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第180話 ジャイアントキリング

「──それっ!」

「──【ウェポン・ガード】!」


 チヨの鋭い蹴りを間一髪のところで防いだものの、【ウェポン・ガード】のノックバックも働き私の身体は大きく後方へと飛ばされてしまった。


「ぐぅ……ッ! 強い……!」


 槍を握る両手の痺れが、私とチヨの格の違いを雄弁に語る。

 チヨが近接戦を足技に限定していなければ、この差は更に大きく広がっていただろう。

 今の私には、チヨはあまりにも遠い……──それでも、私は何としても彼女に攻撃を届かせなければならないのだ。


(じゃないと、もう……あの子に──はるちゃんに、追いつけなくなる……!)


 真崎 遥香(はるちゃん)……私と違って常に『春葉アト』として戦い続けた彼女との差を痛感したのは、彼女の復帰配信だった。


 半年ぶりのダンジョン探索。それも下層にも潜ると言う事もあり、私を含むラウンズのメンバーは日頃の恩返しができると張り切って彼女のサポートに臨んだ。

 確かに最初は流石の彼女もブランクを感じさせるところはあった。しかし、それでもスキルを使う事なくアークミノタウロス数体に無傷で勝利するくらいの実力は健在で、戦闘面でのサポートをするには私達では力不足だった。

 その後も幾度もの戦闘を経て、彼女は実力を取り戻していった。


 流石は私達ラウンズのリーダー、最強と呼ばれた実力に陰り無し……そんな空気がメンバーの中に広がりつつあったその時だ。──彼女が私達の前に現れたのは。


『おぉ~~い! 皆ぁ~~!!』


 そんな能天気な呼び声と共に飛んできた悪魔、チヨ。

 彼女の姿を目にしたはるちゃんは、躊躇う事無く叫んだのだ。


『──皆、一旦撤退して! チヨはあたしが相手するから!』


 チヨと言う戦闘狂の存在はこの時点で知られており、はるちゃんも彼女の事は当然調べていた。

 実力を見込まれたクリムちゃんが組手に付き合わされた等の話も広まっており、この時点で彼女が遭遇した場合のチヨの対応が戦闘になる可能性は考えていたらしい。

 その判断に間違いはなく、事実チヨは私達の撤退後に春葉アトに勝負を持ちかけた。……だけど、私の心境は穏やかではなかった。


(……まだ、なんだ。全然、近付けてないんだ……)


 ヴィオレットちゃんに手伝って貰い、はるちゃんよりも先に下層に潜る機会を得た。

 そこでのレベルアップや経験の蓄積によって、ラウンズのメンバーだけで下層の探索もこなせるようになった。

 ……追いつけたと思っていたんだ。少しくらいは。


 でも、他でもないはるちゃんに『撤退して』と告げられた時に、嫌でも再確認させられた。今の私とはるちゃんの差を。


(そうだよね……私が復帰してたったの数か月頑張った程度じゃ、ずっと戦い続けて来たはるちゃんに追いつけるはずがない)


 頭の何処かで分かっていたその事実に、この時まで気が付かなかったのは……眼を背けていたからだ。目標の遠さを理解するのが怖かったからだ。


(……凄いなぁ……二人とも)


 はるちゃんの配信でチヨと彼女の戦いを見て、私は痛感した。

 もう、生半可な方法では彼女と並び立つ事は出来ない。


 その日以降、がむしゃらに努力した。

 すっかり慣れたソロでの下層探索でいくつものスキルを獲得し、立ち回りを見直し、魔法の腕も磨き、槍捌きも更に冴え渡った。……『強くなりたい』()()()()で槍を振るった。


 不思議な事に、それからの私の成長は目覚ましかった。

 まるで追い風が吹いているかのように、どんどん前へ前へと進んでいる実感。

 槍が軽くなった。鎧が羽のように感じた。筋肉の一つ一つが、より強固に編みなおされるような変化を実感した。

 変化はそれだけではない。

 魔物の動きの先が読めるのだ。視線や動きの予兆から何となくそれが分かる程、感覚が鋭敏に研ぎ澄まされ、洗練されていくのが分かった。

 自分の動きにどれ程無駄が多かったのか自ずと理解出来るようになり、それを削ぎ落す様に意識し始めてからは更に成長速度が上昇した。


(はるちゃん……こんなに動きが違ったんだね。私達……)


