いけど、さっき生意気な挑発もされた事だし……こいつにもトラウマツアーを経験させてやるとするか)


 言葉で煽りながら、さりげなく角の先端をこの闖入者に向けてやる。

 後は撃ち込む術式を組み上げるだけで──


「すまんなぁ、ヴィオレット。──ちょい、ビリッとするで」

「? 何を……」


 ぼそりと闖入者が発した言葉の意味をボクが理解するよりも先に、そいつが握る剣の放電がしゅんと弱まる。

 人質を取られて抵抗を諦めたのか。そう思った次の瞬間──


「ガァ……ッ!?」

「ぅっ……!?」


 ボクの身体を()()()()()()()()()()が貫いた。

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