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第126話 追跡

「あの装備……先ほど私が倒したゴブリンと同じですね」


〔あそこから出て来た奴がヴィオレットちゃんのカメラを壊したのか…〕

〔めちゃくちゃ良いところだったのにな…〕


 地面に開いた穴から現れたゴブリンの装備は白樹製……戦争をしている二つの陣営はどちらも黒っぽい石で作られており、明らかに別物だと解る。

 つまり、あの穴はあの森の何処かか、或いは近くに続いていると言う事になるのだが……


〔結局何しに来たんだこいつ等〕

〔見た感じ戦争に介入しようって訳でもなさそうだしなぁ……〕


 リスナーが感じたように、穴から出て来たゴブリン達は戦争をしているゴブリン達を一瞥した後、こそこそと姿勢を低くしながら素通りしようとしている事から、目的は戦争そのものではないのが解る。

 動揺している様子も無い事から、ここで戦争が起きている事自体は知っていたようにも思えるが……


〔そうか、ヴィオレットちゃんのカメラを破壊する為に態々穴まで掘って…〕

「もしも本当にそうだったとすれば私はゴブリンを根絶させます」

〔草〕

〔草〕


 冗談はさておいて、奴らの目的についてはちょっと気になるところだ。

 ここ最近活発に動き始めたと言う噂からして、今後私や他のダイバー達の探索に影響が出る可能性も無いとは言えない。

 そうこうしている内に穴から出て来たゴブリン達は戦争に目もくれず、この場を離れ始めた。


「……少し、後をつけてみましょうか」


 穴そのものの事も気になるが、こっちは後からでも調べられるし、今は離れていくゴブリンの追跡を優先しよう。

 小声でリスナー達にそう伝えると私は地上に降り立ち、気配を殺しながらゴブリンの後を追い始めた。




〔マジでヴィオレットちゃん気配殺すの上手いよな…〕

〔今身に着けてるドレスアーマー本当に金属製なのかってくらい静かだもんな〕

〔コツとかあるの?〕


「コツですか……あまり考えた事は無いですけど、音を立てない事ですかね……?」


〔草〕

〔それはみんな知ってんのよw〕

〔ヴィオレット「静かにするコツは音を立てない事なんですよ」〕

〔A=A構文やめろw〕


 等とコメントと小声でやり取りし、間を持たせながらゴブリンの後を追う事約10分。

 周囲の様子が起伏の乏しい荒野から次第にゴロゴロとした大岩が転がる一帯に変化していき、やがて地形の起伏が大きくなり始める。

 ゴブリンの速度が案外速い為、数㎞は進んだだろうかと言ったところで足を止めたゴブリン。周囲の確認を始めた姿に『ここが目的地だろうか』と周囲の地形を見回して、はたと気付く。


(ここ、さっき私がゴブリンを仕留めたところと近いな……)


 この場所に到達するまで、ゴブリン達の移動に迷いはなかったように見えた……それはつまり、先ほどこの近くで私のカメラを破壊したゴブリン達は、たまたまここに来た訳ではなかったと言う事だ。

 ゴブリン達はしきりに周囲を気にしているようなので、私は傍にあった結晶の陰に身を潜め──


「──【ストレージ】」


 腕輪から取り出したスマホで自分の配信を見ながら、遠隔操作するドローンでゴブリン達の様子を探る。


〔なんか探してるっぽい?〕

〔あれじゃね?さっきヴィオレットちゃんが倒したゴブリンと合流する予定だったとか〕

〔言われてみれば、なんかやたら鳴き声発してるのも仲間呼んでるのかもな〕


 そんな憶測が流れるコメントを見て『もしかしたら警戒されて逃げられるかもな』等と考えていると、ゴブリン達の様子に変化が起きた。


「ギギッ!?」

「ギャアァオッ! ギギャオォ!!」


 ゴブリン達の鳴き声に引きつけられたのか、別のゴブリンがゴロゴロと周囲に転がる無数の岩の一つの陰から現れた。

 穴からここまでやって来たゴブリン達は、姿を見せたゴブリンを指差して叫び、そちらへと駆けていく。


(──岩陰から別のゴブリン……仲間か?)


 私がそう思ったのは一瞬。距離を詰めたゴブリン達はそれぞれ武器を構え、岩陰から現れたゴブリンに飛び掛かった。

 彼等がどういう方法で敵味方を区別しているのかは定かではないが、飛び掛かられたゴブリンが構えた武器が黒っぽい岩で作られている事からやはり別の勢力のゴブリンだったと言う事なのだろう。


(ゴブリン同士の戦闘か……あれ結構過激な映像になるから嫌なんだよな……)


