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第110話 大型コラボ配信⑮

「──【豪剣両断】ッ!」

「ギヒィッ!?」


 【エンチャント・ヒート】とスキルの補助を受けた俺の剣が炎を纏い、振り下ろしの一撃が盾にと掲げられた白樹製の棍棒ごと目の前のゴブリンを叩き切る。

 ゴブリン一体にわざわざスキルを使うなんてあまりにも勿体ないが、それでも今は少しでも早くゴブリンの数を減らすのが先決だ。一撃を防がれて時間をかけさせられるような事は避けたい。


「ソーマ先輩! 大丈夫ッスか!?」

「ああ、まだまだ行ける!」


 後輩系ダイバーを自称する高野恋が身の丈程もある戦斧を豪快に振り回し、その重量と斧が纏う風の刃を活かした猛攻でゴブリンに反撃の隙を与えずに一方的に屠っていく。

 彼女のようなパワーファイターにとって木製の棍棒程度では盾にもならない為、こういう状況では特に頼もしく感じる。


「しかし、本当にキリが無いな……」

「だな……火羅↑age↑の魔力が回復して少しは戦いやすくなったが、この数は精神的にキツいぜ……」


 誰に発した訳でもない俺の呟きに、たまたま近くに来ていたダイバーが答える。

 彼の言うように、見渡す限りのゴブリンと言う光景が放つプレッシャーは並々ならぬ物がある。何せ少しでも怯めば、後はそのまま波に飲まれるように圧し潰されてしまう猛攻の連続だ。

 既に数人の近接ジョブダイバーが危機に瀕して撤退したと、コメントが教えてくれた。幸いどのダイバーも判断が早かった為に大事には至っていないようだが、次は我が身かと言う緊張感が撤退の報告を見る度に増してゆくのを感じていた。そんな時だった。


 ──ガアアァァァーーーーッ!!


「ギッ!?」

「ギャギィ……ッ!?」


 遠くからゴブリンの物と思しき断末魔が響いた瞬間、俺達が相手にしていたゴブリン達全ての注意が一瞬だけ声のした方へと向く。

 ゴブリンの断末魔や雄たけびの絶えないこの戦場でそれ程の反応……声の主が、余程の大物だったと考えるのが妥当だろう。


「──おい、今の声ってもしかして……!」

「ああ……多分、ヴィオレット(アイツ)がやってくれたんだ」


 これは大きなチャンスだ。

 ゴブリン達の間に動揺が走っている今の内に──


「攻めろォーーーッ!」

「オオォーーーッ!!」


 Katsu-首領-の声が響き、ダイバー達が一斉に猛攻を開始する。

 ダイバー達の気迫の前にゴブリン達は怯み、形勢は一気にこちらに傾いた。


「よし……! 行けるぞ! このままゴブリン共を全滅させてやろうぜ!」


 広場で貯めさせられた鬱憤を、ここで一気に晴らそうと言わんばかりにゴブリン達を蹂躙するダイバー達。

 彼等に充てられてか、珍しく俺もテンションが上がっていくのを心のどこかで感じていた。

 未だ戻って来ていない辺り、ヴィオレットも向こうで戦っているに違いない。だったら俺ももっと頑張らないとな……そう気合を入れた瞬間。


 ──ドォォン!


 「っ、なんだ!?」


 空気を揺らす爆発音とともに、遠くに巨大な火柱が上がった。あの方向は──


(ヴィオレットの向かった方向……!?)

「おいおい、張り切ってるなぁヴィオレットさん。あんな隠し玉まで持ってたのか……!」

「いや……アイツにあんな魔法は使えない筈……」


 正確には『使えない』のではなく『使わない』のだが……少なくとも、配信に乗る状況では同じことだ。

 アイツのダイバーとしての方針は既に、『エンチャントとスキルを組み合わせて戦う』と言う方向性で完成している。

 そんなアイツがここに来て攻撃魔法を解禁。当然不可能ではないだろうが……


(──ありえない……と、言わざるを得ないな)

「一体何が起きているんだ……?」



「──【ラッシュピアッサー】! ハァァッ!!」


 一対多と言う状況に対抗する為にスキルの補助も借りつつ、着実にゴブリン達に致命の一撃を突き入れていく。

 元々軍の最後方付近で戦っていたらしい私の周囲からは、少しずつゴブリン達の数が減ってきており、今やゴブリン達の間にも人一人が通れる程度の隙間が空くほどになっていた。


(とは言っても、攻撃の手が緩まない以上もうちょっと数を減らしておいた方が安全か……)


 何せエンチャントの為に一度踵に左手を添える必要がある以上、初動が非常にバレやすい。

 私の逃走を良しとしないゴブリンがそんな隙を見逃してくれる訳も無い為、こちらの狙いがバレたとしても対処できない程度の隙を作らなければ、私はこの場を去る事が出来ないのだ。


(こうなってくると、広場の方に【マーキング】を移しておくべきだったな……)


 正直あの時点でそこまで気が回らなかった自分に呆れるが、今更それをどうこうと考えたところで意味は無い。

 今できる事をしなければ、とローレルレイピアを構えたその時……


 ──ドォォン!