 今の感覚を手に入れた後で見返した親友のアーカイブ。彼女とチヨの戦いが如何に高みにあったかを、私はこの時初めて知った。


(まるでまた突き放されたような気分だけど……違う。どれだけ遠いのか、高いのかも()()()()()()()()()んだ)


 成長している実感を得られる努力の日々は充実していた。

 そんなある日、ヴィオレットちゃんの配信で私は衝撃を受けた。


 あのオーマ=ヴィオレットの敗北。そして、チヨの衝撃発言。

 まだまだチヨは遥か遠い目標だけど、私はこのチャンスに賭けようと思ったのだ。そして、今──


「──やあぁッ!」

「っと! 良いね、ならこれはどうする?」

「ぐっ……まだ、まだぁっ!!」


 私の攻撃は軽くいなされ、カウンターの一撃は鋭く重い。咄嗟の槍の防御も、その上から膂力だけで吹っ飛ばされてしまう。

 だけど……


(防げてる! 食らいつけてるんだ、あのチヨに……!)


 その実感が私の心を奮い立たせる。

 崩れかけた脚に力が戻り、気力が湧き上がる。


「おぉ……凄い気迫……! ぞくぞくするよ!」

「すぅ……ふぅ……! ──【アクア・レイ】!」

「おっ、魔法戦も行ってみる?」


 水圧カッターのような私の魔法を容易く回避したチヨが、私に向けて指を向ける。

 彼女が戦闘前に宣言したハンデによれば、今回使ってくるのは殺傷力の最も低い魔法。つまり──


(──ッ、来た!)


 チヨの角が一瞬バリッと帯電する。

 そして、チヨの指先に集まる何かの感覚……きっとこれが、魔力って奴なんだと思う。攻撃の予兆から発動のタイミングが、向けられた指の角度から凡その狙いを把握した私の一手は……


「──【アクア・バレット】!」


 発動が早い代わりに威力が無く、ノックバックがメインの初歩魔法。水魔法最弱論の原因でもある魔法だ。

 しかし、この魔法もまた使い方次第。ノックバックになると言う事は……


「おぉっ!? 飛んだぁっ!?」

「くっ……!」


 背後から自分に撃てば、高高度跳躍も可能と言う事だ。


「──でも、それで狙い外す程あたしは甘くないよ!」

「知ってますよ。これは回避の為じゃない……! あなたに近づく為の魔法です!」


 チヨは素早く私へと指先を向け、偏差も考えて照準を合わせる。その時間は一秒にも満たない正確さ。

 だけど、その僅かな時間で私はチヨを射程に収めた。


「これで終わりだよ!」


 そう言って指先に雷の鏃を顕現させたチヨに向けて、私は内心でこう返す。


(──あなたがです!)

「──【クラスターミスト】!」


 私の魔法の効果で、周囲に霧が立ち込める。

 霧と言うのは水だ。空気中に漂う僅かな水の粒子を束ね、霧の状態にして周囲に集めるのが【クラスターミスト】と言う魔法なのだ。


「──えっ」


 チヨの表情が青ざめる。

 それもそうだろう。今まさに、自分の指から放たれようとしているのは雷の魔法。周囲には霧。

 そう、私がチヨに近づいたのは、彼女をこの霧の範囲に収める為だ。そして、同時に……


「【サテライト・ウォーター】!」


 私の周囲の水を集め、水球を作り出したその瞬間に()()()()()する。

 ……これで全ての準備が完了した。


「しま──ッ!!」


 もはや止める事の出来ないチヨの魔法は発動し、霧全体に伝播。その中で最も電気を通しやすく、大きな目標──チヨ自身に逆流する。

 それだけではない。霧全体に拡散した電気を、先程解除した【サテライト・ウォーター】が拾い、ひっくり返したバケツの水の様にチヨに降りかかった。


「あぐぁ……っ!」

「──今だ!」


 作戦の成功を確認した私は、着地した直後に駆け出す。

 霧の中に突っ込むと、いまだに周囲に微かに残った電気によって髪の一部が逆立つ感覚を覚えたが、構わず直進。

 感電し、全身を硬直させたチヨに向かって渾身の一撃を繰り出した。が──


「な……ッ! 感電からもう回復して……!」


 突き出した槍の先端がチヨの背に突き立つ直前、その柄をチヨの尻尾に絡め捕られ、そこで静止させられていた。


「ぅ……! くっ!」

(──抜けない……! 尻尾なのに、なんて力……!)


