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第178話 剣の名は

「──うーん……それじゃあ、こうしましょう。皆さんはあくまでアドバイスだけ下さい! 剣の名前は、そのアドバイスを元に私が考えますから!」


 剣の名付けに話題が移行してから少しばかりコメントの様子を伺っていたが、それっぽい意見が出てくる気配も無かったので、私はそんな妥協案を出した。

 するとコメントの方も『それならば』と少しずつ意見が出てくるようになり、何とか企画は倒れずに済んだ。……しかし、こんな事なら剣の価値を発表しない方が良かっただろうか。


(……いや、それはそれで明らかになった後が怖いな。やっぱり先に伝えておいて正解だったかも知れない)


 そんな事を頭の片隅で考えながら、スケッチブックのページにコメントから出て来た言葉を連ねていると、一つのコメントが流れて来た。


〔参考の為にも一回ゴブリンキングの剣見せて!〕


(……確かに現物を見た方がイメージはハッキリするかも知れない)


 そう考えた私は、腕輪からゴブリンキングの剣を取り出し、配信に映るように翳して見せる。

 部屋の証明に照らされた細剣は、装飾の構造によるものなのか、ぼんやりと赤とも青ともつかない淡い光を纏っているようにも見えた。


〔何度見てもすげぇなこのオーラ…〕

〔数百億の値が付くのも納得〕

〔印象としてはオーラ、陽炎、ロイヤルみたいな感じか?〕

〔陽炎って英語でミラージュだっけ?〕


 剣が放つ風格や外見の特徴から、そんな案が飛び出してくる。

 今までコメントから出て来た言葉たちよりもこの細剣に沿ったイメージであるそれらから、この剣の名前を考えようと頭を捻る私だったが……


「んー……オーラレイピアとかロイヤルレイピアは語感良さそうですよね……」


 そのまま繋げただけの名前しか、今のところパッと思い浮かばない。

 語感的に悪いわけではないが、目の前のこの剣の放つ気配には釣り合わないと感じてしまう。


〔うーん…ただこの剣に相応しいかって言うとなぁ…〕

〔なんかゲーム中盤くらいに普通に街の武器屋で売ってそう〕

〔↑わかるw〕

〔なんだろうなこの店売り感…〕


 リスナーのコメントから、確かに市販品感が出てしまう気がして再び思考を巡らせる。


〔じゃあゴブリンキングにちなんで考えてみるか〕


「キングス・レイピアみたいな感じですかね?」


 駄目だ。我ながらネーミングセンスが直球過ぎる。

 まさか私がここまで捻った名前を考えられないとは思わなかった。


〔さっきから流石に安直すぎない…?〕

〔売られてる街が終盤に変わっただけやなw〕

〔多分○○レイピアって名前がそもそも量産感があるんだろうな〕


「えっローレルレイピアの悪口ですか?」


〔そうは言ってないw〕

〔落ち着いてw〕


 退屈な配信にならないよう、時にはコメントとプロレスもしながら考える。


〔でも確かにどっちかって言うとデュプリケーターみたいな名前の方が合いそう〕


「『○○する者』みたいな感じの英語にするって事ですよね? ……今、配信中だからスマホで翻訳出来ないですね……」


〔草〕

〔翻訳サイトで名前つけてたのかよ!w〕

〔まあこの年齢の英語力だと仕方ない〕


(くっそ、実は1000歳とか口が裂けても言えない……)


 仕方ないだろ。異世界じゃ日本語どころか英語だって存在してなかったんだから。

 日本語を覚えていただけでも褒めて欲しいくらいだ。


(って、そんな事は今はどうでも良いんだ。オーラ……光……シャインって感じでも無いし……)


