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第107話 大型コラボ配信⑫

前話の前書きにも追記しましたが、追記前に前話を読了してくださった読者様もいらっしゃいますので念のために改めて修正の報告です。

先日、作者の知識不足で発生していた過去話のミスを全て修正しました。

具体的にはチーフとコマンダーの階級の上下を勘違いしておりましたので、名称の入れ替え修正を行いました(チーフの方が上だと思ってた)

チーフ&コマンダー「「逆だったかも知れねェ…」」

そう言う訳なのでヴィオレットが浅層や上層で戦ったのはゴブリンコマンダーではなくゴブリンチーフとなり、ここ数話で新しく登場していたゴブリンチーフはゴブリンコマンダーとなります。

変更となるのは名前だけで内容に変化はない為、読み返す必要はありません。少々混乱させることもあるかと思いますが、よろしくお願いします。

「──何!? ゴブリンの軍隊が迫っている!?」


 慌てたように広場へと戻って来たヴィオレットからの報告に、Katsu-首領-は目を見開いた。


「はい、先程ゴブリンスカウターの対処中に確認しました。率いているのは、チーフよりも大柄な個体です」

「チーフよりも大柄……コマンダーか!」


 ヴィオレットの伝えた特徴から彼らの元へと向かっている軍の指揮者を予想したKatsu-首領-は、傍にいた慧火-Fly-へとアイコンタクトを送る。


「確認してくる」

「頼んだ。……慧火-Fly-が確認を済ませて戻って来るまでの間に、敵のおおよその規模を教えてくれないか」


 そう言ってほぼ垂直に詰まれた木箱のバリケードを器用に昇る慧火-Fly-を見送り、Katsu-首領-はヴィオレットへと再び視線を戻すと引き続き彼女の見た光景に関する情報を求めた。


「はい。先ず、リーダー格のゴブリンの傍に複数体のチーフがいるのは確認しました。全体的な規模に関しては──」


 Katsu-首領-の要求に応え、ヴィオレットが自身の見た軍の情報を伝えていると……やがて確認を終えた慧火-Fly-が木箱の上から彼女達の傍に飛び降り、彼女の情報を肯定する。


Katsu-首領-(ドン)……確認してきたが、間違いなくコマンダー率いる大隊だ。数は1,000にはいかないと思うが、こんな状況にあの規模で攻められたら一溜りもない」

「……そうか。分かった」

「撤退しますか?」


 慧火-Fly-が齎した情報を聞き、考え込むように瞑目したKatsu-首領-に対し、ヴィオレットが確認する。

 撤退するとなれば、行動を起こすのは早いに越した事は無い。直ぐにでも他のダイバー達にも状況の詳細を伝え、安全な内に地上へと戻る……それが彼女の考える中では最も安全な動きだからだ。


「……撤退は当然、視野に入れます。ですが、俺は逃げる時は最善を尽くした後と決めているので、その信条だけは貫こうかと」

「俺もドンさんと同じ感じだな。引き際を見極めるのも俺の役目だ……そんで、それは今じゃない」

「他のダイバーさん達に関しては、どうするつもりで?」


 撤退の判断は自分の信条に従う……それ自体はヴィオレットも否定しない。それが彼等のこれまでのやり方であり、だからこそのノウハウが彼等の中にはあるからだ。

 しかし、『そうでないダイバーを巻き込む事は出来ない』。そう告げるように、ヴィオレットの眼が僅かに鋭く細められる。

 そんな彼女の責めるような問いかけに、Katsu-首領-は憚る事無く答えた。


「勿論、撤退したいと言う各自の判断を責めるつもりはありませんし、止める事もしません。状況を正確に伝え、彼らの判断に委ねます」

「そうですか……わかりました。では、貴方は直ぐにでもこの事を皆さんに伝えてください。私はその間に周囲のゴブリンを掃討してきます」

「! それは、つまり……」

「はい。ここからは私も積極的に戦闘に加わります。……構いませんね?」


 ここまでヴィオレットは、他のダイバー達に『下層の戦いを経験させる』と言う目的を優先していた為に、積極的に戦う事はしてこなかった。だが、今は緊急事態であり優先順位は切り替わっている。

 話を聞く状況を整える為に、そして何よりも撤退の邪魔となるゴブリンを迅速に始末するのが最適だと判断したのだ。


「いえ、寧ろこちらから頼み込もうと思っていたところでしたから、感謝します」

「存分に頼ってくれないと困りますよ。これも下層を案内する責任の一つですからね」


 そう言ってヴィオレットは風を纏わせた靴で空中に跳び出す……その前に、彼女の『兄』の元へと向かって一言だけメッセージを残した。


「兄さん。もしも無理だと判断したら、遠慮なく撤退してくださいね」

「え? おい、いきなり何を──……って、行っちまった。……何だったんだ、一体?」



「ふー……少し、疲れてきたわね……」

「! 大丈夫ッスか、咲先輩! ポーション飲むッスか!?」


 【サテライト・ウォーター】でゴブリン達の斉射を受け止め始めてから、どれ程の時間が経ったのだろう。

 魔法の維持と操作の為に消耗する魔力がそろそろ無視できなくなってきた私の口から、つい弱音が飛び出してしまい、恋に心配をかけてしまったらしい。『以前はもう少し根性があったのにな』と内心反省しつつも、彼女の厚意には与る事にする。

