第125話 ゴブリン同士の戦争
少し遅れました! すみません!
「──うーん……地図に書かれた地形の特徴から考えると、現在地は多分この辺りでしょうから……やっぱり、あの森から大分離れていますよね……?」
〔だね〕
〔多分〕
〔こんな地図あったんだ〕
リスナーから送って貰った地図の画像を配信に映しながら、私はリスナー達へ確認の意図を込めて尋ねる。
地図とは言っても専門家が書いた訳ではないし、測量もしていないので正確性は若干怪しいかもしれないが、凡その位置関係は私の過去の記憶と比較しても一致しているので、少なくともその点は参考になる筈だ。
書き込まれた地形の所々にはデフォルメされたシンボルが点在しており、下層の中でも特に印象的な場所を目印としているようだ。私が発見した結晶のオベリスク等の絶景ポイントや、森のゴブリンの国等もデフォルメされて描かれている。
そしてダイバー達が探索していないところは空白地帯となっており、ゴブリンの戦争を確認した場所だと言う『交差する剣のマーク』もまた空白地帯に書き込まれていた。
〔やっぱりこうしてみると未探索箇所多いんだな…〕
〔空白地帯を積極的に埋めてくれるダイバーも最近は居るんだけどね…〕
〔あーそれでか。自由に探索してるにしてはちゃんと埋まってると思った〕
〔マッピング配信はこの地図埋め需要で一定数のリスナーが確定で来るし、チャンネルも登録して貰えるからな。実は向こうにもメリットあるのよ〕
〔なんかイソギンチャク見たいな地図だな…〕
〔↑それ思ったw〕
「イソギンチャク……確かにそんな感じにも見えますね」
コメントで指摘されたイソギンチャクと言うのは、マップの書き込まれた箇所の全体像の事だろう。
言われて見てみれば、確かに画像の中央最下部に書かれた下層の入り口周辺のマッピングは完璧であるのに対して、そこを少し離れた場所からは自由に進んだダイバー達の足跡を追うようにグネグネと方々に書き込み箇所が延びている。
この完璧に書き込まれている箇所がコメントの言う『マッピング配信』の成果とすれば、そこから生えたイソギンチャクの触手に似ている部分がそれ以外のダイバーの探索ルートなのだろう。
その内の一本を追ってみれば、途中に私が見つけた新しい地形もいくつか書き込まれている事から、これが私の探索の道程である事がわかる。
その先端から更に少し進んだ場所が現在地であり、当然ながら空白地帯だ。そしてこの位置からしばらく左に進むと、そこには『交差する剣のマーク』が書き込まれており、その間は全て空白地帯となっている。
「ここの戦争がジャーナさんの見つけたやつでしたよね?」
〔そう〕
〔今のところ戦争はそことヴィオレットちゃんが見つけた森の上部の二カ所だけだね〕
『交差する剣のマーク』はコメントの言う通り、その二カ所にしか書かれていないようだ。そして森はこのマークから更にずっと左に進んだ場所か……これはどうにも変な配置だ。
「さっきのゴブリン、多分この森から来てると思うんですけど……これ戦争に巻き込まれなかったんですかね?」
〔確かに…?〕
〔普通に迂回したとかじゃないの?〕
〔ゴブリンにそこまでの知能があるかな…〕
〔いやそもそも空白地帯にゴブリンの国があるってだけの話じゃないの?〕
〔空白地帯に森があれば他のゴブリンも似た武器作るだろうしな〕
〔↑そうなると結局「じゃあこのゴブリン戦争に参加してないみたいだけどどこの勢力?」ってなるのよ〕
(そこなんだよなぁ……)
空白地帯にゴブリンの国があるのはまぁ、間違いないだろう。
だが肝心なのは、そのゴブリンの国は十中八九このマークの戦争に参加している勢力の片方だと言う事だ。
ジャーナが見つけた戦争の様子は私もアーカイブで見させてもらったが、アレは間違いなく全面戦争だった。
ゴブリンキングが直接指揮を執る、国を挙げての総力戦……作戦上別動隊を使う事はあるだろうが、その場合わざわざ私のドローンを破壊し、あまつさえその上で小躍りなんてしない。……思い出したらまた腹立ってきたな……まぁ、それはともかく、重要なのは私が先程倒したゴブリン達はこの戦争に参加しているどちらの勢力でもないと言う点に尽きる。