「イルミネーター……とか?」


 うろ覚えの英語知識から捻りだしたそれっぽい名前だったが……


〔照 明 器 具〕

〔…俺は嫌いじゃないよ〕

〔悪くないけどなんかビーム出そうw〕


 駄目だ。流石に直訳が照明器具は駄目だ。

 一旦オーラとか光とかから離れよう。ミラージュ……は思い浮かばないから、ロイヤルか……

 ロイヤルレイピアはまた安直って言われるのが目に見えてるし、ちょっと捻って──


「じゃあロイヤルから……ロ、ロイヤライザー……?」


〔個人的には微妙かも…〕

〔嫌いではないよ〕

〔なんだろうな。このコレジャナイ感…〕


 解ってたさ、自分でもなんか違うなって。

 だけど自分で名前を考えてくれない癖に、随分上から言ってくれるじゃないか。


「くっ……! じゃああなた達も名前の案出してくださいよ!」

(あとさっきから『嫌いではない』しか言ってないやつ! それ『別に好きでもない』って意味だって解ってるからな!?)


〔ごめんて〕

〔俺達は無力だ…〕


 その後、彼等からダンジョンの下層と言うイメージから『アビス』だとか、『ノーブル』だとかそれらしいイメージは貰えた物の、名付けのアドバイス自体は貰えないまま時間は過ぎて行った。

 ……そんな流れが変わったのは、あるコメントが流れて来てからだ。


〔今んとこ上がってる候補だとあまりいい名前にならんな…〕

〔ゴブリンキングの名前案から良さげなの引っ張って来るか〕


「なるほど……ゴブリンキングの名前とセットで考える訳ですね」


 言われてみれば、確かにゴブリンキングの名前もまだ決定はしていないのだ。

 この際、剣と元の持ち主であるゴブリンキングの名前を関連付けた方が良い感じになるかもしれない。

 コメントの意見を採用した私はスケッチブックのページをめくり、先程ゴブリンキングの名前の案を書き連ねたページを配信に映した。

 それらの名前を見たリスナーの一人が、思わずと言った雰囲気で一つの案を投下したのだ。


〔エヴォルヴか…剣ならエヴォルヴェインとか?〕


「……ほう、エヴォルヴェインはかなり良い感じですね! 候補に入れましょう!」


 別に意趣返しとかの意図があった訳ではなく、純粋に良い響きだと思った私はその名前をスケッチブックに書き加えた。

 その瞬間、コメントは加速する。


〔待ってくれ数百うおっくのせ金員〕

〔↑誤字えぐくて草〕

〔『数百億の責任』かなw〕

〔普通にいい名前じゃん〕

〔こっわw〕

〔迂闊な事言えねぇwww〕

〔エヴォルヴェインニキかわいそう…wwwwww〕

〔↑なにわろてんねん〕


(なるほど、捻った名前ってこんな感じに付ければ良いのか……!)


 頭の中で夢想する。

 この剣を腕輪から取り出し、『出番ですよ! エヴォルヴェイン!』と構えるのだ。

 ……うん。やっぱり普通に良い響きだ。これは他の案からの名付けも聞いてみたくなった。


「あの、他にはハイエンドやマスターピース、シンプルにマスターがありますけど……!」


〔…〕

〔あるなぁ〕

〔ありますね〕

〔…〕


 ……何故だろう。相手の顔が見えた訳でも無いのに、一斉に目を逸らされたような感覚に陥った。


「何でそこで黙るんですか~?」


〔そうだぞお前等も考えろよ〕

〔エヴォルヴェインニキが敵に回った件w〕

〔巻き込もうとすんなw〕

〔やっぱりヴィオレットちゃんが考えてこそだと思うんよな。きっとゴブリンキングもそれを望んでる〕

〔そうだよ。ゴブリンキングの思いを汲んで、さっきの名前は忘れよう〕

〔エヴォルヴェインニキが陣営を行ったり来たりしてて草〕

〔忙しいなw〕


 なんか一人私の味方になったり敵(?)になったりしているリスナーも居るが、まぁこの際突っ込まないでおこう。

 実際、この剣の名前は自分で付けるべきだと言う意見に思うところが無い訳でもないのだ。


「む……マスター……剣……この先はちょっと危ないので、別の候補から考えましょうか」


〔草〕

〔せやなw〕


 一瞬もの凄く聞き覚えのある名前が飛び出しそうになったが、それを堪えてゴブリンキングの名前の候補に視線を巡らせる。

 今後彼を指す名前になるかもしれないそれらの文字列の中、一際私の目を引くのは当然私が考えた名前だった。


(アセンダーロードか……)


