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第108話 大型コラボ配信⑬

「──あの魔法のリスクについて、知った上での判断なんですか?」

「勿論だ。だが、事前準備にかかる時間を考えれば、この()()()()()()()()()を活かせるタイミングはここしかない」


 私がゴブリンの掃討を終えて広場へと舞い戻ると、Katsu-首領-と百合原咲のそんな声が聞こえてきた。

 どうやら作戦について何らかの意見を交わしているようだが……


「……兄さん、あの二人は一体何の話をしているんですか?」

「ん? ああ……百合原さんの持っている魔法に【ガイザーカノン】ってのがあるんだがな──」


 『俺』から聞いた話によると、件の魔法【ガイザーカノン】とは、周囲一帯の水分全てを凝縮して放つ強力な水魔法らしい。

 魔力も多大に込められた水圧レーザーとも呼べる一撃は凄まじく、大抵の魔物は一瞬で倒せるそうなのだが、その分チャージに時間を取られ、乱戦になってからでは使用が難しいのだと言う。加えて、威力の代償として使用者の魔力を大きく持って行かれるだけでなく、更に()()()()()()()()()()0()()()()()()()()らしい。

 水魔法は炎や雷と言った純粋なエネルギーを扱う魔法とは異なり、水と言う物質を媒介とした魔法である。つまり、空気中の水分全てを放つ【ガイザーカノン】を使用した後、その周辺では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……と言う事になるのだ。


「ん、ヴィオレットさんが戻って来たな。……どうする、百合原さん。【ガイザーカノン】を使ってくれるのなら、今ここで決めて欲しい。チャージの時間を考えれば、ここがギリギリだ」


 私が広場に戻って来た事に気付いたKatsu-首領-が、百合原咲へ決断を迫る。

 ここに来る途中にゴブリン達の進軍具合を確認してきたが、確かに彼の言う通り準備に充てられる時間がいよいよ短くなってきている。

 Katsu-首領-の真摯な眼差しを受け、百合原咲が下した決断は──


「……そうですね、わかりました。準備に入ります──【クラスターミスト】」

「! 感謝する!」


 Katsu-首領-の作戦に了承した百合原咲の魔法により、周囲に薄く霧が立ち込める。

 この魔法で空気中の水分を霧の大きさにまで纏める事で、【ガイザーカノン】のチャージ時間を短縮すると言う小技だ。

 そして彼女の決断に感謝し、Katsu-首領-はこの場の全員に指示を出した。


「早速全員でこのバリケードを取っ払うぞ! こんな物があっても、ゴブリンコマンダーの突進は止められん!」

「おおー!」


 彼の言う通り、ゴブリンコマンダーの膂力はアークミノタウロスに並ぶ程度はある。

 そんな敵に対して、木箱を積み上げただけのバリケードはまるで役には立たない。寧ろ私達にとって邪魔なものでしかないのだ。

 因みに木箱の撤去に関して、それほど時間はかからない。と言うのも……


「──【ストレージ】!」


 木箱の中身ごと腕輪に収納していけば済む話だからだ。

 木箱は白樹製で、中身の矢も同様。彼等にとって価値のあるものである事に変わりない為、一石二鳥の作戦という訳だ。

 ……そして、程なくして幾重にも連なった木箱のバリケードは撤去され、同時に百合原咲が宣言する。


「──【ガイザーカノン】、チャージ開始します!」

「総員、射線から離れろ!」


 Katsu-首領-の指示で道が開けられ、ダイバー達が固唾をのんで霧の奥へと続く通路に視線を向ける。

 天に祈るように頭上へ掲げられた百合原咲の槍の先に【サテライト・ウォーター】で生み出された水球が鎮座し、周囲の霧を吸い込んでその大きさを増していく。

 それに伴い霧が晴れて行き──通路の奥からここへ迫るゴブリンの大軍が、この場にいる全員の眼にも確認できた。

 特に軍を率いるコマンダーは、その体格からして他のゴブリンの比較にならない気配を放っている。

 身長は2m弱、筋骨隆々とした体躯はアークミノタウロスに引けを取らぬ威容を誇り、その眼には明確な知性を宿している。

 よく小柄で知性の無いゴブリンを『小鬼』と形容するが、あそこまで行くと本当に同じ種族の延長線上にある個体なのかと疑問を抱かずにはいられない程だ。


「ちょ……っ! 聞いてはいたが、流石に多くないか!?」

「先頭に立ってるあのデカいのがゴブリンコマンダーか……実際に見るのは初めてだ」

「チーフも複数体引き連れてるな。一体一体は雑魚だが、アレだけいると事故りかねないかも……」


 ゴクリ、と誰かが息を飲む。

 見たところゴブリン達の装備は全て白樹から削り出した棍棒らしいが、その側面には意図的に作られた突起物が並んでおり、レベルアップを重ねたダイバーにとっても十分凶器たりえる代物だ。

