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第124話 繰り返される悲劇

タイトル程ショッキングな内容ではないです

 春葉アトの謹慎が明け、ダイバーとして本格的に復帰した翌日の土曜日。

 いつも通り午後の一時から始まったオーマ=ヴィオレットの探索配信には、今日も多くのリスナーが集まっていた。


『──はぁっ! っ、そこッ!』

『ぅおっと!? 良いフェイントだね! でもッ、これはッ、どうッ!?』


 そしてこの日もまたヴィオレットの前にチヨが現れ、二人の戦闘が配信に載っていた。

 すっかり見慣れてしまった対戦カードだが、戦闘の流れは毎回異なっている。二人ともこれまでの戦いから相手の出方を学んでおり、それに対抗する為の動きを常に意識しているからだ。


『──【エア・レイド】っ!』

『な……! くぅぅッ!!』


〔巧い!〕

〔今の誘いか…わからんて…〕

〔駆け引きのスパンが早すぎるw〕

〔切り抜き解説ニキの動画待ちやな…〕


 ヴィオレットは態と見破られるフェイントを交えてチヨの攻撃を誘い、先日習得したスキル【エア・レイド】で強化された跳躍力を利用。纏わせた風による相乗効果が発揮され、一瞬で頭上を取ったヴィオレットはチヨの咄嗟の翼の防御の上から強烈な踵落としを浴びせる事に成功。

 堪らず地面に叩きつけられたチヨは呻きながらも直ぐに立ち上がり、両手に凝縮した嵐を握り込むが──


『こっちです!』

『速っ!?』


 既に地面に向かうように空中を蹴っていたオーマ=ヴィオレットは、地面に罅を広げながら着地。

 構えたローレルレイピアに左手を添え……


『──【エンチャント・ダーク】【ラッシュピアッサー】!』

『ぅぐっ! 一か八か……!』


 チヨを完全に間合いに収めたヴィオレットが、決着を付けようと技を放つ刹那。翼にダメージを受けて咄嗟の回避に影響が出ていたチヨは、先程両手に握り込んでいた嵐を暴走させて発生させた突風で強引に距離を取ろうとする。


〔おおおおおお!〕

〔いけえええ!!〕


 一瞬を奪い合う攻防の瞬間。

 コメントも最高に盛り上がり、リスナー達の意識が二人の戦いの決着に集中していた時──


『ゲギ?』


 そんな声が配信に載った。

 そして、二人の戦いはその途中に割り込んできた緑色のシルエットに隠される。その正体は……


〔はぁ!?〕

〔ちょゴブリン邪魔!!!〕

〔カメラが見つかった!?〕

〔なんで!?〕

〔いままでチヨとの戦闘中は魔物逃げてたやん!?〕

〔いや、ここ安全圏だから…〕

〔あーそうか。チヨとの戦いの影響が無い安全圏なら普通に魔物も来るか…〕

〔これ嫌な予感するんだけど…〕

〔奇遇やな、ワイもや〕


 直後、ドローンカメラの周囲に現れるコメントを魔法による攻撃と勘違いしたのか、ゴブリンの手に持っていた白樹の武器が振り上げられ──


〔うおおやめろ!!!〕

〔待て話せばわかる〕

〔ばかおまえまじくうきよめ〕


 二人の決着を映す前に配信は終了した。



「──くぅぅ……! 流石に今回はヤバかったよ、ヴィオレットちゃん……!」

「はぁ……はぁ……、良く言いますよ。()()()()()()()()()()()()()()()()癖に……」

「ん~……まぁ、それはまたいつかかなぁ……?」


 先程の一瞬、僅かに私の斬撃がチヨの両手首を切断するのが早かった。

 魔法の発動を強引に止めた私はそのまま一気に決着を付けようとしたのだが、チヨは攻撃を受けながらも隙を伺い、雷をエンチャントした尻尾の先端で私の突きを受け止めたのだ。

 ローレルレイピアを伝って流れた電気により動きが止まった私の身体を蹴り飛ばし、回復した翼で上空へ飛翔したチヨから「今日もここまで」と一方的に告げられ、戦闘は終了した。

 一応ピンチに陥っていた筈の彼女はその窮地すら楽しんでいたのか満足そうだが、私としてはやはりチヨの手札を探り切れていない事への悔しさが勝る。


(私がこのまま最奥を目指せば、きっとどこかでチヨ達と決着をつけるタイミングが来る……その時までに、せめて片鱗だけでも引き出しておきたいんだけど……)

