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第193話 クリムの才能

「──配信出来てますか? ……大丈夫そうですね。では、探索の再開と行きましょう!」


〔見えてるよー〕

〔大丈夫!〕

〔再開だー!〕

〔ツインテヴィオレットちゃんだー!〕


 チヨが飛び去った後、今回も戦闘の余波で破壊されてしまった物の代わりに取り出したドローンカメラにて配信を再開。

 あまり受け入れたくない事実ではあるが、私のドローンが破壊されるのもいつもの事である為リスナー達の集まりも早く、配信の再開は順調にいった。


(……やっぱり結構人気だな。ツインテール……)


 再開したコメント欄には、チヨに弄られた私の髪型に対する物がいくつか見受けられた。

 そのいずれも『新鮮』だったり『かわいい』だったりと好意的な物ばかりで、これは先程のクリムの言葉もあながち個人的な興味という訳ではなかったのだなと感心した。




『クリムさん、この髪の毛解くの手伝ってくれませんか?』


 クリムがチヨの背中に怒号を上げている時に軽くツインテの付け根に触れて確認したが、どうやら無駄に器用な事にヘアゴムを使わずに髪の毛を結う事でツインテールを作っているらしく、自分一人で解くのは少し面倒くさそうなのだ。

 そう伝えると、クリムはぎょっとした表情でこちらを振り向いた。


『えっ!? もう解いちゃうんですか!? 折角キレイに出来てるのにもったいないですよ!』

『そんなにですか? 生憎、自分では分からなくて──』


 首の後ろに垂れたツインテールの片方を正面に持ってきて触りながら尋ねると、その瞬間にクリムがガシッと私の肩を掴む。


『そんなにです! 折角なので、今日くらいはその髪型で行きませんか? 今日限定のイメチェンみたいな感じで!』

『ち、近いですクリムさん……!』




 ──と、まぁ半ば『圧』に負けるような形になってしまったが、リスナーにも好評ならば別にこのままでも良いかと思い直す。

 実際何か困る事がある訳でもないのだし、このくらいの事で喜んでもらえるのなら安い物だ。


〔チヨが来る前って何やってたっけ〕


「──っと、そうですね。途中から来た人もいるかもしれませんし、一度おさらいしましょう」


 そう前置きをして、ここまでの内容を軽く振り返る。

 最初にクリムと軽く組手をして互いの力量を確認した事、その後互いの技術を交換した事、そして丁度クリムに貸した水風船の【エンチャント】が切れたところでチヨが来た事。

 一通り説明を終えたところで、クリムが思い出したように尋ねて来た。


「そう言えば、あの水風船ってどうしましたっけ……」

「ご安心を。クリムさんがチヨと戦う前、離れるついでに回収しておきました」


 今更水風船を失くした程度で痛む懐ではないが、それでも戦闘中にノイズになる事はあり得る。そう考えて先に回収しておいたのだ。


「あ、ありがとうございます! これでまた訓練が続けられますね!」

「んー……確かに、同じ訓練を続けようと思えばできるんですが……」

「?」


 ただ……先程のクリムの戦いっぷりを思うと、この訓練ではもうそこまでの効果は得られないだろうとも思う。


「……ちょっと待って下さいね。──【ストレージ】」


 そう言って一歩分だけクリムから距離を取り、私が腕輪から取り出したのは……


〔アセンディア?〕

〔ちょっとオーラ回復したっぽい?〕


 コメントの指摘する通りアセンディアのオーラはチヨとの戦闘中にも回復していたようで、腕輪から取り出した刀身にはしっかりとオーラが宿っていた。


(──ぱっと見た感じだと、一割くらいか?)