 こうなれば槍を手放して、【アクア・レイ】でダメージを……

 そう切り替えようとしたところで、チヨがこちらに振り向いた。


「……はい、ここまでね」

「っ!? 待って下さい、私はまだ──あっ!」


 一方的な終了宣言に異を唱えようとした時、チヨの尻尾によって半ば強引に槍を取り上げられる。

 その勢いで思わず前へとよろけてしまった私の肩に、チヨの両手が置かれた。


(──あぁ、詰みですね。これは……)


 この手から電気を流されれば、私の意識は一瞬で絶たれるだろう。

 来たるダメージに覚悟を決めて目を瞑った私に、チヨが語りかけて来た。




「あなた……えっと、咲ちゃんだよね? ()()()()()()()()()()()()()()?」

「──え?」


 意外な言葉に思わず目を開き、チヨの表情を正面から見つめると……彼女は花が咲いたような満面の笑みで私を見つめ返していた。


「今の魔法、凄く良いタイミングだったよ! 思わずゾクッとしちゃった! 多分あたしが魔法を手加減してなかったら、咲ちゃんの攻撃の方が早かったと思う。だから、合格だよ! それで、改めて属性は何が良い? 風か雷しかあたしは作れないけど」


 『合格』……興奮しているのか、若干早口気味だったチヨの言葉の大半は右から左に抜けていたが、その言葉だけは私の頭に強い印象として残った。


(合格……合格!? 私、魔槍を作って貰えるの!?)

「あ……あのっ、それじゃあ──!」



321:名無しのダイバー ID:pQafNQTLF

まさか二人目が咲ちゃんとはなぁ…


325:名無しのダイバー ID:bomessZ1t

ぶっちゃけちょっと過小評価してたわ


327:名無しのダイバー ID:HiIii5U5x

>>321

普段から追ってたリスナーは最近の急成長知ってるからもしかしたらとは思ってたよ


333:名無しのダイバー ID:LrLLPWhiR

最近の急成長か…そう言えば無礼童とか言うのはどうしたんだ?最近話聞かないけど…


336:名無しのダイバー ID:dIsVPKgQ4

>>333

迷惑系の事は知らん。やめたんじゃね?


340:名無しのダイバー ID:pQafNQTLF

>>336

最後の配信が二週間前だしなぁ

大分様子おかしくなってたしどうなっていてもおかしくないと思うわ


341:名無しのダイバー ID:FjdL9DuUu

大人しくなったんなら良い事じゃないの?

それよりも急成長のコツとかあるなら聞きたいわ


343:名無しのダイバー ID:iUr4N3q/u

>>341

それなー


349:名無しのダイバー ID:Mu0cjY0RE

って言うかそろそろ今日のヴィオレットちゃんの配信始まるぞ

待機しておかねぇと


354:名無しのダイバー ID:ixfsaCuMJ

ホントだ。今日もチヨくんのかなw


357:名無しのダイバー ID:RdLB5k+6c

>>354

来るだろ。毎回来てるし


361:名無しのダイバー ID:jjgRN+Zet

>>357

そして今日もカメラ君がお亡くなりになるんですね…


369:名無しのダイバー ID:dT3yWhpDX

配信の実況用の専スレ立てて来るわ


373:名無しのダイバー ID:74R1pxWX5

>>369

有能

掲示板回は今回までです。次回はヴィオレットの配信からです

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― 新着の感想 ―
力を欲する理由があり、思いがあり、努力している。それならば届かない事はない。諦めたり安易な方に流されたりするのがいけないのだから。努力は、継続は難しい。
更新お疲れ様です。 まさか二人目が彼女だったとはなぁ…。決意の強さというか、努力は決して裏切らないってことでしょうかね? >今日もカメラ君がお亡くなり 定期定期的にオールバッ…じゃない、戦闘の余波…
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