「──まぁ、今は良いでしょう。空を飛ばれた時点で、逃げる貴女を追う事は私には出来ませんから」

「……とか言って、今も【エア・レイド】って奴で狙ってるでしょ?」

「……はぁ、わかりましたよ。潔く諦めますって」


 本当に隙が無い。

 こういう時は普通少しの油断が混じると思うのだが、彼女はその軽い振る舞いとは裏腹に冷静な側面を常に持っている。これでは一か八かの賭けにもならない。

 諦めた証としてローレルレイピアの切っ先を下ろすと、チヨは笑みを深めて本当に楽しそうに話し始めた。


「いや~、最近は戦ってて楽しい人間が増えて来て嬉しいよ! 漸くあたしの青春が来たって感じ!」

「良かったですね……たまには私が居る時も、私以外の方と戦っても良いんですよ?」

「えー……それはダメかなぁ。やっぱりヴィオレットちゃんが一番戦ってて面白いし!」

「……」

「じゃ、またね~!」


 今のはきっと褒めてくれてたんだろうな。彼女的には。……私的には割と普通に迷惑だが。

 まぁ、今回は広範囲に影響を与える魔法を使わせなかったし、カメラに被害が無かっただけでも良かったか。

 早速カメラを手元に戻して……──


「……?」


 反応が無い。


「いやいやいやいや……おかしいでしょ? だって今回はチヨに重力魔法を使わせませんでしたし、風魔法だって向こうには影響なかった筈なのに……」


 ぶつぶつと独り言をつぶやきながら、カメラの避難先へと歩を進める。

 やがて、私の目に飛び込んできたのは──




「ゲギャッ! ゲギャァッ!」

「ギギッグェ! ギャッゴォ!」


 カメラを破壊した張本人らしきゴブリン達が、まるで祭りを楽しむが如く白樹の武器を振りかざし、残骸へと成れ果てた私のドローンカメラの上で更にストンピングを繰り返している姿だった。


(あぁ……そうか。そう言う事か……)


 いや、仕方がないとは思う。

 大体あの踏んづけられているドローンカメラ『アビススカウター』の注意書きにもあったじゃないか。

 『あまり遠くに離れすぎると魔物にドローンが襲われる危険があります』と。

 その注意書き通りになったと言うだけの話なのだ。仕方がない事だ……うん。だから……


「──○す」


 ちょっと令嬢らしくない衝動が口から洩れてしまったが、これも仕方のない事なのだ。




「──という訳で、チヨは撃退出来ました。ついでに下手人のゴブリンもこの通りです」


 そう言って腕輪から取り出した予備のドローンカメラで配信を再開した私は、ゴブリンが持っていた白樹の武器とゴブリンの魔石を手に無事を報告していた。


〔ヒエッ〕

〔ワイらもあのゴブリンにはキレてたけど、これは…〕

〔ヴィオレットちゃん激おこやん…〕


「仕方がないでしょう!? 何ですかゴブリンって!! チヨの魔法の余波とかならともかく、よりにもよってゴブリンにカメラ壊されるって! ……いや、怒っては居ないんですけどね?」


 せめてもっと強いダンジョンワームとか、アークミノタウロスとか……その辺だったらここまでの屈辱は無かったのに、と思わずにはいられない。


〔情緒不安定で草〕

〔無理あるやろw〕

〔気持ちは分かるw〕

〔まぁ白樹の武器が弁償代だと思えば…〕


「弁償代……まぁ、価値としては確かに高いんですけどね……」


 コメントが宥めてくれるけど、結局この白樹の武器も換金とかはできないんだよなぁ……。

 一応通販サイトで売る事も出来るけど、その辺に私が参入すると叩かれそうだし、あまり気は進まない。


(……あれ? っていうか、冷静になって漸く気付けたけど……そもそも何であのゴブリン達はこの白樹の武器を持っていたんだ?)


 手に持ってまじまじと見れば見るほど、この武器の特徴はあの森のゴブリンキングの国で見た物と特徴が一致する。つまり、あのゴブリン達は十中八九、あの森から来た事になる。

 しかし、今私が居る場所はあの森から大分離れた場所の筈なのだ。例え戦争中で気が立っていたとしても、哨戒範囲からは離れすぎていると思うのだが……


「……あの、すみませんが、ゴブリンの国のマップを持っている方がリスナーの中に居れば、ちょっと私に送ってもらえませんか? 確認したい事があるんですけど……」


 『ジャーナ』と言うダイバーが今月初めに配信に収めたゴブリンの戦争……それを切っ掛けにネット上で『ゴブリン三国志』と言うタイトルで、『ゴブリンの勢力図をマッピングしよう』と言う流れが生まれていたのを見た事がある。

 あくまで配信に映った風景から算出したマップらしく正確性は怪しい所はあるのだが、それでも下層の情報が解る数少ない地図なのは間違いない。

 そんなわけで意識の片隅に留めていたのだが、もしかしたらそれが今回役に立つかもしれない。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 ドローンくん…まぁ、良いやつだったよ(竹内○太ボイス) ただの一般通過ゴブでなく、新たな戦いのヒントを所持してたのは不幸中の幸いでしたね…。 それでは今日はこの辺りで失礼致しま…
サブタイトルで「あっはい(察し)」となったし、結果的には案の定だったわけだが。 まさかゴブリンに繋がるとは思わんかったわ。
ゴブリンにいい所で壊されるとか嫌ですねぇ。やはり探して回ってるか。 流石に階層を超えて移り住まれると困るんですよねぇ。
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