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第147話 人鬼戦争⑫

「──【ラッシュピアッサー】!」


 【エア・レイド】を使った上空からの強襲。

 ローレルレイピアとデュプリケーター──私の持つ二本の細剣から繰り出される高速の連続突きが、二体のゴブリンジェネラルの内の一体に集中して放たれる。


(先ずは小手調べだ! この初撃でゴブリンジェネラルの反応速度と対応力を測る!)


 先程春葉アトの【ウェポン・ガード】に弾かれたゴブリンジェネラルと、それを受け止めたゴブリンジェネラルは現在非常に近い距離にいる。この場合想定されるケースとしては『回避』やそこからの『カウンター』、または『私が狙ったゴブリンジェネラルを守る為にもう一体のゴブリンジェネラルが割り込んでくる』と言った辺りが定石か。

 理想としてはこの二体を引き離し、春葉アトとそれぞれ一体ずつ分担して各個撃破を狙いたいところなので、出来れば回避して貰いたいのだが……

 そんな思いで放った【ラッシュピアッサー】に対して、標的にされたゴブリンジェネラルがとった対応は──


「ヴォルルォオオッ!!」

「ッ! ──そうきましたか……ッ!」


 回避を一切考えない、全力の唐竹割りだった。

 ゴブリンジェネラルの巨体と比べても遜色のない、長大な狼牙棒が上空から襲い掛かった私の更に頭上から迫って来る。


(しかし、甘い!)


 本来空中で身動きが出来ない人間相手であればまともに喰らうしかなかっただろうこのカウンターも、私相手では通用しない。

 大振りな予備動作から繰り出される攻撃は確かに大抵の場合高い威力を誇るが、その分相手に判断と対処の時間を十分に与えてしまうものだ。加えて隙も大きい。

 私が空中を蹴れば、【エア・レイド】の恩恵を受けて効果を増した風が私の身体を後押しし、狼牙棒のカウンターは空を切る。

 そして空を切った狼牙棒の先端が地面を砕くと同時に、私の身体はゴブリンジェネラルの懐に潜り込んでいた。


「──【エンチャント・ヒート】! ハアアァァァッ!」


 【ラッシュピアッサー】と共鳴した炎が激しく燃え上がり、隙だらけの胴体に連続で叩き込まれる。

 唐竹割りの勢いのままに前傾姿勢になったゴブリンジェネラルはこの連撃に回避もままならず、更に巨体故に狙い易い位置にあった膝の腱も斬った。

 これで少なくとも腱が再生するまではまともに動く事も出来ず、ひたすらサンドバッグに徹する他はない。

 しかも付与した炎が傷の再生を遅らせる。闇の魔力のように完全に再生を防ぐ事は出来ないが、このまま決着まで持って行けば問題はない。


(想像よりも大した事はなかったか……)


 既にジェネラルの腹から胸にかけて数十カ所の傷が刻まれ、そのどれもが激しく燃え上がっている。

 如何にタフなゴブリンジェネラルと言えど、そろそろ限界のはずだ。


 ──そんな私の想定は、直後に覆されることになった。


「な……ッ!?」


 ゴブリンジェネラルの上体が僅かに逸らされたと思ったら、それと同時に腱を斬られて碌に動かない筈の脚が鋭い蹴りを放ってきたのだ。

 顔目がけて真っ直ぐ向かって来たそれを咄嗟にサイドステップで躱した私に、更に追撃として狼牙棒の横薙ぎが迫る。

 突き出した突起が地面に当たる度に不規則にバウンドしており予測しづらい挙動だった為、若干大袈裟に距離を取る事で安全に回避したものの、状況はほぼ振り出しに戻されてしまったと言えるだろう。


(傷口の炎がもう消えている!? なんて再生力だ……!)


 私の知るゴブリンジェネラルの再生速度を遥かに凌駕したその回復っぷりに我が目を疑ったが、これがゴブリンキングのバフが彼に与えた恩恵の一旦なのだろう。


「いやぁ……この回復力はちょっと厄介だね」

「っ、アトさん! そちらはどうですか!?」

「見てのとーり、ダメージが入ってるのか分からないよ。腕を斬り落とした筈なのに、それより早く繋がっちゃうんだもん」

「そこまでですか……!」


 背中合わせになった春葉アトからジェネラルの再生能力の高さを改めて聞かされ、驚嘆する。

 いや、【エンチャント・ヒート】の影響で燃え上がった傷が数秒と経たずに再生しきったところを考えると、寧ろ納得の方が勝っているかも知れない。

 ……ともあれ、今の交戦でジェネラルの最大の脅威が再生能力だと言う事は分かった。

 全体的に強化された能力は前回戦ったゴブリンキングにも迫る物を感じるが、それでも魔法は使えない事は変わらないし、何より戦闘の立ち回りがゴブリンキング程卓越していないのだ。

