第137話 人鬼戦争②
すみません、だいぶ遅れました!
渋谷対ゴブリン戦争実況板
343:名無しのダイバー ID:WL7LXr/mI
もう始まってたか!今どういう状況!?
361:名無しのダイバー ID:tJLxw0yCR
>>343
ロビーでゴブリン掃討して浅層に突入したとこ
ちなコメントは気が散ると言う理由で今回全員非表示設定になってるぞ
367:名無しのダイバー ID:WL7LXr/mI
>>361
サンガツ!
382:名無しのダイバー ID:9P8B7DUTI
ここまでの感じからして広範囲攻撃できる魔法使い系は温存してるっぽいな
401:名無しのダイバー ID:l8NytGp4x
>>382
なるべく下層みたいな広いとこで使わせたいんだろうな
実際今のところ必要になる気配は無いし
402:名無しのダイバー ID:PYFRpbdju
!?
405:名無しのダイバー ID:UFco71PPv
え!?ダンジョン封鎖すんのか!?
418:名無しのダイバー ID:gmGN0E7SA
>>405
何の事?
430:名無しのダイバー ID:WZ1/jnL2d
>>418
ダンジョンに最後に突入した火車の配信で封鎖扉が閉じたんよ
437:名無しのダイバー ID:YM5KKslPN
>>430
大丈夫なん?それって…
452:名無しのダイバー ID:3NSzNpPMr
本人が平然としてるから多分予定通りなんだろうけど不安になるな
458:名無しのダイバー ID:4FL9DDZ5N
まぁどのみち撤退する時は腕輪使うからなぁ…確かに全員入ったならゴブリンが出てこないように閉じるのは必須か
466:名無しのダイバー ID:fv3Q8kEzR
浅層って元々ゴブリン湧いて来るしな
673:名無しのダイバー ID:umBNLF43L
この配信見るまでちょっと甘く考えてたけど、やっぱそこまでしないといけない緊急事態なんだな…
◇
「──【ラッシュピアッサー】!」
スキルと共鳴して激しく燃え盛るレイピアが、私に迫るゴブリン達の尽くを一瞬で塵に還していく。
下層と比べれば狭い浅層の洞窟とは言え、今私達が居る場所は幅が5m程はあるそこそこ広めな通路であり、周囲を取り囲むゴブリンの層もまた厚い。
倒しても倒しても、ゴブリンが塵に還った次の瞬間には新たなゴブリンがその塵を突き破って飛び出してくる。
(くそ……ッ、これじゃキリがない……!)
こう言う状況で使えそうなのが【エンチャント・サンダー】と【チャージ】の組み合わせなのだが、あの組み合わせで発生する力場自体のダメージはハッキリ言ってこのゴブリン達に対しては力不足だ。
加えて雷の魔力は周囲の生物にも伝播する。こんな乱戦で使えば、間違いなく他のダイバーの迷惑になるだろう。
(必要なのは手数……だったら!)
「──【ストレージ】!」
ローレルレイピアを左手に持ち替え、開いた右手で腕輪に触れる。
そこから取り出したのは、ローレルレイピアによく似た白い剣身を持つ一振りの細剣──
「──『デュプリケーター』、初陣ですよ!」
右手で構えれば特有の紋様が浮かび上がるそれは、私が以前L.E.O.に白樹を持ち込んで発注し、そしてつい先日完成したとの連絡を受けて受け取りに行った新武器だ。
『ローレルレイピアに似せて作って欲しい』と言うオーダーで作って貰っただけあって、剣身だけでなくアーチ状の護拳に施された蔓の装飾まで再現されている。しかし、やはりあの精緻な装飾と武器として十分な耐久性の両立は厳しく、完全な再現には至っていない不完全な写し身。そこから名付けたこの剣だが、こと攻撃の威力と言う一点においてはオリジナルを上回る。
なにせ──
「──【エンチャント・ヒート】、【ラッシュピアッサー】!」
(ッ! この熱……やはり、WDは私の戦い方と相性が良い!)
魔力の通りが良いと言う性質はエンチャントした属性の特性をより100%に近い形で引き出せる上、スキルの補助もより完璧に近い純度で発揮される。
当然エンチャントとスキルの相乗効果も乗算的に引き上げられる為、その結果として……
(まるで、剣身が炎そのものになったかのようだ……!)
