第106話 大型コラボ配信⑪
もしかしたら既に「あれ?」と思っていた読者もいらっしゃるかと思いますが、作者の知識不足で発生していた過去話のミスを全て修正しました。
具体的にはチーフとコマンダーの階級の上下を勘違いしておりました……(チーフの方が上だと思ってた)
チーフ&コマンダー「「逆だったかも知れねェ…」」
そう言う訳なのでヴィオレットが浅層や上層で戦ったのはゴブリンコマンダーではなくゴブリンチーフとなり、ここ数話で新しく登場していたゴブリンチーフはゴブリンコマンダーとなります。
変更となるのは名前だけで内容に変化はない為、読み返す必要はありません。
「──始まりましたね……」
〔相変わらずとんでもない魔法だな〕
〔からあげ見た目は可愛いんだけどな…〕
〔普段は性格も可愛いぞ。戦うとちょっとテロリスト出て来るだけで〕
〔あの闇の人格誰か封印してやってくれ…〕
〔火羅↑age↑二重人格説草〕
背後から響く高笑いと、燃やされるゴブリンの上げる悲鳴から彼が砲撃を開始したのを察する。
火羅↑age↑をこのコラボに加えるか迷った最大の理由があの悪癖だ。
火が好きなのか、それとも魔法を使うのが好きなのかは分からないが、彼は炎魔法で戦うと人が変わったかのようにハイテンションになる。
そして、魔力の残量も気にせずに撃って撃って撃ちまくるのだ。その結果、直ぐに魔力切れになってソロ配信が恐ろしく早く終了する事もある。
(最短で30分……魔物と遭遇するまでの探索時間も含めてこれなのだから、恐ろしく短い記録だ……)
取れ高が多かった回のクリムの配信切り抜き動画が34分だった事を考えると、その短さ……と言うか、燃費の悪さが良くわかるだろう。
しかし、『クラン「飯テロリスト」のテロリスト部分担当』と呼ばれるハイテンション時の彼も、Katsu-首領-の指示はちゃんと聞くのだ。
実際クラン探索の配信アーカイブを確認してみたが、そこで彼はしっかりとメインアタッカーとして輝いていた。だからこそ私はKatsu-首領-とセットの状態ならば、彼もギリギリコラボメンバーに加えても大丈夫だと判断したのだ。
(今の状況を考えれば、結果的にあの時の判断は間違っていなかったのだが……やっぱりあのテンションはちょっと不安になるな……)
「──っと、流石に他ごとを考えている場合ではありませんね」
「カ……ッ!」
〔ナイス!〕
迎撃に放たれた矢を空中で弾き、即座に距離を詰めつつレイピアの一撃で仕留める。
ゴブリンスカウターはただのゴブリンよりも強いとはいえ、単体ではせいぜい中層レベルの魔物である為この程度訳はない。
〔これで12体目!〕
〔サクサク行くなぁw〕
〔やっぱり空中で曲がれるの良いな〕
〔コラボに参加出来たら俺も飛んでみたい〕
「それはあまりお勧めできませんね……見た目よりも結構癖があるので」
いろいろとコメントとやり取りしている内に倒したゴブリンスカウターの数も、いつの間にやら二桁に突入していた。
ここまで倒しても、まだゴブリンスカウターは残っている。早速次のゴブリンスカウターを仕留めるべく気配を探ろうとして……
「! 危ない!」
「……っ!?」
潜んでいたスカウターが身を乗り出して広場のダイバーを狙っているのを見つけ、急いで広場へと降り立つ。そして、ダイバーの頭部目がけて放たれた矢を素早く払い落とした。
〔危な…〕
〔着地の風エグイw〕
「大丈夫でしたか?」
(──って、確かこの人は……)
「か、感謝する。深淵の剣姫よ……」
「け、剣姫……?」
「いや、何でもない……」
安全を確認する為に振り向くと、そんな事を呟いた闇乃トバリはついと顔を逸らし……先ほど拾っていた白樹製の弓と矢を手に、ゴブリン達へ応戦するダイバー達に混ざっていった。
(何か様子が……? まぁ、良いか。それにしても──)
