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第119話 日曜日の大型コラボ③

「──ってな具合で、俺らとノリ合いそうな奴はタジリィの方にバンバン連絡よこしてくれな! 面接の日取りとかはタジリィ、任せた!」

「……リーダーはこう言ったが、ノリを勘違いしている奴やクランのイメージを損なうような連中は応募してきた段階で当然弾くからそのつもりで」


〔頼むぞタジリィ!〕

〔クランの治安を任された男!〕

〔表情硬いぞタジリィ!〕


 探索を終えて、渋谷ダンジョンのロビー。

 前回に続き参加したクランリーダーによるスカウトの様子を見ていたのだが、この『ウェーブダイバース』と言うクランは本当に『ノリ』だけを採用基準としている訳ではないことが分かった。

 ……いや、クランリーダーが決めた基準は本当に『ノリ』だけなのかもしれないが、採用担当?であるタジリサウスが面接よりも前の段階で一度チェックを済ませているらしい。

 多分『陽キャ』と『DQN』の選別的な作業をしているのだろう。


「……良いんですか? 面倒ごと任せられてる気がしますけど……」


 自分の挨拶を終えてカメラの前を次のダイバーに譲ったタジリサウスに、ひそひそと小声で話しかける。

 現在の私のドローンカメラは最後の挨拶用に少し離れた場所に滞空させている為、私達の会話がマイクに拾われる事はない。

 そんな訳で、自分の順番を待つ傍ら先程のやり取りで少し気になった事を訪ねてみたのだが、それに対するタジリサウスの返答は淡々としたものだった。


「ああ……実は、分かりやすい奴を弾くだけだからそれ程大変じゃないんだ。ウチのクランは面接と称してパーティーやカラオケをするんだが、上手い事俺の眼をすり抜けたとしても問題がある奴は大抵そこで見抜かれる。年齢次第では酒も入るからな」

「は、はぁ……」


 まぁ、本人が問題ないと言うのであればそうなのだろう。

 確かに話に聞いた状況を言い換えると『30人以上の審査員が集まって動向を見ている』訳だから、合理的な面もあるのかもしれないが……


(果たしてそれは面接なのだろうか……)


 ……いや、実際にそれで上手くいっているのだから、外野の私がとやかく言うべきではないか。


「──それに……」

「?」


 ウェーブダイバースと言うクランの独特な雰囲気を感じつつ一人納得していると、タジリサウスはぼそりと小さく呟くように声を発した。


「リーダーには弓使いと言うジョブの所為で、どこのクランにも入れなかった俺を拾ってくれた恩があるからな。……いや、俺だけじゃない。ウェーブダイバースの弓使いは全員、このクランとリーダーに恩義を感じてる。だから、このクランの評判を落とすような輩は絶対に見逃さないさ……」

「なるほど……」


 思わずゴクリと喉が鳴る。『絶対に見逃さない』と語る彼の眼が、あまりにもガチだったからだ。

 彼等は元々高い索敵能力や観察力を求められる弓使い系ジョブだ。十人以上所属している彼等の注視する中、その警戒網をすり抜けられるならそれはもう回避不可だったと諦めるしかないだろうな。


「ヴィオレット、締めの挨拶を頼む」

「あ、はい。兄さん」


 どうやら裏で話し込んでいる内にどうやら全員の挨拶も完了したようで、『俺』からバトンを渡された私はずらりと並んだドローンカメラの前に立つ。


「えー……先ず、ここまで長時間の配信を見て下さりありがとうございます! 私が今回のコラボ探索で抱いた感想は、弓使いのダイバーさんが予想をはるかに超えて活躍してくれたのが嬉しかったです。下層のような広い場所では彼等の能力が存分に活かせる事も良く分かりましたし、下層を目指すのであればクランやパーティーに一人、信頼できる弓使いを加えておくのも良いかも知れませんよ~」