両手に握る二振りのレイピアによる高速の連撃は忽ち私の周囲からゴブリンを消し飛ばし、周囲に空間を作り出した。
ゴブリンの濁流に対して、こちらの手数が追いついた……いや、既に私の手数にゴブリンの方が追いつけていないのだ。
(よし、行ける……!)
「──はぁあああっ!!」
地を蹴って前に進む。直ぐに私の前に立ちはだかろうとしたゴブリン達へ向けてデュプリケーターを一閃。巻き起こった炎が防御の為に構えられた石の棍棒を何の抵抗も無く溶断し、ゴブリンの身体をも断ち切って焼き尽くす。
身体を半回転させ、側面から奇襲をかけて来たゴブリンに対してローレルレイピアでカウンターを突き入れ、足に纏わせた風で洞窟の天井スレスレの高度での背面跳び。
眼下を過ぎるゴブリンの群れを見送りながら、着地地点を見定めて体勢を整えて天井を蹴る。
「ギギィッ!!?」
ゴブリンの頭部を踏み砕きながら着地すると同時に、回転切りの要領で周囲のゴブリンを薙ぎ払うとゴブリンの眼に一瞬だが動揺が浮かぶ。
その直後に私への敵意を滾らせて襲い掛かろうとする素振りを見せたが──
「オラオラァ! まだこんなモンちゃうぞォ!!」
「ゲッ!? ゥガ……ッ!!」
その背後からゴブリンを蹴散らしながら接近していたティガーの双剣によって首を刎ねられ、全身が塵に還った。
「ヴィオレット……アンタ、噂に聞いてたよりもええ動きするなぁ。まさか、うちが追い抜かれるとは思わんかったわ」
「……私も思いもよりませんでしたよ。あの群れの中であれ程自由に戦える人が居るなんて……」
さっきの背面跳びの際にチラリと見えたが、このティガーと言う女性ダイバーは満員電車もかくやと言うゴブリンの群れの中に単身飛び込み、しかし動きを阻害された素振りも見せずにここまで戦いながら駆け抜けて来ていた。
それを可能にするのは彼女の身軽さや、女性の眼から見ても小柄な体格。そして、取り回しやすいサイズの双剣と……見た目にそぐわぬ膂力だった。
「大阪ダンジョンの最前線は伊達じゃないって事ですね」
「それはこっちのセリフや。そないちっこいのに、よぉやるわ」
「……今のはツッコミ待ちですか?」
「気ィ付いとったんならさっさと突っ込まんかい!」
そんなやり取りを交わしている間も無数のゴブリンが襲って来ているが、その攻撃が私達に届く事は無く、ただただ小さな魔石がダンジョンの地面に降り積もるばかりだ。
そんな時、他とは違うゴブリンの声が洞窟に響いた。
「ウギギギ……ギャアォーーーッ! アギャッギャーーー!」
「ッ! この声の感じは……」
「……チーフが混じっとんなぁ」
ただのゴブリンとは異なる、何らかの指示を思わせるその声が響いた途端、周囲の全てのゴブリンの眼が私達へと向けられたのを感じる。
いや、より正確に表現するならば、これまでも勿論敵意の視線には晒されていたのだが、それが更に数倍に膨れ上がったような感覚を受けたのだ。
「おい、面倒な事になる前にチーフ見つけて仕留めんで」
「もう十分面倒な事にはなってると思いますが……」
「アホォ! こんなザコがいくら来ようと関係あるかい! それを向こうも分かってるくせして、ウチ等の動き止めようとしとるんがきな臭いって話やないか!」
「!」
言われてゴブリン達の動きに視線を凝らす。
すると確かに私達を取り囲む大量のゴブリンのその奥で、他とは異なる動きをしている一団がちらりと見えた。だが──
(……駄目だ! 浅層の暗闇では、ランプの光はあそこまでは届かない……! 私があの動きをティガーに伝える訳には行かない……!)
人間の視界を知っているのかそうでないのか、怪しい動きを見せる一団は絶妙な距離で何かを画策しているように見える。
方角は入り口の方向。向こうでもまだ多くのダイバーが戦っている筈だが……
「──おい、気いつけぇ! 来るで!」
「っ、はい!」
「「「ギャギャァーーーッ!!!」」」
ゴブリン達の怪しい動きに対して、私がどう動くべきか考えるよりも早く、まるで示し合わせたように声を張り上げたゴブリン達が飛び掛かって来た。