 後でアーカイブを確認すれば全快までに必要な凡その時間を計算できそうだが、今はそこは重要じゃない。僅かとは言えアセンディアがオーラを纏っている事が重要だった。


「……これなら大丈夫そうですね」

「? ヴィオレットさん、一体何を……?」

「クリムさん。正直に言いますと、あなたは既に水風船で訓練する段階をクリアしています」

「えっ」


 クリムは驚いているが、先程チヨの接近に魔力感知で気付いた事や、早くもチヨ相手で実戦に応用できている時点で感知技術の習熟度で言えば十分過ぎる程だ。

 ここから先は自分の感覚や戦い方に合わせた応用と擦り合わせの段階であり、私が教える事ではないのだ。よって──


「ここからは実戦あるのみです。アセンディアのオーラも少しとは言え回復していますし、一緒に下層の探索と魔物狩りをしていきましょう。そして最後にもう一度私と組手をして、今日一日の成果を確認して配信を締めようと思います。どうでしょうか?」

「分かりました! それで行きましょう!」

「……クリムさんって時々ちょっと流されやすいんじゃないかって心配になりますね。変な人に騙されないよう、気を付けた方が良いかも知れませんよ」

「えぇっ!?」


 ……なんだ、その『お前が言うな』みたいな表情は。


 そんなやり取りの後に始まった下層の探索。

 目標とする場所もなく、ただただ魔物を狩る事を目的とした放浪の途中では様々な事があった。


『ヴィオレットさん! 今度はあっち行ってみましょう!』


 クリムの表情は終始明るく、無邪気な好奇心で私をリードして行ったが……その度に私は彼女の()()()()()を知る事になった。


『あ! トレジャー鉱石です! 高く売れますし、採って行きましょう! ──って、あれ? この揺れ……』


 幸運が味方しているのか、直ぐに発見したトレジャー鉱石を採ろうとした瞬間、その丁度足元から飛び出してきたダンジョンワームに鉱石を食われたり──


『ダンジョンホッパーです! 魔物狩りに使えるので捕まえましょう! ふっふっふ、早速鳴いてくれてますね……あれ? ダンジョンホッパーでダンジョンホッパーが集まる事もあるんですね。 ──あっ!?』


 捕まえようとしたダンジョンホッパーが引き金となり始まった大合唱で、想定を遥かに超える数の魔物を相手にする事になったり──


『おぉー! ここ中々の絶景じゃないですか!? 小さな結晶がいっぱい生えてて、光のお花畑みたいです! ……──あっ、ちょっ、ランページブルの群れがこっちに!? 食い止めましょう!!』


 折角見つけた絶景スポットがランページブルの突進で破壊されそうになったので守るために奮戦したり──




「──イベントが……! イベントが多い……ッ!」


 ……どう考えても二時間弱で経験するイベントの量ではないだろう。


(何だこの子、好きに行動させたら取れ高が勝手に向こうからやって来るのか……?)


 最初の出会いもそうだったが、発見→幸運→不運の流れが完璧すぎる。

 そして、今や彼女にそういった脅威へと対応できる実力が伴っている為、トレジャーも魔石も取れ高も純粋なメリットとして彼女の下に集まっている。『ダイバーやる為に生まれて来たのかこの子は?』と思う程だ。


(クリムがダイバーになってからたった数か月でここまで来れた理由が分かった気がする……)


 勿論土台となる実力が最初からあったのは大きいだろうが、それでも装備を整える資金だとか、リスナーの獲得などによるモチベの維持だとか、実力だけでは続かない理由もダイバーの界隈ではあるのだ。

 だが、こんな探索を毎回していれば、こんな急成長もするだろう。クリムの表情は『探索楽しい!』と言わんばかりに輝いていた。


(既に装備もWD製のオーダーメイドで一式揃えているし、リスナー数からしてもトップダイバーの一人だな……)


「──次はどこに行きます!? ヴィオレットさん!」

「そうですね……──っと、ちょっと待って下さい。そろそろ良い時間じゃないですか?」


〔確かに〕

〔もう直ぐヴィオレットちゃんの門限か〕

〔組手やるんだっけ?〕


 そう。度重なるイベントに忘れかけていたが、そろそろ時刻は17:00。

 組手に最大で十分かかるとして、締めの挨拶やプレミアムチャット付きのコメント返しも考えると、そろそろ組手に丁度いい場所を探した方が良いだろう。


「分かりました! じゃあ、あっちの方探していきましょう!」

「いえ、ここは逆を行きましょう。貴女に任せると、またイベントが発生しそうです……」

「えー?」


〔草〕

〔草〕

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 そういえば前話で討ち死に(?)してましたなぁドローンくん(笑) 彼は今何代目なんだろうか…? クリムちゃんをメインキャラ(?)で遊ぶとイベント盛りだくさん……もしかして彼女ってい…
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