 金属製の鎧や盾越しであれば問題無くとも、防具を身につけていない部位に食らえば最悪の事態もあり得る。

 特にコマンダーが肩に担ぐそれは樹の幹からそのまま削り出したのかと言いたくなるほど巨大で、ずらりと棘の連なる姿はさながら狼牙棒のようだ。

 あんなものをまともに受ければ、金属製の防具すらひしゃげてしまうだろう。


「心配すんな! 即死しなけりゃあ俺が治してやるからよ!」

「天賦羅……!」

「そうだったな、こっちには飯テロリストの殴りヒーラーが居るんだ……頭部さえ守ってりゃ何とかなる!」


 そう言って自らを奮い立たせるダイバー達だが、やはりあのコマンダーを目の当たりにしてしまうと不安は抜けきらないようだ。


(もう少し、自信をつけさせた方が良いかな……)

「皆さん、武器をこちらに。ご希望の属性を付与します」


 正直なところ、エンチャントの効果時間を考えればもう少し待った方が良いんだが、少し早めにエンチャントする事で士気が充実するのならばそれも悪くはないだろう。


「頼む! 俺は炎で」

「闇を」

「炎属性!」

「慌てなくとも皆さんちゃんと付与しますから、順番にお願いしますね」


 ちょっとした思いつきだったが、効果はあったようだ。属性を纏う武器を握るダイバーからは、僅かながら不安の色が薄くなったように感じる。

 当然ながら、こうして私達が準備を進めている間も、通路の奥の方からはゴブリンコマンダーの軍が迫っている。

 どうやらバリケードが撤去されたのを確認し、脚を速めたようだが……その速度は下級のゴブリンの速度に合わせているようだ。


「能力に差がある混成部隊が全員全力で駆けだせば、速度の違いで戦力が分散される……それを避ける為か……」

「やはり、奴らは自分たちの武器が数である事を知っているな……油断ならない相手だ」


 慧火-Fly-とKatsu-首領-がゴブリン達の狙いを分析する。

 確かに数で圧してくるゴブリン達は脅威だが、そのおかげで私達に準備の時間を与えている事も事実……ゴブリン達はこちらが逃げないと高を括っているのか、それとも逃げるなら逃げるで問題ないと言う判断なのか。


(数で威圧して撤退させる作戦だった……と言う事もあり得るか?)


