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第138話 人鬼戦争③

(──動きが変わった……さっきの声か!)


 ヴィオレットとティガーがゴブリンの群れと戦っている後方にて、他のダイバー達もまたゴブリンの群れとの戦闘を続けていた。

 その内の一人、京都からやって来たダイバー『魅國』は、ゴブリン達の動きの露骨な変化に視線を巡らせる。


(近くに居るな……最低でもチーフ以上の個体が)


 先程までは個々のゴブリンがそれぞれの判断で襲い掛かって来るだけだったのが、今ではダイバーと一定の距離を保ってこちらの出方を見るような動きを見せている。

 この事からも仲間に指示を出す事が出来るチーフ級が混じっている事は明白であり、面倒事になる前にさっさと始末したいと考える魅國だが、浅層の暗闇に加えてこのゴブリンの数だ。簡単に見分けられる筈も無い。しかも──


「ギャギャーーッ!!」

「舐めんなよ! ──なっ、……ぐあっ! こ、っの野郎!!」

「ギギギ……!」


 どうやら簡単な連携攻撃を仕掛けてくるようになったらしいと、周囲の状況から理解する魅國。

 具体的には一体が大仰な攻撃で注意を引きつけ、その影からもう一体のゴブリンが僅かなディレイを入れて攻撃してくると言う物のようだ。

 一体目の攻撃に対してカウンターを入れれば、その直後の隙を突かれるようになっている。


(捨て身も厭わん連携……面倒やねぇ……)

「ギャギャーーッ!!」

「その手は食わへんよ……っと!?」

「ギィッ!」


 加えて、攻撃を回避してもそのまま連続で殴りかかってくるようだ。

 その影にはやはり別のゴブリンがタイミングを計るように追随しており、更にその背後にも別のゴブリンが続いていて終わりが見えない。

 しかも最初に殴りかかって来たゴブリンはバックステップで距離を取り、今度は奇襲を狙って来ていたゴブリンが飛び掛かって来ると言う繰り返しだ。


(視界が悪いと、たったこんだけでも結構いけずやね……けど、ウチにもそれが通用する思てんのが、やっぱりゴブリンやなぁ)

「ギャギャーーッ!!」

「──聞き飽きたなぁ、その鳴き声」


 魅國は背負っていた身の丈程もある巨大な鉄の棒のような物を両手に握り、下段に構えると──バサリと()()()

 それは彼女の愛用する武器である、巨大な『鉄扇』だ。

 全てが魔鉄鋼で造られ、普通の人間には持ち上げる事も難しいそれを、彼女はレベルアップで手に入れた膂力で悠々と振り回す。


「──【フルスイング】!」

「グギッ!?」

「ギャ、ゲギィッ!!」

「ギッ!? グギギ……」


 開かれた扇に全身を打ち付けるゴブリン達。隙を突こうと飛び出した後続も、発生した突風に煽られて成す術なく吹っ飛ばされて群れのゴブリンに突っ込んでいた。

 流石にそちらはダメージが足りずに直ぐに立ち上がっていたが、直撃を受けたゴブリンは一溜まりもなかったのだろう。その全身は塵に還り、軽い魔石が一つ転がった。

 彼女を見るゴブリン達の顔に警戒が色濃く浮かぶ。これまでただの巨大な棍棒だと思っていたそれがまさかの変形を見せ、彼等の策を物ともしないのだから当然だろう。


「あら、もう来ぉへんの? ほな、次はうちの番やねぇ」


 口調は穏やかだが、彼女の踏み出す一歩は重い音を響かせ、地面を揺らす。

 常人離れした脚力が常識外れの武器を担いだ身体を前に進め、常軌を逸した攻撃を繰り出す。

 彼女の振るう鉄扇は一撃毎に形態を変え、閉じれば棍棒、開けば盾になるばかりか先端には刃を備えており斬撃まで熟す変幻自在っぷりだ。

 これだけの動きを連続して行っているのにも関わらず、疲労の気配も無い事からゴブリン達は次第に彼女から距離を置き始めた。


(よし……これなら──?)


 このまま押し切れるかと一瞬考えた魅國の眼に、山なりに飛んできたある物が映った。


(──袋?)


 それは人間の子供くらいならすっぽり入りそうな袋だ。

 中に何かが入っているのか膨らんでおり、良く観察すれば僅かに動いているようにも見える。


(警戒するに越した事はないなぁ)