 変に強がって、魔法の維持が覚束なくなったらそれこそ大問題だからだ。


「そうね、いただくわ。……悪いんだけど、飲ませてくれる? 目が離せないの」

「わかったッス! フレーバーは『爽やかピーチ』で良かったッスか?」

「ええ。お願い」


 こうして話している間も飛んでくる矢の雨に視線を向けていると、やがてスッと口元に当たったストローの感触に吸い付きポーションを一口含むと、私の好きな味わいが口の中に充満する。

 今から数年前、中学生や高校生のダイバーも珍しくないこの時代、味が不味いからと言う理由でポーションを控えるダイバーが問題視された事があった。

 そこで飲料水メーカーの協力の元で開発されたのが、このジュースの感覚で気軽に飲む事が出来るポーションなのだが……これが協会やメーカーの想定以上の効果があったのだ。


(精神をすり減らすダンジョン探索での、ちょっとした癒しよね……)


 ストレスによる判断の低下や行動の単純化を軽減させ、結果的に魔法使い系ジョブの視野を広げてくれたのだ。

 今では『苦くないと効果がある気がしない』と言う一部のダイバーを除いて、このポーションが魔法使い系ジョブの必需品となっている。……まぁ、数万円と言う値段に見合う程の味かと言われると微妙なのだが。


「……ぷはっ。ありがとう、恋。もう良いわ」

「はいッス!」


 私が飲み終えた事を伝えると、空になったポーションの瓶が口元から離された。

 魔力も気力も充実した事で精神的な余裕も若干復活し、もうひと頑張りするかと気合を込めた瞬間……矢の雨が急にその数を減らしていくのが分かった。


「急に攻撃が……一体何が……?」

「え? ──さ、咲先輩! アレ、見るッス!」

「?」


 すっかりゴブリンからの攻撃が止み、どうしたのかと首を傾げる私の肩を恋がパンパンと叩く。

 そして、彼女が指差している方へ視線を向けると……その先では、一人のダイバーが細剣一本でゴブリンの軍を蹂躙している光景が繰り広げられていた。


(アレは、ヴィオレットさん!? 一体何を……!?)


 確か彼女は今回のコラボ中、サポートに回ると宣言していた筈……


(──いや、もしや彼女がその宣言を翻さなければならない何かが起きたのでは……?)


 とにかく、ゴブリン達はヴィオレットさんの相手に手一杯で、こちらに矢を射かける余裕も失っているようだ。

 何か起きたのであれば、今の内に状況の把握に努めなければ……


「悪い、今良いか? 百合原咲さん」

「? 貴方は天賦羅(テンプラ)さん、でしたね。何かありましたか?」


 一見やんちゃな高校生のような風貌の男性ダイバーに声をかけられ、振り返る。

 彼は確か……と言うか、あからさまな名前が示しているように、『飯テロリスト』のダイバーだったか。

 外見に見合わずどこか乱暴な口調と、手に持っている鋼鉄製のメイスはあからさまな不良男子高校生といった感じだが、このコラボに参加できている事からも分かるように素行は決して悪くなく、信頼できるダイバーの一人だ。

 そんな彼が申し訳なさそうに頭を掻きながら、こう告げた。


「ウチのリーダーが、ここにいる全員に伝える事があるらしい。ゴブリンどもはヴィオレットさんに任せて、一旦集まってくれってよ」

「……なるほど、解りました。恋、行きましょう」

「え、良いんっスか? ヴィオレットさん、まだ向こうにいますけど……」

「少なくとも、ヴィオレットさんはこの話の事は先に聞いているのでしょう。だから彼女が動いた……余程の事があったとしか考えられません」


 察するに、Katsu-首領-さんの伝えたい事もそれなのだろう。

 申し訳なさそうにヴィオレットさんの方を見る恋の手を引いて、広場の一角……まるでバリケードのように行く手を塞ぐ木箱の壁の前に行くと、既に私達以外のダイバーは集まっていた。