 意味は確か『昇華』。高度な存在への飛躍。

 ゴブリンの頂点であるゴブリンキングから更に上の段階に到達した者として、そして更に天上の力を求めた者として相応しい響きだ。

 例えその研鑽の根幹に『祭器』が関わっていたとしても、彼は常に昇り詰める為に戦っていた。


「ゴブリンキングの名前をアセンダーロードにするなら……──! アセンディア! アセンディアとかどうでしょう!?」


 先程リスナーの一人が考えてくれたエヴォルヴェインのように、アセンダーを少し捩って名前らしい響きを持たせる。

 我ながら会心の名付け。少なくとも、今日私が考えてきた名前の中では最もしっくりくるものだ。


〔ええやん!それで決まりや!〕

〔エヴォルヴェインニキが必死過ぎて笑うわw〕

〔でも実際悪くない…よな?〕

〔確かにカッコイイ響き〕

〔いいね!〕


(何か自分達で名前付けるリスクを回避されただけにも思えるけど……)


 特にエヴォルヴェインの人の反応は速く、もう余程ひどい名前でなければ全肯定しそうな勢いだ。

 とは言え、彼の後に続くコメントにも変だと指摘するような物も無く、私の中で剣の名前の候補は実質二つに絞られた。


(『アセンディア』か『エヴォルヴェイン』の二択だよな……)


 チラリと確認した時計の時刻は、もうそろそろ20時──配信終了予定の時刻に差し掛かろうとしている。

 これ以上新しい名前を考える時間は無いし、何よりこう言うのは深く考え込むと沼に嵌まると聞く。


(ここでエヴォルヴェインを選ぶと、考えてくれた人に責任おっかぶせるみたいになる雰囲気あるし……それに。自分でつけた名前の方が愛着も湧きそうだし……──うん、決めた!)


 私は瞑っていた目を開き、カメラに向けると、手に持った剣を掲げて宣言する。


「──では、この剣の名前は『アセンディア』で決定します! ゴブリンキングの名前も『アセンダーロード』……で、良いですかね?」


 最後に確認の為にリスナーの反応を待つ。


〔統一感欲しいもんなぁ〕

〔逆にゴブリンキングの名前をエヴォルヴェインに近付けるのもありか…w〕

〔胃が痛くなってくるからやめて〕

〔ごめんて〕


(……大丈夫そう、かな?)


 剣の方と違いゴブリンキングの名前の方は結構リスナーの案も多かったから、不満を持つ人もいるかもしれないと思ったのだが、思いの外すんなりと受け入れられた。

 ……もしかしたら、自分の考えた名前が剣の名前に影響を与えるのを避けたかっただけかもしれないが、一先ずこれで今日の配信の目標は達成したと言っていいだろう。

 私はスケッチブックの新しいページに『ゴブリンキングの名前→アセンダーロード』『剣の名前→アセンディア』と書き込み、配信の締めくくりとなる挨拶に入る。


「……それでは、今日も私の配信──『ゴブリンキングとゴブリンキングの剣の名前発案し大会』にお付き合いいただきありがとうございました! ごきげんよう~!」


〔やっぱひどい配信タイトルだw〕

〔基本的なネーミングセンスがこれなんだよなぁw〕

〔今回の一件でネーミングセンスも鍛えらえると良いねw〕

別にネーミングセンスが向上したとかは無いです(無慈悲)

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― 新着の感想 ―
 今更ですが、貫徹細剣でペネトレイピア……
更新お疲れ様です。 ようやくゴブキン剣にもちゃんとした名前が…! ライザー付けるなら、自分の名前と合わせて『オーマライザー』でも良かった気はしますが、絶対自分の名前は冠させないでしょうね彼女ww …
†ゴブリンを超越せし覇王の剣†
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