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第177話 彼の名は

「皆さん、今日もごきげんよう! 水曜日の雑談配信やっていきますよー!」


〔ごきげんよう!〕

〔ごき!〕

〔ごきげんよう!〕


 いつものように開始した水曜日19時からの雑談配信。

 満面の笑みで恒例の挨拶を済ませた私は、早速そこで表情を真剣な物に切り替えた。


「……さて、前回の配信から三日が経ちましたね。……そう、たったの三日なんですよね……」


〔あっ〕

〔やっぱ怒ってるなぁ…〕

〔心配してた通りの事起きちゃったしな〕


 腕を組み、不機嫌である事を前面にアピールする。

 と言うのも、この数日で私のささやかな期待は裏切られたからだ。


「私、言いましたよね? SNSで。『無茶な探索だけはするな』って……!」


 そう。案の定チヨの発言に釣られた一部のダイバーが下層に急ごうとした挙句、大怪我を負って撤退と言う事例が相次いだのだ。

 幸い死者が出る前にその行動の危険性が彼等の犠牲によって周知され、今では後に続こうとするダイバーもかなり減ってはいるものの……それでも少数、そう言うダイバーがまだいるのも事実。


〔最近他所のダイバーが続々下層に潜るようになってるからなぁ…〕

〔危機感が薄れていたのはあるよね〕


「その方達は元々実力がある人達なんです! ティガーさんとか、魅國さんとか、少なくともあの戦いに参加していた人達は皆、あの時点で下層に潜れる実力があったから招集されたんですから!」


 確かに下層に潜るダイバーはここ最近でぐんと増えたが、だからと言って下層の危険性が減った訳ではないのだ。

 大体、今回の騒動で大怪我を負ったのは寧ろ、その殆どが中層。表立って口にはしないが、要するに上層で燻っている実力不足のダイバーが焦った結果なのだ。

 中層でそんな目に遭ってるダイバーがチヨに掠り傷も与えられる筈も無く、更に言えば下層に到達できる訳もないだろうに……


〔下層のダイバーもチヨを見つけ次第勝負挑んでるけど、皆一蹴されてるしな〕

〔手加減と言う名の辱めタイムね…〕

〔アレやられるの屈辱的だよなぁ…〕


「私も流石にあそこまでやるとは思ってませんでしたよ……そのおかげか、チヨに無謀な挑戦をするダイバーは減りましたけどね……」


 前回の私の配信を使ったチヨの挑発。そこで確かに彼女は言った。『挑戦者の実力に合わせて手加減する』と。

 その言葉に嘘はなく、確かに彼女は挑戦者がワンチャン攻撃を届かせられるかもしれないレベルの手加減をして見せたのだが……


「──まさか『両手・両足・翼を使わない』まで行くとは思いませんでした」


 もちろん全てのダイバーがそうだった訳ではないのだが、最も大きなハンデを与えられたダイバーは屈辱でしかなかっただろう。しかもその上で負けたのだ。尻尾一本しか動かせないチヨに。

 その配信の切り抜きは私も見たが、最後の方はダイバーが半分泣いていた程だ。……一応、ここでフォローくらいは入れておこう。

 悪戯に話を広げただけだと、あまりにも可哀そうだ。


「彼のフォローをすると、私の見立てではチヨは尻尾一本でアークミノタウロス数体を同時に相手するくらいの実力はあります。彼女に両手を使わせるのであれば、最低でもアークミノタウロス十体を一人で返り討ちに出来るくらいは必要でしょうね」


〔そんなにか…〕

〔チヨが今まで戦った相手がヴィオレットちゃん、アトネキ、クリムちゃんしかいないから感覚バグるよなぁ…〕


 まぁ、結果的にはそんな辱めに遭ったダイバー達のおかげもあって、『チヨに手加減して貰えるからワンチャンある』と考えるダイバーも激減した。

 自然と自己の研鑽に努めようと言う流れも生まれ、今更私が注意を促す必要性も薄くなっているので、この話題はそろそろ切り上げても良いだろう。

 今回の主題はそこではないのだから。


「──さて、注意喚起はこの辺りにしておいて……そろそろ今回の配信の本題に移りましょうか」


〔来たか…〕

〔マジでやるんか…?〕


 私が話題を切り替える気配を感じ、一部のリスナー達が妙な緊張感を醸し出す。


「勿論です。……と言うか、元々変な名前を採用する気はないので、安心してください」


 そう。前回の配信でも話題に出した、『ゴブリンキング&ゴブリンキングの剣の名付け配信』の始まりだ。




「──とは、言ったものの……やっぱりこう言うのって難しいですね」


 手元のスケッチブックに並ぶいくつもの候補を配信に映しながら、私は小さくため息を吐く。

 今はとりあえずゴブリンキングの名前を考えるコーナーとしており、真っ白だったページにはリスナーから寄せられた様々な名前が書き連ねられていた。


〔注文が多いのよ〕

〔もうシンプルにゴブリンエンペラーで良くないか?〕


「最初にも言いましたが、あのゴブリンキングの進化はかなり個性的な変化でしたからね。汎用的な名前を付けると、もし後から真っ当な進化個体が出た時に困ると思うんですよ……」