「……よし、全員揃ったな。先ずは、俺の言う事実を落ち着いて受け止めて欲しい。実は──」




 そして、衝撃の現実が私達に突きつけられた。


「ゴブリンコマンダーの軍……!?」

「大隊規模って……こんな場所で戦えってのか!?」


 たちどころに動揺が広がる。

 無理もない。圧倒的な物量の差を相手に、何も備えが出来ていないような状態で戦えばどうなるかなんて、火を見るよりも明らかだ。

 そんな彼らに、Katsu-首領-さんは改めて「落ち着いて聞いてくれ」と宥めた後、こう続けた。


「撤退したいと言う者を止めるつもりはない。君達それぞれの判断を尊重する。だから、無理だと思う者は遠慮する事無く撤退してくれ。だが、『撤退する前にやれるだけやってみたい』と思っている者は俺達と共に戦って欲しい! 勿論、その場合でも撤退したくなったら各自の判断で撤退してくれて一向に構わない! 俺もそのつもりだからだ!」

「偉そうに言う事かよ……」

「──ぷっ……!」

「ふふっ、確かに……!」


 合いの手を入れるようにぼそっと呟いた天賦羅さんの一言が小さな笑いを生み、場の空気が少し軽くなったのを感じる。

 その様子を私と同様に感じ取ったのか、Katsu-首領-さんは静かな口調で最後に語り掛けた。


「選択は君達に委ねるが、なるべく決断は早めに頼む。その方が残る俺達もやり易いからな」


 そして、彼はその言葉を最後に判断を私達に委ねた。




「──残ったのは、12人か。思ったよりも多い……これなら、十分勝ちを狙えそうだ」


 Katsu-首領-が広場に残った面々を見回す。

 どうやら『飯テロリスト』のクランメンバーは4人全員が残ったようだ。私達『ラウンズ』からは私と恋の二人だけ。

 他に残っているのは個人勢だが、その大半が近接系のアタッカーのようだ。

 最後の方で一方的にゴブリンから攻撃され続けたまま終わるのは、心が納得できないのかもしれないな。彼らが引き際を間違えないかが心配だ。

 だが、頼りになるダイバーも残ってくれている。


「あいつが言ってたのはこういう事か……ったく、何で残っちまったかな。俺……」

「お? どうした、ソーマ。撤退するなら今の内だぞ?」

「……いや、やっぱり何か『今すぐ撤退』って気にはどうしてもなれないわ。もうちょっと冷静な人間のつもりだったんだがな……」

「ははっ! まぁ、そういうもんだ! 兄貴ってのは『妹』の前じゃカッコつけたくなるんだよ!」

「そう言うんじゃ……! いや、まぁそう言う事にしといてくれ……」

「ん? ……おう!」


 あそこで頭を抱えているのはソーマくんだ。

 彼には以前、私の傷痕の事で助けて貰った事があるが、その際に私の動きを見て貰った時の彼の指摘は的確だった。

 はるちゃんも彼については『弱気なところさえ直せばすぐ成長しそう』と高評価だったし、密かに期待している部分もある。


「やるからには当然、勝つ気で行きましょう! 全力で!」


 そして言わずもがな、クリムさんの存在は大きい。

 ゴブリンの作った通路は、幅が広いところでもせいぜい4m程度。彼女の【クレセント・アフターグロウ】なら通路を丸ごと攻撃できるため、ゴブリンの戦力を大幅に削れるだろう。


「まぁ、多少の傷なら俺が後でちゃんと治してやるからよ。傷が浅い内にしっかり撤退しろよな」


 そう言って注意を促しているのは、先ほど私達を呼びに来た『飯テロリスト』のダイバーである天賦羅さんだ。

 彼の発言で分かる通り、ああ見えても彼のジョブは『僧侶』……バリバリのヒーラーだ。

 その癖自身も二本のメイスを武器に前線で積極的に戦えるインファイターであり、純粋な戦力としても申し分ない。

 他にも遠距離からの魔法で頼りになる火羅↑age↑さんや、堅実な戦いが得意な闇乃トバリさん等、クランの内外問わず頼もしいメンバーが揃っている。


「……うむ。このメンバーなら、少しやってみたい策があるな。話だけでも聞いてもらえないか……百合原咲さん」

「……私ですか?」


 ここに並ぶメンバーを見て、頼もしそうに眼を細めたKatsu-首領-さんは、そう言って私に目を向けた。そして──


「百合原さん。貴女の魔法を……【ガイザーカノン】を使って欲しい」

「な……っ!?」


 彼のそんな提案に、私は思わず言葉を詰まらせたのだった。

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― 新着の感想 ―
 水なら、「ゲ」イザーカノン? さて、何がでるか。    と、思ったら、「ガ」イザー読みもアリなのですね。失礼をば……
圧殺に来ましたね。この戦い慣れてるゴブリンが並大抵の戦術には対応してきそうで怖いですね。
更新お疲れ様です。 ガイザーカノン……なんか強そうなの来ましたね! ガイザーと聞くと昔のロボットアニメ『大空魔竜ガイキン○』のザウ○ガイザー(胸パーツの顔の両目から出る光線)をふと思い出しますなぁ……
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