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第144話 人鬼戦争⑨

「──すみません、ちょっと遅れました!」

「あ、ヴィオレットさん、おかえりなさい。何かあったんですか?」

「私が思っていた以上に協会の支援が手厚くて、補給するアイテムに悩んでしまって──」


 あの後、春葉アトの治療とその方法に関する説明を終えた私は、再びトイレに入り【変身魔法】を解いた。

 そしてロビーに戻り、アイテムの補給に迷うふりをして少し時間を潰し、こうして戻って来たという訳だ。

 監視カメラにも私の行動はバッチリ残っている為、こうして遅れた理由を用意する必要があったとはいえ、今もゴブリン達を食い止めてくれているダイバー達には悪い事をしたと思う。

 迷惑をかけた分、ここからの行動で挽回したいところだ。


「これで全員揃ったな? ……では攻略再開の前に、一つだけ説明しておく! 先程、春葉アトの脚に刻まれた黒い傷の事だが──」


 恐らく先に戻っていた春葉アトから伝えられていたのだろう。黒い傷の治療法に関する説明と、それがロビーの医療班から受けられる事がKatsu-首領-の口から説明された。

 傷口の周辺組織毎摘出する事実に怯む者も多かったが、得体の知れない症状を残すリスクに比べればまだマシだろう。

 ……魔物化の兆候だと伝えられれば事の重大さはより伝わると思うのだが、そんな知識をどこで得たのかって追及されても答えられないし、こればっかりは仕方ないか。


 そんな事を考えている内に説明も終わり、いよいよ上層に突入する事になった私達。

 今でも上層から浅層へと飛び出してくるゴブリンの尖兵はなくなっておらず、打ち漏らしや挟撃を避ける為に先ずはこちらからも少数精鋭を送り込み、上層側の境界周辺の制圧を優先するようだ。

 その為のメンバーとしてKatsu-首領-が選出したのが、浅層での戦いでも単身でゴブリンの群れを突破した春葉アトとティガー、そして私の三人だった。


「アトさん、ティガーさん、よろしくお願いしますね」

「おう、また共闘やな! 春葉アトもよろしくな。今度はその戦い、間近で見させて貰うわ」

「こちらこそ! 二人の実力は知ってるし、頼りにしてるよ!」


 突入前に名前を呼ばれた三人で集まり挨拶を交わすと、境界の方へと向き直る。

 境界からはこうしている瞬間もゴブリンが出て来ており、大勢のダイバー達が今も食い止める為に奮戦している。早いところ行動に移った方が良いだろう。

 と、一歩前に出たところで、春葉アトから私に声がかかった。


「──と、そうだ突入前に、ヴィオレットちゃん。折角だし、またあの時みたいにエンチャントお願いしても良い?」

「あ、はい。もちろん良いですよ。属性は何が良いでしょうか?」

「やっぱり炎が安定かな。なんやかんやで攻撃には一番使い勝手が良いし」

「あ! そう言う事やったら、ウチも頼むわ! 正直ちょっと気になっててん」

「分かりました。ではお二人とも武器をこちらに……──【エンチャント・ヒート】!」


 二人の要望に応え、ローレルレイピアとデュプリケーターを含んだ全員の武器に炎の属性を付与する。

 ティガーの場合戦い方からして風や雷の方が好相性だとは思うが、その二つの属性はそれぞれこの状況では同士討ちも引き起こしかねない。

 ここは単純な火力が向上し、加えて暗闇の中で互いの位置も分かりやすくなる炎で我慢して貰おう。


「ありがと!」

「おお、なんや魔剣みたいでちょっとワクワクするなぁ!」

「では準備も出来ましたし、早速行きましょう!」

「うん!」

「おう!」


 ゴブリン達の侵攻を食い止めてくれているダイバー達を跳び越え、私達はそのまま上層へと通じる境界に飛び込んだ。


「ギッ!?」

「ッ! ──二人とも、すれ違うゴブリン達に気を付けて下さい!」


 上層へと落ちていく私達の前に、浅層へと昇って行くゴブリン達が現れた。

 遠くをすれ違う個体は無視しても構わないが、流石に近くをすれ違う個体は話が別だ。すれ違う一瞬で仕掛けて来るゴブリンの攻撃には突進力にも似た勢いが上乗せされており、まともに喰らえば大ダメージは免れない。


