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第206話 順調?

『──ハァッ!』


 オーマ=ヴィオレットの振り抜いたアセンディアのオーラが形を変え、巨大な斬撃となってサーベルを持つ二足歩行のトカゲの魔物──リザードマンの群れを殲滅する。


『ふぅ……結構な規模の群れでしたね』


〔渋谷ダンジョンにもリザードマン出るんだな…〕

〔京都の方の下層の魔物だっけ〕

〔鳴き声で連携取ってついでに仲間まで呼ぶ面倒な奴だから一気に倒さないとキリがないのよね〕


 遭遇した時点では三体だったのに、最終的に彼女が相手をする事になった総数はその十倍以上。

 これは彼女が初対面の魔物と言う事もあって序盤様子見していたのも原因の一つではあったのだが、結果としてそれがこの魔物の脅威を浮き彫りにする結果となった。


『今度からリザードマンを見かけた時は、先手必勝で殲滅させていくとしましょうか……』


 先程の戦いで得た知見からそう反省したオーマ=ヴィオレットは、再び口を噤むと足音を殺して深層を進み始める。

 ──そんな彼女の配信の様子を、笑みを浮かべながら見つめる者があった。


「フフ、順調に探索を進めているようね……」


 その容姿は【変身魔法】を解除したオーマ=ヴィオレットに瓜二つ。

 彼女の背から生えた一対の飛膜と尻尾が、彼女もまた人外の存在である事を物語っていた。

 玉座に深く腰掛けて満足げにスマートフォンの画面を眺めていた女性は、やがて視線を傍らに立つもう一人の女性──ユキへ向けると口を開いた。


「──それで、そっちは順調なのかしら?」

「す、すみません……! なにぶん、私がいた時代ではこういったものは無かったので……」


 そう言いながら目を逸らすユキの手には、彼女のコレクションの一つであるスマートフォン。

 その画面から漏れる光に照らされたユキの表情は、まるで難問にぶつかった学生のように引き攣っている。

 最初は修理が終わって帰って来たコレクションに喜んでいたのだが、人間の最新技術の結晶であるスマートフォンにいざ実際に触れてみると、何が何やら分からず扱いに苦慮しているようだった。


「貴女の居た時代には無かったからって……それを私に言うの?」

「うっ……!」

「……まぁ、良いわ。実際、私の方が人間界に居る時間は長いものね。のんびり慣れて行きましょう」


 言葉を詰まらせるユキに対してそれ以上追及しようとはせず、女性は再びスマートフォンの画面に視線を落とす。

 そんな女性に対して、ユキが問いかけた。


「あの……主。一つ質問してもよろしいでしょうか?」

「なにかしら?」

「貴女と、その……オーマ=ヴィオレットは、何か特別な関係がおありなのでしょうか?」

「あら、どうしてそう思うの?」

「い、いえ。以前から思っていたのですが、お二人がとても良く似ておりますから……すみません。練習に戻ります」


 質問の途中から声量を落としていったユキは、再び自分のスマートフォンの操作に慣れる為の練習を再開しようとするが、そこで耳に入って来たリーダーの言葉に耳を疑った。


「フフ、そうね。一言で言えば、彼女は──」


「──え!? そ、それはどう言う……」

「手が止まっているわよ。好奇心は大切だけど、先ず貴女は覚えるべき事を覚えなさい」

「あ、は、はい。すみません……!」


 慌てて自分のスマートフォンに向き直るユキ。

 しかし、先程の女性の言葉の真意が気になるあまり、とても集中などできないのだった。



「……また、変わりましたね」


 深層での最初の戦闘を終えてから、どれ程の時間が経っただろう。

 魔物の奇襲を警戒して壁伝いに探索を進めていた私の目の前でレンガ製の迷宮は途切れ、再びごつごつとした岩肌を剥き出しにした洞窟が現れた。

 洞窟から迷宮へ、そしてまた洞窟へ……

 こういう急激な変化はここまでにも何度かあり、どうやらこれもまた深層の特徴の一つと言う事らしい。魔力の濃度が高過ぎて、エリアの性質が安定しないのかもしれない。


(まぁ、今のところ探索にそれほど影響しないから良いのだが……──ッ!)