「……ちょっと、様子を見に行ってみましょうか」
どのみち最奥がどこにあるかもわからない下層だ。探索するにも何らかの目標は欲しいし、今回は戦争地帯周辺の情報を探ってみるとしよう。
「──いやぁ……やってますね~……」
空白地帯の調査と言う目標を設定した私は、早速地図の記載に従いマークの方へと一直線に探索を始めた。
そしてしばらく歩を進めた後、頃合いを見計らって【エンチャント・ゲイル】と【エア・レイド】の組み合わせで上空高くへ跳躍すると、少し先の方にその光景は未だ存在しているのが見えた。
起伏の乏しい平野を埋め尽くす大量のゴブリンが向かい合い、衝突地点では敵味方入り乱れての大乱戦だ。
両陣営とも武器は岩を削って作られた棍棒や手槍が主流のようで、やはり私が遭遇したような白樹の武器ではない。
〔まだ戦争してたんだな…〕
〔白兵戦ってこんなに長いのか?〕
〔ゴブリンも魔物だからな…再生能力があるからゴブリン同士の戦闘ではそもそも中々数が減らんのよ。だから基本的に泥沼になる〕
あまり具体的に表現したくはないが、ゴブリン同士の戦闘は中々壮絶だ。
彼等の多くは魔力による攻撃手段を持たない為、互いに本体である魔石にダメージを与える方法が限られるからだ。……ではどうやって相手を倒すのか。
魔石のある場所である頭部を破壊し、破壊箇所から腕を突っ込み、魔石を直接抉り抜くのだ。そして手掴みで取り出したそれを砕けば、魔力による攻撃手段が無くてもゴブリンを倒せる。……もしも彼等に血が通っていれば、あまりのエグさにアーカイブにモザイクがかかった事だろうな。
当然そんな事、乱戦の中で簡単には出来ない。敵のゴブリンに邪魔されて、その間に砕かれた頭も再生してしまう。
そこで戦局を一気にひっくり返せるのが──
「あぁ、やっぱり両陣営にゴブリンキングがいますね……」
突如発生した竜巻が右側の陣営を蹂躙すれば、左側の陣営には氷塊の雨が降る。
ゴブリンキングの魔法は当然、魔石を取り出すなんて面倒なプロセスを飛ばして直接敵のゴブリンを倒せる。
……では、ゴブリンキング以外の雑兵が何故戦争に参加するのか。それは偏にゴブリンキング同士の戦いになった時、少しでも相手より優位に立つためだ。
彼等の多くは死兵となって、相手のゴブリンキングの魔法を邪魔する為に戦争に参加している。
ゴブリンキング同士の全面戦争は最終的には王vs王だ。それまでは全て小競り合い。
魔法を連発しないのも本番前に王の消耗を抑える為だし、だからこそ戦争は長引く。そして、だからこそ……
「おぉ、右の陣営の背後から出発した別動隊が本格的に動き出しましたね……なるほど、さっき降らせた氷塊は敵を消耗させる以上に、彼等が進む死角を作る為でしたか……」
こうして観察する分には割と面白いのだ。
〔ヴィオレットちゃん普通に楽しんでて草〕
〔風の魔法の方が蹂躙には手っ取り早いのに何でかと思ったらそう言う事か〕
〔ほとんどが敵陣に落ちてるから炎の魔法で溶かそうとすれば味方も巻き込んじまうしなぁ〕
消耗を抑えながらの魔法戦。そこに生まれる駆け引きは、魔法が放たれる度に行われる。
彼らが使う魔法には工夫があり、時にこちらの予想を覆す一手が打たれる事もしばしばだ。
「──と、なると……あの穴も、作戦に使った跡なんでしょうかね……?」
私が眼を向けたのは、戦場から少し離れた地面に開いた楕円形の穴だ。
穴の角度的に、恐らく中は洞穴のようになっている。別動隊がそこを通れば、確かに敵の虚を突く事も出来そうだ。
〔本当だ穴開いてる〕
〔気付かんかったw〕
〔お、ゴブリン出て来たな〕
「やはりそうでしたか。角度的にはアレは向かって左の陣営の……──あれ……? あの装備は……」
洞穴を通って現れ、周囲の警戒をするゴブリンの小隊。彼らが手に持っていたのは、白樹で出来たと思しき棘付きの棍棒だった。
最近花粉症の所為か頭がちょっとぼーっとしてる気が……文章に変なところが見つかったら多分やらかしてるので遠慮なく指摘してください