 魅國は冷静に鉄扇を広げ、その袋を受け止めた瞬間──


「な……っ!? レッドスライム!?」


 衝撃に負けた袋が弾け、中からレッドスライムが現れた。

 咄嗟に鉄扇を振るいスライムを飛ばす魅國だったが……飛んでくる袋は一つではなかった。


「──っ! 皆、気ぃつけぇ! こいつ等、レッドスライム投げて来とるでぇ!」

「はぁ!?」

「冗談だろ!?」

「! レッドスライム……まさか、あの時の要塞から!?」


 次々と飛来する袋の中から同じ数のスライムが次々に顔を出すと、ダイバー達の表情に緊張が走る。

 それもその筈、彼等の多くは前衛を任された物理ジョブだ。物理攻撃による討伐が難しいレッドスライムに対して、彼等が取れる行動は限られてくる。

 この状況の不味さに気付いた一人のダイバーが、掲げた魔槍の穂先に火を灯して呼びかけた。


「皆さん! レッドスライムはしばらく私が受け持ちます! ですから、魔法職の方々が来るまで頑張りましょう!」


 周囲のダイバーを鼓舞した彼女はそのまま燃える焔魔槍を巧みに扱い、次々にレッドスライムを屠っていく。


(アレは……確かクリムっちゅうダイバーやったか。魔槍の扱いに長けたダイバーや言う話やったけど……確かにええ動きしとるわ。基礎がしっかりしとる……)


 【マジックステップ】を用いた足捌きでレッドスライムやゴブリンの攻撃を躱しながら間合いを詰め、時に【エア・レイド】で三次元的な攻撃も仕掛ける彼女の実力を早々に認めた魅國だったが、しかしそれでもなお危ういと判断する。


(ゴブリンがどれだけレッドスライムを用意して来たんかは知らんけど、このままやと物量で負けてまうな……あの娘)


 暗闇でアレだけの炎を振るう戦いをしているのだから目立つのは当然だ。

 そしてその明かりを目印に、今も無数の袋が投げ込まれている。彼女の事をレッドスライムの天敵と認識したゴブリン達が、標的を定め始めたのだ。


「──【ラッシュピアッサー】!」


 降り注ぐ袋に対して先に焔魔槍を突き入れ、着地よりも先に倒したりとクリムも工夫を凝らして奮戦しているが、やはり投げ込まれる袋の方が多い。


(……温存を考えとる場合と違うな。これは)


 心に決めた魅國は鉄扇を広げて右手に握ると、左手をクリムの周辺に集まるレッドスライム達に向ける。そして……


「──【ファイアーボール】! 【フルスイング】!」


 手から撃ち出した焔弾に鉄扇で風を送り、その速度と火勢を補強。着弾したレッドスライムの体積を大きく減らし、動きを鈍らせた。


「魅國さん!」

「会議の時も伝えた思うけど、こう見えてウチもジョブは魔導士や。加勢、かまへんやろ?」

「! はい! ありがとうございます!」

「あら、素直な娘やね。アイツも、こんくらい素直やったら可愛げあるのになぁ……」

「?」

「──ああ、何でもあらへんよ。今はレッドスライムの大掃除や。ここ以外にもレッドスライムは投げ込まれて来とるし、早いとこ掃除を終えてそっちにも……?」


 そこまで話した時、魅國の耳に微かに入った異音を追ってその眼が動く。

 音の発生源は今まさに彼女達に向けて投げ込まれた、新たな袋だ。

 しかし、その袋に何か違和感を覚えた魅國は──


「! またですか! ──【ラッシュ……」

「クリムちゃん、あかん!」

「えっ──ぅわぁっ!?」


 袋に対して焔魔槍を突き入れようとしたクリムの腰へと手を伸ばし、自慢の膂力でひょいと持ち上げると、そこから素早く距離を取った。

 直後、彼女達のいたところに『ずしゃり』と音を立てて袋が落下し、その中身が溢れ出す。


「え!? アレって……」

「ゴブリンの魔石……ッ! アイツら、そこまでするんか……!?」


 破れた袋から周囲に散らばった魔石は、この場で散って行ったゴブリン達の物だろう。

 それを一つの袋に拾い集め、今投げ込んだその理由……クリムは気付かなかったが、魅國にはそれが直ぐに理解できた。

 それが如何に恐ろしい事かも。


「──ッ!?!?!? ッ!! ッ!!」


 魔石を見つけ、それは歓喜に飛びついた。

 何せ、久方ぶりの()()()()だ。周囲のライバルを巻き込む勢いで群がり、一つでも多く()()()べく身体を広げ……


「全員気ィつけェ!! 備えるんや!!」

「わ……わ……! こ、これって……!?」

「レッドスライムを持ち込んだ理由がこれかいな……! 仲間の死も無駄にせんとでも言いたいんか……?」


 魔石を捕食し、取り込んだレッドスライムの身体が忽ち膨張していく。

 それは急激なレベルアップの影響であり、ゴブリンよりも単純な思考で生きるレッドスライムが、より大きな相手をより多く喰らう為に目指した姿への変化だった。

 即ち──


「デカすぎんだろ……」

「こんなん俺達にどうしろってんだ……」


 純粋な巨大化である。

なお膨張には周囲のゴブリンも普通に巻き込まれているもよう

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― 新着の感想 ―
数は力、しかもキングの賢さのせいで本当に厄介ですね。切り札が最後まで残せると良いけど。
更新お疲れ様です。 打ってくる策は本当に多種多様ですね…それだけ向こうも侵略にガチってことの証明なんでしょうが。数の暴力に沢山の手札…マジで厄介ですな。 それでは今日はこの辺りで失礼致します。
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