「く……っ、やり辛いなぁ……」

「任せて! ──【グリッターオーブ】!」

「ギッ!?」

「──【レイ】!」

「ギゲァッ!」

「ウギィ!」


 リーチがあまり長くないティガーが回避に手古摺る様子を見て、春葉アトが光属性の攻撃魔法で援護を行う。

 【グリッターオーブ】は光の初歩攻撃魔法であり、当たると弾ける光の弾を撃ち出すシンプルな物だ。威力はそこまで高くないが軽いノックバック効果があり、この境界内ではゴブリンを軽く弾いてやるだけで交戦を避けられる為それで充分との判断だろう。誤射してしまってもダメージが少ないのもこの魔法を選択した理由かもしれない。

 構造的には巨大な筒状になっている境界の中はダンジョンの中でも更に特殊な環境であり、境界に突入した際の運動エネルギーが保持される。

 つまり【グリッターオーブ】のノックバックで距離を取らせてしまえば、後は境界のこの性質が戦闘を回避させてくれる訳だ。

 そして浅層での戦いでも何度か見たレーザーを放つ【レイ】の魔法により、前方のゴブリンのいくらかを先に始末して今後の衝突をも先んじて回避させてくれた。


「早速助けられたな。おおきに!」

「良いって、このくらい! それより、上層に着くよ!」

「ゴブリンが待ち伏せているようですね……二人とも交戦準備を! ──【ラッシュピアッサー】!」


 先程の【レイ】が上層にも届いていたのだろう。異変を察知したゴブリン達の後続がぱたりと途絶えた事から、迎え撃つ選択をしたと判断。二人にも注意を促し……その直後、私達は境界を抜け、上層の地面に着地し──


「ギィッ!」

「読んでましたよ!」

「アガ……ッ!」


 ほぼ同時に襲い掛かって来たゴブリンの攻撃をローレルレイピアで弾き、デュプリケーターの一突きで返り討ちにする。

 当然襲い掛かって来たゴブリンは一体だけではなく、周囲で待ち構えていたゴブリン達が一斉に飛び掛かって来たが、予め使用しておいた【ラッシュピアッサー】の助けもあって問題なく対処出来た。


「足が着けばこっちのもんや! そない雑な攻撃に当たるウチやないでェ!」

「ゲェッ……!」

「グアァッ!」


 ティガーも着地後はすっかり本領を発揮。

 ゴブリンの群れの中を縦横無尽に駆け回りながら的確に急所を穿つ一撃で仕留めていく。彼女が持つ双剣の纏う炎が暗闇に滑らかな残光を引く姿は、彼女の動きは一瞬たりと止まっていない証明だった。


「流石だね、二人とも! あたしも負けてられないな~」

「グオオッ!」

「はい、──【ウェポン・ガード】!」

「ヒッ、グエェッ!?」


 自身も周囲のゴブリンを倒しながら、私達の戦いに感心したようなリアクションを取っていた春葉アト。

 その『誘い』を隙と勘違いしたゴブリンが棍棒を振り上げ、狙い澄ました【ウェポン・ガード】がその猛威を発揮する。

 彼女の持つ複数のスキル、そして私の付与した【エンチャント・ヒート】の効果が共鳴を引き起こし、スキルの効果が乗算的に引き上げられて行く。

 そして直後、火山の噴火の様な轟音が空気を震わせ、彼女の前方にいたゴブリンが数十匹規模で一瞬にして塵に還った。


「──ハハッ、なんやそれ! 『ガード』が完全に名前詐欺やないか!」

「スキルの相乗効果に【エンチャント・ヒート】の炎が影響を受けてああなってるみたいです。ティガーさんも似たスキルを使う時は方向や規模に気を付けて下さいね」

「なるほどなぁ……使う機会があったら気ィつけるわ」


 その後しばらく私達三人で境界の周辺にゴブリンを近付けないように戦い続けていると、浅層にゴブリンが来なくなった事で安全を確認した後続のダイバー達が次々に上層にやって来た。

 ダイバーの数が増えた事で戦線を押し戻す猶予が出来、それからは特に語る様な事も無く上層の境界周辺の制圧は完了したのだった。

次回からちょっとの間ダイジェスト気味に進めるつもりです。

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― 新着の感想 ―
雑魚ちらしに尺稼いでも仕方ないですからね。数だけではどうにもならない相手に取る相手の行動は?。精鋭による総攻撃とか罠とかでしょうか。気が抜けませんね。
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