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第135話 開戦!人間vsゴブリン

 会議の日から一夜が明け、翌日──


「……さぁ、行きますか」

「ああ」

「「──【ムーブ・オン ”渋谷ダンジョン”】」」


 この日は作戦参加者の腕輪のみ許されたロビーへの転送機能により、私達はこれから戦場となる渋谷ダンジョンへと到着した。

 到着したロビーにいつもの様な活気はなく、シャッターを締め切った薄暗さはどこか下層のそれを思い起こさせる。

 昨日会議の場で見た映像のように『ガン、ガン』と断続的な金属音が響く部屋には、既に来ていた多くのダイバー達の姿があった。


「あ、ヴィオレットさん! ソーマさんも!」

「来たか。これで全員揃ったな」


 私達の到着に逸早く気付いたクリムの声でこちらを振り向いたKatsu-首領-の言葉によって、どうやら私達が最後のメンバーだったらしい事を察する。


「私達が最後でしたか。すみません、これでも時間には余裕をもって来た心算でしたが……」

「ああ、別に責めた訳ではないんだ。時間も問題ない。誤解させてしまったなら済まなかった」


 聞けば、彼等『飯テロ』は個人的にダンジョンの封鎖が心配になり早めに来ていただけとの事らしく、作戦にはなんの支障も無いと伝えてくれた。


「協会職員の精神的な疲労の問題もあったからな……今は彼等も奥で休ませているが、やはり普段からダンジョンに潜っている俺達程、この状況に冷静ではいられないらしい」

「そうだったんですか。まぁ……この環境では、無理もないですね……」


 ダンジョンの内側から何度も扉を叩く音と、それに伴い僅かにではあるが揺れる金属柱……いくら大丈夫だと言い聞かせても、前代未聞のこの状況に『()()()大丈夫だ』と言う信頼感は時間と共に揺らいでしまう物だ。

 それに……


「~~ッ! なぁ、もう全員集まったんやろ!? ならさっさと始めへんか!? ずっとガンガンガンガン、ええ加減イラついてしゃあないわ!」

「はぁ~、大阪の人は元気やねぇ……うちくらいの年齢になると真似できひんわぁ」

「あぁン!? ……ほぉ~ん? ほなアンタのそのキレェーな顔も、そぉ~とぉ若作りしてんねんなぁ? ダイバーやってたら面取り繕うんも楽やしなぁ?」

「せやなぁ~……小鬼が人のフリするよりは、随分楽させてもろてるみたいやわぁ。ホンマ、よぉ出来てはる」

「あ゛ぁ゛ッ!?? 誰がゴブリンやとォ!?」


 この音が原因なのか、この場にいるダイバー達も随分とギスギスしている雰囲気だ。

 実際この騒音の中に長い事置かれたらイライラしてしまうのも分かる気がするし、長時間見張りをしていた職員達は精神的に相当参っていた事だろう。


「……確かに、この音が延々と響くのはストレスになりそうですね」

「ああ。ティガーは分かりやすく影響を受けてしまっているが、魅國(みくに)の方も冷静ではないようだ。最初は二人ともあんなに険悪ではなかった」


 ストレスを溜めていそうなのは彼女たち二人だけではなく、他の面々もこの騒音にかなり辟易しているようにも見える。

 しかし、彼女──ティガーが言うように『さっさと始める』と言う事も実際難しい。何故なら私達にはダンジョンの再解放をする手段が無く、作戦開始時刻になるとともに協会職員の手によって遠隔で再解放がされる手筈となっているからだ。


「……仕方ない。メンバーも揃った事だし、少し予定より早めではあるが、こちらから向こうに連絡を取って作戦開始の時刻を早められないか確認してみよう」

「お願いします」


 それぞれのクランの仲間に宥められながら離れていく二人のダイバーを見て、難しい表情でスマホを取り出したKatsu-首領-に内心で感謝しつつ、私は先程からずっと熱い視線を向けて来ていたクリムの元へ向かう。


「ヴィオレットさん! また一緒に探索出来ますね!」

「はい。今日もよろしくお願いしますね、クリムさん。それはそれとして──クリムさんも装備を新調されたんですね」

「はい! 今話題のWD(ホワイトダマスカス)製のブレストプレートです! ……似合ってますか?」

「ええ、良く似合ってますよ。やっぱりこの特有の模様が美しいですよね」

「えへへ……!」


 彼女が身に着けていたのは以前のコラボの時とは違い、白樹と魔鉄鋼を混ぜ合わせて作られた白地に銀の紋様が輝くブレストプレートだった。

 一般的に武器に用いられる事の多いWDだが、彼女の場合武器は魔槍がある。

 それに防具にした場合は装着者の魔力が自然と防護層を作ってくれるから、生存率は格段に上がるのだ。盾を持たない彼女の戦闘スタイルには合っているようにも思えるし、悪くない選択にも思えた。