 攻撃が単発で、流れが繋がっていない。だから攻撃の後に隙が生まれる。『回復さえさせなければ』、私達の相手ではない。


「──と、いう訳で、アトさん。ハルバートの穂先をこちらに向けてください」

「うーん……やっぱり、必要?」

「当然です。終わりませんよ? このままじゃ……」

「はーい……」


 私の提案とその意図を理解していながらも、どこか渋々と言った雰囲気で背中合わせのまま構えたハルバートの穂先が、私の前に突き出された。

 私はその刃にローレルレイピアを握ったままの左手を添えて……


「──【エンチャント・ダーク】!」


 再生を阻害し、傷口を苛む闇の魔力を付与した。


「うーん、やっぱり『聖騎士』ってイメージじゃないよねぇ……コレ……」

「わがまま言わないでください。良いじゃないですか、光と闇の二属性が使えるってなんか最強っぽいですよ?」

「あはは~、トバリさんが好きそうだね。それ」

「……確かに。──【エンチャント・ダーク】!」


 まるで瘴気を思わせるような、黒い靄を纏わせた相棒(ハルバート)に渋い表情を見せる春葉アト。……そんな気はしていたけど、やっぱり彼女的に聖騎士に闇属性は少し解釈不一致のようだ。

 とは言え必要な事だとは理解しているのだろう。意識を切り替えた彼女とそんな軽口を叩きながら、私も自身の両手の細剣に闇の魔力を付与する。

 すると私達の武器が纏う魔力に嫌な物を感じたのか、こちらの様子を伺っていたジェネラル達がピクリと反応し、挟み撃ちをするように向かって来た。


「お、来たね~……そうだ。折角だしどっちが先に倒すか、競争する?」

「それ、大分アトさんに有利じゃないです?」

「そうかな~? ま、とりあえずやってみるって事で!」


 負ける事なんてあり得ないと言いたげな笑みを湛え、春葉アトが自身の受け持ったジェネラルに向けて駆け出す。

 競争をすると言った訳ではないのだが、まぁ折角なので彼女の提案に乗ってみるとしよう。どちらにしても早く倒せるのならそれに越した事はないのだから。


「さぁ、第二ラウンドです! 数秒で片を付けてあげるので、覚悟してくださいね!」



『──報告します! 現在、一つ目の揺らぎの先で、将軍(ジェネラル)達が交戦中! 敵の角無し達の中に、黒い角の剣士を確認したとの事!』

『解った。報告ご苦労。戦いに備える者達に伝えよ……時は近いとな』

『!? は、ハハッ!』


 我の言葉に一瞬耳を疑った様子の部下だったが、直ぐに指示にしたがい駆けだした。

 その背が宮殿の外に消えていくのを見届けた我は、少し前の奴との戦いを脳裏に思い描く。


(あの黒角には我が攻撃が届かなかった。魔法も拳も……我が生まれた時に持っていた武器は、完全に見切られていた……)


 思い返せば、我が生まれて初めて本当の意味で『戦い』と言う物をしたのはアレが初めての体験だった。

 それまで我が魔力と拳は幾多の敵を屠って来たが、それが躱され、あまつさえ反撃を受けるなど……想像もしていなかった。


(生まれついての王の身体に傷をつけるとは……)


 しかし、それを不敬と感じる事は不思議と無かった。

 拳と刃が交わる度に、身と精神が引き締まるあの感覚。我が栄光を脅かされる不安と、未知の敵を知る高揚……部下達にはとても告げられないが、我は初めて『外敵を歓迎した』のだ。

 他国の王が我以上の力を持って攻めて来た時、我は自然にあの黒角の力を求めていた。全ての頂点として生まれた我が、あろうことか憧れたのだ。あの力に、あの姿に……


(そして今、この世界の全てを手中に収め、時は来た! さぁ、再び『戦おう』! 我の知る最も強く……そして愛しき宿敵よ!)

【悲報】ヴィオレットさん、ゴブリンキングに愛を囁かれる

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― 新着の感想 ―
意識してなきゃあんな姿にはなりませんよね。そしてその思いは膨らむばかりか。厄介なのに目を付けられた上に角まで見えてますね。人間用の幻術は効かないか。
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