「『剣姫』……悪くない呼び名ですね。どことなくクールな印象もありますし、私にピッタリでは?」
春葉アトなんかは多くの異名を持っているが、その中には『聖騎士』や『選ばれし者』等カッコいい物も多い。
自分で言うのもどうかと思うが、最近活躍している私もそう言った異名の一つや二つは有っても良いのではないかとリスナーに問いかけたが……
〔クール…?〕
〔誰の事なんだ一体…?〕
〔クー…ル?クー…ラ?……ゴーラ?……ゴリ…ラ!〕
「えぇ、えぇ、解ってましたよ……そう言う反応が返って来る事は」
何か私の異名ずっとおかしくないだろうか。……後、最後の奴、名前覚えたからな。
「っと、そんな事を気にしている場合ではないんでしたね! さっきの狙撃手は……──居た!」
放った矢が防がれた事で再び樹冠に身を隠そうとしたゴブリンスカウターを素早く視界に捉え、再び風と共に上空へと跳び上がる。
そして、他の樹へと跳び移ろうとした背中に向けて、容赦の無い刺突を放った。
「ギァ……」
「よし、これで……っと、そこにもいましたね。ついで……にッ!!」
空中を踏みしめるイメージで蹴りだせば、私の身体はそのまま真っすぐに樹冠の中で息を殺していたゴブリンスカウターの元へと飛翔する。
そして、正面へ突き出したレイピアがゴブリンスカウターの首を断ち切った。
「グゲェッ!」
〔運が無い奴もいたもんだw〕
〔ついでは酷くて草〕
〔経過報告。レッドスライムは殲滅できた。今接近戦がメインのダイバーが、木箱をどかして直接向こうの通路に向かおうか話し合ってる〕
「! それは、出来るだけ止めた方が良いと伝えてください。ここみたいな罠が無いとも言い切れませんから」
この場を離れられたら、いざと言う時に私がフォロー出来ない。
私へと報告してくれたリスナーに、彼らを止めるようにお願いしたが……結果的にはそれはいらぬ心配だったようだ。
〔カツドンが止めてたよ〕
〔そもそも咲さんの水魔法が無いと接近も難しいだろうしな〕
「そうでしたか……良かったです」
一部の無謀は流石にKatsu-首領-が止めてくれたようだが……おそらく彼らがそんな短気を起こしたのは血気盛んな性格だったり、撮れ高欲しさと言った短絡的な理由ばかりではないだろう。
今回のメンバーを選んだ時から薄々気づいてはいたのだが、遠距離の攻撃が出来るダイバーが今回少ないのだ。
勿論火羅↑age↑や百合原咲のように魔法使い系のジョブもいるのだが、それも数人程度で、大半はクリムや闇乃トバリのように近距離主体のダイバーの集まりとなっている。
そんな彼らにとって、レッドスライムが居なくなった後の広場はひたすらフラストレーションの溜まる場所になっているのだろう。何せ一方的に矢を射かけられるのだから。
現在も火羅↑age↑が【フレア・ガトリング】でゴブリンを焼いていっているが、ゴブリンも木の陰に隠れたりと対策しており、最初の内ほど順調には行っていないようだ。
一応先程の闇乃トバリのように弓を使って応戦はしているのだろうが、ジョブの適性や【心得】スキルの無い素人では狙いが付く筈も無い。
(……もしかしたら、ゴブリンに弓の腕で負けている屈辱感とか、何もできない無力感や歯がゆさもあるのかもな)
「──ゥギィ!」
「何とかなりませんかね……」
樹から樹へと跳び移りながら、順調にゴブリンスカウターの数を減らしていく。これが全て片付けば私もゴブリンの掃討に乗り出せるのだが、流石に数が数なだけあってもう少し時間はかかりそうだ。
ちらりと広場の方を見ると、遠距離を魔法で攻撃できる火羅↑age↑以外のダイバーはやはり、弓の扱いに苦戦しているようだった。
……と、その時ふとひらめいた。
「そうだ、リスナーの中に弓使い系のジョブの方はいませんか? もしも居たら、彼らにコメントで弓のレクチャーをしてあげてくれると助かるんですが……」