 いずれにせよ、そのおかげでこちらの準備は万全に整えられた。


「良し、全員エンチャントが終わりました! 後は百合原さんだけですが……っ!?」


 振り向いた先の光景に、思わず反応が遅れた。


「私のエンチャントはこれを撃った後でお願いします! ──チャージ完了しました! いつでも撃てます!」


 そこにあったのは、直径5m程の巨大な水球を頭上に浮かせた百合原咲の姿だ。

 頭上へ掲げていた槍をまるで照準をつけるように正面に向けており、その両足はしっかりと地を踏みしめるように開かれている。


「各自、【ガイザーカノン】発射後の交戦に備えてくれ! ……よし、撃てーーーッ!!」

「【ガイザーカノン】──発射!」


 百合原咲の声を合図に、巨大な水球が一瞬圧縮されたかと思った次の瞬間……『ドォン!』と空気が爆発したかのような音と共に、それは凄まじい速度で以て発射された。


「──ッ! グォ……ッ!?」


 水球は咄嗟にコマンダーの盾になろうとしたゴブリン数体を瞬時に塵に変え、勢いを衰えさせずにコマンダーへと着弾。

 圧縮されていた水圧が解放され、周辺のゴブリン達を大量に巻き込んで炸裂した。


「直撃ッス! コマンダーも倒せたんじゃないッスか!?」

「いや、防御された! 大ダメージは与えられただろうが、倒し切れてはいない! 再生の時間を与えずに押し切るぞ!」

「おおーッ!!」


 Katsu-首領-の言う通り、コマンダーは【ガイザーカノン】が直撃する寸前に両腕を盾に急所を守っていた。

 水球の炸裂で両腕は吹き飛んでいたようだが、その巨体は塵に還る事無く後方へと吹っ飛んだだけに過ぎない。……だが、今はこれで良い。

 コマンダーと雑魚の群れの分断こそ、この初撃の狙いなのだ。コマンダーが前線に戻ってこない今の内に、なるべく多くのゴブリンを倒す事がこの作戦の成否を分ける。


「──【クレセント・アフターグロウ】!」

「ギィィ!」

「グギャア!」


 ダイバー達がゴブリン達と接敵する前に、クリムの一撃がゴブリンの群れに放たれるが……


「効果が薄い! 魔力消費を抑える為に、その技はここぞと言う時に取っておいてくれ!」

「っ、はい!」


 ゴブリン達が肉盾となって、せいぜい数体を巻き込むのがやっと……あのスキルに使用する魔力を考えると、あまりにも非効率的だと言わざるを得ない。


「火羅↑age↑、露払いを頼む!」

「うん! 任せて! ──【フレア・ガトリング】!」

「アンギャァ!」

「オゴォァッ!」


 Katsu-首領-の指示で、『待ってました』と言わんばかりに再び斉射を開始する火羅↑age↑。

 逃げ場のない通路に容赦なく降り注ぐ無数の炎弾が、ゴブリン達を次々に燃やしていく。

 ゴブリン達とダイバーが激突すれば、この戦法は使えない。まだ距離がある内に、この斉射で出来る限りの数を仕留めるつもりなのだろう。


「おいおい……これ、火羅↑age↑だけで倒し切れるんじゃないか……?」

「いや……今の火羅↑age↑の魔力量では、例え魔力が万全の状態でもこの数を倒し切るのは無理だ。俺達が戦う時は必ず来る……備えてくれ」

「お、おう……!」


 ……Katsu-首領-が断言したその『時』は、私達が思うよりも早く訪れた。


「はぁ……っ! はぁ……っ! も、もう少し……」

「そこまでだ、火羅↑age↑! よくやってくれた!」

「ぅ、うん……!」


 息も荒く、疲れ切ってふらつく火羅↑age↑を、Katsu-首領-が休ませる。

 魔力をかなり消耗しているが、Katsu-首領-が魔力回復促進用のポーションを手渡しているのが見えた為、彼の事は問題無いだろう。

 そして、遠距離攻撃の手段が無くなったと言う事は──


「ここからは白兵戦だ! 各自武器を持って、ゴブリン共を掃討するぞ!」

「うおおーーーッ!!」


 私のエンチャントにより様々な属性を纏った武器を手に、ダイバー達が駆け出す。これから数秒と立たずして、彼らはゴブリンと激突するだろう。

 当然ここからは私も戦闘に加わるのだが、その前に──


「──【エンチャント・サンダー】……はい、これで付与は完了です」

「ありがとうございます、ヴィオレットさん」


 と、雷属性を付与した槍を手に戦列に加わる百合原咲を見送りながら、数を減らした今も通路の奥へと長く伸びるゴブリンの行列の後方へと視線を送る。


(この辺のゴブリン達はキングの影響で強くなっているが、彼等なら大丈夫だろう。……問題は、後方に吹っ飛んだコマンダーだな)


 下級のゴブリン達がキングの恩恵を受けて強化されているように、コマンダーも当然強化されている。

 ゴブリンコマンダーの単体の能力値はアークミノタウロスより若干弱い程度だが、キングの影響下にあるコマンダーはその能力値が格段に向上する。乱戦状態で接敵すれば、他のダイバー達には荷が重いだろう。……上空や通路の外を跳んで行ける私にしか出来ない仕事でもある。


「やはり、コマンダーは私が相手をすることにしましょうか。──【エンチャント・ゲイル】!」


 美味しい所を持って行くようで若干気は引けるが、皆の安全には変えられない。

 私は広場の地面を跳び出し、こちらを指さして何かを叫ぶゴブリン達を無視しながら、一人要塞の奥へと向かうのだった。

 



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― 新着の感想 ―
コマンダーも来ちゃうと彼らでは押さえられんでしょうからね。後は倒せるかですか。倒さないと学習されちゃいそうですね。
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