 洞窟となったエリアにも躊躇なく足を踏み入れ、所々に生えた石筍を避けながら奥へと向かっていたその時だ。

 周囲の濃い魔力の中にあって、更に強い存在感を放つ魔力を感じ取った私は、咄嗟に付近の物陰に身を潜めた。

 ドローンカメラも操作してコメントを非表示にし、私の直ぐ傍まで呼び戻す。


 その直後だった。

 枝分かれした洞窟の通路の陰から、巨体がヌッと顔を出す。

 血走った目、荒い鼻息、力強い四肢、牛のような頭から伸びる巨大な角……そして、三メートル以上の巨体を包む、漆黒の毛皮。


(黒いミノタウロス……!?)


 外見上の特徴は毛皮の色と体格を除けば、アークミノタウロスとそれほど大きくは変わらない。

 しかし、内包する魔力の差は歴然だ。

 魔物にとって魔力量は、外見の筋肉量以上に膂力に直結する。つまり、この黒いミノタウロスのパワーは、単純に考えてもアークミノタウロスの数倍はあると言う事だ。


(武器は……槍か……!)


 身を隠している石筍の隙間から、黒いミノタウロスの様子を観察する。

 槍の特徴として最も脅威なのがそのリーチの長さと、鋭い突きだ。アークミノタウロスが振るっても直撃すれば大ダメージ必須の一撃。

 奴の膂力がその数倍だと想定すると、あの槍の威力は驚異的どころの問題ではない。

 私が隠れている事がバレれば、間違いなくこの石筍ごと私を貫こうとするだろう。しきりに周囲を見回している事から、まだ大丈夫なようだが──


(──いや……違う! 既にバレているッ!)


 咄嗟に石筍の陰から飛び出した瞬間、振り抜かれた大槌の一撃がたった今まで私が隠れていた石筍を破砕。

 砕けた破片が無数の散弾となって、さきほどまで私が居た位置を薙ぎ払った。


「──ブルルルル……ッ!」

「フシュー……ッ!」

「黒いミノタウロスが二体ですか……逃がしてくれる様子はありませんね」


 わざとらしく周囲を見回していたのは囮……本命は奴の後ろに控えていた、大槌を持った黒いミノタウロスだったという訳だ。

 手慣れた連携の様子から高い知能がうかがえるが、もう少し演技力は磨いた方が良いかも知れないな。


(まぁ、私も奴の鼻が動いていない事に気が付かなければ危なかったけど……)


 アークミノタウロスで予習していたから知っている事なのだが、奴らの索敵は主に視覚と嗅覚だ。

 しきりに周囲を見回していたと言う事は、既に何かしらの感覚で私を捉えていたと言う事。そして、露骨に索敵しているのに、嗅覚には頼っていなかった。


「──つまり私の視線を釘付けにする事が、本来の目的だったという訳ですね」


〔こっわ…〕

〔俺だったら今ので死んでたかもしれん〕

〔黒いミノタウロスやっば〕


 リスナー達に情報を共有しつつ二体の黒いミノタウロスと向き合い、こちらもデュプリケーターとアセンディアを構える。

 相手の武器は槍と大槌。こちらよりもリーチは長い為、アセンディアを頼って行きたいところではあるのだが……


(……オーラが減ってきている。どうやらオーラを使った斬撃でも、少しずつ消費はしているようだな)


 流石にオーラを飛ばした時ほどではないものの、全くノーコストとはいかないらしい。

 今後も長時間深層を探索する事を考えるのであれば、オーラにばかり頼ってはいけないという事なのだろう。

 新しい課題も見えて来たが、しかし流石に初見の相手に対してだけは消耗を気にしてはいられない。


「全力で行きますよ! 黒毛和牛!」


〔草〕

〔黒いミノタウロスだからってwww〕

〔それ正式名称にはしないでねw〕

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