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第118話 日曜日の大型コラボ②

 探索を再開してしばらくの時間が経過した。

 前日とは異なるルートで下層を進み、魔物の群れを倒したり、トレジャーを発見したり、見かけた白樹の枝を伐採したりとここまで順調に探索を進めて来たのだが──


「──ヴィーオレーットちゃ~~ん!! 戦お~~!」

「ふぅ……まぁ、いつか来るとは思ってましたよ」

「もぉ~! 折角会えたのにテンション低くない?」


 下層の探索をするとほぼ確実に遭遇する事になるのが、このチヨと言う悪魔だ。

 まるで玄関前で友達を遊びに誘う小学生のようなノリで突っ込んでくるが、私はなんやかんやで彼女にカメラを三台破壊されている。

 それを思うとどうしたって溜め息の一つは出てしまうのは、仕方のない事だろう。


「戦うしかないのはもうこの際諦めるとして……皆さんが避難するまで少し待っていてくださいよ」

「はいは~い!」


 私が釘を刺すと、チヨは大人しく次々に一時退避していくダイバーへと視線を向ける。

 しかし最後まで彼等を見送ると言う訳でもなく、直ぐにそちらに対する興味を失ったように私の方へと視線を戻した。……どうやら今回のダイバーの中には、彼女の言う『見込みのある者』はいなかったようだ。

 今の内に私もドローンカメラをなるべく遠くへと避難させ、戦いの準備は整った。


「……さて、始めましょうか」

「うん!」




「──わ、わゎっ! っと……今日は随分と、積極的だね! ヴィオレットちゃん!」

「ええ、同じ戦い方では対策されてしまいますからね……! ──【螺旋刺突】!」

「ぅおっとぉ!?」


 チヨとの戦闘が始まってから、私は最初からフルスロットルで攻め続けていた。

 距離を取れば遠距離攻撃が可能なチヨが有利であるし、何より超広範囲を一度に攻撃できる重力魔法を躱す術がない。

 前回の様子からしてあの重力魔法に関しては流石のチヨも相当の集中力と詠唱を要するだろうと判断し、発動の妨害が出来る近距離での戦闘を継続する必要があると考えたのだ。


「これならどう!?」


 チヨの尻尾の先端が雷を纏い、槍の一突きのように繰り出されるが……


「一度見た技です!」


 その動きは既に知っている。尾を前方へ突き出す為に腰を僅かに捻る初動からその攻撃を見切っていた私は、距離を一層詰めてチヨの背後へと回り込む。そして──


「──【エンチャント・ダーク】!」

「ぐぅっ!?」


 チヨの背に向けて閃いた刃が、彼女の尾を半ばで切断した。


「……躱しましたか」

「あっぶないなぁ……今、翼狙ったでしょ?」

「また空に逃げられても面倒ですから──ねっ!」


 上手く背後を取ったつもりだったが、狙いを見透かされていたか……

 ローレルレイピアに闇の魔力を付与する一瞬を突いて、チヨは私から全力で距離を取ったのだ。その所為で私は急遽、狙いを尻尾へ変更せざるを得なくなった。本心では彼女の機動力の大元であり、私にとって特に厄介な翼を奪いたかったのだが……まぁ、外してしまったのは仕方ない。

 直ぐに意識を切り替えた私は、再びチヨへ向かって果敢に距離を詰める。

 あの重力魔法さえ封じてしまえば、負けは無いのだから。




「はぁ……はぁ……! あっはは……今日は随分と、良いようにやられちゃったなぁ……!」

「く……」


 数分後、空に浮かぶチヨは全身に傷を負い、特に左腕と尻尾は半ばで途切れていた。

 尻尾の再生を阻害している闇の魔力が消えない内に決着を付けようと猛攻を仕掛けたのだが、不利を悟ったチヨは左腕を犠牲にして作った一瞬を使って空へと逃げたのだ。

 あわよくばここで……と思ったのだが、やはり簡単にはいかないらしい。腕や脚が切り落とされても時間が経てば完全復活してしまう悪魔を本当の意味で倒すには、彼女達が撤退する事も出来ない状況に追い込むしかないのだろう。


「流石に悔しいなぁ……今度はこうは行かないからね!」

「……行きましたか」


 ふぅ……とため息を一つついて、退避させておいたドローンカメラを手元に戻す為の操作をする。

 彼女の相手はかなり疲れるが、一度相手をすれば丸一日は大人しくしていてくれるので、無理に追撃はしない。そもそも空中戦では分が悪いし。


(──彼女達のような悪魔を倒すなら、撤退を許さない状況を作るしかない、か……もしもそんな状況があるとすれば、恐らく彼女達の本拠地に攻め入った時くらいだろうな)