 コメントの一つが言っていた『注文が多い』と言うのも、その辺りが関係しているのだ。

 本来のゴブリンキングは徒手空拳と魔法を用いて戦う、細マッチョ体型な偉丈夫だ。私が最初に確認したゴブリンキングの身長は、目算で175~180cm程と日本の成人男性の平均よりもやや高めだったのも特徴と言える。

 しかし、彼はその後の進化で細剣と言う武器を手に入れ、使う魔法も【エンチャント】が主体となっていた。身長も私より少し高い程度まで縮んでおり、二つの個体を並べても正統進化と捉える者は少ないだろう。

 だからこそ、単純に『エンペラー』や『ロード』等の階級で表現するのは何か違うと感じるのだ。

 ……もしかしたら、自分と同じ戦い方を選んだ彼に、私が一方的にある種のシンパシーを覚えているだけなのかもしれないが。


〔実際別形態の進化も確認されてるしなぁ…〕

〔言いたい事はわかるけどね…〕

〔ゴブリンオメガ!〕

〔エンチャント、細剣、魔法に関連した名前にしたいってこと?〕

〔……ゴブリン・ヴィオレット?〕


「誰ですか~? 今軽々とライン踏み越えたのは?」


〔草〕

〔草〕


 笑顔で威圧しながら、とりあえず新たに出て来た『ゴブリンオメガ』を(採用するかはともかくとして)スケッチブックのページに書き加える。

 今はとにかく名付けに使えそうな用語は一つでも集めたいのだ。


「……なんか良い感じの用語ありませんかね? あのゴブリンキングの特徴を捉えた感じの」


 もしかしたらそう言ったワードからいい感じの組み合わせが出来るかも知れないと、リスナー達からそれぞれ知ってる良い感じの言葉を募集する。

 すると直接名前を付ける訳ではないからか、先程までよりも多くのコメントが流れて来た。


〔進化ってエボリューションだっけ?ちょっと長いか?〕

〔↑エヴォルヴなら短いから使えるかも〕

〔ハイエンドはどうや?〕

〔マスターピース〕

〔シンプルにマスターとかも良いか?〕


 そう言った用語を別のページに並べて行き、何とか名前にならないか考えて行く。

 やがてコメントの中にも登場したワードを名前っぽくしたものが増えて来た。


〔ハイエンド・ロードとか良くない?〕

〔マスターオーバーロード!〕

〔いっそゴブリン付けない方が寧ろそれっぽいか?〕

〔ゴブリンマスターピースハイエンドエヴォルヴ!〕

〔↑贅沢セットやめろw〕


(そうか……そもそもゴブリンの文字に拘る必要も無いのか……)


 彼の進化元はゴブリンキングだったが、正直最終的にはゴブリンと言う種の限界を完全に超えていた。

 そう言う意味では『ゴブリン』の音を外すのもありかも知れない……


〔アセンダーってのもあるな。昇華するって意味がある〕

〔ゴブリンアセンダーとか?〕


(進化、昇華か……)


 どちらも彼を象徴する言葉として的を射た表現に思えるが、よりそれっぽいのは昇華の方だろうか。

 あのゴブリンキングはそもそもが祭器によって昇華された存在だ。

 加えて配下のゴブリン達を文字通り数段上の存在に昇華させ、私と同じくエンチャントで武器を強化する戦い方を得意としていた。


「昇華……は、なんか良いかも知れませんね。アセンダーロードみたいな?」


〔良さげかも〕

〔アセンダーオメガは!?〕

〔オメガ好きもいます〕

〔良いと思うよ。パッと聞いて変な印象は無いし〕


「それじゃあ、一旦候補に加えておきますね」


 いくつもある候補の中に、『アセンダーロード』と書き加える。

 個人的には自分で発案したからか一際印象的だが、まだ良い案が出てくるかもしれないしもう少し考えよう。

 しかし、これだけ候補があればもう後は何とかなるかもしれないな……そろそろ時間も30分。折り返しに差し掛かっているし、ここは──


「……ではそろそろ、剣の方の名前も考えて行きましょうか」


〔ッスゥーーーーー……〕

〔(気配を消す)〕

〔(机に突っ伏して狸寝入り)〕

〔数百億の責任ががが…!〕


 ……まぁ、そうなる気はしていたけどな。

プロット時はトランセンド(超越)の案もあったけど、ウマ娘のトランセンドで印象ガラリと変わってお蔵入りになったと言う裏話

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― 新着の感想 ―
面倒言いつつもちゃんと相手するのが良い所。ヴィオレットが勝てない時点で察せよと。
更新お疲れ様です。 やっぱり身の程を知らないお馬鹿が湧きましたか…ホント死ななかっただけラッキーの極みって思えよマジで? しかしフリー○様以上に舐めプして楽しんでるなぁチヨww それでは今日はこの…
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