「っ!? 何ですか、今の音!?」


 突如として後方から響く轟音と光に振り返ると、視線の先、はるか遠くに巨大な火柱が立っていた。


「あの炎は一体……──まさか……っ!」


 下層の天井の一部をうっすらと赤く色付かせる規模の火炎と、そこから感じる強い魔力……この時点で嫌な予感はあったが、しかしこんな光景を前に無視はできない。


(! しまった、ついゴブリン達から目を離して……?)


 素早く周囲の様子を伺えば、先ほどまでの戦いで既に大分数を減らしていたゴブリン達の大半があの火柱を見つめているのが見えた。

 その眼はどこか神聖な物を見るようにうっとりとしており……正直、かなり不気味だ。


(だけど、ゴブリン達の数は減ってきているし、距離も程よく開いている……これなら!)

「──【エンチャント・ゲイル】! ハァッ!!」


 妙な状況ではあるが、この隙を利用しない手は無い。

 素早くグリーヴの踵部分を左手で撫でると、私の両足を風が包む。そして直後に跳躍し、更に空気を何度も蹴ってより高く飛翔する。


(良し、ここまで高く跳べば十分見えるだろう! 火柱が上がった場所は……──っ、アレは!)


 私が視線を向けた先に広がっていたのは、要塞がある森を出て直ぐに広がる荒野を埋め尽くすゴブリンの大軍だ。

 数万は居るだろうその群衆は、良く見れば敵対する二つの勢力があるのが良く分かる。

 先程の火柱が上がったと思しき場所の地面には赤熱する大穴が開いており、ゴブリンの勢力はまさにそこを境にして二分されているようだ。

 そしてその大穴の傍で森を背に佇むのは、未だに熱の冷めない地面に赤く照らし出され、一際大きな存在感を放つ一つの人影。

 ……いや、長身にバランス良く筋肉を配置した立ち姿は、確かに人に良く似てはいるが別の存在だ。額から突き出た二本の角と、頭上から生えた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、その正体を物語っていた。


「ゴブリンキング……!」


 火柱を生み出したのは間違いなくアイツだ。

 人間と同等以上の知性を有すると言われるゴブリンキングは高い生命力や膂力に加え、当然のように強力な魔法も扱う……あの火柱に込められた魔力の量からしてもしやとは思ったが、やはりゴブリンキングの物だったのだ。

 そして同時に理解する。

 どうして私達に向かって来たの最高戦力が()()()()()()()()()()()()()だったのか。


(要塞の主要戦力は、最初からこっちに集中していたんだ……!)


 どのタイミングで彼らが戦争をしていたのかは分からないが、私達が相手をしていたのは要塞を守るために置かれただけの、言うなれば『お留守番』だ。

 あそこに展開されている勢力が要塞の本隊……そして、ゴブリンキングに敵対する勢力が撤退を始めた事から察するに、まさに今しがたゴブリンキングは敵勢力のトップを仕留めたところだと推測できる。


(──な……ッ!?)


 その瞬間、全身に走った悪寒。……──ゴブリンキングの眼が私に向けられていた。

 『次は貴様だ』と言わんばかりの強烈な殺気と、魔力の波動。……私達が要塞に攻め込んだ事を、何らかの方法で知ったのだろうと直ぐに理解した。


「く……っ! 流石にこれはマズい!」


 急いで踵を返し、ダイバー達の待つ広場へと急ぐ。

 彼らはただでさえ度重なる連戦で疲労が溜まっているのだ。今の彼等にゴブリンキングの率いる軍の相手は……いや、例え万全の準備が整っていたとしても、今の彼等では到底勝ち目は無い。


(──撤退だ! もはや一刻の猶予もない!)


 ゴブリンキング達は要塞の構造を熟知している。

 要塞に到着すれば、彼らは迷う事無く広場へと向かうだろう。私達が相手にしているのは斥候まで居る大部隊だ、ダイバー達の現在地の情報がキングに行ってないと考えるのは楽観的すぎる。


「っ、皆さん!」

「ん? おお、ヴィオレットさん、無事でよかった! こっちも今は大分落ち着いて──」


 広場の様子が見えたので、声を張って呼びかける。

 どうやらこちらの戦いはかなり有利に進められているようで、ゴブリンの数は未だに多いものの状況としては余裕に溢れていると言った様子だった。

 その事に先ずは一安心しながらも、私は直ぐに肝心な事実のみを伝える為に、私の声に応じたダイバーの声を遮って叫んだ。


「皆さん、急いで撤退の準備を! ゴブリンキングがこちらに向かっていますッ!!」

「な……ッ!?」

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― 新着の感想 ―
撤退一択。逃がしてくれる訳もないが、どうにか脱出せねばならない。
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