この場で一人前になれと言うのは無理でも、狙いのつけ方の一つでも教えて貰えばいくらかマシにはなる筈だ。何せ、的は嫌になる程多いのだから。
そう思っての相談だったのだが……
〔えぇー…〕
〔ヴィオレットちゃんの頼みでもそれはちょっとな…〕
〔今まで散々不遇職って雑な扱いされて来たし…〕
と、恐らく弓使い系のジョブらしきリスナー達からは、渋るような反応が返って来た。
「……そう言えば、私も聞いた事がありますね。『弓使いは中々クランに入れない』でしたか……」
「──グギヒィッ!」
〔ついでに処されるスカウターで草〕
〔雑ゥ!www〕
そう言えばここ数か月のダイバー活動中、私も何度か聞いた事があったっけ……弓使いに対する当たりの強さは。
切っ掛けが何だったのかは分からないが、弓使いは中々クランに入れないと言うのが今の渋谷ダンジョンでの風潮だ。
曰く、『矢の補填に金がかかる』だったり、『連携に慣れてない場合のフレンドリーファイアが怖い』等の理由がよく挙げられている。
加えて言えば、浅層・上層のダンジョンの特徴が洞窟だったのも彼等にとっては逆風だったようだ。
入り組んだ地形に加えて鍾乳石や石筍等の遮蔽物も多く、更には暗闇で視界も通らない。弓使いには暗視を強化するスキルもあるようなのだが、他のジョブにはそれが無い為、それが却って連携に齟齬が生まれる原因にもなっていたらしい。
一方で通路が明るくなり、遮蔽物も減る中層からは弓使いも活躍の場が多いのだが、そこに至るまで強くなれる弓使いは一握り。大半の弓使いはクランに入れず、矢に対する消費の激しさで装備が整わないからと別の武器に鞍替えするか、上層で燻ってしまうのが実情なのだ。と、まるで長年の鬱憤が溢れ出したかのように推定弓使いのリスナーの皆さんが教えてくれた。
「うーん……下層だと弓は寧ろかなり活躍できそうなのに、勿体ないですねそれは……」
「──ハギャァ!」
〔あー確かに下層なら遠くまで狙えそう〕
〔ただ装備が整わんのよ〕
〔弓使い同士でクラン組んだ事もあったけど出費えぐかったしな…〕
〔あと魔石の分配で揉めるよな。『矢で倒したか近接で倒したか問題』もあるけど、『矢の補填費分多めにくれ』『前衛で命張ってる俺の方が多く貰うべき』みたいなやつ〕
〔弓使い同士でも揉めるぞ『どっちの矢が倒したか』とか…両方とも矢の出費押さえたいから譲らないし、泥沼になる〕
「み、皆さん愚痴が止まりませんね……」
「──ギギィ……ッ!」
言わない方が絶対に良いだろうから胸に秘めておくけど……多分こう言う問題を内部に招きたくないから、出来るだけクランに入れたくないんだろうなぁ……
〔ごめん配信のコメントでする話じゃなかった〕
〔確かに…〕
〔やっぱ弓使いの人って鬱憤溜まってたんやな…〕
〔怒涛の長文怖かった〕
〔まぁ俺らが弓についてのレクチャーしたくない理由は伝わったと思う〕
「あ、はい。それはもう……」
「──グピィ……ッ」
どうやらこれは私が思ったよりも根が深い問題のようだ。この場で彼らの溝を埋めるのは無理だろうし……困ったな。
〔いやさっきから淡々と処し過ぎなんよw〕
〔ヴィオレットちゃんの方が怖かったw〕
〔ジェノサイド・ゴリラ…〕
「今言ったの誰ですか~? 名前覚えますよ~?」
「──ガハァッ……!」
〔ひえっ〕
〔すんませんっした!名前は覚えても良いので許してください!〕
〔強欲で草〕
〔反省の色なし!w〕
「はぁ……でも、彼らが無茶な行動をとる前に何とかしなければ……──ん?」
次のゴブリンスカウターの位置を把握する為に視線を巡らせた一瞬。視界の端にただならぬ動きを捕らえた気がして、視線を要塞の奥の方に向けると……
「──っ! これは、本当に早いところ何とかしないとマズいかも知れませんね……!」
そこには一回り体躯の大きいゴブリンを先頭に、広場へと進軍を進めるゴブリンの軍隊の姿があった。