 魔力による攻撃手段を持つゴブリンは、ゴブリンキング以外にも希少ではあるが一応存在する。

 ゴブリンメイジやゴブリンシャーマン等がそれに該当するのだが、この場には居ない為、これから起こるのは壮絶な魔石の抉り合いになるのだろう。

 血を流さないゴブリンとは言え、子供がそう言う映像を見る事を嫌う親も少なくない為、同接数の多い私の配信ではあまり近い距離で映したくはないな……そんな不安からカメラのピントをずらそうかとした次の瞬間。


「な……!?」


 私の予想に反してゴブリン達の戦闘は一瞬で決着がついた。

 原因として数的有利はもちろんあったのだが、それ以上に大きな影響を与えたのは彼等の使う武器の違いだった。

 石の武器で殴られた森のゴブリンはダメージが軽いのに対し、白樹で殴られたゴブリンは大ダメージを受け直ぐに塵に還ったのだ。

 これは魔力ダメージがあったと言う事に外ならず、白樹武器を観察すれば確かに微かながら魔力を感じる。


(そうか……! 白樹は魔力を扱うのが苦手なゴブリンでも、殴る際に力が籠った手から自然に魔力が流れるほど魔力に親和性が高い素材だったのか……!)


 性質については知ってはいたが、まさかここまでの物とは思っていなかった。白樹の価値に値がつけられないのも、加工の研究に時間がかかったのも納得だ。


WD(ホワイトダマスカス)か……そろそろ新しい武器を作って貰うのも良いかも知れないな……)


 評判も上々だし、ローレルレイピアのインパクトももうなくなってしまっている。

 意匠が素晴らしく人間に作れない一点物なのは変わらないが、皆もう見慣れてしまっているのだ。やはりここらへんで装備を新調し、話題を一つ作っておきたい。

 武器種は何が良いだろうか……基本的に私はある程度の武器は扱えるので、エンチャントの性質を活かせる武器が良いのだろうが……もう一本レイピアを作って貰っての二刀流もインパクトとして悪くない。

 【心得】スキルの関係で武器種を一つに絞るダイバーが多い事からも、この方が違和感も少ないだろうし……


「──っと、動き出しましたね」


 私が次の武器についてあれこれと考えている内に、白樹武器のゴブリン達は先程のゴブリンが現れた岩陰の奥へと進んでいく。

 後をつけて進んでいくと、岩陰の奥は崖に挟まれた道のような構造になっており、キラキラと光を放つ結晶が密集し、まるで昼間のような明るさを放っていた。


〔うわ…めっちゃいいなここ…〕

〔とんでもない映えスポットだ!〕

〔ゴブリンがノイズ過ぎるw〕

(く……ゴブリンさえいなければ……!)


 手元にあるスマホで自撮りしたくなる衝動を抑えつつ、無心で追跡を続ける。こんな絶景にもまるで興味を示さないゴブリン達が辿り着いた先は──


〔いやマジで良すぎか!?〕

〔えぇ…なにこれ結晶のコンサートホール…?〕

〔ここでライブやったらバズり間違いなしだろもう…〕


 結晶の通路を抜けた先には、これまた結晶で覆われた広間があった。

 岸壁の表面を覆う結晶の光が集中する場所には、まるでホログラムのように光の球体が漂っており、ずかずかと歩くゴブリンが光を遮る事で、逆にその形を自在に変化させてより幻想的な光景を作り出している。だが──


「……これもうゴブリン仕留めても良い奴では?」


〔マジそれな〕

〔あいつら汚い手でべたべたと…〕


 ゴブリン達はそんな光景を作り出す結晶を無遠慮に触っては、あろう事か引っこ抜こうと言う素振りさえ見せた。

 知っての通り結晶は引き抜けばその輝きを失い、ただの無色透明なガラスのようになり果てる。そしてその輝きは元の場所に戻しても戻らないのだ。

 『取り返しのつかない事態』に至る前に、ここでやるか……ローレルレイピアを握る手に力が籠ったその時。


「ギギッ!? ギャギャッギャ!」

「ゲギャギギャ!」

「ああぁぁーーーーーッ!!?」


 ゴブリンが引っ張った結晶がズルリと動いてしまった。

 見れば結晶はもう光を放っておらず、完璧な物が崩れてしまった喪失感に思わず声が漏れる。


〔やりやがった!〕

〔ゴブリンに美的センスや配慮が無いのは良く分かった…〕


「ッ!?」

「ギギィ!?」

「ギャギャギャッ!?」


 声で私の居場所がバレてしまったが、こうなってはもうどうでも良い。見つかった以上、やる事は一つだけだ。


「──○すッ!!」


〔令嬢さん!?〕

〔草〕

〔流石に草〕

〔発言が過激すぎるw〕

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 ゴブリンでも真価を発揮できる白樹……人間が使うとして仮に剣を作るなら、柄と芯になる部分を一体で作る→芯の上に刀身を鍛え打つ…的な、ベルセル○のドラゴンころ○みたいな作り方なら魔力…
ゴブリン共の汚い手で触るんじゃないよ。本当に景観に合わない奴らだわ。だが連携してるようだし捜索されてるかな?。
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