 何よりも──


「これだけの装備をWDで作れるくらい、下層を自由に探索できるようになったんですね……その成長が私には何より嬉しいですよ」

「ママ……!」

「ママではないです」


 時々そんな冗談を交えながら、和やかに世間話に花を咲かせる。

 やがて話題は次のWD装備の相談に変わって行き……


「実は次はグリーヴを作って貰おうかなって思ってるんです。【マジックステップ】や【エア・レイド】の効果も強力になると思いますし、戦い方にも合ってるかなって」

「良いと思いますよ。ただ、全体的に動きを調整する必要があると思いますので、実践前に浅い所で練習した方が良さそうですが」

「ですよね。その場合はやっぱり──」


 と、その時だった。


「──皆、聞いて欲しい! たった今、協会に確認が取れた! 本来の作戦開始時刻までまだ少し時間があるが、こちらからの合図で作戦開始及び、ダンジョンの再解放をしてくれる事になった!」


 Katsu-首領-の言葉にざわりと雰囲気が変わる。

 それは待ちに待った瞬間がとうとう来たかと言う期待であり、溜まりに溜まった鬱憤を晴らしたいと言う欲求に満ちていた。


「全員、配信開始と態勢を整えてくれ! 手筈は昨日の打ち合わせの通りで頼む!」


 乱戦になれば打ち合わせ通りに動ける保証はなく、万全の状態で迎え撃てるのはダンジョン再解放時の戦闘のみだ。だからこそ、ここだけはしっかり打ち合わせがされていた。

 Katsu-首領-の声かけによってダイバー達が一斉に動く。

 配信はダンジョンの情報を常に協会側や他のダイバーが確認できるようにするには必須な為、皆挨拶も最小限に手早く配置につく。


「さーて……今日は最初っから全力だね!」


 そう言ってこの場の全員の前に立ち、最前線を買って出たのは相棒であるハルバートを担いだ騎士甲冑の女性ダイバー──クラン『ラウンズ』のリーダー、春葉アトだった。


「皆、準備は良いか!? 特に春葉アトさん! 問題なければ協会に合図を送るぞ!」

「あたしはいつでも良いよ!」

「ウチらもええで! こっち来た奴らは皆かっさばいたる!」

「こっちもバリバリオッケーよ! アゲてくぞ、おめーらぁ!!」

「「「ウェーイ!!」」」


 各々の配置についたダイバー達から、次々に準備完了の声が上がる。

 そして最後に私達へと視線が向けられ……


「──【エンチャント・ダーク】。私も、準備OKです」

「問題ない。合図を送ってくれ」

「解った……──作戦開始だ!」


 Katsu-首領-が声を張り上げ、頭上に掲げた手を振り下ろすと、ダンジョンの扉を抑え込んでいた金属柱がゆっくりと持ち上がっていく。

 『ガン、ガンッ!』と音を立てる金属扉も仕掛けによって開いていき……暗闇の中にゴブリン達の眼が光った瞬間、春葉アトが動いた。


「──【ノブレス・オブリージュ】!」


 以前春葉アトは彼女自身のスキル【ノブレス・オブリージュ】のデメリットについて、こう説明していた。

 『効果終了後、前回使用した時のレベルの倍の数の魔物を倒さないと再使用が出来ないスキル』だと。

 だが、逆を言えばその条件が問題なく満たせる状況であれば、そのリスクは極端に低下するスキルでもあるのだ。

 そう……まさに今回のように、ゴブリン狩り放題と言う状況であれば。


「──ギ」


 開いた扉の隙間から飛び出してきたゴブリンが、そんな短い声を残して消し飛んだ。

 中層のミノタウロス程度の動体視力では、彼女の攻撃に何の反応も出来ないのだ。


「さて……みんなで守っちゃおうか! この街を!」

「「「「「オオオーーーーーーッ!!」」」」」


 こうして、一部とはいえ地上さえ巻き込んだ戦いの火蓋は切られたのだった。

作者は関西弁がネイティブではありませんので、今回登場した大阪と京都のダイバーの話し方に関しておかしいと感じたら報告をお願いします。

また、二人の仲が悪いのはそれぞれ反りが合わないからであり、京都・大阪府民の仲が悪い描写ではありませんので誤解なきようよろしくお願いします。(念入りな予防線)

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― 新着の感想 ―
相手の方が数が多いからなー、体力勝負なんて分が悪すぎる。それに森のキングは賢かったからな、気を付けないと。
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