 彼女の軍服を思い返しながら、そんな事を考える。

 悪魔の本拠地か……一応、調べる方法が無い訳ではない。

 倒した後のチヨが飛び去る先は、今までの統計から考えて同じ座標を目指していると考えられるからだ。

 ……ただし、彼女の目指している場所との距離がこれまで戦ったどの場所からも離れている為、現状はそれでも大雑把な方位が解るのみだ。こういう時、下層の探索がまだまだ進んでいないのだと言う事を再確認させられるな……


「──さて、皆さん。配信を見ていた方は分かると思いますが、先ほど無事に戦闘は終わりました。今は安全なので、コラボ参加者の皆さんは戻って来てくださいね~!」


 今回は上手い事生き延びたドローンカメラに向けて戦闘が終わった事を告げると、地上へ避難していたダイバー達が次々に戻って来る。


「流石だったぜ、ヴィオレットチャン! もうロビーの皆と大盛り上がりよ!」

「チヨの相手は完全に慣れたって感じだよね~!」

「もう負けないんじゃね?」

「いえ、流石にそこまでは……」


 口々に賞賛の言葉を頂くが、実際チヨに対してもう負ける事が絶対に無いのかと言われるとそれは分からないと答える他ない。

 何せ……


(最近分かって来た事だけど……──チヨは()()()()()()()()()()()()()()()()()


 彼女の攻撃から殺気は感じる。ただし、奇妙な事に殺意は乗っていない。敵意や憎しみ、怒りと言った負の感情とあまりにもかけ離れているのだ。

 最初はチヨの性格の所為もあるのかと思っていたが、最近は……と言うか、以前チヨが口を滑らせかけた時から考えていた事がある。


(私と言う存在が、彼女達の目的に必要とされている……或いは、彼女達にとって重要な位置にある)


 正直、あまりにも不気味だと言わざるを得ない推測だ。

 何せ私がこの世界に来たのは数か月前……悪魔がいつから何らかの目的で動いていたのかは知らないが、一年やそこらという訳ではないだろう。

 まるで私がこの世界に来る事を知っていたような……私のここまでの活動が全て、誰かの掌の上であるかのような……そんな言い知れぬ不安が心の片隅に常にあるのだ。


「ヴィオレットさん? 大丈夫ですか?」

「っ、と……はい、大丈夫ですよ。ちょっと考え事を……では探索の続きに戻りましょうか」


 考えすぎであればいいが……と、不安を疑問ごと胸にしまい込み、私達は探索を再開した。

 ──その後は特に語れるような大きなトラブルも無くコラボ配信は進んでいった。


「お……? ゴブリンだ」

「近くにゴブリンキングの国があるのかもしれません。周囲に気を配りながら、迂回しましょう」


 数体のチームでうろつくゴブリンは念の為に接敵を回避し、


「ナイッシュー! また腕上げたなぁ、タジリィ!」

「ああ、レベルアップのおかげもあるけどな。ただ、矢が少し心許なくなってきたな……」

「でしたら、これを。以前ゴブリンの国で拾い集めた矢束です。今日のコラボを見越して多めに集めておいたので、まだまだありますよ」

「マジか! ヴィオレットチャンマジ女神!」


 矢が少なくなったと解れば、前日に回収していた矢を分けた。


「キーーッ!」

「ひっ!?」

「そこ!」

「キョァッ!?」

「あ、危なかった……フォロー助かりました!」

「気にしなくて良いっての! そっちも俺がヤバい時は頼むぜ!」

「は、はい!」


 レイドバルチャーの奇襲を受けた個人勢ダイバーをアーチャーがフォローしたり、探索の過程で弓に対する偏見も大分なくなって来たように思う。

 ……まぁ、これはまだこのコラボに参加したダイバーや、配信を見ているリスナーだけだろうけど、これから先この認識が広く伝わっていくことには結構期待できるかもしれない。

 何せ、大型コラボと言う事もあって今回の配信の同接数は100万人を超えている。アーカイブで見てくれる人も数えると、凝り固まった世間の評判に一石を投じるには十分な注目を集められたことだろう。


「……っと、そろそろ時間ですね。キリの良いところで配信終了の準備に移りますか」


 大型コラボ二日目の配信も、そろそろ終わりの時間が迫って来た。

 配信中に流れてきたコメントを見る限り、どうやら今回のコラボも概ね成功と言って良さそうだ。


次回は配信終了の挨拶+αなので、実質探索は今回で終わりです

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― 新着の感想 ―
 祝! ドローン初生還。
殺しちゃダメって言われてますかね、チヨ。引率も終わり、自身の研鑽も積まないといけませんね。敵は待ってくれないから。
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