 勿論矢を始めとしたの消耗品の補填等の課題も多いだろうが、それを差し引いても彼等の眼を探索に活かせるのは大きいだろう。

 彼らがその実力に見合った評価をされ、活躍の機会が増える事への期待も込めて挨拶のついでにフォローしておく。


〔確かに印象変わったわ〕

〔もっと言ってやれー!〕

〔今まで弓使いをこき下ろしてたクランは確保に苦労するだろうなw〕

〔長距離狙撃は中層までだと死にスキルだったのも事実よ〕

〔言っても必須ジョブでもないし、まだわざわざ採用枠設けるほどってもんでもないかな〕


 ……コメントを見る感じだと流石にまだ評価は安定していないようだけど、それでも一歩前進と言えるだろう。『外れ』だとか『不遇』と言った言葉で安定してしまっていた風評が、ようやく揺れ始めたのだから。


(まぁ、フォローはこんな物かな。あまり肩入れし過ぎても良くないだろうし……)


 ここから先は彼ら自身が実力と活躍で証明していくべきだと判断した私は、他のダイバー達の活躍にも言及した後、次回の探索配信の情報を最後に配信終了の挨拶を述べた。


「次の探索配信はいつも通り土曜日です! 先日から引き続き、まだまだコラボに参加して頂けるダイバーさん達と一緒に下層に潜って行きますよ~!」


〔楽しみ!〕

〔今度は誰が来るんだろうなー〕

〔メンバーってもう決まってるの?〕


「あっ、メンバーに関しては殆ど決まってますが、連絡はまだの状態です! 水曜日の雑談配信までに連絡を済ませますので、もう少しお待ちください!」


〔お疲れ様やで〕

〔了解!〕

〔当たってくれー!〕

〔ソーマもお疲れ様〕

〔推しが来ますように〕


 まぁ、実際はメンバーはもう決定済みだ。

 残っているのは昨日と今日の配信で得た経験を参考に、良い感じの編成を組むと言う作業だけなので明日にでも終わるだろう。睡眠を必要としない魔族の、深夜の暇さを舐めてはいけない。


「──っと、もう時間ですね。それでは皆さん、私や参加してくださったダイバーの方々のチャンネル登録、配信の高評価等よろしくお願いします! 今日も見ていただきありがとうございました! 土曜日もお願いします! オーマ=ヴィオレットでした! ごきげんよう~!」


〔ごきげんよう!〕

〔ごきげんよー!〕

〔ごき~!〕



「──ふぅ、メンバーの編成はこれで良いかな……?」


 コラボ配信を終えた日曜日の深夜──いや、既に日付は変わっているから正確にはもう月曜日か。

 まぁ、細かい事はどうでも良いとして、次回のコラボに誘うメンバーの組み合わせが確定した。

 得意な距離やリーダーシップ、索敵能力の高いメンバーも織り込み、能力的には中々バランスが良いのではないだろうかと思える良い配分だ。

 結果として個人勢が多くなってしまっているが、勝手な行動をとるような顔ぶれでもないし問題もなさそうだ。


「うぅーー~~……んっ……!」


 パキパキと小さな音を立てながら、凝り固まった筋肉を解すように背伸びをする。

 長い作業だった為、すっかり肩や背中が凝ってしまっていた。


(さて……余った時間は何をしようかな?)


 今しがた編成が決まったコラボの、更に次回のメンバーを決めるのも時間の使い方としては悪くないが、とっくに集中力も切れてしまっている。


(……折角だし、切り抜きの動画でも見ようかな)


 コラボ参加を希望する応募者もまだまだ増えているし、情報収集のついでに楽しんでも良いだろう。

 睡眠を必要としない魔族にとって、退屈な夜はあまりにも長過ぎるのだ。


(っと、その前に──【消音(サイレンス)】)


 面白い内容だと笑い声が漏れてしまうかも知れないので、寝ている『俺』の周囲に音の振動を遮断する魔法をかけておく。


「これで良しっと。さ、何から見ようかな~?」


 魔法がかかった事を確認した私は、まだ見ぬダイバー達の切り抜き動画を見漁りながら、長い長い夜を越したのだった。




 ──なお、翌朝。

 目覚まし時計の音が【消音】の所為で聞こえず起きれなかった『俺』に、以降サイレンスはベッド付近に使わないようにと注意されてしまった。いやぁ……今日が講義の無い月曜日で本当に良かった。

次回、作中時間が少し飛びます(何週間か大型コラボばかりになってしまうので……)

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― 新着の感想 ―
さて、この飛ばした大型コラボ配信中に何台カメラがお亡くなりになっちゃったんだろうか・・・?w
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